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第29話 死亡遊戯

ー/ー



 一矢がヘルムヴィーゲの招集を受けてから数日後、一矢の脳裏に突然グリムゲルデの声が響いた。一部の死神にしか伝わらない秘匿の交信である。

 ロスヴァイセは謹慎させられているのかはわからないが、使い魔の姿も見なくなった。

(一時間後にラグナロクの本拠地に転移を開始する。各自即座に戦闘態勢に入れるように備えよ)

 一矢、椿、メイジーはグリムゲルデ軍の一員として、作戦へと参加することになっていた。

 椿探偵事務所の制服であるスーツのジャケットを羽織る。そして武器を順番に装備していく。霊力は万全だ。

 一矢は一振りの刀を腰に履く。銘は「空亡」(くうぼう)という。

 椿から借り受けたものであり「絶対に返せ」と鬼気迫る表情で渡されたものだ。

 どうして椿がそれほど重要な刀を自身に貸し与えたのかは一矢には最初わからなかったが、しばらくして「生き延びて返せ」という意味だと思うようになった。

 つぐみは相変わらず留守番になりそうな気配を感じ不貞腐れている。

「覚悟は決まったようだが、まさか意地だけで戦うつもりじゃないよな。お前」

「……意地もありますよ。あの人に負けて、生かされて、死神になってから初めて悔しいと思いましたから。でも、なんとなくですけど掴みかけてるんです。あの人とまた戦えば、自分が何の死神なのかわかる気がするんです」

「ああ、あの男と戦ったときに権能が目覚めたんだったな」

 一矢はいつの間にかレックスとの戦いを望むようになっていた。

 次は命を落とすかもしれない。

 が、悔しさと死神としての本能が自身をレックスとの戦いに駆り立てるような気がした。

「お前が死ぬのは……まあ構わないとしよう。でも空亡(くうぼう)は死んでも返しに来い。それだけだ」

「イヤよ……カズヤさんが死ぬなんてイヤ! カズヤさんはわたしの本当のお友達なの、だから……」

「椿さん。メイジーちゃん。ありがとう。勝てないかもしれない。けど戦いたい。死神になってから初めて『こうしたい』と思えるんです。そうすることで姉さんが殺されてから始まった死神との因縁にちょっとだけ決着がつく気がするんです」

 一矢は絞り出すように二人に告げる。

 本能から芽生えた衝動を屁理屈で後付けしているだけかもしれない。

 だがレックスと戦うこと。その先に見えるはずの何かを一矢は見たかった。

 椿とメイジーがそれぞれ一矢の思いを噛みしめていると転移が始まった。



 突然視界が草木生い茂る広場に移り変わる。タワーマンションに隣接している公園のようだ。

 多くの死神らしき気配が周囲に感じられた。

 姿を隠している者も少なくない。溢れ出る殺気だけで限定解除によって集められた死神とは格が違うのがわかる。

「よしよし。集まったな。さっさと攻め落とすぞ。最悪建物ごとぶっ壊しても構わん。行け」

 死神の群れがヘルムヴィーゲの指示により動き始める。

 狩りのためには人間を巻き込むこともいとわない者たちが、今は真に人の世界を守るために行動している。

「はいざんね~ん! ストップストップ~!」

 甘ったるい女の声が夜の公園に響き渡る。

 死神たちの足が止まる。突然目の前に炎の壁が立ちふさがったからだ。

「お前行けよ」

 ヘルムヴィーゲの指示で一人の死神が警戒しながら炎の壁に腕を入れる。

 次の瞬間には全身を炎に包まれた死神が地面を転がるが、火の勢いが余りにも強く数度転がっただけでその死神は灰になった。

「へえ。逃げんのか? あれだけ派手に喧嘩売っといて。数揃えられたら勝てませんってか?」

「ブッブ~! 全然違いま~す! この戦いは只今より『シニガミ・キリングフィールド』の第二弾『死亡遊戯』(ダンス・マカブル)としてわたくしセクレタリーが仕切らせていただきま~す!」

「馬鹿が。何でもゲームにしなきゃ気が済まねえのか」

 ヘルムヴィーゲは灰の山に唾を吐き捨てる。

「ルールは単純! この『クリフォトタワー』の五つの階層を、我らが首領カグツチ含む守護者たちが守ってます! ヴァルキリー側は戦士を選抜して五階層全部攻略できたら勝ち! できなかったら負け~」

