第40話

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「はぁ~……やっと終わった」

 勉強を終わらせてから少しだけ筋トレをして軽くシャワーを浴びると、そろそろ眠りに就いても良さそうな気がした。
 中学校の頃に恩師の先生から身体を鍛えるように勧められてから折を見て筋トレをしているけれども、ここ最近はやけに集中して取り組めている。チア部の生徒たちの体に触れたのがいい刺激になっているのかもしれない。
 チア部の生徒たちは筋骨隆々、とまではいかないが、引き締まった身体をしている。そのうえ、僕とキスした高橋さんと米沢さんは僕とほぼ身長が変わらない。当初は彼女たちを見て少し興奮気味になっていたけど、最近では慣れてきた。
 それに、ここ最近は一生懸命練習して笑顔を振りまく小泉さんもまた魅力的に感じるようになった。身長と胸はあの二人と比べてやや控えめだけど、それでも平均的な女子生徒に比べればスタイルは良好だ。
 小泉さんと高橋さん、米沢さんといった同学年の美少女が僕と一緒に居るなんて、ちょっと前では考えられなかった。全ては小泉さんのおかげだ。当然ながら自分自身に自信が持てるようになったのも併せて、だ。

「日野先生が歓迎会の席で話していた通りだな。僕自身が部員のみんなに応援されているなんて」

 チア部へ転入部した日に、歓迎会の席で先生が話したことを思い出した。

『誰かを応援することが、自分を応援することに繋がるんだよ。だから高校と大学で七年間チアリーディングをやり続けることができたし、今はこうして教師として後輩たちの指導にも取り組めるんだよ』

 確かにそうだ。ここ最近は僕自身も皆に応援されていると感じている。
 かつて僕が小泉さんにしたように、僕もみんなから応援されている。
 そんな僕だけど、明日の球技大会ではバスケの選手として出る。
 サッカーに出たらスタミナを消費していつの間にかサッカー部員に蹴散らされるのが嫌でバスケを選んだけど、今は違う。佐藤先輩たちと一緒に練習したおかげで、長年抱え続けていた苦手意識を払拭した。言うなれば柚希の呪いを解いたことになる。
 僕に劣等感を植え付けた柚希は今頃どうしているのかと思い時折部屋を覗き見ようとしても、分厚い遮光カーテンで覆われていて様子を窺い知ることはできない。
 そりゃそうだ。話しかけるなって一方的に命令してきたのだから。
 もしバスケの試合で六組と当たるようだったら、全力で当たるまでだ。大丈夫、僕には僕を応援してくれる人たちが居るのだから。たとえ実力不足で負けても、精一杯やれればそれでいい。

「これ以上考え込んでも埒が明かないや。寝て明日に備えよう」

 ベッドに潜り込んで部屋の明かりを消すと、部屋の外からは時折通りかかる車の音と犬の鳴き声、鈴虫の声が入り混じって聞こえる。
 今はただ、明日が楽しみで仕方ない。チア部の演技披露も、球技大会も、何もかも。
 何も考えないで布団に身を委ね、その日は眠りに就いた。

(Side:高橋奈津美)

「明日は球技大会だね。楽しみだけど、上手く踊れるかな……」

 鏡の前で髪を()かしながら、私は一瞬だけ不安な気持ちに駆られた。そこで私は、文化祭で優汰君に言われた言葉を思い出した。

『お前はお前らしく自分を信じて歩けばいい! そうすりゃあ必ず道は開けるさ!』
『……僕は踊っている高橋さんを、あの夏の甲子園の地区予選で踊っていた高橋さんを綺麗だと思った。だから、自分を信じて頑張ってみてほしい……です……』

