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助けて!エリシア!

ー/ー



 ある日、薄暗い森の中、醜悪な顔をしたゴブリンが三人組の戦士に囲まれていた。彼は小柄な体を震わせながら、必死に逃げようと試みるも、戦士たちの笑みには冷酷な悪意が漂っていた。



「おいおい、逃げようなんて思うなよ。今日はお前、関節技の練習台だからな!」



 一人目の戦士がニヤリと笑い、ゴブリンの腕を掴む。

 無理やり捻られた関節にゴブリンは苦痛の声を上げたが、彼らはそれをまるで楽しんでいるかのように笑った。



「ほら、痛いだろ?もっといい角度に捻ってやろうか?」



 戦士はさらに力を込める。

 二人目の戦士は、地面に転がるネズミを捕まえ、ゴブリンの目の前に差し出した。



「おい、このネズミ、腹減ってるだろ?食えよ。その辺で捕まえたネズミでも、お前にとってはご馳走なんだろ?」



 ゴブリンは恐怖に満ちた目でネズミを見つめ、震える手でそれを受け取ったが、どう見ても食べられるものではなかった。しかし、戦士たちの圧力の前に、拒むことは許されなかった。



「さぁ、食べろよ。食わなきゃ、さらに痛い目に遭うぞ?」



 最後の一人、三人目の戦士は冷笑を浮かべながらスマホを取り出し、ゴブリンの惨めな姿を撮影し始めた。



「おいおい、こいつの顔、ひどすぎるだろ?これをTwitterで晒したら、みんな面白がるに違いねぇな!」



 パシャパシャと写真を撮り、笑いながらスマホを操作する。ゴブリンの顔は恐怖と屈辱で歪み、涙が滲んでいた。



「もう少し泣けよ。泣いてる方が受けるからな!」



「お待ちなさい!」



 エリシアの澄んだ声が、森の静寂を切り裂いた。戦士たちが驚いて振り返ると、エリシアは木々の上から軽やかに飛び降り、スタッと優雅に着地した。

 その場に立った彼女は、まるで舞台に立つ女優のように堂々と戦士たちを見下ろしていた。



「まあ、今日はこの辺で。」



 エリシアが軽く手を振り、気楽な調子で言うと、戦士たちはなぜか大人しくなった。先ほどまでの残酷な態度は嘘のように消え失せ、何も言わず、彼女の一言に従って立ち去る準備を始めた。

 戦士たちは、何かを知っているような顔つきで背を向け、無言のまま歩き去っていった。

 その去り際、エリシアはふっと微笑みながら、彼らに軽く声をかけた。



「また今度飯でも。」



 その一言に、戦士たちは軽く頷き、森の中に姿を消した。静寂が戻ると、ゴブリンは呆然とエリシアを見つめ続けた。



 公園のベンチに、エリシアとゴブリンが座っていた。

 ゴブリンは肩を落とし、項垂れたまま深くため息をつく。先ほどの戦士たちに絡まれた一件が、まだ頭から離れないようだった。



 一方、エリシアはそんな彼を気にも留めず、スマホを手に持ちながらゲラゲラと大笑いしている。



 彼女はイヤホンをつけたまま、何かの配信を楽しんでいるようだった。ゴブリンはその横で、やや迷惑そうに顔を上げて、エリシアをちらりと見た。



「この間もらった魔法の種、嘘っぱちじゃねえか!」



 ゴブリンは憤慨した様子で文句を言うが、エリシアはイヤホンをしているため、その声は全く届いていない。彼女は配信を見ながら、何か面白い映像が流れたのか、さらに大きな笑い声を上げる。