「これ結界か? 術師にこじ開けさせろ」

「え〜無視するんだ。数に頼らないって宣言を破ったのはそちらでしたけど。数制限されたら勝てませんって~?」

 セクレタリーの一言がヘルムヴィーゲの逆鱗に触れた。

「やってやるよ。馬鹿女。解体しながらいつまでその馬鹿声出してられるか試してやる」

 グリムゲルデは沈黙を保っている。

 セクレタリーの言う通り、既にヘルムヴィーゲはジークルーネの宣言を破っている。

 賊相手とは言えども一度誓ったことを破るようでは死神たちへの示しがつかず、再びラグナロクのような反動勢力が現れるかもしれない。

 ヴァルキリーとしての威厳を保ち、場を収めるにはラグナロクの「ゲーム」に乗るしかないのだ。

 そうでもしないとセクレタリーという女はヘルムヴィーゲの集めた精鋭にも聞こえるようにヴァルキリーを煽り続けるだろう。

「ピンポンパンポ〜ン! これから読み上げる方々は強制参加ですのでご注意くださ〜い! 不参加の場合は東京をランダムで焼いちゃいますよ〜。アマガセ・カズヤさ~ん! ヴァルキリー・グリムゲルデさ~ん! アオイ・シュタウフェンベルクさ~ん! ご指名入ってま~す!」

 名前を呼ばれた三人は三者三様の驚きを見せる。

「どうして私が呼ばれるのさ! それに昔に気の迷いで名乗ったやつを晒し上げるのはやめてくれないか!」

「クロウリーくんに聞いてくーださい!」

 ラグナロク側の魔術師はアオイに術式を看破されたことを根に持っているらしく、黒歴史を暴き立てる。

 椿でもここまでアオイが焦っているのは初めて見る。

 その姿は強制参加よりもフルネームが晒されたことに焦っているように見えた。

「ヘルムヴィーゲさんは来ても来なくても構いませんので十人くらいに調整してくださいね~! それじゃ!」

 それ以降セクレタリーを名乗る女の声は聞こえなくなった。

「ならこっちは手駒を二人出しとく。グリムゲルデ、お前が陣頭で指揮を取れ。(トップ)が二人いるよりマシだろ」

 鋼鉄義手のベルリヒンゲンと物憂げな少年ティルヴィング。

 その二名がヘルムヴィーゲの両脇に立った。

「はい。では残りは私の方で選ばせていただきます」

 グリムゲルデは一矢を仮面の下から値踏みするように見つめる。

(レックスがわざわざ指名したのか? 意外と執念深い奴だ)

