第5話

ー/ー



「まさか私達二人とも富樫君の近くに住んでいたなんて」
「アタシもだよ。これならいつでも遊びに行けるね」

 鶴瓶落としから宵闇が少しずつ迫る頃、僕と我妻さん、飯田さんの三人は僕の住んでいるマンションに歩いて向かっていった。
 仲良く話している二人を見ていると、ひょっとすると相性がいいのかも?
 中一の時に山形から引っ越して、仙台では友達が作れなかった僕とは大違いだ。
 引っ越しの時には誰も見送りに来なかったからなぁ……。

 二人の話を聞いていると、僕達が住んでいるマンションが見えてきた。

「ここの西棟が僕が住んでいるところです」
「それと、アタシのマンションの向かいに当たるけどね」
「トモ、それは余計だぞ」

 我妻さんの一言は別にして、僕が住んでいるマンションは左右対称に見えて東側と西側で高さが違う。高さや大きさは北公園の近くにあるマンションや向かい側のマンションには及ばないが、小学校の近くにあるなど立地条件はほとんど変わらない。
 こういう時に、普段ボケッとしていてこっそり裏でお金を稼いでいた父さんに感謝したい。

 エントランスからエレベーターに乗って、三階にある自宅のインターホンのボタンを押すと、母さんの声が聞こえてきた。

「ただいま、母さん」
『ヤス、お帰り。……後ろの二人は誰なの?』
「同じクラスの子だよ。夕ご飯は後回しにして、お茶を出してくれる?」
『わかったわ、今開けるね』

 ガチャリ、という音と共にドアが開いたので、僕は飯田さん達を案内した。
 こういう時に北側の部屋を割り当てた両親に感謝したい。
 わざわざ母さんに顔を出さなくて済むからね。
 ……まぁ、お茶を出した時点でバレるけど。

 ◇

 僕の部屋は勉強机やベッド、本棚しかないシンプルなものだ。その本棚にある本は参考書にドラマの影響で読み始めた海外ファンタジー小説、戦国武将から名前を取ったSF作家の本だけだ。
 引っ越しするまでサッカー漫画を読み漁っていたり、地元サッカーチームの選手のポスターを貼っていたのが、まるで嘘のようだ。

 僕はクローゼットの中にネクタイと上着を仕舞うと、テーブルに座っている二人と向かい合うようにしてベッドに座った。

「ここがヤス君の部屋? 何だかシンプルだね」
「男子生徒の部屋となると片付けがロクにされていない印象があったけど、そうでもないんだな」
「ありがとうございます。そう言って貰えると助かります」

 飯田さんは僕の部屋が片付いているのを見て、うんうんと頷いていた。
 心美が来られるように、常日頃から部屋を掃除しておいて良かったよ。

「へぇ~、男の子の部屋となると定番のモノを探らないといけませんなぁ~……、どれどれ?」
「ちょっと待て、トモ!」

 すると、我妻さんは興味津々とばかりにベッドの下に手を伸ばした。
 そこには卒業間近の時期に興味本位でアニメショップに行って手に入れた同人誌(但し全年齢向け)があるのに!

「ふふっ、あったあった。チア衣装の女の子が表紙の同人誌がこんなにも。やっぱり、ヤス君って男の子なんだね~」

 遅かった。我妻さんの手には、チア姿の女の子が笑顔を浮かべている表紙の同人誌が握られていた。
 心美にも見られたことがないのに……、と言いたいところだけど、心美はここ半年この部屋に入れていなかったんだよな。
 性的にヤバいものの大半はゲーミングノートPCと自宅用NASの中だけど。
 同人誌バレして高校でも孤立して不登校になって……って、僕の高校生活はまだ始まってすらいないけど終わった感じだよ。

「こら、トモ。人のモノを勝手に見るんじゃない」
「だって気になるじゃない、ベッドの下とか」
「それはそうだけど、他人のプライベートを勝手に覗くものじゃないぞ」
「む~っ、わかったよ」

 我妻さんは不満そうな顔を浮かべる一方で、飯田さんは我妻さんの勝手な行動にやや呆れた表情を浮かべていた。
 飯田さん、ナイスフォロー。
 同人誌(うすいほん)を他の人に見られるのは恥ずかしいから、机の中かクローゼットの中に隠しておくか。

 折角僕の住んでいる家に二人が来たというのに、このままだと話が進まない。
 これだと無駄足になってしまうし、どうしたものか――と思ったところだった。

「話は変わるけどさ、体育館で『中学校の時に……』って言った後にヤス君が倒れたじゃない。何を話そうとしていたのかアタシ達に教えてよ。ちょっと気になったからさ」
「私も聞きたいな。倒れてしまうほどの出来事があったんだろ?」

 二人とも僕が倒れる前の話を思い出してくれて良かった。
 特に我妻さんに至っては、僕が倒れる前に話していたこともあって、随分と気にしている様子だ。
 心配をかけてしまったし、話さないわけにはいかないだろう。
 ここは恩返しのつもりで、二人に僕の身の上を語ろう――。