「ははっ、あれ、最高ですわね!」



 エリシアは楽しげに笑いながら、一瞬ゴブリンに視線を向けたが、何も気にせず再び配信に集中する。

 ゴブリンはがっくりと肩を落とし、さらに項垂れながらベンチに沈み込んだ。



 エリシアはしばらくスマホの画面を眺めていたが、コメントを書き込み、最後に500円のスパチャを投げると、満足げに微笑んでイヤホンを外した。

 その隣でゴブリンが、不満げな顔を浮かべて彼女を見つめる。



「もしかして俺を騙すつも——」



 彼がそう言いかけた瞬間、エリシアはまるで待っていたかのように声を上げた。



「魔法が使えるようになるトレーニングプログラムを作りましたの!」



 彼女はゴブリンの話を一切無視し、カバンの中から分厚い書類をどさっと取り出した。

 書類にはぎっしりと不思議なシンボルや図解が描かれており、見ただけで頭が痛くなりそうな内容だ。



「これをこなせば、魔法なんて簡単に使えるようになりますわよ!」



 エリシアは誇らしげにゴブリンに書類を差し出すが、ゴブリンは半ば呆然とした表情で、それを見つめた。



「俺、そんなの……」



 彼は言葉を詰まらせながら、エリシアが何を企んでいるのか、まったく理解できないでいた。

 エリシアはさらに自信に満ちた表情で、ゴブリンに向かって声を上げた。



「なんと、このプログラムに従って瞑想してるだけで、魔法が使えるようになりますの!」



 その言葉を聞いた瞬間、ゴブリンの目が見開かれ、彼は思わず生唾を飲んだ。
 これまでの不満や不信感が、一瞬でどこかへ消えたようだった。



「瞑想するだけで…魔法が……?」



 ゴブリンは信じられないような表情でエリシアを見つめ、夢のような話にぐらりと心が傾いた。

 エリシアはそんな彼を見て、ニヤリと微笑む。



「そうですわ。簡単でしょう? 瞑想するだけですのよ。」



 エリシアの声はまるで甘い誘惑のように、ゴブリンの耳に響いていた。



「初月はサービスで、半額の10000Gですわ!」



 エリシアはにこやかに、だが決して軽視できない金額をさらりと口にした。

 ゴブリンはその言葉に目を丸くし、ポケットからスマホを取り出すと、思わず画面を見つめて一瞬悩んだ。

 半額とはいえ10000G――それはゴブリンにとって、決して安くはない金額だった。



「どうすっかな…いや、でも魔法が使えるようになるなら…」



 その瞬間、エリシアは彼の迷いを見逃さなかった。彼女は一瞬でゴブリンの手からスマホをひったくると、素早く書類のQRコードをスマホにかざした。



「はい、読み込み完了ですわ!」



 エリシアは容赦なく、スマホのカメラをゴブリンの顔に向ける。



「え、ちょ、ま――」



 しかし、ゴブリンの抗議も虚しく、スマホは彼の顔をスキャンし、ID認証が瞬時に完了した。



「毎度あり〜!」



 エリシアは満足げにスマホを彼に返すと、そのまま優雅な足取りで去っていった。

 呆然と立ち尽くすゴブリンは、スマホの画面に表示された取引完了の通知を見つめるばかり。



 書類の端っこには、小さな字で「自動更新」と書かれていたが、彼はそのことに全く気づかなかった。



 ゴブリンは毎日、何も変わらない単調な日々を過ごしていた。



 しかし、その日課は一つだけ新しく加わった。エリシアから渡された書類に記されたQRコードを読み取り、指定されたYouTubeのページにアクセスすることだった。

 彼は毎朝目を覚ますと、スマホを手に取り、そのページに飛んで再生ボタンを押す。

 画面に映し出されるのは、奇妙な色彩の波紋と、耳に障るような低いノイズ。



「ジイィィィィィ…」



 ゴブリンはその音を耳にしながら、姿勢を整え、目を閉じて瞑想を始める。

 最初はこれが本当に魔法を覚えるための手段なのか疑問だったが、エリシアの自信満々の態度に影響され、続けざるを得なかった。



「これで本当に…魔法が…」



 だが、毎日毎日、ゴブリンはただそのノイズを聞きながら無言で瞑想するだけ。

 頭の中に浮かぶのは、雑音と疑問ばかりだった。魔法の気配はまったく感じられない。むしろ、ノイズが流れるたびに彼の心はどんどん不安に包まれていくようだった。



「…この変な音、本当に効果あるのかよ…」



 それでも、彼は諦めるわけにはいかなかった。すでに10000Gを支払っている上、プログラムがどうやら自動更新されていることにも気づいていない。



 ある日、ゴブリンはまたしても三人組の戦士に絡まれていた。彼らはいつものように、ゴブリンを弄んで楽しんでいたが、今回は違った。

 ゴブリンは以前とは違う、自信に満ちた表情で戦士たちを睨みつけた。