 ただ新米死神である一矢の参戦が確定した以上、彼をカバーできるチームを組まなければならないのはグリムゲルデも理解していた。

「レッドフード、ツバキ。やれるか」

「ヴァルキリーさま、メイジーって呼んでくださいな! カズヤさんが戦うならわたしだって戦うわ!」

「報酬次第では」

 これで十人の枠の七人が埋まった。一矢と椿、アオイは戦力としてはあまり当てにしていない。

 しかし椿とアオイについては対死神、対魔術師戦においての広い知見を期待していた。

 そしてヘルムヴィーゲの側近、ティルヴィング。彼がいれば多少の劣勢はひっくり返せると判断したのだ。

 そして残りの三人には当てがあった。

将校(オフィツィア)、ライヒハート。異能者が出てくる。おそらく強化されているだろうが、お前たちで対処しろ」

 駐車場でカタストロフィと戦った眼帯の死神と処刑人姿の死神が一礼する。

 対人間に特化した二人の死神。

「そしてアルベール。お前にも同行してもらいたい」

 仮面兵の隊長アルベール。グリムゲルデに仕えるまだ齢百年の死神だが、その実力を見出され今の地位にある。

「私にはなんか言ってくれないの?」

「魔術師の対処を頼む」

「現代最高の魔術師くんとやらとやり合うならもっと準備しておけばよかったな。過去を隠したりとかね。ホント」

 アオイがぼやく。

 そして一矢。彼は未だかつてない闘志を身に纏っていた。

 グリムゲルデの配下アルベールが先陣を切って炎の壁へと進む。

 選抜されたメンバーには炎の影響は無いようで、無事に抜けられた。

 選ばれた十人が炎の壁を抜けるとそこには大剣を担いだレザージャケットに白シャツの男が犬歯をむき出しにした笑顔で待ち構えていた。

「第一階層『バチカル』守護者クリーク! どっからでもかかってこいやアア!」


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 一矢がヘルムヴィーゲの招集を受けてから数日後、一矢の脳裏に突然グリムゲルデの声が響いた。一部の死神にしか伝わらない秘匿の交信である。
 ロスヴァイセは謹慎させられているのかはわからないが、使い魔の姿も見なくなった。
(一時間後にラグナロクの本拠地に転移を開始する。各自即座に戦闘態勢に入れるように備えよ)
 一矢、椿、メイジーはグリムゲルデ軍の一員として、作戦へと参加することになっていた。
 椿探偵事務所の制服であるスーツのジャケットを羽織る。そして武器を順番に装備していく。霊力は万全だ。
 一矢は一振りの刀を腰に履く。銘は|「空亡」《くうぼう》という。
 椿から借り受けたものであり「絶対に返せ」と鬼気迫る表情で渡されたものだ。
 どうして椿がそれほど重要な刀を自身に貸し与えたのかは一矢には最初わからなかったが、しばらくして「生き延びて返せ」という意味だと思うようになった。
 つぐみは相変わらず留守番になりそうな気配を感じ不貞腐れている。
「覚悟は決まったようだが、まさか意地だけで戦うつもりじゃないよな。お前」
「……意地もありますよ。あの人に負けて、生かされて、死神になってから初めて悔しいと思いましたから。でも、なんとなくですけど掴みかけてるんです。あの人とまた戦えば、自分が何の死神なのかわかる気がするんです」
「ああ、あの男と戦ったときに権能が目覚めたんだったな」
 一矢はいつの間にかレックスとの戦いを望むようになっていた。
 次は命を落とすかもしれない。
 が、悔しさと死神としての本能が自身をレックスとの戦いに駆り立てるような気がした。
「お前が死ぬのは……まあ構わないとしよう。でも|空亡《くうぼう》は死んでも返しに来い。それだけだ」
「イヤよ……カズヤさんが死ぬなんてイヤ! カズヤさんはわたしの本当のお友達なの、だから……」
「椿さん。メイジーちゃん。ありがとう。勝てないかもしれない。けど戦いたい。死神になってから初めて『こうしたい』と思えるんです。そうすることで姉さんが殺されてから始まった死神との因縁にちょっとだけ決着がつく気がするんです」
 一矢は絞り出すように二人に告げる。
 本能から芽生えた衝動を屁理屈で後付けしているだけかもしれない。
 だがレックスと戦うこと。その先に見えるはずの何かを一矢は見たかった。
 椿とメイジーがそれぞれ一矢の思いを噛みしめていると転移が始まった。
 突然視界が草木生い茂る広場に移り変わる。タワーマンションに隣接している公園のようだ。
 多くの死神らしき気配が周囲に感じられた。
 姿を隠している者も少なくない。溢れ出る殺気だけで限定解除によって集められた死神とは格が違うのがわかる。
「よしよし。集まったな。さっさと攻め落とすぞ。最悪建物ごとぶっ壊しても構わん。行け」
 死神の群れがヘルムヴィーゲの指示により動き始める。
 狩りのためには人間を巻き込むこともいとわない者たちが、今は真に人の世界を守るために行動している。
「はいざんね~ん! ストップストップ~!」
 甘ったるい女の声が夜の公園に響き渡る。
