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第31話

ー/ー



「それじゃあ、明日のバイトまでには帰ってくるから」
「お昼過ぎになると風が強くなるから、気をつけてね」
「分かったわよ、母さん。それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、佳織」

 車から降りた後で母さんを見送ると、そのまま振り返らずに泉中央駅の構内に入った。外は曇り空なのにもかかわらず蒸し暑く、ちょっと歩いただけで汗がにじみ出てくる。構内に入ると涼しさを感じる反面、熱気がちょっとだけ入り混じっていた。スマホを通して改札を通ってから地下鉄のホームに入ると、腕時計にちょっとだけ目を通す。こんなところでスマホを確認したら、ぶつかり男に狙われるからね。

 今日は八月十五日、トオル君が帰ってくる日だ。今朝LEINを確認したところ、トオル君から私宛に「深夜バスに乗って帰る」とメッセージが入っていた。今朝私が起きたのは七時過ぎだから……、もう到着しているよね。ひょっとして、部屋の片隅で一人寂しく朝ご飯を食べているのかな。

「一番線に富沢行き電車が到着します。危ないですから、ホーム柵から離れてお待ちください……」

 ……あ、もう電車が入ってきたんだね。あっという間だったよ。
 電車が既定の位置に止まり自動ドアが開くと、私はすぐさま荷物の入ったスポーツバッグを携えて電車に乗り込んだ。このスポーツバッグも高校に入ったときからの長い付き合いで、もうだいぶ傷んできた。バイトのお金が入ったら、新しいのを買おうかな。

 乗降口が近い長椅子に座り、スポーツバッグはいつものように棚の上に載せた。長町一丁目駅のあたりに入ったら荷物を下ろして、すぐにでも降りられるようにしよう。トオル君の待っているマンションまで三十分あれば到着する……よね。

「もうすぐ、一人暮らしを始めて五ヶ月か……。あっという間だね」

 私は誰も座っていない向かいの座席を見ながらつぶやくと、ふと引っ越した日のことを思い出した。
 泉中央駅の改札口で「何かあったら遠慮なく母さんを頼ってね。店をパートの人に任せてまで駆けつけるから」と言ってくれたのが印象深かったなぁ。ただ、その日から今日まで私は母さんを頼らなかった。というのも、翌日私の隣の部屋に引っ越してきたトオル君と友達になり、一緒に過ごしたからだ。

「トオル君と過ごした日々は、本当に楽しかったな」

 最初は男性に対してちょっと臆病だった私だったが、同じ境遇だったトオル君と友達付き合いをするようになってからは男の人と一緒に居るのが楽しく感じるようになった。一緒のサークルに入って一緒に活動し、一緒にご飯を作り、一緒に勉強して……。トオル君は世話焼き女房と思っているかもだけど、私としてはそんなことはないと思っている。だって一緒に居ると楽しいからね。

 トオル君は私を馬鹿にした先輩と違って親しみやすく、エッチな話もあまりしてこない。女の子に言い寄られたとしても、先月の頭に言い寄ってきた大久保さんだけだった。大久保さんだけど、吉田君と付き合い始めたら、あれよあれよと最後まで行っちゃったそうだ。
 それに、私のことを狙っていた二人は……、言わずもがなってところかな。

「次は長町一丁目、長町一丁目です」

 っと、いつの間にか長町一丁目まで来ていたんだね。そろそろ荷物を下ろさないと。そこから長町駅まではあっという間だからね。
 私は荷物を下ろし、トオル君のいるマンションまで向かう準備をした。
 トオル君、待っていてね。私があなたの恋人になってあげる。

 □

 コンビニで買ってきた朝ご飯を食べ終わり、後片付けを済ませると、俺はテレビをつけてYouTsuboを見始めた。

 ここ最近、佳織が居ないときは良くバーチャルYouTsuboerを見るようになった。今見ている人は最近3Dになったばかりで、アペックスレジェンズも割と頑張っている感じがする。ただ、喋り方がどうもたどたどしいというか、なんというか……。
 すると、「ピンポーン、ピンポーン……」とインターホンの呼び出し音が鳴ったので、リモコンを使ってテレビの音を消した。

「はーい」

 なんだろう、こんな時間に来るのって……。どうせ宗教の勧誘か、もしくは悪徳商法か……。
 俺はインターホンのある所に向かうと、通話ボタンを押して誰が来ているのか確認した。