 優汰君は私に励ましの言葉と賞賛の言葉をかけてくれた。
 私は優汰君の言葉を信じ、ステージに立った。私は大役を見事にこなし、見事に観客である生徒や保護者たちから満場の拍手を一心に浴びた。
 文化祭のステージで上手く行ったのは、私と優汰君を取り持ってくれた奏音と私に励ましの言葉をかけてくれた優汰君のおかげだ。無論、ステージの後で奏音は優汰君のことを全員にばらしちゃったけど。
 その後のことはともかくとして、優汰君の目の前で踊ると考えれば問題ないだろう。何せ私は優汰君の恋人なんだから。
 だけど、最近は奏音も優汰君とよく話すようになった。
 帰りのバスでうたた寝をしながら優汰君たちの会話を聞いていたけど、優汰君は奏音と一緒に練習をしていたそうだ。スタンツの練習をしながら時折一年生の子たちの練習の模様を見ていたけど、優汰君の動きは素人のそれとは全く違っていた。むしろ私たちと同じようにキレが良く、躓いたりしない。
 優汰君が奏音と一緒になって練習したことを不快に思わないのかって? そんなことはない。奏音は私と優汰君が付き合っていることをわかっているし、優汰君のために色々とやってくれている。
 だから、私は奏音のことを妬いたりはしない。何せ奏音はチア部で知り合った最初の友達であり、仲間だ。奏音はチアの何たるかを知らない私に全てを教えてくれたのだから。
 それに、真凛も私の大事な友達であり、仲間であり、ライバルだ。真凛の熟練したタンブリングやラインダンスは、半年近く前に始めた私には決して真似ができない。だけど、意志の強さがあればその壁だって乗り越えられる。
 日野先生の話だと、トップレベルの高校でさえチアの経験者は非常に少ないそうだ。皆スタートラインは同じで、意志の強さこそが上達の近道だそうだ。ここ最近は先生の話の通りに上達しているのを実感している。意志の強さが出てきているのだろう。

「明日は頑張ろう。優汰君も居るんだから」

 私は決意を胸に秘め、ベッドに潜り込む。
 明日は本番、私がやれることは全てやった。
 今まで練習してきたことを全て出し切ればいい。もちろん、ステージの袖で待機している優汰君に見てもらうために。

(Side:小泉奏音)

「明日は本番ね……」

 鏡の前で髪を()かすと、ボサボサの髪の毛を軽く結う。そうでもしないと、翌朝起きたときにセッティングが大変になる。アタシの髪の毛はデリケートで、ちゃんとケアしたつもりでもボサボサになることが多い。ボサボサと言っても、人前では見せられないレベルのものではない。むしろ少し波打っている感じがする程度だ。
 髪を軽く結ってまとめると、アタシは夏休み前から今日までの出来事を思い出した。
 足を挫いたマリンの代わりとしてセンターを務めることになったナツを紹介したこと。
 落ち込んだユータにナツを紹介し、たらい回しの末に二人が熱い口づけを交わしたこと。
 マリンも紹介して、彼女にもユータにキスさせたこと。
 チア部のマネージャーとして招き入れ、皆に歓迎されたこと。
 そして、球技大会に向けた練習でユータに自信をつけさせたこと。
 ここ一カ月、ユータと一緒に居て良かった。ユータとは九年、もしくはそれ以上顔を合わせていなかったけど、その分を取り戻せたのかな。ただ、マリンとユータのキスは予想外だったけど。
 全てはアタシの思惑どおりだ。ユータはアタシたちの魅力に気付いているし、ユータが持っている魅力にも気付くようになった。
 小さい頃のユータはアタシが踊っているところを見て、それをすぐに真似していた。
 その頃からアタシは気付いていた。ユータって、ああ見えて凄い男の子だと。
 しかし、高校に入って再会した頃のユータは全く違った。虚勢を張って、幼なじみのことで常に悩んでいた。アタシはその都度、ユータの好きな漫画のセリフを復唱してみなさいとアドバイスをした。それでも、時間が経つと元通りの弱いユータに戻ってしまう。
 いったいいつまでこの状態が続くのかと不安になった頃、文化祭の一連の出来事があった。それから色々あったけど、ユータと一緒に居て本当に良かった。

「ユータ、好きだよ。お休み」

 アタシはこれだけ言って、ベッドの中に潜り込んだ。
 アタシがやれることは全てやった。明日の本番では、ユータにもアタシが踊るところを見てもらうんだから。
 大丈夫、きっと上手く行くよ。ね、ユータ。



