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第26話 全員悪人

ー/ー



 クリークは都庁周辺の死神を一掃すると、辺りに倒れている死神が本当に死んでいるのか剣で突き刺して確かめ始める。

「こんな三下どもじゃいくら殺しても殺したりねえや」

「そうでしょうとも。ヴァルキリー不在で指揮を取る者もおらず、元は限定解除に釣られた死神たちでしたからねえ」

「いきなり出てくるのやめてくんねえ? こえーよ」

 クリークはどこからともなく出現した伯爵に答えながら死体を突き刺し続ける。

 だが声を上げる死神はいない。どれも身体がクリークによって両断され即死しているからだ。

「その辺にしておけよ。俺の方の仕事は終わった。ついでにこれだけ殺せば上々だ」

 臙脂色の狩衣から時折炎を噴き出させながら、カグツチがクリークたちの前方から歩いてきた。

 カグツチと伯爵は示し合わせたかのように頷き、三人同時に転移する。

「だからさあ。出てくるなら出てくる、転移するなら転移するっつってくれよなあ」

 クリークがシャツの裾で剣先を拭いながら不満そうに言った。



「ちょっとぉ~! 拠点に貸すのはいいけど血まみれで返ってくるとかやめてくんない!? どうせあんた掃除なんかしないんだから!」

 クリークの姿を見るなり大声を上げるのはピンクの髪をツインテールにした女、「シニガミ・キリングフィールド」の管理者であるセクレタリー。

 三人が転移したのは都内にあるタワーマンションの最上階。

 セクレタリーの所有する物件の一つである。広々としたリビングに置かれたソファー、そこにクリークが背中から飛び込むように座る。

「ああ~もう! 汚れるって言ってるでしょうが! 首領も漏れてる火、すぐ消して! 警報鳴るから!」

 意に介さないクリークと微笑を浮かべるカグツチ。

 窓際に置かれたテーブルの椅子にはレックスが座っている。

 囮作戦で負った傷はまだ癒えていない様子。

「レックス! お前の言ってた新米死神、いなかったぜ! 俺が殺してやってもよかったんだけどよお」

「不要だ」

 レックスとクリーク。対ヴァルキリーの主戦力。ラグナロクの双璧である。

 彼らはヴァルキリーの支配から脱してはいたが、実のところその権能のほとんどを保持していた。主力としてラグナロクの魔術師によって慎重な調整がされていたからだ。

 それ故、ヴァルキリーに抗いながら強力な死神とも戦うことができた。

 この処置を施せたラグナロクの死神が少ないのは相当のリソースを費やす必要があるからだ。

「やって来るたびに口うるさいやつだな。これから伯爵と次の計画の打ち合わせを始めたいんだが。静かにしてくれないか」

 奥から電動車椅子で現れたのは金髪眼鏡の青年“現代最高の魔術師”ジョシュア・クロウリー。

 死神でも異能者でもない人間である。

 彼は祖父アレイスター・クロウリーが作り出した人造悪魔コロンゾンと契約し、代償として両脚の感覚を失っていた。

「うるさいうるさいうるせーんだよ! 引っ込んでろメガネ!」

 ジョシュアはパラケルススや伯爵と共に権能譲渡の術式を考案したり、ラグナロクの魔術的な支援を担当していた。

 未だに彼らの本拠地がヴァルキリー側に割れていないのは彼の功績があってのことだ。

娘々(ニャンニャン)は?」

「まだ寝てますけど。相当ひどくやられたみたいですよぉ」

 カグツチの問いにセクレタリーが答えた。

「犠牲は腐乱死(フランシス)とロメロだけか。上々だ。よくやってくれたな」

 ゆっくりとソファーにかけながらカグツチはラグナロクのメンバーに告げる。

「しばらく待ちの一手とはなあ。つらいねえ」

 セクレタリーにぶつけられた雑巾で剣の血を拭いながらクリークがぼやいた。

「そうだ。戦力の追加投入を拒むジークルーネは消した。より上位のヴァルキリーが召喚され事態の収拾にあたるだろうな。我々ラグナロクは死神の軍備が整い次第叩き潰す。逆に言えばそれまですることはない」