 僕は決意を固めると、少しずつではあるが重い口を開いた。



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みんなのリアクション

「まさか私達二人とも富樫君の近くに住んでいたなんて」
「アタシもだよ。これならいつでも遊びに行けるね」
 鶴瓶落としから宵闇が少しずつ迫る頃、僕と我妻さん、飯田さんの三人は僕の住んでいるマンションに歩いて向かっていった。
 仲良く話している二人を見ていると、ひょっとすると相性がいいのかも?
 中一の時に山形から引っ越して、仙台では友達が作れなかった僕とは大違いだ。
 引っ越しの時には誰も見送りに来なかったからなぁ……。
 二人の話を聞いていると、僕達が住んでいるマンションが見えてきた。
「ここの西棟が僕が住んでいるところです」
「それと、アタシのマンションの向かいに当たるけどね」
「トモ、それは余計だぞ」
 我妻さんの一言は別にして、僕が住んでいるマンションは左右対称に見えて東側と西側で高さが違う。高さや大きさは北公園の近くにあるマンションや向かい側のマンションには及ばないが、小学校の近くにあるなど立地条件はほとんど変わらない。
 こういう時に、普段ボケッとしていてこっそり裏でお金を稼いでいた父さんに感謝したい。
 エントランスからエレベーターに乗って、三階にある自宅のインターホンのボタンを押すと、母さんの声が聞こえてきた。
「ただいま、母さん」
『ヤス、お帰り。……後ろの二人は誰なの?』
「同じクラスの子だよ。夕ご飯は後回しにして、お茶を出してくれる?」
『わかったわ、今開けるね』
 ガチャリ、という音と共にドアが開いたので、僕は飯田さん達を案内した。
 こういう時に北側の部屋を割り当てた両親に感謝したい。
 わざわざ母さんに顔を出さなくて済むからね。
 ……まぁ、お茶を出した時点でバレるけど。
 ◇
 僕の部屋は勉強机やベッド、本棚しかないシンプルなものだ。その本棚にある本は参考書にドラマの影響で読み始めた海外ファンタジー小説、戦国武将から名前を取ったSF作家の本だけだ。
 引っ越しするまでサッカー漫画を読み漁っていたり、地元サッカーチームの選手のポスターを貼っていたのが、まるで嘘のようだ。
 僕はクローゼットの中にネクタイと上着を仕舞うと、テーブルに座っている二人と向かい合うようにしてベッドに座った。
「ここがヤス君の部屋? 何だかシンプルだね」
「男子生徒の部屋となると片付けがロクにされていない印象があったけど、そうでもないんだな」
「ありがとうございます。そう言って貰えると助かります」
 飯田さんは僕の部屋が片付いているのを見て、うんうんと頷いていた。
 心美が来られるように、常日頃から部屋を掃除しておいて良かったよ。
「へぇ~、男の子の部屋となると定番のモノを探らないといけませんなぁ~……、どれどれ?」
「ちょっと待て、トモ!」
 すると、我妻さんは興味津々とばかりにベッドの下に手を伸ばした。
 そこには卒業間近の時期に興味本位でアニメショップに行って手に入れた同人誌(但し全年齢向け)があるのに!
「ふふっ、あったあった。チア衣装の女の子が表紙の同人誌がこんなにも。やっぱり、ヤス君って男の子なんだね~」
 遅かった。我妻さんの手には、チア姿の女の子が笑顔を浮かべている表紙の同人誌が握られていた。
 心美にも見られたことがないのに……、と言いたいところだけど、心美はここ半年この部屋に入れていなかったんだよな。
 性的にヤバいものの大半はゲーミングノートPCと自宅用NASの中だけど。
 同人誌バレして高校でも孤立して不登校になって……って、僕の高校生活はまだ始まってすらいないけど終わった感じだよ。
「こら、トモ。人のモノを勝手に見るんじゃない」
「だって気になるじゃない、ベッドの下とか」
「それはそうだけど、他人のプライベートを勝手に覗くものじゃないぞ」
「む~っ、わかったよ」
 我妻さんは不満そうな顔を浮かべる一方で、飯田さんは我妻さんの勝手な行動にやや呆れた表情を浮かべていた。
 飯田さん、ナイスフォロー。
 同人誌《うすいほん》を他の人に見られるのは恥ずかしいから、机の中かクローゼットの中に隠しておくか。
 折角僕の住んでいる家に二人が来たというのに、このままだと話が進まない。
 これだと無駄足になってしまうし、どうしたものか――と思ったところだった。
「話は変わるけどさ、体育館で『中学校の時に……』って言った後にヤス君が倒れたじゃない。何を話そうとしていたのかアタシ達に教えてよ。ちょっと気になったからさ」
「私も聞きたいな。倒れてしまうほどの出来事があったんだろ?」
 二人とも僕が倒れる前の話を思い出してくれて良かった。
 特に我妻さんに至っては、僕が倒れる前に話していたこともあって、随分と気にしている様子だ。
 心配をかけてしまったし、話さないわけにはいかないだろう。
 ここは恩返しのつもりで、二人に僕の身の上を語ろう――。
 僕は決意を固めると、少しずつではあるが重い口を開いた。