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SCENE078 亀裂の真実

ー/ー



 私と色は、ボス部屋の調査を始める。

「衣織さん」

「なんだ、色」

「なんで、あのモンスターは俺たちと戦わないんですかね」

「そんなことは知るか。だが、あのモンスターはなぜか信じられる。分からないが、私の勘だ」

 本当に分からない。
 だが、そんなことよりも異変だ。
 すでに外の川をマナが汚染し始めている。まだ滞留しているが、日本の川のことを考えれば、いつ下流に流れていってもおかしくないからな。
 私と色が手分けしてボス部屋を見ていると、色が何かを見つけたらしい。

「衣織さん、ここを見て下さい」

「なんだ、色。……って、これは!」

 私たちは、ついに異変の原因を突き止めた。
 ボス部屋の壁が大きく凹んでいて、外の空気が感じられるようになっていたのだ。どうやら、ここで間違いないようだった。

「どうしますか、衣織さん」

「そんなの決まっているだろう」

 私は色をその場に残して、ダンジョンマスターであるゴーレムのところへと向かう。

「すまないが、こっちに来てもらっていいだろうか」

「どうかなさったのですかな?」

「ダンジョンの壁に穴が開いている。このダンジョンのマスターであるあなたなら、原因が分かると思うのでな」

「……分かりました」

 ダンジョンマスターは、私の声に素直に応じてくれた。
 それにしても、モンスターのくせにものすごくおとなしいものだ。私たちにまったく敵意を見せることなく、やたら協力的なのだ。
 そういえば瞬が言っていた気がするな。ダンジョンマスターというのは、本人の意思に関係なく決定されると。となると、このゴーレムは思いがけずダンジョンマスターになってしまったということなのだろう。
 やたらと攻撃的なモンスターを配備して探索者たちを遠ざけていたのは、静かに暮らしていくためなのかもしれない。
 モンスターはよく分からんな。
 とりあえず、ダンジョンマスターのゴーレムに現場まで来てもらった。

「ああ、そういうことですか」

「何か分かったのか?」

「申し訳ありませんね。どうやら、私の娘が来ていたようです」

「娘?」

 ゴーレムの言い分に、私は首を傾げてしまう。ゴーレムに娘というのがよく分からないのだ。
 戸惑う私や色の横で、開いた穴に向かってゴーレムは声をかけている。

「ラティナ、こっちに来なさい。なぜ黙ってついてきたのですか」

 呼び掛けるも、まったく反応がない。

「反応しないというのなら、私の槍の錆になってもらうがいいかな?」

「ひっ!」

 私が槍を構えて脅しをかけると、ようやく声が聞こえてきた。
 穴の奥の方でもぞもぞと動く様子が見えて、岩の塊がこっちへと転がってきた。
 ボウリングボールくらいの大きさと重量感といった感じだな。そんな球体が、私たちの目の前に転がっている。
 そうかと思うと、その岩の球体が変形を始めた。

「おおっ!」

 色のやつが目を輝かせて反応している。そういえば、色のやつは変形ロボットものが好きだったな。それをリアルに見られて、喜んでいるってところか。
 私たちの目の前には、思ったよりも大きさのある可愛らしいゴーレムが立っていた。髪型がおかっぱというやつじゃないか。

「パパ、ごめんなさい……」

 ラティナと呼ばれたゴーレムの少女が、小さくなりながらゴーレムに対して謝っている。
 どうやら、このゴーレムが知らなかったところを見ると、いるとは思っていなかったんだろうな。
 こっちのゴーレムもゴーレムで、顔を合わせづらくて、ダンジョンの壁のふりをしていたというわけか。

「なんとなく事情を察したな。お腹が空いてダンジョンの壁を食べている間に、外に貫通してしまったっていうわけか。父親に怒られる覚悟で、早めに打ち明けておくべきだったな。私でなければ討伐されていたぞ」

「うわーん、ごめんなさいーっ!」

 女の子のゴーレムが泣き始めてしまった。
 これにはゴーレムと色が戸惑うばかりだった。
 だが、私は別のことに意識を向けていた。ダンジョンに開いた穴だ。とにかく大問題だからな、放ってはおけない。

「さて、この穴をどうにかしないとな。この開いた穴のせいで、ダンジョンのマナが外に漏れ出している。マナがあればダンジョンは修復されるという風に聞いていたが、なぜここはこんな風に穴が開いてしまったのかな」

 瞬から聞いていた情報があったので、私は不思議に思っている。

「ああ、それは私たちゴーレム族の性質のせいでしょうな」

「ゴーレム族の?」

 なんかよく分からないことを言われそうだな。

「石が主食なのですが、その時に一緒にマナも食べてしまうのですよ。そうやって削り取られた岩は、マナを吸収できなくなります。それで、ダンジョンの自動修復が発動していないのでしょう」

「それはまた、難儀な話だな……。では、この穴はどうやれば修復できる。このまま外にマナが漏れ続ければ、人間にとって有毒な環境が広がるし、このダンジョンも別な意味で崩壊することになる」

「困りましたな……。私は侵略するつもりなどありませんから、このままここでゆっくり過ごせればいいだけですのに」

 ゴーレムが困ったように言っているが、それは私たちの方もだよ。

「選択肢は二つに一つだ。ダンジョンマスターであるお前が倒されるか、ダンジョンマスターの手でどうにか修繕するかだ。平穏に暮らしたいというのなら、私は倒すつもりはない。戦う意志のない者を攻撃するのは、どうも気が引けるのでな」