「より多くの死神を殺すために、か」

 レックスがつぶやくように言った。

「今ヴァルキリーを皆殺しにするのは容易いことだが、奴らにはより多くの戦力を投入してもらう必要がある。時間を作ってやらないとな」

「目的は何だ。死神を絶滅させることか」

 カタストロフィの「リーダー」こと不破正人(ふわまさと)は自身がいかに場違いな存在であるか理解していた。

 理解していたが問わずにはいられなかった。

 カタストロフィで彼だけがこの空間に居続けることを許されていたのも疑問の一つだ。

「うーん。これはプレイヤーさんには教えられないトップシークレットかも? リークはNGってことで~……」

「いや、教えてやる。俺たちはな、『魔神』を作るつもりだ。今この東京には多数の死神の霊力が漂っている。無論死んだ死神のものだけどな。これを全て一人の人間に注ぎ込むんだ。手順については門外漢だから省くけどな、究極の魔神誕生にはまだ段階を踏む必要があんだとよ」

 カグツチの説明で正人は全てを理解した気がした。

 異能者と死神を争わせる理由。

 ゲームの勝者は神になれるという謳い文句。

 異能者狩りが始まったのと同時に保護されたカタストロフィ。

「じゃああの『全ての人類を超越した“神”になる権利』というのは虚言じゃなかったんだな。それがなくても俺たちは事を起こすつもりだったが」

「そうだ。あの説明に嘘はない。そしてお前さんのそういう振り切れたところが俺は気に入ってる。どっちつかずの人間を魔神にしても面白くないからな」

 正人は立ち上がった。死神に斬られた傷が痛む。

「悪いがあの死神は俺がもらうぞ。レックス」

「駄目だ」

 レックスは相変わらずぶっきらぼうに言い放った。

 彼は言葉には出さないが、過小評価していた敵に深手を負わされたことでプライドが多少なりとも傷付いている。そのせいかいつも以上に口数が少ない。

「伯爵。メンバーの能力強化の話は本当なのか」

「ええできますとも。と、言いますか是非やらせていただきたい! 異能者も大勢死にまして自由にいじれる……失礼。実験に協力してくださる方は少なくなりましたからねえ。ただし、万事に言える話ではありますが、変化には喪失が伴うというもの。皆さま、その覚悟はおありなので?」

