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第31話 二人きりの戦争

ー/ー



 ベルリヒンゲンはクリークの気迫に圧倒されつつあった。

 クリークが攻撃を繰り出すたびに、身体に刺さった剣が彼の身を切り裂く。

 身体強化に霊力を多めに回して広がる傷を最小限にしているようだが、それでも衰えることのないクリークの勢いにはベルリヒンゲンも感嘆せざるを得ない。

(ビビってんのか? この俺が?)

「なわきゃねえだろ!」

 ベルリヒンゲンは音速の一撃を足元に叩きつけた。

 戦場である公園の足場が崩壊し、地下にある駐車場に二人は落下を始める。

 落ちながらも瓦礫を足場にして飛び掛かり、鉄棒をベルリヒンゲンの義手に叩きつけるクリーク。それを払いのけるベルリヒンゲン。

 轟音と共に二人は駐車場に着地する。

 瓦礫が次々と高級車の屋根に落ち、警告音がけたたましい音を立てる。

「クリークよ。騎士の誇りにかけて、貴様の本気に俺も応えなければなるまいな!」

「あー!? 何言ってんだか聞こえねえよ!」

 相変わらずクリークの戦法は強化した鉄棒片手に突撃のゴリ押しだ。

 しかし、鋼鉄の右腕を殴打していた鉄棒が突然切断される。ベルリヒンゲンの左手に黒光りする剣が握られていたのだ。

 ベルリヒンゲンはクリークの腹を貫く一撃を放った際に、剣を放棄していた。

 何せ音速で拳を撃ち出すのだ、余計なものを持っていれば軌道が逸れる。だが、その左手に新たな剣が握られているのは何故か。

「驚いたな? 俺の強奪の権能! それでここにある金属は全て俺の剣になる。この駐車場の全てがなあ! ついでにお前の権能も聞いておこうか? いや、捨てたんだったな! もったいない! ハハハッ!」