「……分かりました。では、ゴーレム族の力でどうにかしてみましょう」

 私が二択を迫ると、ゴーレムは壁を修復することを選んだようだ。
 まあ、さて。どういう風になるのか、しばらく見学させてもらうとしようじゃないか。


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 私と色は、ボス部屋の調査を始める。
「衣織さん」
「なんだ、色」
「なんで、あのモンスターは俺たちと戦わないんですかね」
「そんなことは知るか。だが、あのモンスターはなぜか信じられる。分からないが、私の勘だ」
 本当に分からない。
 だが、そんなことよりも異変だ。
 すでに外の川をマナが汚染し始めている。まだ滞留しているが、日本の川のことを考えれば、いつ下流に流れていってもおかしくないからな。
 私と色が手分けしてボス部屋を見ていると、色が何かを見つけたらしい。
「衣織さん、ここを見て下さい」
「なんだ、色。……って、これは!」
 私たちは、ついに異変の原因を突き止めた。
 ボス部屋の壁が大きく凹んでいて、外の空気が感じられるようになっていたのだ。どうやら、ここで間違いないようだった。
「どうしますか、衣織さん」
「そんなの決まっているだろう」
 私は色をその場に残して、ダンジョンマスターであるゴーレムのところへと向かう。
「すまないが、こっちに来てもらっていいだろうか」
「どうかなさったのですかな?」
「ダンジョンの壁に穴が開いている。このダンジョンのマスターであるあなたなら、原因が分かると思うのでな」
「……分かりました」
 ダンジョンマスターは、私の声に素直に応じてくれた。
 それにしても、モンスターのくせにものすごくおとなしいものだ。私たちにまったく敵意を見せることなく、やたら協力的なのだ。
 そういえば瞬が言っていた気がするな。ダンジョンマスターというのは、本人の意思に関係なく決定されると。となると、このゴーレムは思いがけずダンジョンマスターになってしまったということなのだろう。
 やたらと攻撃的なモンスターを配備して探索者たちを遠ざけていたのは、静かに暮らしていくためなのかもしれない。
 モンスターはよく分からんな。
 とりあえず、ダンジョンマスターのゴーレムに現場まで来てもらった。
「ああ、そういうことですか」
「何か分かったのか?」
「申し訳ありませんね。どうやら、私の娘が来ていたようです」
「娘?」
 ゴーレムの言い分に、私は首を傾げてしまう。ゴーレムに娘というのがよく分からないのだ。
 戸惑う私や色の横で、開いた穴に向かってゴーレムは声をかけている。
「ラティナ、こっちに来なさい。なぜ黙ってついてきたのですか」
 呼び掛けるも、まったく反応がない。
「反応しないというのなら、私の槍の錆になってもらうがいいかな?」
「ひっ!」
 私が槍を構えて脅しをかけると、ようやく声が聞こえてきた。
 穴の奥の方でもぞもぞと動く様子が見えて、岩の塊がこっちへと転がってきた。
 ボウリングボールくらいの大きさと重量感といった感じだな。そんな球体が、私たちの目の前に転がっている。
 そうかと思うと、その岩の球体が変形を始めた。
「おおっ!」
 色のやつが目を輝かせて反応している。そういえば、色のやつは変形ロボットものが好きだったな。それをリアルに見られて、喜んでいるってところか。
 私たちの目の前には、思ったよりも大きさのある可愛らしいゴーレムが立っていた。髪型がおかっぱというやつじゃないか。
「パパ、ごめんなさい……」
 ラティナと呼ばれたゴーレムの少女が、小さくなりながらゴーレムに対して謝っている。
 どうやら、このゴーレムが知らなかったところを見ると、いるとは思っていなかったんだろうな。
 こっちのゴーレムもゴーレムで、顔を合わせづらくて、ダンジョンの壁のふりをしていたというわけか。
「なんとなく事情を察したな。お腹が空いてダンジョンの壁を食べている間に、外に貫通してしまったっていうわけか。父親に怒られる覚悟で、早めに打ち明けておくべきだったな。私でなければ討伐されていたぞ」
「うわーん、ごめんなさいーっ!」
 女の子のゴーレムが泣き始めてしまった。
 これにはゴーレムと色が戸惑うばかりだった。
 だが、私は別のことに意識を向けていた。ダンジョンに開いた穴だ。とにかく大問題だからな、放ってはおけない。
「さて、この穴をどうにかしないとな。この開いた穴のせいで、ダンジョンのマナが外に漏れ出している。マナがあればダンジョンは修復されるという風に聞いていたが、なぜここはこんな風に穴が開いてしまったのかな」
 瞬から聞いていた情報があったので、私は不思議に思っている。
「ああ、それは私たちゴーレム族の性質のせいでしょうな」
「ゴーレム族の?」
 なんかよく分からないことを言われそうだな。
「石が主食なのですが、その時に一緒にマナも食べてしまうのですよ。そうやって削り取られた岩は、マナを吸収できなくなります。それで、ダンジョンの自動修復が発動していないのでしょう」
「それはまた、難儀な話だな……。では、この穴はどうやれば修復できる。このまま外にマナが漏れ続ければ、人間にとって有毒な環境が広がるし、このダンジョンも別な意味で崩壊することになる」
「困りましたな……。私は侵略するつもりなどありませんから、このままここでゆっくり過ごせればいいだけですのに」
 ゴーレムが困ったように言っているが、それは私たちの方もだよ。
「選択肢は二つに一つだ。ダンジョンマスターであるお前が倒されるか、ダンジョンマスターの手でどうにか修繕するかだ。平穏に暮らしたいというのなら、私は倒すつもりはない。戦う意志のない者を攻撃するのは、どうも気が引けるのでな」
「……分かりました。では、ゴーレム族の力でどうにかしてみましょう」
 私が二択を迫ると、ゴーレムは壁を修復することを選んだようだ。
 まあ、さて。どういう風になるのか、しばらく見学させてもらうとしようじゃないか。