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ep.9 奇跡の体現

ー/ー



 ――――ブゥオゥンッ
 風を突き抜ける音だけを残し、煌めく光弾が発射される。光は木々を抉り、人影の隣を大きくずれ通り過ぎる。

「……」

 富士野星一朗に射撃の腕は無い。もともと射撃などには興味もなく視力も良くない彼の腕前は動かない的に向け、十発射てば一発当たるかどうかというレベルである。
 加えて言うと愛銃と謳ってもロキにもそこまでの愛着は無い。去年の誕生日、親戚のガンマニアに貰っただけのただのモデルガンだ。
 ロキという名前も、愛着を持てるかもしれないと取り敢えず手元にあった漫画から拝借しただけ。使われている材質から高級志向なのは間違いないが、その銃口から殺傷性のある実弾が発射されることは無い。
 そんな彼が銃を武器に据えるには理由がある。

「ロキはね、ただの玩具だよ。精巧だし、引き金は引けるんだけど玩具だ。もちろん弾は一発も入っていない」

 先ほど聞いたときはよく理解できなかった。弾の入っていない銃に何の意味があるのか。
 人に向けるなんてことはあってはならない事だし、知性の無い魔獣(マインドイーター)に向けて脅迫なんて意味があるとも思えない。

 しかし、千寿流は目撃する。その理由を。奇跡の体現を。

 異能(アクト) 光粒転纏(こうりゅうてんてん)『Alelujah』

「僕の異能(アクト)。Alelujahは光を弾丸に転換して射ち出すことが出来るのさ。だから、日の下ではロキの弾切れは無い。逃げようが避けようが光の槍が敵を射る」

ep.9 奇跡の体現 1

「穿て、光救遍雨(エリエゼル)ッ」

 ――ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ
 銃口から発射された光の粒は球体、ひし形、星型と次々姿を変え、無数の光の槍となり、対象を殲滅せんと襲い掛かる。それは地を抉り、森を抉り、風を抉る。

「うひゃあぁぁ!? ななな、なんですかぁ!?」

 遠くで女の声。どうやら当たることはなかった様だが、突然の襲撃に驚いているようだった。

「っち、運のいい女だ。悪鬼は殲滅、蜂の巣にしてやるよ」

 攻撃範囲の密度を上げる為、距離を詰めながら、再度引き金に手を掛けようとする星一朗。

「ま、待ってっ! ダメだよ、急に銃なんかで攻撃しちゃ!」

 そのどこか狂気に満ちた彼の腰に慌ててしがみ付く千寿流。何となく感じる、彼女は悪い人じゃないと。声を聴いてそう感じた。

「いきなり失礼ですねぇー! わたしも黙ってやられるほど間抜けじゃないですよっ!」

 ドゴーーーーンッ!
 爆発音。森が爆ぜる。

「っち、近衛さん、シャルさん、僕から離れないでよっ!」

 衝撃で木々が倒れ、煙が立ち込める森。星一朗は二人の手を取り、円を描くように駆ける。これはイレギュラーな事態だ。一撃で無力化することが出来なかった。藪蛇になるかもしれない。

(おそらく急な出来事に慌てて反撃してきたとみるべきか。これじゃあ相手からもこちらを碌に認識できないだろう)

「目くらましなんて三流、甘いんですよねっ!」

「ッ!?」

 咄嗟に足を止めた目の前を赤い閃光が通り抜ける。

「いきなりなんなんですか? わたし、そこまで恨まれるようなことをした覚え無いんですけど」

 一歩ずつゆっくりと近づく足音。煙が晴れる。靄掛かっているシルエットが徐々に鮮明になり、その人物を映し出す。

ep.9 奇跡の体現 2

 肩に抱えているのは巨大な戦槌。ピンクのベレー帽、腰まで届くブロンドの髪にエルフのように尖った耳。白い毛皮のマフラー。煽情的な黒のマイクロビキニと赤いジャケットが印象的な、肉付きの良い琥珀色の眼を持つ女性だった。

(おっぱいすご! ムチムチだ! あたしもあんな風になれたらいいのになっ)