「どちら様ですか?」
『あ、あの……、トオル君? 私、佳織だけど……』

 ほんわかした声、それにサラサラした腰まであるロングストレートヘアー、むっちりした胸元が目立つ薄手のブラウス……。
 佳織だ。佳織が来たんだ。

「佳織か?」
『そうだよ。開けてもらえるかな』
「分かった、待っていて」

 オートロックを解除すると、そこには佳織がさっき見た通りの恰好で立っていた。

「佳織、久しぶり」
「お帰り、トオル君」

 五日振りに顔を合わせた佳織は全く変わっていなかった。横須賀でデートをした清水と違って、佳織は上品さが漂っている。
 手にはスポーツバッグを携えているけど、一体どういうことなのだろうか。

「あ、これ? ちょっと部屋の様子を見に行こうと思ってね。ここ数日実家に戻っていたけど、ちょっと気になるかなぁって……」
「つまり、俺が仙台を離れた後で実家に戻っていたってわけ?」
「そう。アルバイトもあったからね。上がってもいいかな」
「勿論だよ。ちょっと待っていて。すぐに戻るから」

 俺がそう答えると、佳織はスポーツバッグを携えながら部屋に入ってきた。
 俺は慌てて部屋のテレビを消すと、玄関に戻ってきた。

「お待たせ。上がっていいよ」
「うん」

 佳織は頷くと、靴を脱いでスリッパに履き替えた。

「どうぞ、そこに座って」

 いつもの通り佳織を上座に案内すると、佳織はそこにスポーツバッグを置いてペタンと座った。
 短めのスカートからはむっちりとした生足がちらりと見えて、ほんのりと色気を漂わせている。
 何度も佳織を部屋に入れているのに、今日ばかりはどうしてこう緊張するのだろうか。

「どうしたの、トオル君」
「いや、ちょっとね。今日は大胆な格好をしているんだなって……」

 それよりも、上着からブラジャーが透けて見えるのが気になるんですが!
 ここ最近は横須賀だけでなく、仙台もかなりの暑さだった。しかもここ最近は熱帯夜続きだったからなぁ。

「何か飲む? ちょうどいろいろと買ってきたところだから」
「遠慮しておくよ。ここへ来る時にコンビニでサイダー買ってきたから」

 すると、佳織はスポーツバッグからサイダーを取り出して、キャップを開くと一気に口の中に含んでいった。
 その光景が実にエロティックで、見た瞬間俺は股間にある刀が疼いた。
 こっちはペットボトルの炭酸水を飲もうとしたけど、この状態だと飲めそうにない。

「どうしたの? 飲まないのかな?」
「い、いや……、その……」

 まずい。佳織の顔をまともに見ることができない。佳織って、こんなに可愛くて、こんなにエロティックだったのかな?
 暑さのせいと言えばそうだけど、もうどうにかなってしまいそうだ!

「かっ、佳織……っ!」
「何、トオル君?」

 次の瞬間だった。気づかないうちに俺は佳織の体を抱きしめた。
 Fカップの柔らかい双丘が俺の胸に当たり、佳織の体から漂う甘い汗の匂いが理性を揺さぶる。佳織をこのまま抱きたいと、俺の本能が疼きだした。だけど、本能のままに抱くことはしたくない。だから……。

「佳織、大好きだ……!」

 もう、自分のことは偽りたくない。清水に抱かれたことで植え付けられた女性に対する不信感なんて、今はどうでもよくなっていた。今やることは佳織に自分の想いを伝えること、ただそれだけだ。

 「トオル君……」

 俺の右の耳から、佳織の囁き声が聞こえる。

「私も、あの日から君のことが好きだよ……。引っ越しの挨拶をして、頭を下げて友達になってくださいって言った時から、ずっと……」

 佳織が俺の体を離さないように、ぎゅっと俺を抱きしめている。
 いつまでも、佳織の体を抱き続けていたい……。二人きりで、ずっと、ずっと。

「……キス、しようよ」

 佳織がそう囁くと、俺はいったん体を離した。
 すると次の瞬間、佳織の顔が俺の顔に近づき……、俺の唇に触れた。
 俺は慌てて目を閉じ、彼女のあるがままに応じた。
 佳織の唇はストロベリーのように甘く、そして甘いサイダーの味がした。



