第3話

ー/ー



 なんだろう。
 過去の記憶が僕の頭の中になだれ込んでくる。

 ――他の一年生は練習させてもらっているのに、僕は来る日も来る日も雑用ばかりさせられてばかりだ。
 しかも、今日は先輩に殴られた。
「お前の態度が気に食わないんだよ」と言われて、ボコボコにされた。
 このままだと死んでしまう。
 辞めたいけど辞めたら先生に何を言われるか分からない。

 ――転校? 教育委員会が全く頼りにならないから?
 
 ――高校が変わっても、一緒に居てくれますか?
 ありがとう、心美……。

 ――可哀そうな奴だな、中学校の頃にいじめられてずうっと自分の殻に引きこもって、彼女に慰められながら生きてきましたって感じがするぜ。

 そんな!
 またこんな目に遭うなんて!
 嫌だ、嫌だ、嫌だ……!

 ◇

「嫌だぁ!!」

 勢いをつけて起き上がると、眩しい光が目に飛び込んでくる。
 なんだ、ここは。
 周りはカーテンで仕切られていて、布団や毛布が敷かれている。
 やけに高いところに居ると思ったら、ベッドの上か。
 ここは一体……?

「どうやら、気がついたようだね」

 カーテンが開く音が聞こえると、白衣を着た養護教諭の高木先生が僕の寝ているベッドのところに近づいた。

「ここは?」
「保健室だ。君はさっき体育館で倒れてね、我妻さん達に運ばれてきたんだよ」
「我妻さんって……、どういうことですか?」
「我妻さんだけでは運べそうにないから、飯田さんも一緒になって運んでくれたんだ」
「飯田さんって……?」
「飯田(いいだ)愛未(まなみ)、だな。君のクラスに居る生徒くらい覚えておいたほうが良いよ」

 思い出した。
 入学式の後のホームルームで、髪が短くてイケメン風に見えた子が凛々しい声で自己紹介をしていた。

『中学校時代はバレーボールをやっていました。私立高校に通おうと考えましたが、自宅から通えるこの高校を選びました。これから一年間、よろしくお願いします』

 まさかとは思うが、彼女がチアをやっていたなんて知らなった。
 我妻さんはともかく、彼女にはなんて言おう。
 本当に二人には申し訳ないことをしてしまった。

「君はここ最近落ち着いていたのに、今日になって倒れるとはどういうことだ? 何かあったのか?」

 参ったな。昨日のことは誰に何を言われても話したくなかったんだけど、このまま隠し通すわけにもいかない。
 ここは正直に話そう。

「実は昨日、同じ中学に居た女友達と遊びに行く約束をしていました。待ち合わせ時間になってもなかなか来なくて、それで……」

 その先を言おうとしても、突然口籠ってしまう。
 彼女を寝取られましたと話したら、高木先生に何を言われるか分からない。
 僕は流石に高校生だし、性に関することは話したくない。

「ふむ、なかなか話したくないんだな。話せる機会が出来たら、いつでも話していいんだぞ」
「ありがとうございます」

 僕は先生にお辞儀をして、ゆっくりとベッドから起き上がった。
 あれ? 倒れる前に持っていた僕の鞄は何処に行ったんだろう?

「先生、僕の鞄は?」
「君の鞄か? 確かチア部の子たちが持っていると思うけど」
「あの子たちが? なんでまた」
「それはあの子たちに会った時に聞くといいさ。それと富樫君、時計を見たほうが良い。そろそろ保健室を閉めなければいけない時間だ」

 保健の先生に言われたことが気になって腕時計を見たら、その通りだった。
 もうすぐ日が暮れ、宵闇が迫る頃合いだ。
 倒れたのがおそらく午後五時前だったから、三十分近く気を失ったことになる。

 胸ポケットにスマホは入っているから、後は鞄を回収するだけだ。
 あの中にはパソコンと教科書、ノート、筆記用具が入っている。
 あれがないと、家に帰ったとしても勉強が出来ない。
 ……それにしても、一体だれが僕の鞄を持っているんだ?