「さあな! 元よりたたっ斬るとぶん殴るしか能がねえんでなあ!」

 ベルリヒンゲンの権能は、生前決闘を称した強盗、追い剥ぎ、恐喝、身代金の掠取を繰り返して財産を築いたという逸話に由来する。

 状況を不利と見たクリークは、飛び退って車と車の隙間に隠れる。車ごと彼を押し潰そうとベルリヒンゲンが右腕を射出すべく構えた瞬間に事は起きた。

 クリークが車を持ち上げ、ベルリヒンゲン目がけて投げつけたのである。

 即座に義手の発射を中止、飛来する車を殴り飛ばす。金属のひしゃげる音がして車だったものが目の前に落下する。

「休んでる暇あねえぞ!」

 クリークは二台目の車を持ち上げたところだった。

 脇腹に刺さった剣が肉を切り裂き血を垂れ流す。

 ベルリヒンゲンは車を殴り飛ばした際に奪った金属で作った剣を義手から投擲する。

 クリークの右腕目がけて投げられたその剣は、空気を引き裂きながら回転し彼に吸い込まれるように直進する。

 クリークが持ち上げていた車が落下した。

 ベルリヒンゲンの目にはその質量に押しつぶされたクリークが映っているはずだった。

 だがクリークは悠然とそこに立っていた。ベルリヒンゲンの投げ付つけた剣を片手に。

 両脇には両断された車の残骸と部品が散らばっている。

「おう、この剣ありがとうよ! やっぱ斬り合いじゃねえと気合いが入らねえ!」

 回転する剣が飛来した瞬間、クリークは右腕を車から離して剣を掴み取っていた。

 そして車が落ちてくる前に間髪入れず頭上の車を真っ二つにしたのだ。

 彼の神業にベルリヒンゲンも思わず舌を巻く。

「知ってるか? 俺が今したのは日本じゃ『敵に塩を送る』っていうらしいぜ」

「塩だあ? どういうことだ?」

「いい。忘れろ」

 そう言ってベルリヒンゲンは一台の車に歩み寄ると、その一台を丸々使って背丈ほどある大剣を作り出した。

「名乗り出たはいいが少し老骨に響くぜ。だがこんな狂犬を相手取るなんざティルヴィングかグリムゲルデの妹御しかできねえだろうからなあ」

「少しっつったか? じゃあまだまだ続けようぜ! 俺たちだけの戦争をさあ!」

 そう言うとクリークは真っ二つになった車の残骸を思い切り蹴り飛ばした。無論ベルリヒンゲンに向けてである。

 クリークはそれの後ろを追走し、二段階の攻撃を仕掛けようとしている。

 ベルリヒンゲンもその意図に気付き、飛んでくる残骸ごとクリークを大剣で叩き斬るつもりだ。

 鋼鉄の義手が振り下ろした大剣によって車の残骸は叩き潰されたが、肝心のクリークの姿がない。

(上か!?)

 ベルリヒンゲンが視線を上方に向けるがそこにクリークの姿はなかった。

 逆だった。

 下方からの斬撃でベルリヒンゲンの胸が鎧ごと深々と切り裂かれる。

 残骸が叩き潰される瞬間。クリークはその一撃を避けながら飛び散る残骸と砕けたコンクリートに紛れ這うように前進していたのだ。

(追加の装甲を纏わなかったのが仇となったか!? いや、こいつ相手にスピードを落とすのは命取りだ! このまま続行する!)

 ベルリヒンゲンは傷の具合を確認しつつ、大剣のリーチを活かすべく距離を取る。

 クリークは力押しの姿勢を崩すつもりはないようで好機を伺っている。

 クリーク自身に自覚はないが、彼の権能は彼が「戦争」と認めた戦いに決着が付くまで死なないという性質のもの。

 つまりクリークと戦いを挑むということは、彼が負けを認めるか自分が死ぬまで続く終わりなき戦争に足を踏み入れることを意味していた。

 ラグナロク主力の彼とレックスはヴァルキリーから逃れるための最低限の権能しか失っていない。それ故にその効力は健在だった。



 一方で第二階層『エーイーリー』では異能者による一方的な戦闘が行われていた。

 カタストロフィは三人で戦っていたが、残りのメンバーによるバックアップが行われていたからだ。

 彼らはドクターによる治癒能力を得ており、マイスターによって何かあれば即座に装備が補充されている。

 時折シールドによる防壁が発生して彼らを守ることもあった。

 最初に脱落したのはライヒハートだった。

 スナイパーは強化によって視覚を失った代わりに、設置した銃器を遠隔で自在に操れるように進化している。

 マンションのエントランスに設置された多数の自動小銃。

 それによる飽和攻撃に気を取られたライヒハートは、三方向からの狙撃銃による銃撃を心臓に食らい死んだ。

 ライヒハートは生来戦士ではない。果たす役割は異能者攻略であり、厳密には戦闘要員ではなかった。

 が、死神がこうもあっさりと人間に殺されてしまったという事実に将校(オフィツィア)は驚愕する。

 将校(オフィツィア)の魔眼は発動しようとすると必ず防壁に阻まれ、カタストロフィには通用しない。

 故に彼は戦いに参加することができない。

 残された仮面兵隊長アルベールは、右腕が刃に変容する代わりに死神級の戦闘力を得たアサシンと、精神的成長を遂げたリーダーこと不破を一人で相手取ることになってしまった。