「もうお前らとはおさらばだ!」



 彼は胸を張り、堂々と手を掲げた。



「喰らえ!サンダーボルト!」



 ゴブリンの声が高らかに響いた。しかし――



 ……何も起こらなかった。



 周囲は静まり返り、戦士たちは一瞬目を見合わせ、次の瞬間には声を上げて笑い出した。



「ははは!サンダーボルトだって!?何やってんだ、こいつ!」



 ゴブリンは困惑した表情で手を見つめたが、すぐにその手は戦士たちに掴まれ、彼は無情にも路地裏に引き摺り込まれていった。



「やめろ!待て!魔法が……魔法が効かない!?」



 彼の叫び声が小さくなっていく中、たまたまその場を通りかかったエリシアは、路地裏で繰り広げられる光景に目を向ける。

 そして、彼女はその様子を見て、小さく笑いを漏らした。



「ふふ……。」



 軽く鼻で笑うと、何事もなかったかのように優雅な足取りでその場を去っていった。


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みんなのリアクション

 ある日、薄暗い森の中、醜悪な顔をしたゴブリンが三人組の戦士に囲まれていた。彼は小柄な体を震わせながら、必死に逃げようと試みるも、戦士たちの笑みには冷酷な悪意が漂っていた。
「おいおい、逃げようなんて思うなよ。今日はお前、関節技の練習台だからな!」
 一人目の戦士がニヤリと笑い、ゴブリンの腕を掴む。
 無理やり捻られた関節にゴブリンは苦痛の声を上げたが、彼らはそれをまるで楽しんでいるかのように笑った。
「ほら、痛いだろ?もっといい角度に捻ってやろうか?」
 戦士はさらに力を込める。
 二人目の戦士は、地面に転がるネズミを捕まえ、ゴブリンの目の前に差し出した。
「おい、このネズミ、腹減ってるだろ?食えよ。その辺で捕まえたネズミでも、お前にとってはご馳走なんだろ?」
 ゴブリンは恐怖に満ちた目でネズミを見つめ、震える手でそれを受け取ったが、どう見ても食べられるものではなかった。しかし、戦士たちの圧力の前に、拒むことは許されなかった。
「さぁ、食べろよ。食わなきゃ、さらに痛い目に遭うぞ?」
 最後の一人、三人目の戦士は冷笑を浮かべながらスマホを取り出し、ゴブリンの惨めな姿を撮影し始めた。
「おいおい、こいつの顔、ひどすぎるだろ?これをTwitterで晒したら、みんな面白がるに違いねぇな!」
 パシャパシャと写真を撮り、笑いながらスマホを操作する。ゴブリンの顔は恐怖と屈辱で歪み、涙が滲んでいた。
「もう少し泣けよ。泣いてる方が受けるからな!」
「お待ちなさい!」
 エリシアの澄んだ声が、森の静寂を切り裂いた。戦士たちが驚いて振り返ると、エリシアは木々の上から軽やかに飛び降り、スタッと優雅に着地した。
 その場に立った彼女は、まるで舞台に立つ女優のように堂々と戦士たちを見下ろしていた。
「まあ、今日はこの辺で。」
 エリシアが軽く手を振り、気楽な調子で言うと、戦士たちはなぜか大人しくなった。先ほどまでの残酷な態度は嘘のように消え失せ、何も言わず、彼女の一言に従って立ち去る準備を始めた。
 戦士たちは、何かを知っているような顔つきで背を向け、無言のまま歩き去っていった。
 その去り際、エリシアはふっと微笑みながら、彼らに軽く声をかけた。
「また今度飯でも。」
 その一言に、戦士たちは軽く頷き、森の中に姿を消した。静寂が戻ると、ゴブリンは呆然とエリシアを見つめ続けた。
 公園のベンチに、エリシアとゴブリンが座っていた。
 ゴブリンは肩を落とし、項垂れたまま深くため息をつく。先ほどの戦士たちに絡まれた一件が、まだ頭から離れないようだった。
 一方、エリシアはそんな彼を気にも留めず、スマホを手に持ちながらゲラゲラと大笑いしている。
 彼女はイヤホンをつけたまま、何かの配信を楽しんでいるようだった。ゴブリンはその横で、やや迷惑そうに顔を上げて、エリシアをちらりと見た。
「この間もらった魔法の種、嘘っぱちじゃねえか!」
 ゴブリンは憤慨した様子で文句を言うが、エリシアはイヤホンをしているため、その声は全く届いていない。彼女は配信を見ながら、何か面白い映像が流れたのか、さらに大きな笑い声を上げる。
「ははっ、あれ、最高ですわね!」
 エリシアは楽しげに笑いながら、一瞬ゴブリンに視線を向けたが、何も気にせず再び配信に集中する。
 ゴブリンはがっくりと肩を落とし、さらに項垂れながらベンチに沈み込んだ。
 エリシアはしばらくスマホの画面を眺めていたが、コメントを書き込み、最後に500円のスパチャを投げると、満足げに微笑んでイヤホンを外した。
 その隣でゴブリンが、不満げな顔を浮かべて彼女を見つめる。
「もしかして俺を騙すつも——」
 彼がそう言いかけた瞬間、エリシアはまるで待っていたかのように声を上げた。
