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ダンジョンキーパー

ー/ー



 冒険者パーティは、謎めいた古代の遺跡に挑んでいた。薄暗い通路は湿気に満ち、両脇には火のついた蝋燭がぽつりぽつりと灯されている。それらの揺れる炎が、石壁に奇妙な影を映し出していた。

 通路の奥からは、何やらおぞましい呻き声が響いてくる。低く、重く、まるでこの世のものではない存在が待ち構えているかのようだ。

 リーダーが剣を握りしめながら囁いた。



「みんな、気をつけろ。何かが……いる。」



 仲間たちは息を潜め、慎重に足を進めていく。緊張が張り詰めた空気に満ち、誰もが次に何が起こるのか警戒しながら進んでいた。

 呻き声は、ますます近づいてきている。



 そして、闇の中から現れたのは――ミノタウロス!



 その巨大な体躯と、筋肉に覆われた腕、鋭く光る目が冒険者たちを睨みつけていた。太い角が頭から突き出し、怒りに満ちた鼻息を荒く吹きかける。

「くっ……こんな初っ端からミノタウロスか!」

 リーダーが焦りの声を上げる。

 ミノタウロスは大きな斧を振り上げ、足元を強く踏み鳴らしながら前に進んでくる。その重々しい足音が遺跡中に響き渡り、一同に恐怖を与えた。

「みんな、構えろ!戦うぞ!」

 リーダーが叫び、冒険者たちは武器を構える。初っ端から強敵が現れるとは思わず、緊張がピークに達する。



 ミノタウロスの斧が今にも振り下ろされようとしている――!



 冒険者たちは迅速に連携を取り、ミノタウロスに立ち向かった。前衛の戦士が斧の一撃を盾で受け止め、衝撃に耐えながら必死に踏みとどまる。魔法使いはその隙に呪文を詠唱し、火球をミノタウロスの脇腹に撃ち込む。

「今だ!突っ込め!」

 リーダーの声で、後衛のアーチャーが矢を放ち、正確にミノタウロスの肩を貫いた。大きな体が一瞬よろめく。前衛の戦士が剣を振り上げ、ミノタウロスの足に深い傷を刻んだ。

「よし、もう少しだ!油断するな!」

 ミノタウロスは怒りに満ちた咆哮を上げ、巨体を揺らしながら斧を振り回す。

 しかし、冒険者たちは一瞬たりとも気を緩めず、次々に攻撃を重ね、着実に傷を増やしていく。ミノタウロスの動きは徐々に鈍くなり、その巨大な体には数多くの傷が刻まれていた。

 魔法使いが強力な魔術を発動し、ミノタウロスに向かって雷撃を放った。電撃が巨体に直撃し、ミノタウロスは大きな咆哮を上げて、ついに怯んだ。

 その瞬間を見逃さず、リーダーが素早く前に出て、剣を高く振りかぶった。

「これで終わりだ!」

 一瞬の静寂の後、リーダーの剣が光の速さでミノタウロスの太い首へと振り下ろされる。



 ——ドスン!