 突然現れた女性の胸に、千寿流は興味津々な様子で乗り出すが、星一朗に制される。

「フン、あの散弾の雨を掻い潜るなんてなかなかやるね、露出女。それともどこかの低俗ゲームよろしく服だけ吹き飛んだのか?」

「あいや、あれって狙って撃ったんですか? わたしも運が良かっただけですが、掻い潜ったという表現は間違っているような気が……」

「沈め、光救遍雨(エリエゼル)ッ」

 相手の会話を遮るように不意討ち気味に銃口を向け乱射する。

「っ!?」

 再度、辺りに煙が立ち込める。至近距離からの乱射。当てない事のほうが難しいと言っても過言ではないこの状況、勝利を確信する星一朗だが何かが引っ掛かる。
 その一瞬の判断が致命傷となり、戦局は覆る。煙が晴れ視界が戻ったその場には、無傷で髪をかきあげる女性と、鎖で縛られ跪いている星一朗の姿があった。

「クソ、なんだこの鎖っ……おい女、お前何をしたんだッ」

「女女言わないで下さいよ、わたしはアリシア・フェルメールっていう名前があるんですから」

「女、お前、能無し(ノーレア)だろ。能無し(ノーレア)如きがなんでこんなこと出来るッ」

 能無し(ノーレア)。文字通り、能力が無い者の事を指す。

 異能(アクト)を持たない者の事を、蔑む意味合いを込めて能力無しの能無し(ノーレア)と一部で呼んでいる。
 蔑称ではあるが、魔獣退治において大きなアドバンテージを持つ能力者(アクトプレイヤー)と差別化は必要であり、能力の有無は仕事等に置いて重要視されることもあるので、界隈では浸透した呼称でもある。

「だから、女って言わないでって……まあいいです。そりゃ、わたしはソロですからね、自衛の為に色々と準備はしてますよ。こんな世界で何も無しってそれこそ自殺行為です」

「っは、自衛ね。地面に散らばった宝石の欠片。宝石魔術ってやつかなんかか? そんなもんで僕に勝つ気でいるわけじゃないだろうな?」

「あのですねぇ~、わたしはあなた達と争う気なんて、これっぽっちも無いんですけど」

 鎖で縛られているにも拘らず、強気で反抗的な態度を見せる星一朗。

「あと、ご自分の立場、解ってます? 人違いでしたって謝ってくれるのであれば許してあげますよ?」

 その生意気な態度にムカッと来たアリシアは、星一朗の額を人差し指でグリグリと突きながら謝罪を求める。

「っち!」

「うわぷっ!?」

 唾を吐きかけながら体を回転させ、靴で地面を抉り泥片を飛ばす。数滴がアリシアの顔に追い打ちをかけ怯ませる。その隙に縛り手のまま後ろに後退する。

「もう怒っちゃいましたよ! 下手に出ていれば好き勝手やりたい放題なんですから!」

「光粒転纏『Alelujah』は無尽の弾丸だ。僕の意志で撃ち出した光は形を持ち、姿を変え、相手を殲滅する。少しなら誘導追尾も出来る。まあ、距離が離れると制御できないけどね」

「形を変える光の弾丸。そうですか、さっきの光の槍もその銃から変化させて撃ち出していたわけですね」

 星一朗はアリシアに対し自身の異能名(アクトネーム)を開示する。
 異能(アクト)という超常現象は千差万別。単純な力の放出から始まり、果てはこの世界そのものに干渉し、理を侵蝕するものまであるという。
 しかし、能力のネタが分かれば対処法を模索することも可能だろう。つまり、自身の手の内を晒すことは奢りであり、蛮行であるわけだ。

「せ、星ちゃんっ! どうして相手に説明しちゃうの!?」

異能(アクト)は奇跡の体現だ。信じられないような超常的な現象の連続。それは理、法則すら軽々と捻じ曲げていく。その全てを認めるにはこの世界の進化(そくど)は遅すぎたんだ」