「全員覚悟はできている。俺と行動を始めた瞬間にな」

 正人たちは場違いなら場違いなりに、命を懸けて戦いに臨むことにしたのだ。


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 クリークは都庁周辺の死神を一掃すると、辺りに倒れている死神が本当に死んでいるのか剣で突き刺して確かめ始める。
「こんな三下どもじゃいくら殺しても殺したりねえや」
「そうでしょうとも。ヴァルキリー不在で指揮を取る者もおらず、元は限定解除に釣られた死神たちでしたからねえ」
「いきなり出てくるのやめてくんねえ? こえーよ」
 クリークはどこからともなく出現した伯爵に答えながら死体を突き刺し続ける。
 だが声を上げる死神はいない。どれも身体がクリークによって両断され即死しているからだ。
「その辺にしておけよ。俺の方の仕事は終わった。ついでにこれだけ殺せば上々だ」
 臙脂色の狩衣から時折炎を噴き出させながら、カグツチがクリークたちの前方から歩いてきた。
 カグツチと伯爵は示し合わせたかのように頷き、三人同時に転移する。
「だからさあ。出てくるなら出てくる、転移するなら転移するっつってくれよなあ」
 クリークがシャツの裾で剣先を拭いながら不満そうに言った。
「ちょっとぉ~! 拠点に貸すのはいいけど血まみれで返ってくるとかやめてくんない!? どうせあんた掃除なんかしないんだから!」
 クリークの姿を見るなり大声を上げるのはピンクの髪をツインテールにした女、「シニガミ・キリングフィールド」の管理者であるセクレタリー。
 三人が転移したのは都内にあるタワーマンションの最上階。
 セクレタリーの所有する物件の一つである。広々としたリビングに置かれたソファー、そこにクリークが背中から飛び込むように座る。
「ああ~もう! 汚れるって言ってるでしょうが! 首領も漏れてる火、すぐ消して! 警報鳴るから!」
 意に介さないクリークと微笑を浮かべるカグツチ。
 窓際に置かれたテーブルの椅子にはレックスが座っている。
 囮作戦で負った傷はまだ癒えていない様子。
「レックス! お前の言ってた新米死神、いなかったぜ! 俺が殺してやってもよかったんだけどよお」
「不要だ」
 レックスとクリーク。対ヴァルキリーの主戦力。ラグナロクの双璧である。
 彼らはヴァルキリーの支配から脱してはいたが、実のところその権能のほとんどを保持していた。主力としてラグナロクの魔術師によって慎重な調整がされていたからだ。
 それ故、ヴァルキリーに抗いながら強力な死神とも戦うことができた。
 この処置を施せたラグナロクの死神が少ないのは相当のリソースを費やす必要があるからだ。
「やって来るたびに口うるさいやつだな。これから伯爵と次の計画の打ち合わせを始めたいんだが。静かにしてくれないか」
 奥から電動車椅子で現れたのは金髪眼鏡の青年“現代最高の魔術師”ジョシュア・クロウリー。
 死神でも異能者でもない人間である。
 彼は祖父アレイスター・クロウリーが作り出した人造悪魔コロンゾンと契約し、代償として両脚の感覚を失っていた。
「うるさいうるさいうるせーんだよ! 引っ込んでろメガネ!」
 ジョシュアはパラケルススや伯爵と共に権能譲渡の術式を考案したり、ラグナロクの魔術的な支援を担当していた。
 未だに彼らの本拠地がヴァルキリー側に割れていないのは彼の功績があってのことだ。
「|娘々《ニャンニャン》は?」
「まだ寝てますけど。相当ひどくやられたみたいですよぉ」
 カグツチの問いにセクレタリーが答えた。
「犠牲は|腐乱死《フランシス》とロメロだけか。上々だ。よくやってくれたな」
 ゆっくりとソファーにかけながらカグツチはラグナロクのメンバーに告げる。
「しばらく待ちの一手とはなあ。つらいねえ」
 セクレタリーにぶつけられた雑巾で剣の血を拭いながらクリークがぼやいた。
「そうだ。戦力の追加投入を拒むジークルーネは消した。より上位のヴァルキリーが召喚され事態の収拾にあたるだろうな。我々ラグナロクは死神の軍備が整い次第叩き潰す。逆に言えばそれまですることはない」
「より多くの死神を殺すために、か」
 レックスがつぶやくように言った。
「今ヴァルキリーを皆殺しにするのは容易いことだが、奴らにはより多くの戦力を投入してもらう必要がある。時間を作ってやらないとな」
「目的は何だ。死神を絶滅させることか」
 カタストロフィの「リーダー」こと|不破正人《ふわまさと》は自身がいかに場違いな存在であるか理解していた。
 理解していたが問わずにはいられなかった。
 カタストロフィで彼だけがこの空間に居続けることを許されていたのも疑問の一つだ。
「うーん。これはプレイヤーさんには教えられないトップシークレットかも? リークはNGってことで~……」
「いや、教えてやる。俺たちはな、『魔神』を作るつもりだ。今この東京には多数の死神の霊力が漂っている。無論死んだ死神のものだけどな。これを全て一人の人間に注ぎ込むんだ。手順については門外漢だから省くけどな、究極の魔神誕生にはまだ段階を踏む必要があんだとよ」
 カグツチの説明で正人は全てを理解した気がした。
 異能者と死神を争わせる理由。
 ゲームの勝者は神になれるという謳い文句。
 異能者狩りが始まったのと同時に保護されたカタストロフィ。
「じゃああの『全ての人類を超越した“神”になる権利』というのは虚言じゃなかったんだな。それがなくても俺たちは事を起こすつもりだったが」
「そうだ。あの説明に嘘はない。そしてお前さんのそういう振り切れたところが俺は気に入ってる。どっちつかずの人間を魔神にしても面白くないからな」
 正人は立ち上がった。死神に斬られた傷が痛む。
「悪いがあの死神は俺がもらうぞ。レックス」
「駄目だ」
 レックスは相変わらずぶっきらぼうに言い放った。
 彼は言葉には出さないが、過小評価していた敵に深手を負わされたことでプライドが多少なりとも傷付いている。そのせいかいつも以上に口数が少ない。
「伯爵。メンバーの能力強化の話は本当なのか」
「ええできますとも。と、言いますか是非やらせていただきたい! 異能者も大勢死にまして自由にいじれる……失礼。実験に協力してくださる方は少なくなりましたからねえ。ただし、万事に言える話ではありますが、変化には喪失が伴うというもの。皆さま、その覚悟はおありなので?」
「全員覚悟はできている。俺と行動を始めた瞬間にな」
 正人たちは場違いなら場違いなりに、命を懸けて戦いに臨むことにしたのだ。