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第23話 断罪の一撃

ー/ー



 グリムゲルデ軍本営。

 同胞殺しの決闘裁判の準備が進む中、ヘンゼルとグレーテルが一矢に近付き小声で告げた。

「お前、わざわざ僕らの罪を被ってくれるなんて優しいんだな」

「そうね。でもすぐ死ぬわ。お前にあんな分不相応な権能を使いこなせるはずないもの」

 からからと一矢を嘲笑する兄妹。そこにヴァルキリーの声が響く。

「アマガセ・カズヤ。二対一では貴様に分が悪い。もう一人誰か指名しろ。貴様が望むのであれば一人でも構わないが」

「いえ、指名させてください」

 一矢はそういうと周囲を見渡す。ボロボロになり、縮こまっているレッドフードが目に留まる。

「アマガセ。私が出よう」

 助力を申し出た椿に、一矢は首を横に振った。

「これを使え」

 椿は一矢の意図を察し、呆れた顔をして鞘付きのサバイバルナイフを手渡した。

 それを受け取り一矢はレッドフードの下へ歩み寄る。

「カ、カズヤさん……? あの子たち、あなたを殺す気だわ。あの、一緒にヴァルキリーさまに謝りましょう? も、もしかしたら許してくださるかも……」

「君に一緒に戦ってほしい。彼らと友達なのは知ってるけど」

「ダメ……! ダメよ! お友達と戦うなんてわたしできないもの……!」

 必死で否定するレッドフードの目線に合わせ、一矢は語りかける。

「本当に友達なら、過ちは正してあげるべきだと思う。俺だって彼らの命を奪うつもりはないよ」

「でも……! あの子たちがいなくなったらわたし、一人ぼっちに……!」

 かつては一矢の中で恐怖の象徴にも思えたレッドフード。

 孤独に怯える彼女が今は等身大の少女に見えた。

「彼らは君の仲間を殺したんだろ? どんな人だった?」

「えっと……トゥルーデは怖かったし、あの二人とはとっても仲が悪かったわ。けど、殺される理由にはならないのはわたしにだってわかるの。でも、でも……あの子たちには勝てないの! 今は霊力がほとんどないし、わたしの権能だってあの子たちには効かないわ……勝てっこないのよ……」

「俺がどうにかする」

 一矢はレッドフードの力だけに頼って戦うつもりもなかった。

 しかし仲間を利用し、気に食わない者は殺すという彼らの支配に囚われたレッドフード。

 彼女をこのままにしておくことは何か間違っている気がしたのだ。

 さらに言えば、彼女が暴力を振りまくことで認められようとしている原因はあの兄妹にある気がした。

 無策でもない。彼は自身の権能について一つ確信したことがあった。

「俺たちは彼らと決闘するんじゃない。いじわるされた仕返しをするんだ」

「そう……なの?」

「友達ならそのくらいするだろ? さっきのいじわるは度が過ぎてる」

 一矢が手を差し出す。恐る恐る小さな手を伸ばすレッドフード。

「おい。レッドフード! 僕たちを裏切る気か!?」

「そうよ! もう遊んであげないんだから!」

 二人の怒声に近づいてきた手が引っ込む。

「お前たちは口を挟むな。戦うのか、戦わないのか。どちらだ」

 グリムゲルデが二人を黙らせた。

「……本当はわたし、怒ってるの。鈍臭いからいじめられるのはいつものことだけど、トゥルーデを殺したのは許せない。同じ『おとぎ話』(ナーサリー・テール)の仲間なのに……!」