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「はぁ~……やっと終わった」
 勉強を終わらせてから少しだけ筋トレをして軽くシャワーを浴びると、そろそろ眠りに就いても良さそうな気がした。
 中学校の頃に恩師の先生から身体を鍛えるように勧められてから折を見て筋トレをしているけれども、ここ最近はやけに集中して取り組めている。チア部の生徒たちの体に触れたのがいい刺激になっているのかもしれない。
 チア部の生徒たちは筋骨隆々、とまではいかないが、引き締まった身体をしている。そのうえ、僕とキスした高橋さんと米沢さんは僕とほぼ身長が変わらない。当初は彼女たちを見て少し興奮気味になっていたけど、最近では慣れてきた。
 それに、ここ最近は一生懸命練習して笑顔を振りまく小泉さんもまた魅力的に感じるようになった。身長と胸はあの二人と比べてやや控えめだけど、それでも平均的な女子生徒に比べればスタイルは良好だ。
 小泉さんと高橋さん、米沢さんといった同学年の美少女が僕と一緒に居るなんて、ちょっと前では考えられなかった。全ては小泉さんのおかげだ。当然ながら自分自身に自信が持てるようになったのも併せて、だ。
「日野先生が歓迎会の席で話していた通りだな。僕自身が部員のみんなに応援されているなんて」
 チア部へ転入部した日に、歓迎会の席で先生が話したことを思い出した。
『誰かを応援することが、自分を応援することに繋がるんだよ。だから高校と大学で七年間チアリーディングをやり続けることができたし、今はこうして教師として後輩たちの指導にも取り組めるんだよ』
 確かにそうだ。ここ最近は僕自身も皆に応援されていると感じている。
 かつて僕が小泉さんにしたように、僕もみんなから応援されている。
 そんな僕だけど、明日の球技大会ではバスケの選手として出る。
 サッカーに出たらスタミナを消費していつの間にかサッカー部員に蹴散らされるのが嫌でバスケを選んだけど、今は違う。佐藤先輩たちと一緒に練習したおかげで、長年抱え続けていた苦手意識を払拭した。言うなれば柚希の呪いを解いたことになる。
 僕に劣等感を植え付けた柚希は今頃どうしているのかと思い時折部屋を覗き見ようとしても、分厚い遮光カーテンで覆われていて様子を窺い知ることはできない。
 そりゃそうだ。話しかけるなって一方的に命令してきたのだから。
 もしバスケの試合で六組と当たるようだったら、全力で当たるまでだ。大丈夫、僕には僕を応援してくれる人たちが居るのだから。たとえ実力不足で負けても、精一杯やれればそれでいい。
「これ以上考え込んでも埒が明かないや。寝て明日に備えよう」
 ベッドに潜り込んで部屋の明かりを消すと、部屋の外からは時折通りかかる車の音と犬の鳴き声、鈴虫の声が入り混じって聞こえる。
 今はただ、明日が楽しみで仕方ない。チア部の演技披露も、球技大会も、何もかも。
 何も考えないで布団に身を委ね、その日は眠りに就いた。
(Side:高橋奈津美)
「明日は球技大会だね。楽しみだけど、上手く踊れるかな……」
 鏡の前で髪を|梳《と》かしながら、私は一瞬だけ不安な気持ちに駆られた。そこで私は、文化祭で優汰君に言われた言葉を思い出した。
『お前はお前らしく自分を信じて歩けばいい! そうすりゃあ必ず道は開けるさ!』
『……僕は踊っている高橋さんを、あの夏の甲子園の地区予選で踊っていた高橋さんを綺麗だと思った。だから、自分を信じて頑張ってみてほしい……です……』
 優汰君は私に励ましの言葉と賞賛の言葉をかけてくれた。
 私は優汰君の言葉を信じ、ステージに立った。私は大役を見事にこなし、見事に観客である生徒や保護者たちから満場の拍手を一心に浴びた。
 文化祭のステージで上手く行ったのは、私と優汰君を取り持ってくれた奏音と私に励ましの言葉をかけてくれた優汰君のおかげだ。無論、ステージの後で奏音は優汰君のことを全員にばらしちゃったけど。