 もちろん、異能(アクト)は存在する。だから異能の開示は発動に必須の条件ではない。しかし、能力(せいしつ)を相手と共有し、異能(アクト)の存在を互いに認識することでその奇跡は具現化し、性能は何十倍にも膨れ上がるのだ。

「光粒転纏『Alelujah』。何も光に変わるのは僕の銃から撃ち出した空気だけじゃない。僕の蹴り上げたその泥も裁きの光足り得るのさ」

 そう言いながら真横にある大木を蹴りつける。

「堕ちろ、堕神拡光(エゼキエル)ッ!」

「ぇ……ンッお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ッ!!?」

 先ほど蹴り上げた泥片は上部の樹に引っ掛かっていたのだ。
 異能の開示によって性能が底上げされた光の泥は銃弾を超える速度と威力を持つ。空から降り注ぐは銃弾の槍。否、悪鬼を滅ぼす裁きの神槍なり。無防備な背中に至近距離から無数の光が突き刺さり、激痛に白目を剥き絶叫を上げるアリシア。
 煙が晴れた後には意識を手放し、光の槍に貫かれ宙に縫い留められ静止する彼女の姿があった。

「……常人なら二、三度死んでもおかしくない威力なんだが。まだ、息があるのか?」

 そう言いながら星一朗は気を失っているアリシアを足で小突く。

「あ、近衛さん、この鎖絡まって解けないんだ。手伝ってくれるかな?」

「え、あ、その……うん」

 鎖で縛られている星一朗に駆け寄る千寿流。その傍目、光の槍が霧散すると同時にアリシアはうつ伏せに倒れ伏すのだった。



「いつつっ! 痛いですって!」

「悪かったよ。謝って手当もしてあげただろ」

 しばらくして目を覚ましたアリシア。どうやら彼女は探し物を求めてこの森を彷徨っていたらしい。その最中に急に襲撃され、そのまま戦いとなり、誤解を解こうとしたらこの有様という事である。

「まったく、とんだ災難ですよ。大事な宝石砕いて、無様な格好晒して、もう踏んだり蹴ったりです!」

 腕を組み、胡坐をかきながらぷんぷんと頬を膨らませるアリシア。

「近頃人型の魔獣(マインドイーター)が現れるっていう話を聞いたことがあったからね。てっきりお姉さんもそうなんじゃないかって勘違いしただけだよ」

魔獣(マインドイーター)は人語を喋らないんですよ? おまけにまともな知性もない。こんな流暢に喋るわたしのどこが魔獣(マインドイーター)なんですか!」

 一撃で無力化する予定が外れ、返り討ちに遭う、という内心焦る気持ちがあったと弁明する星一朗。他にも星一朗は戦いの最中、気持ちが高揚してハイになる癖もあるようだが。
 その後も、怒るアリシアに対し、のらりくらりと話を逸らしながら宥める星一朗を見て、何だか姉弟みたいだなぁ、と勝手に羨ましく思う千寿流だった。

「で、お姉さんも一緒に来るかい? その傷じゃあ魔獣(マインドイーター)に襲われたとき抵抗できないでしょ?」

「いえ、それは遠慮しておきます。というかまだ体中痛くてまともに動けませんし。動けなくとも自衛ぐらいは出来ますので」

 体を摩るアリシアをバツの悪い顔で見る星一朗。こんなことになったのは自分の責任だ。

「ごめん、近衛さん、悪いけど僕は……」

「あぁあぁ、いいですいいです! わたしのことは気にしないでくださいって!正直一緒にいられるの不愉快なんですよ! だって殺されかけた相手ですよ?」

「……ごめん、じゃあ行こう近衛さん」

「う、うん、じゃあ、その、じゃあね、アリシアちゃん!」

 謝り、その場を後にする星一朗。千寿流も深くお辞儀してからシャルを連れ、星一朗の後を追う。

(やれやれ、随分としおらしくなっちゃって、可愛い子じゃないですか)

