第83話
ー/ーここはウエスの森の丸太小屋。
リリィの歌の特訓も大詰め。ついに"古代の歌"を実際に歌ってみたが、
深淵の鍵は全く反応しない。
その時、エリーゼから衝撃の発言が......
「このメロディ......ウエス王家に代々伝わる歌と同じですわ。」
「歌詞は違いますけど、メロディは全く同じですわ!......にゃ」
その場にいる皆が驚く。
「エリーゼ!その歌。歌って見て!」
フィーネが言う。
「わかりました、にゃ。」
そう言うとエリーゼは透き通った声で歌い出した。
月の表は 光り輝き
月の裏は 深淵を纏う
二つの月は 大いなる導き
二つ重なりて 扉を開かん
「この歌詞は......!」
イブが何かに気づいた。
「リリィの歌とエリーゼの歌。二つで一つの歌なんじゃないか?」
イブが言う。
「確かに。意味は通るな。」
ゴブローが腕組みをして言う。
「二つの歌を合わせて、二人が一緒に歌うってことじゃないかしら?」
フィーネが言った。
「よし!町にいるオルガたちを呼ぼう!」
ゴブローが言った。
それぞれに旅の支度をして三日後に集まることになった。
夜。
寝室では、リリィとエリーゼが並んで寝ている。
「ねぇ、エリーゼ。」
「なーに?リリィ。」
エリーゼが寝返りを打って、リリィの方に向く。
「あの歌は、ウエス国の王室に伝わる歌なの?」
「いえ、あの歌は私のお母様に教えていただいたの。」
「エリーゼのお母さんって、猫族の。」
「そうですの。あの歌は、獣人族に伝わる古い歌。」
リリィは真剣な顔で聞いている。
「獣人族は遥か昔、別の世界からエルドランド大陸に移り住んできた。その別の世界の歌だそうですわ、にゃ。」
「獣人...別の世界...深淵の国...古代人!」
リリィの中で点と点が繋がった。
「あの歌を私とエリーゼが一緒に歌えば、深淵の鍵は必ず反応すると思う。」
「きっと、そうですにゃ。」
「頑張ろうね!エリーゼ!」
「はいです、にゃ!」
リビングでは、フィーネが紅茶を飲んでいた。目は虚ろだ。
「はぁ......」
「どうした?フィーネ?」
イブに背後から声をかけられて、フィーネはティーカップを落としそうになった。
「何だか眠れなくてね。」
フィーネは欠伸をする。
「昼間に寝過ぎなんじゃないか?」
「そうかも知れないわね。」
フィーネは笑う。
「それは冗談として。いよいよだな。」
イブが真顔になって言う。
「私ね、今になって100回目の転生を迎えるーー死ぬのが、とても怖いの。」
「フィーネ、それは正常な反応だ。」
「99回も人生を生きて、今はエルフで1000年近く生きてる。それでも、今、死ぬのが本当に怖い......」
「......」
イブは黙って聞いている。
「リリィやオルガや皆と別れるのが怖い。」
フィーネの目に涙が浮かぶ。
イブはリリィを抱き寄せる。
「私、もう家族は要らないと思ってた。でも違った。今は皆んなが心から愛おしい。」
「当然だ。」
「私、怖い。死ぬのはもう嫌。」
フィーネの瞳から涙が溢れ出す。
それはフィーネの意思と関係なく止めどなく溢れてくる。
「今日は泣いて良い。ぼくには君の話を聞くくらいしかできない。情けない女神ですまない。」
イブはフィーネの頭を撫でた。
フィーネは、まるで子供のように泣いた。
丸太小屋の外。
モックとドンキーが土に両足を突っ込み根を張って寝ている。
「キキー。モック兄ちゃん......」
ドンキーがモックに話しかけると、モックが目を開けた。
「なんだキー」
「フィーネもリリィも大丈夫かキキー」
「大丈夫キー。死なないキー」
「怖いキキー。」
「大丈夫だキー。」
モックはドンキーを抱きしめた。
丸太小屋の裏では、アイリスが空の月を眺めていた。
「本当に精霊神は無力ですわ。」
パタパタと飛んでいるが羽ばたきに力がない。
「エルフと少女に世界を託すしかない。情けないですわね、アイリス。」
月はただ微笑んでいるように見えた。
その夜空を美しい白い龍が飛んでいる。
「おいらがリリィを守るんだ!リリィは絶対に死なせない。フィーネもだ!」
ハクは空の星を縫うようにして飛んでいた。
「おいらは竜神だ。ザハーク、あの時みたいにやっつけてやる!」
ハクは空高くどこまでも舞い上がった。
露天風呂。
ゴブローが一人で湯船に浸かっている。
「いよいよだな。」
決戦を前に、気持ちが張り詰めていた。露天風呂がその緊張を解きほぐしてくれる。
ウエスの森の外の町。
「スザク、いよいよだね。」
「私は姉さんが居れば大丈夫。」
ホウオウとスザクも眠れぬ夜を過ごしていた。
「魔神教は、私たちが潰す。」
スザクが決意を新たにする。
「スザクは私が守るわ。」
ホウオウがスザクの頭を撫でた。
「二人で、いえ、皆んなで勝ちましょう!」
スザクがいうとホウオウがうなづいた。
オルガは窓から夜空を見ていた。
「フィーネさん、無茶はしないでくれよ。勝って一緒に家に帰って、そしたら、正式に結婚を申し込むんだ。」
オルガは小さな木箱を開けると中から指輪を取り出した。
指輪を空に向かってかざすと月明かりに照らされてキラキラと輝く。
「フィーネさん、絶対に守ってみせる!」
オルガは自分を奮い立たせた。
それぞれがそれぞれの想いを抱き、星空を見上げる夜。
だだ静かにしかし確実に決戦へと時は刻まれていく。
その流れには誰も抗うことはできないのであった。
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