第1話

ー/ー



 昨夜降っていた雨のお陰で、空はすっかり青い。
 まだ少し湿気を帯びた風が頬を撫でていく。

「まだか……」

 僕、富樫(とがし)泰久(やすひさ)は、今日は学校の同級生で今は別の高校に通っている葛岡(くずおか)心美(ここみ)と久しぶりにデートをする約束になっていた。

 腕時計を見ると、午前十時をとうに回っている。
 待ち合わせ時間は今日午前九時半だと心美の方から伝えたのに、三十分を過ぎても一向に彼女がくる気配がない。
 少し遅れるならば、メッセージを入れてくれればいいのに!

 向こうの学校でチアリーディング部に入っている裕美のことだ、練習試合の応援で忙しいのかもしれない。
 もしそれだったら諦めがつくんだけど、今は新人戦や秋季大会がひと段落ついているから、多分来るはず……。

 僕はジージャンのポケットからスマホを取り出して、LINEを開いてから「まだ来ないの?」と入力して心美に送った。
 いつもだったらあっという間に既読がついて、「ごめーん、もうちょっとだけ待ってね!」とメッセージが来るんだけど、なかなか既読にならない。

 イライラしてきたので、またスマホを取り出してネット小説を読むと、あっという間に時間だけが過ぎていく。
 腕時計を見ると、もう十時十五分になっていた。
 本来の待ち合わせ時刻からもう四十五分も遅刻になっている。

 これはひょっとしたら、心美の身に何かあったのかもしれない。
 そう思って待ち合わせ場所から離れると、年齢相応の可愛らしい顔つきにセミロングヘアーの女の子が歩いていた。
 間違いない、心美だ。

「おーい、こ……」

 声をかけようとしたけど、……何だ、隣に居るチャラチャラした男は?
 しかも心美、男の腕にしがみついて……。

「先輩、最高に気持ちよかったですよ。またしてくださいね」
「焦るなって、心美」

 気持ちよかったって何だよ?
 心美はそんな女の子じゃなかったのに!
 まさか、心美はその男とのか?

「ん……?」

 まずい、チャラ男に気づかれた!

「あれ? あのダサい男、心美のカレシ?」

 ……ダサいってなんだよ。
 僕はこう見えても、心美の彼氏なんだぞ。

「――ううん、知らない人」

 心なしか、心美は僕の顔を直視していなかった。
 知らない人なんて言うなよ、心美……。

「そうかそうか、そうだよな、アハハ。こんな奴がカレシなんてありえねぇよな……おい、お前」
「へ? 僕?」

 まずい、チャラ男がこっちに気づいて近寄ってくる。
 逃げよう……。

「逃げるのか?」
「……」

 チャラ男が僕の肩を掴んでいる。
 まずい、逃げられない。
 しかも奴の顔は「お前のことは知っているぜ」と言わんばかりだ。

「お前、逃げるようにこの街に来たって言ったな。彼女から聞いたぜ」

 何だって? 心美はチャラ男に中学校時代のことを全部ばらしたのか?
 心美を見ると、心なしか頷いていた。
 心美、どうしてこんな男に喋るんだよ!

「可哀そうな奴だな、中学校の頃にいじめられてずうっと自分の殻に引きこもって、彼女に慰められながら生きてきましたって感じがするぜ」

 僕の事を見透かしたことをほざきやがって。
 お前に何がわかるんだ。
 サッカー部の先輩にいじめられて、顧問にもいじめられて、学校に全く相手にされなかった末に家族と一緒に逃げてこの街に逃げてきたんだ。

「心美の初めては全部俺が頂いたからな。いじめられてばかりのヘタレなお前に心美なんて似合わねぇよ。同じ高校でサッカー部のレギュラーをやっている俺の方がふさわしいんだよ。心美の体、凄いんだぜ。ただ、お前のような負け犬野郎には到底味わえないけどな、ハッハッハ」

 ……こいつ、心美とのか……。
 仙台に来て右も左も分からなかった僕を色々と案内してくれた心美と……。
 悔しい。
 奴のことを殴りたい。
 だけど、腕っぷしでは奴の方が圧倒的に上だ。
 巨人にならない限りは絶対に勝てない。

「じゃあな、俺みたいな奴と話せて幸運だと思えよ、負け犬」

 奴はそう言って、僕の目の前から去っていった。
 腕っぷしなどで敵わない僕が出来ることは、二人が目の前から去っていくのをただ見届けることだけだった。

 僕は心の中で叫んだ。
 いじめが原因で山形から仙台に引っ越してきて、やっと得た幸せがこんな形で奪われるなんて!
 せめて心美が同じ学校に通っていれば、こんなことにはならなかったのに! 