 離れていく三つの影とリズムのズレた靴音。その賑やかな音が聴こえなくなるまで、実の姉の様にアリシアは優しい笑みで見送るのだった。


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 ――――ブゥオゥンッ
 風を突き抜ける音だけを残し、煌めく光弾が発射される。光は木々を抉り、人影の隣を大きくずれ通り過ぎる。
「……」
 富士野星一朗に射撃の腕は無い。もともと射撃などには興味もなく視力も良くない彼の腕前は動かない的に向け、十発射てば一発当たるかどうかというレベルである。
 加えて言うと愛銃と謳ってもロキにもそこまでの愛着は無い。去年の誕生日、親戚のガンマニアに貰っただけのただのモデルガンだ。
 ロキという名前も、愛着を持てるかもしれないと取り敢えず手元にあった漫画から拝借しただけ。使われている材質から高級志向なのは間違いないが、その銃口から殺傷性のある実弾が発射されることは無い。
 そんな彼が銃を武器に据えるには理由がある。
「ロキはね、ただの玩具だよ。精巧だし、引き金は引けるんだけど玩具だ。もちろん弾は一発も入っていない」
 先ほど聞いたときはよく理解できなかった。弾の入っていない銃に何の意味があるのか。
 人に向けるなんてことはあってはならない事だし、知性の無い|魔獣《マインドイーター》に向けて脅迫なんて意味があるとも思えない。
 しかし、千寿流は目撃する。その理由を。奇跡の体現を。
 |異能《アクト》 |光粒転纏《こうりゅうてんてん》『Alelujah』
「僕の|異能《アクト》。Alelujahは光を弾丸に転換して射ち出すことが出来るのさ。だから、日の下ではロキの弾切れは無い。逃げようが避けようが光の槍が敵を射る」
「穿て、|光救遍雨《エリエゼル》ッ」
 ――ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンッ
 銃口から発射された光の粒は球体、ひし形、星型と次々姿を変え、無数の光の槍となり、対象を殲滅せんと襲い掛かる。それは地を抉り、森を抉り、風を抉る。
「うひゃあぁぁ!? ななな、なんですかぁ!?」
 遠くで女の声。どうやら当たることはなかった様だが、突然の襲撃に驚いているようだった。
「っち、運のいい女だ。悪鬼は殲滅、蜂の巣にしてやるよ」
 攻撃範囲の密度を上げる為、距離を詰めながら、再度引き金に手を掛けようとする星一朗。
「ま、待ってっ! ダメだよ、急に銃なんかで攻撃しちゃ!」
 そのどこか狂気に満ちた彼の腰に慌ててしがみ付く千寿流。何となく感じる、彼女は悪い人じゃないと。声を聴いてそう感じた。
「いきなり失礼ですねぇー! わたしも黙ってやられるほど間抜けじゃないですよっ!」
 ドゴーーーーンッ!
 爆発音。森が爆ぜる。
「っち、近衛さん、シャルさん、僕から離れないでよっ!」
 衝撃で木々が倒れ、煙が立ち込める森。星一朗は二人の手を取り、円を描くように駆ける。これはイレギュラーな事態だ。一撃で無力化することが出来なかった。藪蛇になるかもしれない。
(おそらく急な出来事に慌てて反撃してきたとみるべきか。これじゃあ相手からもこちらを碌に認識できないだろう)
「目くらましなんて三流、甘いんですよねっ!」
「ッ!?」
 咄嗟に足を止めた目の前を赤い閃光が通り抜ける。
「いきなりなんなんですか? わたし、そこまで恨まれるようなことをした覚え無いんですけど」
 一歩ずつゆっくりと近づく足音。煙が晴れる。靄掛かっているシルエットが徐々に鮮明になり、その人物を映し出す。
 肩に抱えているのは巨大な戦槌。ピンクのベレー帽、腰まで届くブロンドの髪にエルフのように尖った耳。白い毛皮のマフラー。煽情的な黒のマイクロビキニと赤いジャケットが印象的な、肉付きの良い琥珀色の眼を持つ女性だった。