 その後のことはともかくとして、優汰君の目の前で踊ると考えれば問題ないだろう。何せ私は優汰君の恋人なんだから。
 だけど、最近は奏音も優汰君とよく話すようになった。
 帰りのバスでうたた寝をしながら優汰君たちの会話を聞いていたけど、優汰君は奏音と一緒に練習をしていたそうだ。スタンツの練習をしながら時折一年生の子たちの練習の模様を見ていたけど、優汰君の動きは素人のそれとは全く違っていた。むしろ私たちと同じようにキレが良く、躓いたりしない。
 優汰君が奏音と一緒になって練習したことを不快に思わないのかって? そんなことはない。奏音は私と優汰君が付き合っていることをわかっているし、優汰君のために色々とやってくれている。
 だから、私は奏音のことを妬いたりはしない。何せ奏音はチア部で知り合った最初の友達であり、仲間だ。奏音はチアの何たるかを知らない私に全てを教えてくれたのだから。
 それに、真凛も私の大事な友達であり、仲間であり、ライバルだ。真凛の熟練したタンブリングやラインダンスは、半年近く前に始めた私には決して真似ができない。だけど、意志の強さがあればその壁だって乗り越えられる。
 日野先生の話だと、トップレベルの高校でさえチアの経験者は非常に少ないそうだ。皆スタートラインは同じで、意志の強さこそが上達の近道だそうだ。ここ最近は先生の話の通りに上達しているのを実感している。意志の強さが出てきているのだろう。
「明日は頑張ろう。優汰君も居るんだから」
 私は決意を胸に秘め、ベッドに潜り込む。
 明日は本番、私がやれることは全てやった。
 今まで練習してきたことを全て出し切ればいい。もちろん、ステージの袖で待機している優汰君に見てもらうために。
(Side:小泉奏音)
「明日は本番ね……」
 鏡の前で髪を|梳《と》かすと、ボサボサの髪の毛を軽く結う。そうでもしないと、翌朝起きたときにセッティングが大変になる。アタシの髪の毛はデリケートで、ちゃんとケアしたつもりでもボサボサになることが多い。ボサボサと言っても、人前では見せられないレベルのものではない。むしろ少し波打っている感じがする程度だ。
 髪を軽く結ってまとめると、アタシは夏休み前から今日までの出来事を思い出した。
 足を挫いたマリンの代わりとしてセンターを務めることになったナツを紹介したこと。
 落ち込んだユータにナツを紹介し、たらい回しの末に二人が熱い口づけを交わしたこと。
 マリンも紹介して、彼女にもユータにキスさせたこと。
 チア部のマネージャーとして招き入れ、皆に歓迎されたこと。
 そして、球技大会に向けた練習でユータに自信をつけさせたこと。
 ここ一カ月、ユータと一緒に居て良かった。ユータとは九年、もしくはそれ以上顔を合わせていなかったけど、その分を取り戻せたのかな。ただ、マリンとユータのキスは予想外だったけど。
 全てはアタシの思惑どおりだ。ユータはアタシたちの魅力に気付いているし、ユータが持っている魅力にも気付くようになった。
 小さい頃のユータはアタシが踊っているところを見て、それをすぐに真似していた。
 その頃からアタシは気付いていた。ユータって、ああ見えて凄い男の子だと。
 しかし、高校に入って再会した頃のユータは全く違った。虚勢を張って、幼なじみのことで常に悩んでいた。アタシはその都度、ユータの好きな漫画のセリフを復唱してみなさいとアドバイスをした。それでも、時間が経つと元通りの弱いユータに戻ってしまう。
 いったいいつまでこの状態が続くのかと不安になった頃、文化祭の一連の出来事があった。それから色々あったけど、ユータと一緒に居て本当に良かった。
「ユータ、好きだよ。お休み」
 アタシはこれだけ言って、ベッドの中に潜り込んだ。
 アタシがやれることは全てやった。明日の本番では、ユータにもアタシが踊るところを見てもらうんだから。
 大丈夫、きっと上手く行くよ。ね、ユータ。