 ◇

 肩を落としながら、僕は家まで引き返した。

「僕を救ってくれた彼女はもう……、居ないんだ……」

 目を閉じると、マンションからいちゃついて出てきた心美とチャラ男のことが浮かんでくる。
 何とも言えない悲しみで、僕はどうにかなりそうだった。

「明日から、どうやって学校生活を送ればいいんだよ……」

 家路に向かう僕の心は、秋を通り越して冷たい冬の風が吹き荒れていた。

 家に帰ってからというものの、僕はベッドの上でひたすら涙を流し、お昼と夕ご飯は喉を通らなかった。
 その日、僕は枕元を涙で濡らしながら眠りに就いた。

 その日の夢は、雨の中で心美とチャラ男が傘を差しながら歩いて行って、僕だけずぶぬれになる夢だった――。

 僕の目の前にあるのは孤独、それだけだった。





 しかし、この日の出来事を境に僕の日常は大きく変わることになる。

 新たな出会い。
 新たな世界。
 自分自身の才能の目覚め。
 そして――。

 改めて言える。
 、と。
---
<読者の皆様方へお願い>
 今作品は寝取られ要素を入れていますが、ざまぁ狙いで書いたものではありません。飽くまで主人公の立ち直りに焦点を当てた作品です。

 なぜこのようなことを第1話のラストに書くのかというと、ヒロインに対して「苦しみ抜いて死ね」というコメントをした方がいたからです。
 そのコメントにつきましては、すでに削除いたしました。