 僕は起き上がると上履きを履いて、しっかりとした足取りで保健室の出入口に向かった。

「先生、ありがとうございました」
「また何かあったら来るといい」

 一礼して、僕は保健室を後にした。
 飯田さんが持っている僕の鞄を取り戻せば、後は家に帰ってゆっくりと勉強できるはずだ。



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 なんだろう。
 過去の記憶が僕の頭の中になだれ込んでくる。
 ――他の一年生は練習させてもらっているのに、僕は来る日も来る日も雑用ばかりさせられてばかりだ。
 しかも、今日は先輩に殴られた。
「お前の態度が気に食わないんだよ」と言われて、ボコボコにされた。
 このままだと死んでしまう。
 辞めたいけど辞めたら先生に何を言われるか分からない。
 ――転校? 教育委員会が全く頼りにならないから?
 ――高校が変わっても、一緒に居てくれますか?
 ありがとう、心美……。
 ――可哀そうな奴だな、中学校の頃にいじめられてずうっと自分の殻に引きこもって、彼女に慰められながら生きてきましたって感じがするぜ。
 そんな!
 またこんな目に遭うなんて!
 嫌だ、嫌だ、嫌だ……!
 ◇
「嫌だぁ!!」
 勢いをつけて起き上がると、眩しい光が目に飛び込んでくる。
 なんだ、ここは。
 周りはカーテンで仕切られていて、布団や毛布が敷かれている。
 やけに高いところに居ると思ったら、ベッドの上か。
 ここは一体……?
「どうやら、気がついたようだね」
 カーテンが開く音が聞こえると、白衣を着た養護教諭の高木先生が僕の寝ているベッドのところに近づいた。
「ここは?」
「保健室だ。君はさっき体育館で倒れてね、我妻さん達に運ばれてきたんだよ」
「我妻さん《《達》》って……、どういうことですか?」
「我妻さんだけでは運べそうにないから、飯田さんも一緒になって運んでくれたんだ」
「飯田さんって……?」
「飯田《いいだ》愛未《まなみ》、だな。君のクラスに居る生徒くらい覚えておいたほうが良いよ」
 思い出した。
 入学式の後のホームルームで、髪が短くてイケメン風に見えた子が凛々しい声で自己紹介をしていた。
『中学校時代はバレーボールをやっていました。私立高校に通おうと考えましたが、自宅から通えるこの高校を選びました。これから一年間、よろしくお願いします』
 まさかとは思うが、彼女がチアをやっていたなんて知らなった。
 我妻さんはともかく、彼女にはなんて言おう。
 本当に二人には申し訳ないことをしてしまった。
「君はここ最近落ち着いていたのに、今日になって倒れるとはどういうことだ? 何かあったのか?」
 参ったな。昨日のことは誰に何を言われても話したくなかったんだけど、このまま隠し通すわけにもいかない。
 ここは正直に話そう。
「実は昨日、同じ中学に居た女友達と遊びに行く約束をしていました。待ち合わせ時間になってもなかなか来なくて、それで……」
 その先を言おうとしても、突然口籠ってしまう。
 彼女を寝取られましたと話したら、高木先生に何を言われるか分からない。
 僕は流石に高校生だし、性に関することは話したくない。
「ふむ、なかなか話したくないんだな。話せる機会が出来たら、いつでも話していいんだぞ」
「ありがとうございます」
 僕は先生にお辞儀をして、ゆっくりとベッドから起き上がった。
 あれ? 倒れる前に持っていた僕の鞄は何処に行ったんだろう?
「先生、僕の鞄は?」
「君の鞄か? 確かチア部の子たちが持っていると思うけど」
「あの子たちが? なんでまた」
「それはあの子たちに会った時に聞くといいさ。それと富樫君、時計を見たほうが良い。そろそろ保健室を閉めなければいけない時間だ」
 保健の先生に言われたことが気になって腕時計を見たら、その通りだった。
 もうすぐ日が暮れ、宵闇が迫る頃合いだ。
 倒れたのがおそらく午後五時前だったから、三十分近く気を失ったことになる。
 胸ポケットにスマホは入っているから、後は鞄を回収するだけだ。
 あの中にはパソコンと教科書、ノート、筆記用具が入っている。
 あれがないと、家に帰ったとしても勉強が出来ない。
 ……それにしても、一体だれが僕の鞄を持っているんだ?
 僕は起き上がると上履きを履いて、しっかりとした足取りで保健室の出入口に向かった。
「先生、ありがとうございました」
「また何かあったら来るといい」
 一礼して、僕は保健室を後にした。
 飯田さんが持っている僕の鞄を取り戻せば、後は家に帰ってゆっくりと勉強できるはずだ。