 アルベールは平均以上の実力を持つ死神ではあったが、傷を即時回復したり。無尽蔵に武器を使い捨てながら戦うカタストロフィには劣勢にならざるを得なかった。

 スナイパーによる狙撃にも注意を払わなければならず、結局は背中に受けた弾丸で体勢を崩したところをアサシンに心臓を突かれた。

「どういうつもりだ貴様ら……! 三対三という話はどこにいった!?」

「三人で戦うとは言ったが、残りの連中が手出しをしないとは言っていない。それだけだ」

「誇りの欠片もない人間風情が……!」

 将校(オフィツィア)は魔眼を起動させながら恨み言を述べた。

 世界大戦時代の人体実験により得た力。それは死神になったことで強化されているはずだった。

 しかし不破を守る防壁がそれを拒む。

「お前も元はただの人間だろ」

 ナイフを振り上げる不破。

 グリムゲルデが将校(オフィツィア)の視覚を通じて見ていた映像はそこで途絶えていた。


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 ベルリヒンゲンはクリークの気迫に圧倒されつつあった。
 クリークが攻撃を繰り出すたびに、身体に刺さった剣が彼の身を切り裂く。
 身体強化に霊力を多めに回して広がる傷を最小限にしているようだが、それでも衰えることのないクリークの勢いにはベルリヒンゲンも感嘆せざるを得ない。
(ビビってんのか? この俺が?)
「なわきゃねえだろ!」
 ベルリヒンゲンは音速の一撃を足元に叩きつけた。
 戦場である公園の足場が崩壊し、地下にある駐車場に二人は落下を始める。
 落ちながらも瓦礫を足場にして飛び掛かり、鉄棒をベルリヒンゲンの義手に叩きつけるクリーク。それを払いのけるベルリヒンゲン。
 轟音と共に二人は駐車場に着地する。
 瓦礫が次々と高級車の屋根に落ち、警告音がけたたましい音を立てる。
「クリークよ。騎士の誇りにかけて、貴様の本気に俺も応えなければなるまいな!」
「あー!? 何言ってんだか聞こえねえよ!」
 相変わらずクリークの戦法は強化した鉄棒片手に突撃のゴリ押しだ。
 しかし、鋼鉄の右腕を殴打していた鉄棒が突然切断される。ベルリヒンゲンの左手に黒光りする剣が握られていたのだ。
 ベルリヒンゲンはクリークの腹を貫く一撃を放った際に、剣を放棄していた。
 何せ音速で拳を撃ち出すのだ、余計なものを持っていれば軌道が逸れる。だが、その左手に新たな剣が握られているのは何故か。
「驚いたな? 俺の強奪の権能! それでここにある金属は全て俺の剣になる。この駐車場の全てがなあ! ついでにお前の権能も聞いておこうか? いや、捨てたんだったな! もったいない! ハハハッ!」
「さあな! 元よりたたっ斬るとぶん殴るしか能がねえんでなあ!」
 ベルリヒンゲンの権能は、生前決闘を称した強盗、追い剥ぎ、恐喝、身代金の掠取を繰り返して財産を築いたという逸話に由来する。
 状況を不利と見たクリークは、飛び退って車と車の隙間に隠れる。車ごと彼を押し潰そうとベルリヒンゲンが右腕を射出すべく構えた瞬間に事は起きた。
 クリークが車を持ち上げ、ベルリヒンゲン目がけて投げつけたのである。
 即座に義手の発射を中止、飛来する車を殴り飛ばす。金属のひしゃげる音がして車だったものが目の前に落下する。
「休んでる暇あねえぞ!」
 クリークは二台目の車を持ち上げたところだった。
 脇腹に刺さった剣が肉を切り裂き血を垂れ流す。
 ベルリヒンゲンは車を殴り飛ばした際に奪った金属で作った剣を義手から投擲する。
 クリークの右腕目がけて投げられたその剣は、空気を引き裂きながら回転し彼に吸い込まれるように直進する。
 クリークが持ち上げていた車が落下した。
 ベルリヒンゲンの目にはその質量に押しつぶされたクリークが映っているはずだった。
 だがクリークは悠然とそこに立っていた。ベルリヒンゲンの投げ付つけた剣を片手に。
 両脇には両断された車の残骸と部品が散らばっている。
「おう、この剣ありがとうよ! やっぱ斬り合いじゃねえと気合いが入らねえ!」
 回転する剣が飛来した瞬間、クリークは右腕を車から離して剣を掴み取っていた。
 そして車が落ちてくる前に間髪入れず頭上の車を真っ二つにしたのだ。
 彼の神業にベルリヒンゲンも思わず舌を巻く。