 もしキャラクターや作品への過度なヘイトコメントをした場合は、予告なく削除させていただく場合があります。
 最悪の場合は、該当するユーザーを運営に通報致します。

 登場人物たちも、物語も、全て当時の私が考え抜いて産みだしたものです。どんな形であれ、せめて彼らだけは、彼女たちだけは幸せになってもらいたいです。

 以上、皆様へのお願いでした。



次のエピソードへ進む 第2話


みんなのリアクション

 昨夜降っていた雨のお陰で、空はすっかり青い。
 まだ少し湿気を帯びた風が頬を撫でていく。
「まだか……」
 僕、富樫《とがし》泰久《やすひさ》は、今日は学校の同級生で今は別の高校に通っている葛岡《くずおか》心美《ここみ》と久しぶりにデートをする約束になっていた。
 腕時計を見ると、午前十時をとうに回っている。
 待ち合わせ時間は今日午前九時半だと心美の方から伝えたのに、三十分を過ぎても一向に彼女がくる気配がない。
 少し遅れるならば、メッセージを入れてくれればいいのに!
 向こうの学校でチアリーディング部に入っている裕美のことだ、練習試合の応援で忙しいのかもしれない。
 もしそれだったら諦めがつくんだけど、今は新人戦や秋季大会がひと段落ついているから、多分来るはず……。
 僕はジージャンのポケットからスマホを取り出して、LINEを開いてから「まだ来ないの?」と入力して心美に送った。
 いつもだったらあっという間に既読がついて、「ごめーん、もうちょっとだけ待ってね!」とメッセージが来るんだけど、なかなか既読にならない。
 イライラしてきたので、またスマホを取り出してネット小説を読むと、あっという間に時間だけが過ぎていく。
 腕時計を見ると、もう十時十五分になっていた。
 本来の待ち合わせ時刻からもう四十五分も遅刻になっている。
 これはひょっとしたら、心美の身に何かあったのかもしれない。
 そう思って待ち合わせ場所から離れると、年齢相応の可愛らしい顔つきにセミロングヘアーの女の子が歩いていた。
 間違いない、心美だ。
「おーい、こ……」
 声をかけようとしたけど、……何だ、隣に居るチャラチャラした男は?
 しかも心美、男の腕にしがみついて……。
「先輩、最高に気持ちよかったですよ。またしてくださいね」
「焦るなって、心美」
 気持ちよかったって何だよ?
 心美はそんな女の子じゃなかったのに!
 まさか、心美はその男と《《寝た》》のか?
「ん……?」
 まずい、チャラ男に気づかれた!
「あれ? あのダサい男、心美のカレシ?」
 ……ダサいってなんだよ。
 僕はこう見えても、心美の彼氏なんだぞ。
「――ううん、知らない人」
 心なしか、心美は僕の顔を直視していなかった。
 知らない人なんて言うなよ、心美……。
「そうかそうか、そうだよな、アハハ。こんな奴がカレシなんてありえねぇよな……おい、お前」
「へ? 僕?」
 まずい、チャラ男がこっちに気づいて近寄ってくる。
 逃げよう……。
「逃げるのか?」
「……」
 チャラ男が僕の肩を掴んでいる。
 まずい、逃げられない。
 しかも奴の顔は「お前のことは知っているぜ」と言わんばかりだ。
「お前、逃げるようにこの街に来たって言ったな。彼女から聞いたぜ」
 何だって? 心美はチャラ男に中学校時代のことを全部ばらしたのか?
 心美を見ると、心なしか頷いていた。
 心美、どうしてこんな男に喋るんだよ!
「可哀そうな奴だな、中学校の頃にいじめられてずうっと自分の殻に引きこもって、彼女に慰められながら生きてきましたって感じがするぜ」
 僕の事を見透かしたことをほざきやがって。
 お前に何がわかるんだ。
 サッカー部の先輩にいじめられて、顧問にもいじめられて、学校に全く相手にされなかった末に家族と一緒に逃げてこの街に逃げてきたんだ。
「心美の初めては全部俺が頂いたからな。いじめられてばかりのヘタレなお前に心美なんて似合わねぇよ。同じ高校でサッカー部のレギュラーをやっている俺の方がふさわしいんだよ。心美の体、凄いんだぜ。ただ、お前のような負け犬野郎には到底味わえないけどな、ハッハッハ」
 ……こいつ、心美と《《した》》のか……。
 仙台に来て右も左も分からなかった僕を色々と案内してくれた心美と……。
 悔しい。
 奴のことを殴りたい。
 だけど、腕っぷしでは奴の方が圧倒的に上だ。
 巨人にならない限りは絶対に勝てない。
「じゃあな、俺みたいな奴と話せて幸運だと思えよ、負け犬」
 奴はそう言って、僕の目の前から去っていった。
 腕っぷしなどで敵わない僕が出来ることは、二人が目の前から去っていくのをただ見届けることだけだった。
 僕は心の中で叫んだ。
 いじめが原因で山形から仙台に引っ越してきて、やっと得た幸せがこんな形で奪われるなんて!
 せめて心美が同じ学校に通っていれば、こんなことにはならなかったのに! 
 ◇
 肩を落としながら、僕は家まで引き返した。
「僕を救ってくれた彼女はもう……、居ないんだ……」
 目を閉じると、マンションからいちゃついて出てきた心美とチャラ男のことが浮かんでくる。
 何とも言えない悲しみで、僕はどうにかなりそうだった。
「明日から、どうやって学校生活を送ればいいんだよ……」
 家路に向かう僕の心は、秋を通り越して冷たい冬の風が吹き荒れていた。
 家に帰ってからというものの、僕はベッドの上でひたすら涙を流し、お昼と夕ご飯は喉を通らなかった。
 その日、僕は枕元を涙で濡らしながら眠りに就いた。
 その日の夢は、雨の中で心美とチャラ男が傘を差しながら歩いて行って、僕だけずぶぬれになる夢だった――。
 僕の目の前にあるのは孤独、それだけだった。
 しかし、この日の出来事を境に僕の日常は大きく変わることになる。
 新たな出会い。
 新たな世界。
 自分自身の才能の目覚め。
 そして――。
 改めて言える。
 《《心美との別れは必然だった》》、と。
---
<読者の皆様方へお願い>
 今作品は寝取られ要素を入れていますが、ざまぁ狙いで書いたものではありません。飽くまで主人公の立ち直りに焦点を当てた作品です。
 なぜこのようなことを第1話のラストに書くのかというと、ヒロインに対して「苦しみ抜いて死ね」というコメントをした方がいたからです。
 そのコメントにつきましては、すでに削除いたしました。
 もしキャラクターや作品への過度なヘイトコメントをした場合は、予告なく削除させていただく場合があります。
 最悪の場合は、該当するユーザーを運営に通報致します。
 登場人物たちも、物語も、全て当時の私が考え抜いて産みだしたものです。どんな形であれ、せめて彼らだけは、彼女たちだけは幸せになってもらいたいです。
 以上、皆様へのお願いでした。