 死神たちの足が止まる。突然目の前に炎の壁が立ちふさがったからだ。
「お前行けよ」
 ヘルムヴィーゲの指示で一人の死神が警戒しながら炎の壁に腕を入れる。
 次の瞬間には全身を炎に包まれた死神が地面を転がるが、火の勢いが余りにも強く数度転がっただけでその死神は灰になった。
「へえ。逃げんのか? あれだけ派手に喧嘩売っといて。数揃えられたら勝てませんってか?」
「ブッブ~! 全然違いま~す! この戦いは只今より『シニガミ・キリングフィールド』の第二弾|『死亡遊戯』《ダンス・マカブル》としてわたくしセクレタリーが仕切らせていただきま~す!」
「馬鹿が。何でもゲームにしなきゃ気が済まねえのか」
 ヘルムヴィーゲは灰の山に唾を吐き捨てる。
「ルールは単純! この『クリフォトタワー』の五つの階層を、我らが首領カグツチ含む守護者たちが守ってます! ヴァルキリー側は戦士を選抜して五階層全部攻略できたら勝ち! できなかったら負け~」
「これ結界か? 術師にこじ開けさせろ」
「え〜無視するんだ。数に頼らないって宣言を破ったのはそちらでしたけど。数制限されたら勝てませんって~?」
 セクレタリーの一言がヘルムヴィーゲの逆鱗に触れた。
「やってやるよ。馬鹿女。解体しながらいつまでその馬鹿声出してられるか試してやる」
 グリムゲルデは沈黙を保っている。
 セクレタリーの言う通り、既にヘルムヴィーゲはジークルーネの宣言を破っている。
 賊相手とは言えども一度誓ったことを破るようでは死神たちへの示しがつかず、再びラグナロクのような反動勢力が現れるかもしれない。
 ヴァルキリーとしての威厳を保ち、場を収めるにはラグナロクの「ゲーム」に乗るしかないのだ。
 そうでもしないとセクレタリーという女はヘルムヴィーゲの集めた精鋭にも聞こえるようにヴァルキリーを煽り続けるだろう。
「ピンポンパンポ〜ン! これから読み上げる方々は強制参加ですのでご注意くださ〜い! 不参加の場合は東京をランダムで焼いちゃいますよ〜。アマガセ・カズヤさ~ん! ヴァルキリー・グリムゲルデさ~ん! アオイ・シュタウフェンベルクさ~ん! ご指名入ってま~す!」
 名前を呼ばれた三人は三者三様の驚きを見せる。
「どうして私が呼ばれるのさ! それに昔に気の迷いで名乗ったやつを晒し上げるのはやめてくれないか!」
「クロウリーくんに聞いてくーださい!」
 ラグナロク側の魔術師はアオイに術式を看破されたことを根に持っているらしく、黒歴史を暴き立てる。
 椿でもここまでアオイが焦っているのは初めて見る。
 その姿は強制参加よりもフルネームが晒されたことに焦っているように見えた。
「ヘルムヴィーゲさんは来ても来なくても構いませんので十人くらいに調整してくださいね~! それじゃ!」
 それ以降セクレタリーを名乗る女の声は聞こえなくなった。
「ならこっちは手駒を二人出しとく。グリムゲルデ、お前が陣頭で指揮を取れ。|頭《トップ》が二人いるよりマシだろ」
 鋼鉄義手のベルリヒンゲンと物憂げな少年ティルヴィング。
 その二名がヘルムヴィーゲの両脇に立った。
「はい。では残りは私の方で選ばせていただきます」
 グリムゲルデは一矢を仮面の下から値踏みするように見つめる。
(レックスがわざわざ指名したのか? 意外と執念深い奴だ)
 ただ新米死神である一矢の参戦が確定した以上、彼をカバーできるチームを組まなければならないのはグリムゲルデも理解していた。
「レッドフード、ツバキ。やれるか」
「ヴァルキリーさま、メイジーって呼んでくださいな! カズヤさんが戦うならわたしだって戦うわ!」
「報酬次第では」
 これで十人の枠の七人が埋まった。一矢と椿、アオイは戦力としてはあまり当てにしていない。
 しかし椿とアオイについては対死神、対魔術師戦においての広い知見を期待していた。
 そしてヘルムヴィーゲの側近、ティルヴィング。彼がいれば多少の劣勢はひっくり返せると判断したのだ。
 そして残りの三人には当てがあった。
「|将校《オフィツィア》、ライヒハート。異能者が出てくる。おそらく強化されているだろうが、お前たちで対処しろ」
 駐車場でカタストロフィと戦った眼帯の死神と処刑人姿の死神が一礼する。
 対人間に特化した二人の死神。
「そしてアルベール。お前にも同行してもらいたい」
 仮面兵の隊長アルベール。グリムゲルデに仕えるまだ齢百年の死神だが、その実力を見出され今の地位にある。
「私にはなんか言ってくれないの?」
「魔術師の対処を頼む」
「現代最高の魔術師くんとやらとやり合うならもっと準備しておけばよかったな。過去を隠したりとかね。ホント」
 アオイがぼやく。
 そして一矢。彼は未だかつてない闘志を身に纏っていた。
 グリムゲルデの配下アルベールが先陣を切って炎の壁へと進む。
 選抜されたメンバーには炎の影響は無いようで、無事に抜けられた。
 選ばれた十人が炎の壁を抜けるとそこには大剣を担いだレザージャケットに白シャツの男が犬歯をむき出しにした笑顔で待ち構えていた。
「第一階層『バチカル』守護者クリーク! どっからでもかかってこいやアア!」