「知ってるか? 俺が今したのは日本じゃ『敵に塩を送る』っていうらしいぜ」
「塩だあ? どういうことだ?」
「いい。忘れろ」
 そう言ってベルリヒンゲンは一台の車に歩み寄ると、その一台を丸々使って背丈ほどある大剣を作り出した。
「名乗り出たはいいが少し老骨に響くぜ。だがこんな狂犬を相手取るなんざティルヴィングかグリムゲルデの妹御しかできねえだろうからなあ」
「少しっつったか? じゃあまだまだ続けようぜ! 俺たちだけの戦争をさあ!」
 そう言うとクリークは真っ二つになった車の残骸を思い切り蹴り飛ばした。無論ベルリヒンゲンに向けてである。
 クリークはそれの後ろを追走し、二段階の攻撃を仕掛けようとしている。
 ベルリヒンゲンもその意図に気付き、飛んでくる残骸ごとクリークを大剣で叩き斬るつもりだ。
 鋼鉄の義手が振り下ろした大剣によって車の残骸は叩き潰されたが、肝心のクリークの姿がない。
(上か!?)
 ベルリヒンゲンが視線を上方に向けるがそこにクリークの姿はなかった。
 逆だった。
 下方からの斬撃でベルリヒンゲンの胸が鎧ごと深々と切り裂かれる。
 残骸が叩き潰される瞬間。クリークはその一撃を避けながら飛び散る残骸と砕けたコンクリートに紛れ這うように前進していたのだ。
(追加の装甲を纏わなかったのが仇となったか!? いや、こいつ相手にスピードを落とすのは命取りだ! このまま続行する!)
 ベルリヒンゲンは傷の具合を確認しつつ、大剣のリーチを活かすべく距離を取る。
 クリークは力押しの姿勢を崩すつもりはないようで好機を伺っている。
 クリーク自身に自覚はないが、彼の権能は彼が「戦争」と認めた戦いに決着が付くまで死なないという性質のもの。
 つまりクリークと戦いを挑むということは、彼が負けを認めるか自分が死ぬまで続く終わりなき戦争に足を踏み入れることを意味していた。
 ラグナロク主力の彼とレックスはヴァルキリーから逃れるための最低限の権能しか失っていない。それ故にその効力は健在だった。
 一方で第二階層『エーイーリー』では異能者による一方的な戦闘が行われていた。
 カタストロフィは三人で戦っていたが、残りのメンバーによるバックアップが行われていたからだ。
 彼らはドクターによる治癒能力を得ており、マイスターによって何かあれば即座に装備が補充されている。
 時折シールドによる防壁が発生して彼らを守ることもあった。
 最初に脱落したのはライヒハートだった。
 スナイパーは強化によって視覚を失った代わりに、設置した銃器を遠隔で自在に操れるように進化している。
 マンションのエントランスに設置された多数の自動小銃。
 それによる飽和攻撃に気を取られたライヒハートは、三方向からの狙撃銃による銃撃を心臓に食らい死んだ。
 ライヒハートは生来戦士ではない。果たす役割は異能者攻略であり、厳密には戦闘要員ではなかった。
 が、死神がこうもあっさりと人間に殺されてしまったという事実に|将校《オフィツィア》は驚愕する。
 |将校《オフィツィア》の魔眼は発動しようとすると必ず防壁に阻まれ、カタストロフィには通用しない。
 故に彼は戦いに参加することができない。
 残された仮面兵隊長アルベールは、右腕が刃に変容する代わりに死神級の戦闘力を得たアサシンと、精神的成長を遂げたリーダーこと不破を一人で相手取ることになってしまった。
 アルベールは平均以上の実力を持つ死神ではあったが、傷を即時回復したり。無尽蔵に武器を使い捨てながら戦うカタストロフィには劣勢にならざるを得なかった。
 スナイパーによる狙撃にも注意を払わなければならず、結局は背中に受けた弾丸で体勢を崩したところをアサシンに心臓を突かれた。
「どういうつもりだ貴様ら……! 三対三という話はどこにいった!?」
「三人で戦うとは言ったが、残りの連中が手出しをしないとは言っていない。それだけだ」
「誇りの欠片もない人間風情が……!」
 |将校《オフィツィア》は魔眼を起動させながら恨み言を述べた。
 世界大戦時代の人体実験により得た力。それは死神になったことで強化されているはずだった。
 しかし不破を守る防壁がそれを拒む。
「お前も元はただの人間だろ」
 ナイフを振り上げる不破。
 グリムゲルデが|将校《オフィツィア》の視覚を通じて見ていた映像はそこで途絶えていた。