(おっぱいすご! ムチムチだ! あたしもあんな風になれたらいいのになっ)
 突然現れた女性の胸に、千寿流は興味津々な様子で乗り出すが、星一朗に制される。
「フン、あの散弾の雨を掻い潜るなんてなかなかやるね、露出女。それともどこかの低俗ゲームよろしく服だけ吹き飛んだのか?」
「あいや、あれって狙って撃ったんですか? わたしも運が良かっただけですが、掻い潜ったという表現は間違っているような気が……」
「沈め、|光救遍雨《エリエゼル》ッ」
 相手の会話を遮るように不意討ち気味に銃口を向け乱射する。
「っ!?」
 再度、辺りに煙が立ち込める。至近距離からの乱射。当てない事のほうが難しいと言っても過言ではないこの状況、勝利を確信する星一朗だが何かが引っ掛かる。
 その一瞬の判断が致命傷となり、戦局は覆る。煙が晴れ視界が戻ったその場には、無傷で髪をかきあげる女性と、鎖で縛られ跪いている星一朗の姿があった。
「クソ、なんだこの鎖っ……おい女、お前何をしたんだッ」
「女女言わないで下さいよ、わたしはアリシア・フェルメールっていう名前があるんですから」
「女、お前、|能無し《ノーレア》だろ。|能無し《ノーレア》如きがなんでこんなこと出来るッ」
 |能無し《ノーレア》。文字通り、能力が無い者の事を指す。
 |異能《アクト》を持たない者の事を、蔑む意味合いを込めて能力無しの|能無し《ノーレア》と一部で呼んでいる。
 蔑称ではあるが、魔獣退治において大きなアドバンテージを持つ|能力者《アクトプレイヤー》と差別化は必要であり、能力の有無は仕事等に置いて重要視されることもあるので、界隈では浸透した呼称でもある。
「だから、女って言わないでって……まあいいです。そりゃ、わたしはソロですからね、自衛の為に色々と準備はしてますよ。こんな世界で何も無しってそれこそ自殺行為です」
「っは、自衛ね。地面に散らばった宝石の欠片。宝石魔術ってやつかなんかか? そんなもんで僕に勝つ気でいるわけじゃないだろうな?」
「あのですねぇ~、わたしはあなた達と争う気なんて、これっぽっちも無いんですけど」
 鎖で縛られているにも拘らず、強気で反抗的な態度を見せる星一朗。
「あと、ご自分の立場、解ってます? 人違いでしたって謝ってくれるのであれば許してあげますよ?」
 その生意気な態度にムカッと来たアリシアは、星一朗の額を人差し指でグリグリと突きながら謝罪を求める。
「っち!」
「うわぷっ!?」
 唾を吐きかけながら体を回転させ、靴で地面を抉り泥片を飛ばす。数滴がアリシアの顔に追い打ちをかけ怯ませる。その隙に縛り手のまま後ろに後退する。
「もう怒っちゃいましたよ! 下手に出ていれば好き勝手やりたい放題なんですから!」
「光粒転纏『Alelujah』は無尽の弾丸だ。僕の意志で撃ち出した光は形を持ち、姿を変え、相手を殲滅する。少しなら誘導追尾も出来る。まあ、距離が離れると制御できないけどね」
「形を変える光の弾丸。そうですか、さっきの光の槍もその銃から変化させて撃ち出していたわけですね」
 星一朗はアリシアに対し自身の|異能名《アクトネーム》を開示する。
 |異能《アクト》という超常現象は千差万別。単純な力の放出から始まり、果てはこの世界そのものに干渉し、理を侵蝕するものまであるという。
 しかし、能力のネタが分かれば対処法を模索することも可能だろう。つまり、自身の手の内を晒すことは奢りであり、蛮行であるわけだ。
「せ、星ちゃんっ! どうして相手に説明しちゃうの!?」
「|異能《アクト》は奇跡の体現だ。信じられないような超常的な現象の連続。それは理、法則すら軽々と捻じ曲げていく。その全てを認めるにはこの世界の|進化《そくど》は遅すぎたんだ」
