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窓の外

ー/ー




「もう夏だよね」

 いつか友人に言われた言葉。場所は……どこかの飲食店だったと思う。
 外は夕立がザアザアと降り、ガラス窓を叩いて心地良い音を奏でる。風も吹いていた。

「あ~、暦の上ではってこと?」

 梅雨のこの時期、昼は空を厚い雲が覆い、降っては止んでを繰り返していた。おまけに夜は窓を開けていると寒くてたまらない。そんな時期だった。

 だから、夏とか言われても実感が湧かない。あいにく、梅雨を夏らしさとは考えていない私には、夏を感じる瞬間がなかったのだ。

「ううん。ちゃんと夏だよ」

 少し得意げに笑って、視線を店の外に向ける。
 私もつられて、なんとなく外を見た。

 水の走る大きなガラス窓からは、外はよく見えない。人や車が通っているのは分かっても、その細部までは分からない。輪郭のボヤけたおばけだ。

 そんなつまらないものを見つめながら、やっぱり夏だよ……なんて呟きが聞こえた。

 そんな、思い出なのかどうかも分からない記憶を燻らせていると、セミの声が耳に届く。

「……………………」

 夕方の涼しい、けれど少し湿った風が運んでくる、どこにいるかも分からないセミの声。
 その日一日が楽しかったほどに、どこか寂しく感じる時間だ。

 心地良く、夏を感じた。
 
 あのとき、こんな気持ちで外を眺めていたのだろうか。
 少しだけ惜しいことをしたなと思った。


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「もう夏だよね」
 いつか友人に言われた言葉。場所は……どこかの飲食店だったと思う。
 外は夕立がザアザアと降り、ガラス窓を叩いて心地良い音を奏でる。風も吹いていた。
「あ~、暦の上ではってこと?」
 梅雨のこの時期、昼は空を厚い雲が覆い、降っては止んでを繰り返していた。おまけに夜は窓を開けていると寒くてたまらない。そんな時期だった。
 だから、夏とか言われても実感が湧かない。あいにく、梅雨を夏らしさとは考えていない私には、夏を感じる瞬間がなかったのだ。
「ううん。ちゃんと夏だよ」
 少し得意げに笑って、視線を店の外に向ける。
 私もつられて、なんとなく外を見た。
 水の走る大きなガラス窓からは、外はよく見えない。人や車が通っているのは分かっても、その細部までは分からない。輪郭のボヤけたおばけだ。
 そんなつまらないものを見つめながら、やっぱり夏だよ……なんて呟きが聞こえた。
 そんな、思い出なのかどうかも分からない記憶を燻らせていると、セミの声が耳に届く。
「……………………」
 夕方の涼しい、けれど少し湿った風が運んでくる、どこにいるかも分からないセミの声。
 その日一日が楽しかったほどに、どこか寂しく感じる時間だ。
 心地良く、夏を感じた。
 あのとき、こんな気持ちで外を眺めていたのだろうか。
 少しだけ惜しいことをしたなと思った。