「魔法が使えるようになるトレーニングプログラムを作りましたの!」
 彼女はゴブリンの話を一切無視し、カバンの中から分厚い書類をどさっと取り出した。
 書類にはぎっしりと不思議なシンボルや図解が描かれており、見ただけで頭が痛くなりそうな内容だ。
「これをこなせば、魔法なんて簡単に使えるようになりますわよ!」
 エリシアは誇らしげにゴブリンに書類を差し出すが、ゴブリンは半ば呆然とした表情で、それを見つめた。
「俺、そんなの……」
 彼は言葉を詰まらせながら、エリシアが何を企んでいるのか、まったく理解できないでいた。
 エリシアはさらに自信に満ちた表情で、ゴブリンに向かって声を上げた。
「なんと、このプログラムに従って瞑想してるだけで、魔法が使えるようになりますの!」
 その言葉を聞いた瞬間、ゴブリンの目が見開かれ、彼は思わず生唾を飲んだ。
 これまでの不満や不信感が、一瞬でどこかへ消えたようだった。
「瞑想するだけで…魔法が……?」
 ゴブリンは信じられないような表情でエリシアを見つめ、夢のような話にぐらりと心が傾いた。
 エリシアはそんな彼を見て、ニヤリと微笑む。
「そうですわ。簡単でしょう? 瞑想するだけですのよ。」
 エリシアの声はまるで甘い誘惑のように、ゴブリンの耳に響いていた。
「初月はサービスで、半額の10000Gですわ!」
 エリシアはにこやかに、だが決して軽視できない金額をさらりと口にした。
 ゴブリンはその言葉に目を丸くし、ポケットからスマホを取り出すと、思わず画面を見つめて一瞬悩んだ。
 半額とはいえ10000G――それはゴブリンにとって、決して安くはない金額だった。
「どうすっかな…いや、でも魔法が使えるようになるなら…」
 その瞬間、エリシアは彼の迷いを見逃さなかった。彼女は一瞬でゴブリンの手からスマホをひったくると、素早く書類のQRコードをスマホにかざした。
「はい、読み込み完了ですわ!」
 エリシアは容赦なく、スマホのカメラをゴブリンの顔に向ける。
「え、ちょ、ま――」
 しかし、ゴブリンの抗議も虚しく、スマホは彼の顔をスキャンし、ID認証が瞬時に完了した。
「毎度あり〜!」
 エリシアは満足げにスマホを彼に返すと、そのまま優雅な足取りで去っていった。
 呆然と立ち尽くすゴブリンは、スマホの画面に表示された取引完了の通知を見つめるばかり。
 書類の端っこには、小さな字で「自動更新」と書かれていたが、彼はそのことに全く気づかなかった。
 ゴブリンは毎日、何も変わらない単調な日々を過ごしていた。
 しかし、その日課は一つだけ新しく加わった。エリシアから渡された書類に記されたQRコードを読み取り、指定されたYouTubeのページにアクセスすることだった。
 彼は毎朝目を覚ますと、スマホを手に取り、そのページに飛んで再生ボタンを押す。
 画面に映し出されるのは、奇妙な色彩の波紋と、耳に障るような低いノイズ。
「ジイィィィィィ…」
 ゴブリンはその音を耳にしながら、姿勢を整え、目を閉じて瞑想を始める。
 最初はこれが本当に魔法を覚えるための手段なのか疑問だったが、エリシアの自信満々の態度に影響され、続けざるを得なかった。
「これで本当に…魔法が…」
 だが、毎日毎日、ゴブリンはただそのノイズを聞きながら無言で瞑想するだけ。
 頭の中に浮かぶのは、雑音と疑問ばかりだった。魔法の気配はまったく感じられない。むしろ、ノイズが流れるたびに彼の心はどんどん不安に包まれていくようだった。
「…この変な音、本当に効果あるのかよ…」
 それでも、彼は諦めるわけにはいかなかった。すでに10000Gを支払っている上、プログラムがどうやら自動更新されていることにも気づいていない。
 ある日、ゴブリンはまたしても三人組の戦士に絡まれていた。彼らはいつものように、ゴブリンを弄んで楽しんでいたが、今回は違った。
 ゴブリンは以前とは違う、自信に満ちた表情で戦士たちを睨みつけた。
「もうお前らとはおさらばだ!」
 彼は胸を張り、堂々と手を掲げた。
「喰らえ!サンダーボルト!」
 ゴブリンの声が高らかに響いた。しかし――
 ……何も起こらなかった。
 周囲は静まり返り、戦士たちは一瞬目を見合わせ、次の瞬間には声を上げて笑い出した。
「ははは!サンダーボルトだって!?何やってんだ、こいつ!」
 ゴブリンは困惑した表情で手を見つめたが、すぐにその手は戦士たちに掴まれ、彼は無情にも路地裏に引き摺り込まれていった。
「やめろ!待て!魔法が……魔法が効かない!?」
 彼の叫び声が小さくなっていく中、たまたまその場を通りかかったエリシアは、路地裏で繰り広げられる光景に目を向ける。
 そして、彼女はその様子を見て、小さく笑いを漏らした。
「ふふ……。」
 軽く鼻で笑うと、何事もなかったかのように優雅な足取りでその場を去っていった。