 ミノタウロスの首が地面に転がり、その巨体は重々しく床に崩れ落ちた。勝負は決まった。冒険者たちは息をつきながら、その場に立ち尽くしていた。



「やった……倒したぞ!」





「あああぁああぁ!もう!さっき掃除したのにいいいいいぃッ!」





 突然、響き渡る怒声に、冒険者たちは驚きながら声のする方を振り返った。



 そこに立っていたのは、モップとバケツを担いだエリシアだった。彼女は顔を真っ赤にして、激しく憤慨している。



「キエエエエエェッ!いったい誰が掃除すると思ってるんですの!?あ゛ぁん!?」



 彼女の狂気じみた叫び声に、冒険者たちは完全に固まってしまった。さっきまでの戦いで床は血と埃にまみれ、ミノタウロスの巨体がドスンと倒れている。

 エリシアはモップを振りかざしながら叫んだ。



「誰だと思ってますの!?また掃除するの、わたくしなんですのよッ!」



 冒険者たちは互いに顔を見合わせ、言葉を失っていた。



 「蝋燭もなんか消えてるし……」



 戦いの余波で通路の両脇に灯っていたいくつかの蝋燭が消えてしまっていた。薄暗い通路がさらに陰鬱な雰囲気に包まれる。

 エリシアはその光景を見て、ますます機嫌を悪くした。彼女は大げさに肩をすくめながら、モップを床にバシンと叩きつける。



「はあぁ!?これもわたくしがやるんですの!?まったく……こんな面倒な仕事を押し付けるなんて!」



 怒りの声を上げつつ、エリシアはモップを片手に蝋燭をふたたび灯し始める。冒険者たちは困惑した顔でエリシアを見つめていたが、言葉をかける勇気は誰にもなかった。



 モップをガシャガシャと動かして不機嫌そうに掃除をするエリシアを尻目に、冒険者パーティは慎重に先へ進んだ。誰も彼女に声をかけることなく、その場を離れる。



「あれはいったい何だったんだ……?」

 リーダーが後ろを振り返りながら、誰ともなく呟く。

 しかし、その不安はすぐにかき消された。前方から、再び何やら怪しい影が現れ始めたのだ。

「気をつけろ!何か来る!」

 全員が一斉に武器を構え、足を止める。通路の奥から迫る影――果たしてそれは新たな敵か、それともまた別の奇妙な存在なのか、緊張が張り詰めた。



 ——ゾンビだ!



 その姿は不気味そのもの。皮膚は剥がれ落ち、むき出しの筋肉繊維がところどころに露出している。それでもお構いなしに、彼らはゆっくりとした、不気味な動きで冒険者たちに近寄ってきた。



「……ウヴォアアアァ」
「グシャアあぁ!」



 ゾンビたちの唸り声が通路に響き、腐敗した臭いが立ち込める。彼らの目は虚ろで、空っぽな表情を浮かべながら、確実にパーティへと迫ってくる。

「構えろ!来るぞ!」

 リーダーが叫び、仲間たちは緊張感を高めて武器を構えた。これまでの敵とは違う、どこか異質な存在に恐怖を感じつつも、戦う準備は整った。ゾンビたちが一斉に襲いかかる、その瞬間が迫っていた。



 「ゔぉええ」



 一体のゾンビが、まるで胃液のようなものをぶちまけた。その腐敗臭と粘性のある液体に、冒険者パーティは一瞬恐怖に凍りついた。



 だが——。



 ――チラ。



 何かが曲がり角から彼らを睨んでいる。

 冒険者たちはゾンビたちに気を取られながらも、その視線の先に何者かの存在を感じた。ゾンビたちもそれに気づいたようで、胃液をぶちまけたゾンビの肩を隣のゾンビがつついた。