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みんなのリアクション

「それじゃあ、明日のバイトまでには帰ってくるから」
「お昼過ぎになると風が強くなるから、気をつけてね」
「分かったわよ、母さん。それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい、佳織」
 車から降りた後で母さんを見送ると、そのまま振り返らずに泉中央駅の構内に入った。外は曇り空なのにもかかわらず蒸し暑く、ちょっと歩いただけで汗がにじみ出てくる。構内に入ると涼しさを感じる反面、熱気がちょっとだけ入り混じっていた。スマホを通して改札を通ってから地下鉄のホームに入ると、腕時計にちょっとだけ目を通す。こんなところでスマホを確認したら、ぶつかり男に狙われるからね。
 今日は八月十五日、トオル君が帰ってくる日だ。今朝LEINを確認したところ、トオル君から私宛に「深夜バスに乗って帰る」とメッセージが入っていた。今朝私が起きたのは七時過ぎだから……、もう到着しているよね。ひょっとして、部屋の片隅で一人寂しく朝ご飯を食べているのかな。
「一番線に富沢行き電車が到着します。危ないですから、ホーム柵から離れてお待ちください……」
 ……あ、もう電車が入ってきたんだね。あっという間だったよ。
 電車が既定の位置に止まり自動ドアが開くと、私はすぐさま荷物の入ったスポーツバッグを携えて電車に乗り込んだ。このスポーツバッグも高校に入ったときからの長い付き合いで、もうだいぶ傷んできた。バイトのお金が入ったら、新しいのを買おうかな。
 乗降口が近い長椅子に座り、スポーツバッグはいつものように棚の上に載せた。長町一丁目駅のあたりに入ったら荷物を下ろして、すぐにでも降りられるようにしよう。トオル君の待っているマンションまで三十分あれば到着する……よね。
「もうすぐ、一人暮らしを始めて五ヶ月か……。あっという間だね」
 私は誰も座っていない向かいの座席を見ながらつぶやくと、ふと引っ越した日のことを思い出した。
 泉中央駅の改札口で「何かあったら遠慮なく母さんを頼ってね。店をパートの人に任せてまで駆けつけるから」と言ってくれたのが印象深かったなぁ。ただ、その日から今日まで私は母さんを頼らなかった。というのも、翌日私の隣の部屋に引っ越してきたトオル君と友達になり、一緒に過ごしたからだ。
「トオル君と過ごした日々は、本当に楽しかったな」
 最初は男性に対してちょっと臆病だった私だったが、同じ境遇だったトオル君と友達付き合いをするようになってからは男の人と一緒に居るのが楽しく感じるようになった。一緒のサークルに入って一緒に活動し、一緒にご飯を作り、一緒に勉強して……。トオル君は世話焼き女房と思っているかもだけど、私としてはそんなことはないと思っている。だって一緒に居ると楽しいからね。
 トオル君は私を馬鹿にした先輩と違って親しみやすく、エッチな話もあまりしてこない。女の子に言い寄られたとしても、先月の頭に言い寄ってきた大久保さんだけだった。大久保さんだけど、吉田君と付き合い始めたら、あれよあれよと最後まで行っちゃったそうだ。
 それに、私のことを狙っていた二人は……、言わずもがなってところかな。
「次は長町一丁目、長町一丁目です」
 っと、いつの間にか長町一丁目まで来ていたんだね。そろそろ荷物を下ろさないと。そこから長町駅まではあっという間だからね。
 私は荷物を下ろし、トオル君のいるマンションまで向かう準備をした。
 トオル君、待っていてね。私があなたの恋人になってあげる。
 □
 コンビニで買ってきた朝ご飯を食べ終わり、後片付けを済ませると、俺はテレビをつけてYouTsuboを見始めた。
 ここ最近、佳織が居ないときは良くバーチャルYouTsuboerを見るようになった。今見ている人は最近3Dになったばかりで、アペックスレジェンズも割と頑張っている感じがする。ただ、喋り方がどうもたどたどしいというか、なんというか……。
 すると、「ピンポーン、ピンポーン……」とインターホンの呼び出し音が鳴ったので、リモコンを使ってテレビの音を消した。