 もちろん、|異能《アクト》は存在する。だから異能の開示は発動に必須の条件ではない。しかし、|能力《せいしつ》を相手と共有し、|異能《アクト》の存在を互いに認識することでその奇跡は具現化し、性能は何十倍にも膨れ上がるのだ。
「光粒転纏『Alelujah』。何も光に変わるのは僕の銃から撃ち出した空気だけじゃない。僕の蹴り上げたその泥も裁きの光足り得るのさ」
 そう言いながら真横にある大木を蹴りつける。
「堕ちろ、|堕神拡光《エゼキエル》ッ!」
「ぇ……ンッお゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛ッ!!?」
 先ほど蹴り上げた泥片は上部の樹に引っ掛かっていたのだ。
 異能の開示によって性能が底上げされた光の泥は銃弾を超える速度と威力を持つ。空から降り注ぐは銃弾の槍。否、悪鬼を滅ぼす裁きの神槍なり。無防備な背中に至近距離から無数の光が突き刺さり、激痛に白目を剥き絶叫を上げるアリシア。
 煙が晴れた後には意識を手放し、光の槍に貫かれ宙に縫い留められ静止する彼女の姿があった。
「……常人なら二、三度死んでもおかしくない威力なんだが。まだ、息があるのか?」
 そう言いながら星一朗は気を失っているアリシアを足で小突く。
「あ、近衛さん、この鎖絡まって解けないんだ。手伝ってくれるかな?」
「え、あ、その……うん」
 鎖で縛られている星一朗に駆け寄る千寿流。その傍目、光の槍が霧散すると同時にアリシアはうつ伏せに倒れ伏すのだった。
「いつつっ! 痛いですって!」
「悪かったよ。謝って手当もしてあげただろ」
 しばらくして目を覚ましたアリシア。どうやら彼女は探し物を求めてこの森を彷徨っていたらしい。その最中に急に襲撃され、そのまま戦いとなり、誤解を解こうとしたらこの有様という事である。
「まったく、とんだ災難ですよ。大事な宝石砕いて、無様な格好晒して、もう踏んだり蹴ったりです!」
 腕を組み、胡坐をかきながらぷんぷんと頬を膨らませるアリシア。
「近頃人型の|魔獣《マインドイーター》が現れるっていう話を聞いたことがあったからね。てっきりお姉さんもそうなんじゃないかって勘違いしただけだよ」
「|魔獣《マインドイーター》は人語を喋らないんですよ? おまけにまともな知性もない。こんな流暢に喋るわたしのどこが|魔獣《マインドイーター》なんですか!」
 一撃で無力化する予定が外れ、返り討ちに遭う、という内心焦る気持ちがあったと弁明する星一朗。他にも星一朗は戦いの最中、気持ちが高揚してハイになる癖もあるようだが。
 その後も、怒るアリシアに対し、のらりくらりと話を逸らしながら宥める星一朗を見て、何だか姉弟みたいだなぁ、と勝手に羨ましく思う千寿流だった。
「で、お姉さんも一緒に来るかい? その傷じゃあ|魔獣《マインドイーター》に襲われたとき抵抗できないでしょ?」
「いえ、それは遠慮しておきます。というかまだ体中痛くてまともに動けませんし。動けなくとも自衛ぐらいは出来ますので」
 体を摩るアリシアをバツの悪い顔で見る星一朗。こんなことになったのは自分の責任だ。
「ごめん、近衛さん、悪いけど僕は……」
「あぁあぁ、いいですいいです! わたしのことは気にしないでくださいって!正直一緒にいられるの不愉快なんですよ! だって殺されかけた相手ですよ?」
「……ごめん、じゃあ行こう近衛さん」
「う、うん、じゃあ、その、じゃあね、アリシアちゃん!」
 謝り、その場を後にする星一朗。千寿流も深くお辞儀してからシャルを連れ、星一朗の後を追う。
(やれやれ、随分としおらしくなっちゃって、可愛い子じゃないですか)
 離れていく三つの影とリズムのズレた靴音。その賑やかな音が聴こえなくなるまで、実の姉の様にアリシアは優しい笑みで見送るのだった。