「——グシャァ?」
「うゔぉあ!」



 曲がり角で睨んでいたのは――エリシアだった。



 彼女は手にモップを握りしめ、その手には青筋が走っている。

 激怒の表情が浮かび、まるで一触即発の状況だ。ゾンビたちも、モップを振り上げたエリシアの姿に恐怖を感じ取ったかのように、わずかに後ずさった。

「ちょっと!!掃除してるんですのよ!!!」

 エリシアの怒声が響き渡り、ゾンビも冒険者たちも完全に固まっていた。

 埒が開かない状況にしびれを切らしたリーダーが、決意を固めて先に動いた。



「く、喰らえ!」



 大ぶりの一撃が、ゾンビに正面からヒット!
 ゾンビの腐った腕が切り落とされ、腐敗した汁があたりに撒き散らされる。



「……」



 その瞬間、場の空気が凍りついた。



 ゾンビよりも強烈な存在感を放っていたのは、エリシア。

 腐った汁が床に広がる様子を見て、彼女の視線がリーダーに鋭く突き刺さった。静かな怒りが彼女を包み込み、モップを握る手が再び青筋を浮かべる。

 リーダーも仲間たちも、そしてゾンビさえもその場で凍りつく。どちらかと言えば――いや、確実に――エリシアの方が恐ろしい。

「これ……誰が掃除するんですの……!?」

 エリシアの静かな怒りが、部屋中に響き渡った。



 リーダーの一撃を皮切りに、両者の戦いは一気に混戦状態に突入した。



 冒険者たちは必死にゾンビたちと戦い、剣や魔法が飛び交う。ゾンビたちもお構いなしに腐敗した腕を振り回し、攻守が入り乱れる。

 その混乱の中、エリシアはモップを手に、まるで戦いなど気にも留めないかのように、無理やり床を掃除し始めた。



「……火の精霊よ!悪しきものを浄化せん……あ、ちょ、危ないのでそこは……。」



 魔法使いが呪文を唱えながらも、エリシアが危険な位置にいるのに気づき、慌てて声をかける。しかし、エリシアは振り返りもせず。

「あ゛ぁん!?」

 さらに、リーダーがゾンビを相手に大技を繰り出す。



「うおおおお!回転切りいいイィ!」



 剣がゾンビを薙ぎ払いながら、リーダーが回転する。しかし、その勢いでエリシアの近くをかすめていく。

「うお!ちょ、あぶねえ!」

 エリシアは眉をひそめて、モップを握りしめたまま再び怒鳴る。



「あ゛ああぁん!?掃除してるんですのよ!気をつけなさい!」



 戦場の中、まるで誰もがエリシアの掃除を邪魔しているかのように見えてしまい、冒険者たちは戦いながらも振り回される始末だった。





 で、最終的には、なんとも奇妙な光景が広がっていた。





「ウヴァぁ……」



 一体のゾンビが、ぎこちなくブルーシートを床に広げている。しかし、真ん中にシワが寄ってしまい、うまく広げられない。



「あぁ……そっち踏んどいてもらえます……?」



 魔法使いが呆れた声でゾンビに指示すると、ゾンビは大人しく反対側を引っ張ってシートを広げ始めた。だが、無言で彼らを見守るエリシアの視線は依然として鋭い。



 ——ジロ。



「あ、そうだ……そっちの壁も……」



 指示を受けたゾンビが、今度は壁にシートをかけるが、なんとも無造作で雑。結果的には、どうにもならない形でシートが垂れ下がっている。



「養生テープとかって……」



 魔法使いが呟くと、別のゾンビが「グシャァ……」と音を立ててテープを取り出し、ブルーシートを仮止めする。



「ちょっと仮止めで一発貼っといてください……」
「うゔぉあああぁぁ……」



ゾンビが従順にテープを貼りつけ、反対側も同様に仮止め作業を続ける。



「で、反対も一発……」



 異様な光景に、冒険者たちは戦闘が一旦中断されたにもかかわらず、事態がどうしてこうなったのか理解できず、ただ呆然とその場を見守るしかなかった。


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みんなのリアクション

 冒険者パーティは、謎めいた古代の遺跡に挑んでいた。薄暗い通路は湿気に満ち、両脇には火のついた蝋燭がぽつりぽつりと灯されている。それらの揺れる炎が、石壁に奇妙な影を映し出していた。
 通路の奥からは、何やらおぞましい呻き声が響いてくる。低く、重く、まるでこの世のものではない存在が待ち構えているかのようだ。
 リーダーが剣を握りしめながら囁いた。
「みんな、気をつけろ。何かが……いる。」