「はーい」
 なんだろう、こんな時間に来るのって……。どうせ宗教の勧誘か、もしくは悪徳商法か……。
 俺はインターホンのある所に向かうと、通話ボタンを押して誰が来ているのか確認した。
「どちら様ですか?」
『あ、あの……、トオル君? 私、佳織だけど……』
 ほんわかした声、それにサラサラした腰まであるロングストレートヘアー、むっちりした胸元が目立つ薄手のブラウス……。
 佳織だ。佳織が来たんだ。
「佳織か?」
『そうだよ。開けてもらえるかな』
「分かった、待っていて」
 オートロックを解除すると、そこには佳織がさっき見た通りの恰好で立っていた。
「佳織、久しぶり」
「お帰り、トオル君」
 五日振りに顔を合わせた佳織は全く変わっていなかった。横須賀でデートをした清水と違って、佳織は上品さが漂っている。
 手にはスポーツバッグを携えているけど、一体どういうことなのだろうか。
「あ、これ? ちょっと部屋の様子を見に行こうと思ってね。ここ数日実家に戻っていたけど、ちょっと気になるかなぁって……」
「つまり、俺が仙台を離れた後で実家に戻っていたってわけ?」
「そう。アルバイトもあったからね。上がってもいいかな」
「勿論だよ。ちょっと待っていて。すぐに戻るから」
 俺がそう答えると、佳織はスポーツバッグを携えながら部屋に入ってきた。
 俺は慌てて部屋のテレビを消すと、玄関に戻ってきた。
「お待たせ。上がっていいよ」
「うん」
 佳織は頷くと、靴を脱いでスリッパに履き替えた。
「どうぞ、そこに座って」
 いつもの通り佳織を上座に案内すると、佳織はそこにスポーツバッグを置いてペタンと座った。
 短めのスカートからはむっちりとした生足がちらりと見えて、ほんのりと色気を漂わせている。
 何度も佳織を部屋に入れているのに、今日ばかりはどうしてこう緊張するのだろうか。
「どうしたの、トオル君」
「いや、ちょっとね。今日は大胆な格好をしているんだなって……」
 それよりも、上着からブラジャーが透けて見えるのが気になるんですが!
 ここ最近は横須賀だけでなく、仙台もかなりの暑さだった。しかもここ最近は熱帯夜続きだったからなぁ。
「何か飲む? ちょうどいろいろと買ってきたところだから」
「遠慮しておくよ。ここへ来る時にコンビニでサイダー買ってきたから」
 すると、佳織はスポーツバッグからサイダーを取り出して、キャップを開くと一気に口の中に含んでいった。
 その光景が実にエロティックで、見た瞬間俺は股間にある刀が疼いた。
 こっちはペットボトルの炭酸水を飲もうとしたけど、この状態だと飲めそうにない。
「どうしたの? 飲まないのかな?」
「い、いや……、その……」
 まずい。佳織の顔をまともに見ることができない。佳織って、こんなに可愛くて、こんなにエロティックだったのかな?
 暑さのせいと言えばそうだけど、もうどうにかなってしまいそうだ!
「かっ、佳織……っ!」
「何、トオル君?」
 次の瞬間だった。気づかないうちに俺は佳織の体を抱きしめた。
 Fカップの柔らかい双丘が俺の胸に当たり、佳織の体から漂う甘い汗の匂いが理性を揺さぶる。佳織をこのまま抱きたいと、俺の本能が疼きだした。だけど、本能のままに抱くことはしたくない。だから……。
「佳織、大好きだ……!」
 もう、自分のことは偽りたくない。清水に抱かれたことで植え付けられた女性に対する不信感なんて、今はどうでもよくなっていた。今やることは佳織に自分の想いを伝えること、ただそれだけだ。
 「トオル君……」
 俺の右の耳から、佳織の囁き声が聞こえる。
「私も、あの日から君のことが好きだよ……。引っ越しの挨拶をして、頭を下げて友達になってくださいって言った時から、ずっと……」
 佳織が俺の体を離さないように、ぎゅっと俺を抱きしめている。
 いつまでも、佳織の体を抱き続けていたい……。二人きりで、ずっと、ずっと。
「……キス、しようよ」
 佳織がそう囁くと、俺はいったん体を離した。
 すると次の瞬間、佳織の顔が俺の顔に近づき……、俺の唇に触れた。
 俺は慌てて目を閉じ、彼女のあるがままに応じた。
 佳織の唇はストロベリーのように甘く、そして甘いサイダーの味がした。