 仲間たちは息を潜め、慎重に足を進めていく。緊張が張り詰めた空気に満ち、誰もが次に何が起こるのか警戒しながら進んでいた。
 呻き声は、ますます近づいてきている。
 そして、闇の中から現れたのは――ミノタウロス!
 その巨大な体躯と、筋肉に覆われた腕、鋭く光る目が冒険者たちを睨みつけていた。太い角が頭から突き出し、怒りに満ちた鼻息を荒く吹きかける。
「くっ……こんな初っ端からミノタウロスか!」
 リーダーが焦りの声を上げる。
 ミノタウロスは大きな斧を振り上げ、足元を強く踏み鳴らしながら前に進んでくる。その重々しい足音が遺跡中に響き渡り、一同に恐怖を与えた。
「みんな、構えろ!戦うぞ!」
 リーダーが叫び、冒険者たちは武器を構える。初っ端から強敵が現れるとは思わず、緊張がピークに達する。
 ミノタウロスの斧が今にも振り下ろされようとしている――!
 冒険者たちは迅速に連携を取り、ミノタウロスに立ち向かった。前衛の戦士が斧の一撃を盾で受け止め、衝撃に耐えながら必死に踏みとどまる。魔法使いはその隙に呪文を詠唱し、火球をミノタウロスの脇腹に撃ち込む。
「今だ!突っ込め!」
 リーダーの声で、後衛のアーチャーが矢を放ち、正確にミノタウロスの肩を貫いた。大きな体が一瞬よろめく。前衛の戦士が剣を振り上げ、ミノタウロスの足に深い傷を刻んだ。
「よし、もう少しだ!油断するな!」
 ミノタウロスは怒りに満ちた咆哮を上げ、巨体を揺らしながら斧を振り回す。
 しかし、冒険者たちは一瞬たりとも気を緩めず、次々に攻撃を重ね、着実に傷を増やしていく。ミノタウロスの動きは徐々に鈍くなり、その巨大な体には数多くの傷が刻まれていた。
 魔法使いが強力な魔術を発動し、ミノタウロスに向かって雷撃を放った。電撃が巨体に直撃し、ミノタウロスは大きな咆哮を上げて、ついに怯んだ。
 その瞬間を見逃さず、リーダーが素早く前に出て、剣を高く振りかぶった。
「これで終わりだ!」
 一瞬の静寂の後、リーダーの剣が光の速さでミノタウロスの太い首へと振り下ろされる。
 ——ドスン!
 ミノタウロスの首が地面に転がり、その巨体は重々しく床に崩れ落ちた。勝負は決まった。冒険者たちは息をつきながら、その場に立ち尽くしていた。
「やった……倒したぞ!」
「あああぁああぁ!もう!さっき掃除したのにいいいいいぃッ!」
 突然、響き渡る怒声に、冒険者たちは驚きながら声のする方を振り返った。
 そこに立っていたのは、モップとバケツを担いだエリシアだった。彼女は顔を真っ赤にして、激しく憤慨している。
「キエエエエエェッ!いったい誰が掃除すると思ってるんですの!?あ゛ぁん!?」
 彼女の狂気じみた叫び声に、冒険者たちは完全に固まってしまった。さっきまでの戦いで床は血と埃にまみれ、ミノタウロスの巨体がドスンと倒れている。
 エリシアはモップを振りかざしながら叫んだ。
「誰だと思ってますの!?また掃除するの、わたくしなんですのよッ!」
 冒険者たちは互いに顔を見合わせ、言葉を失っていた。
 「蝋燭もなんか消えてるし……」
 戦いの余波で通路の両脇に灯っていたいくつかの蝋燭が消えてしまっていた。薄暗い通路がさらに陰鬱な雰囲気に包まれる。
 エリシアはその光景を見て、ますます機嫌を悪くした。彼女は大げさに肩をすくめながら、モップを床にバシンと叩きつける。
「はあぁ!?これもわたくしがやるんですの!?まったく……こんな面倒な仕事を押し付けるなんて!」
 怒りの声を上げつつ、エリシアはモップを片手に蝋燭をふたたび灯し始める。冒険者たちは困惑した顔でエリシアを見つめていたが、言葉をかける勇気は誰にもなかった。
 モップをガシャガシャと動かして不機嫌そうに掃除をするエリシアを尻目に、冒険者パーティは慎重に先へ進んだ。誰も彼女に声をかけることなく、その場を離れる。
「あれはいったい何だったんだ……?」
 リーダーが後ろを振り返りながら、誰ともなく呟く。
 しかし、その不安はすぐにかき消された。前方から、再び何やら怪しい影が現れ始めたのだ。
「気をつけろ!何か来る!」
 全員が一斉に武器を構え、足を止める。通路の奥から迫る影――果たしてそれは新たな敵か、それともまた別の奇妙な存在なのか、緊張が張り詰めた。
 ——ゾンビだ!
 その姿は不気味そのもの。皮膚は剥がれ落ち、むき出しの筋肉繊維がところどころに露出している。それでもお構いなしに、彼らはゆっくりとした、不気味な動きで冒険者たちに近寄ってきた。
「……ウヴォアアアァ」
「グシャアあぁ!」
 ゾンビたちの唸り声が通路に響き、腐敗した臭いが立ち込める。彼らの目は虚ろで、空っぽな表情を浮かべながら、確実にパーティへと迫ってくる。
「構えろ!来るぞ!」
 リーダーが叫び、仲間たちは緊張感を高めて武器を構えた。これまでの敵とは違う、どこか異質な存在に恐怖を感じつつも、戦う準備は整った。ゾンビたちが一斉に襲いかかる、その瞬間が迫っていた。
 「ゔぉええ」
 一体のゾンビが、まるで胃液のようなものをぶちまけた。その腐敗臭と粘性のある液体に、冒険者パーティは一瞬恐怖に凍りついた。
 だが——。
 ――チラ。
 何かが曲がり角から彼らを睨んでいる。
 冒険者たちはゾンビたちに気を取られながらも、その視線の先に何者かの存在を感じた。ゾンビたちもそれに気づいたようで、胃液をぶちまけたゾンビの肩を隣のゾンビがつついた。
「——グシャァ?」
「うゔぉあ!」
 曲がり角で睨んでいたのは――エリシアだった。
 彼女は手にモップを握りしめ、その手には青筋が走っている。
 激怒の表情が浮かび、まるで一触即発の状況だ。ゾンビたちも、モップを振り上げたエリシアの姿に恐怖を感じ取ったかのように、わずかに後ずさった。
「ちょっと!!掃除してるんですのよ!!!」
 エリシアの怒声が響き渡り、ゾンビも冒険者たちも完全に固まっていた。
 埒が開かない状況にしびれを切らしたリーダーが、決意を固めて先に動いた。
「く、喰らえ!」
 大ぶりの一撃が、ゾンビに正面からヒット!
 ゾンビの腐った腕が切り落とされ、腐敗した汁があたりに撒き散らされる。
「……」
 その瞬間、場の空気が凍りついた。
 ゾンビよりも強烈な存在感を放っていたのは、エリシア。
 腐った汁が床に広がる様子を見て、彼女の視線がリーダーに鋭く突き刺さった。静かな怒りが彼女を包み込み、モップを握る手が再び青筋を浮かべる。
 リーダーも仲間たちも、そしてゾンビさえもその場で凍りつく。どちらかと言えば――いや、確実に――エリシアの方が恐ろしい。
「これ……誰が掃除するんですの……!?」
 エリシアの静かな怒りが、部屋中に響き渡った。
 リーダーの一撃を皮切りに、両者の戦いは一気に混戦状態に突入した。
 冒険者たちは必死にゾンビたちと戦い、剣や魔法が飛び交う。ゾンビたちもお構いなしに腐敗した腕を振り回し、攻守が入り乱れる。
 その混乱の中、エリシアはモップを手に、まるで戦いなど気にも留めないかのように、無理やり床を掃除し始めた。
「……火の精霊よ!悪しきものを浄化せん……あ、ちょ、危ないのでそこは……。」
 魔法使いが呪文を唱えながらも、エリシアが危険な位置にいるのに気づき、慌てて声をかける。しかし、エリシアは振り返りもせず。
「あ゛ぁん!?」
 さらに、リーダーがゾンビを相手に大技を繰り出す。
「うおおおお!回転切りいいイィ!」
 剣がゾンビを薙ぎ払いながら、リーダーが回転する。しかし、その勢いでエリシアの近くをかすめていく。
「うお!ちょ、あぶねえ!」
 エリシアは眉をひそめて、モップを握りしめたまま再び怒鳴る。
「あ゛ああぁん!?掃除してるんですのよ!気をつけなさい!」
 戦場の中、まるで誰もがエリシアの掃除を邪魔しているかのように見えてしまい、冒険者たちは戦いながらも振り回される始末だった。
 で、最終的には、なんとも奇妙な光景が広がっていた。
「ウヴァぁ……」
 一体のゾンビが、ぎこちなくブルーシートを床に広げている。しかし、真ん中にシワが寄ってしまい、うまく広げられない。
「あぁ……そっち踏んどいてもらえます……?」
 魔法使いが呆れた声でゾンビに指示すると、ゾンビは大人しく反対側を引っ張ってシートを広げ始めた。だが、無言で彼らを見守るエリシアの視線は依然として鋭い。
 ——ジロ。
「あ、そうだ……そっちの壁も……」
 指示を受けたゾンビが、今度は壁にシートをかけるが、なんとも無造作で雑。結果的には、どうにもならない形でシートが垂れ下がっている。
「養生テープとかって……」
 魔法使いが呟くと、別のゾンビが「グシャァ……」と音を立ててテープを取り出し、ブルーシートを仮止めする。
「ちょっと仮止めで一発貼っといてください……」
「うゔぉあああぁぁ……」
ゾンビが従順にテープを貼りつけ、反対側も同様に仮止め作業を続ける。
「で、反対も一発……」
 異様な光景に、冒険者たちは戦闘が一旦中断されたにもかかわらず、事態がどうしてこうなったのか理解できず、ただ呆然とその場を見守るしかなかった。