 一度は引っ込めた手が一矢の手を掴む。

「レッドフードは本名じゃないだろ? 君の名前は?」

「……メイジー」

「じゃあやろうメイジー! いじめっ子をやっつけるぞ!」

 一矢がメイジーの手を取り立ち上がった。

「本当に裏切る気か、レッドフード……!」

「そうよ! 今までの恩も忘れて……」

「違う! 裏切ったのはあなたたちじゃない! トゥルーデを殺したくせに!」

 グレーテルを遮りメイジーが叫んだ。

 そこに今まで彼ら相手におどおどしていたレッドフードとしての姿は無かった。

「ああそうかよ。でも忘れてないか? お前たちが負けて罪を被るんだぜ」

「いいや、お前たちは負けて命を弄ぶ罪の重さを知るべきだ」

 そう言いながら一矢の脳裏にスペクトルと彼に操られる弓美の姿がよぎった。

 仮にも死神は世界の管理の一部を請け負った存在である。

 だからこそ世を乱すラグナロクのような存在と戦っているのだ。一矢にとってヘンゼルとグレーテルはその領分を超えた行いをしているように思えた。

「御託はそれまでにしろ。双方、構え」

 ヘンゼルとグレーテル。メイジーと一矢がそれぞれ構える。

「始めよ!」

 グリムゲルデの号令と共に戦いの火蓋が切って落とされる。

 ヘンゼルとグレーテルは魔術師狩りの死神だった。

 伝承通り相手が女の魔術師であればより権能が強くなる。

 メイジーと向かい合うヘンゼルの権能は霊力の奪取。

 魔女が彼を太らせてから喰らうために監禁し食事を与えたが、魔女を騙しその食事で生き延びたことに由来する能力。

 身に宿す霊力を主体に戦う術師戦で特に有効に働く。

 一矢と向かい合うグレーテルの権能は一手先の予知。

 魔女が彼女を焼いて食おうとしていることに気付き、逆に焼き殺したことに由来する能力。

 対術師だけでなく様々な場面で応用が効く。

 メイジーは大バサミを召喚しヘンゼルに斬りかかる。

 が、彼女はレックス戦で権能を使った反動で霊力を大きく消費している。

 さらにそこからヘンゼルの権能で霊力が削られ、動きは緩慢だ。ヘンゼルは最小限の動きで攻撃を避ける。

 一方で一矢も椿のナイフによる連撃で機先を制したように見えた。

 しかしグレーテルに攻撃が当たらないどころか、不自然なまでに行動が潰される。

 一矢が蹴りを交えようとすれば先に足を踏まれ、ナイフを突き出せば狙われた場所を知っていたかのように白刃取りの要領で折ろうとする。

 少女の姿をしているとはいっても数百年生き延びてきた死神である。

 単純な腕力だけでは一矢は敵わない。すんでの所でナイフを折られることだけは避けたが、時折隙を突いて繰り出される攻撃により徐々に体力を削られていく。

 だがそれで十分だった。敵が油断した瞬間にメイジーが武器を召喚し続けてさえいれば。

「メイジー! 貸して!」

 メイジーの手から大バサミが消える。

 どこへ行ったのか? 一矢の手の中だ。

 一矢がそれを手にし、注げるだけの霊力を叩き込み横薙ぎに振るう。

 グレーテルの胴に大バサミによる一撃が直撃する。刃がないとはいえ鉄の塊だ。

 グレーテルは勢いよく吹き飛ばされ木に激突するも、その勢いは衰えずそのまま数本の木を折る。

 彼女には確かにその攻撃が見えていた。

 見えていたが、突然大バサミを手にした一矢の未来を見て何が起こっているのかが理解できずに反応が遅れたのだった。

 それを見てヘンゼルは狼狽えた。未来予知のグレーテルがあろうことか、生まれたての死神に一撃で負けたからだ。彼はあまりの衝撃にメイジーから目を離してしまう。

「ありえな……があっ」

 その顔面にメイジーの右ストレートがめり込んだ。

 仲間を殺した断罪の、そして決別を意味する渾身の一撃が。


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 グリムゲルデ軍本営。
 同胞殺しの決闘裁判の準備が進む中、ヘンゼルとグレーテルが一矢に近付き小声で告げた。
「お前、わざわざ僕らの罪を被ってくれるなんて優しいんだな」
「そうね。でもすぐ死ぬわ。お前にあんな分不相応な権能を使いこなせるはずないもの」
 からからと一矢を嘲笑する兄妹。そこにヴァルキリーの声が響く。
「アマガセ・カズヤ。二対一では貴様に分が悪い。もう一人誰か指名しろ。貴様が望むのであれば一人でも構わないが」
「いえ、指名させてください」
 一矢はそういうと周囲を見渡す。ボロボロになり、縮こまっているレッドフードが目に留まる。
「アマガセ。私が出よう」
 助力を申し出た椿に、一矢は首を横に振った。
「これを使え」
 椿は一矢の意図を察し、呆れた顔をして鞘付きのサバイバルナイフを手渡した。
 それを受け取り一矢はレッドフードの下へ歩み寄る。
「カ、カズヤさん……? あの子たち、あなたを殺す気だわ。あの、一緒にヴァルキリーさまに謝りましょう? も、もしかしたら許してくださるかも……」
「君に一緒に戦ってほしい。彼らと友達なのは知ってるけど」
「ダメ……! ダメよ! お友達と戦うなんてわたしできないもの……!」
 必死で否定するレッドフードの目線に合わせ、一矢は語りかける。
「本当に友達なら、過ちは正してあげるべきだと思う。俺だって彼らの命を奪うつもりはないよ」
「でも……! あの子たちがいなくなったらわたし、一人ぼっちに……!」
 かつては一矢の中で恐怖の象徴にも思えたレッドフード。
 孤独に怯える彼女が今は等身大の少女に見えた。
「彼らは君の仲間を殺したんだろ? どんな人だった?」
「えっと……トゥルーデは怖かったし、あの二人とはとっても仲が悪かったわ。けど、殺される理由にはならないのはわたしにだってわかるの。でも、でも……あの子たちには勝てないの! 今は霊力がほとんどないし、わたしの権能だってあの子たちには効かないわ……勝てっこないのよ……」
「俺がどうにかする」
 一矢はレッドフードの力だけに頼って戦うつもりもなかった。
 しかし仲間を利用し、気に食わない者は殺すという彼らの支配に囚われたレッドフード。
 彼女をこのままにしておくことは何か間違っている気がしたのだ。
 さらに言えば、彼女が暴力を振りまくことで認められようとしている原因はあの兄妹にある気がした。
 無策でもない。彼は自身の権能について一つ確信したことがあった。
「俺たちは彼らと決闘するんじゃない。いじわるされた仕返しをするんだ」
「そう……なの?」
「友達ならそのくらいするだろ? さっきのいじわるは度が過ぎてる」
 一矢が手を差し出す。恐る恐る小さな手を伸ばすレッドフード。
「おい。レッドフード! 僕たちを裏切る気か!?」
「そうよ! もう遊んであげないんだから!」
 二人の怒声に近づいてきた手が引っ込む。
「お前たちは口を挟むな。戦うのか、戦わないのか。どちらだ」
 グリムゲルデが二人を黙らせた。
「……本当はわたし、怒ってるの。鈍臭いからいじめられるのはいつものことだけど、トゥルーデを殺したのは許せない。同じ|『おとぎ話』《ナーサリー・テール》の仲間なのに……!」
 一度は引っ込めた手が一矢の手を掴む。
「レッドフードは本名じゃないだろ? 君の名前は?」
「……メイジー」
「じゃあやろうメイジー! いじめっ子をやっつけるぞ!」
 一矢がメイジーの手を取り立ち上がった。
「本当に裏切る気か、レッドフード……!」
「そうよ! 今までの恩も忘れて……」
「違う! 裏切ったのはあなたたちじゃない! トゥルーデを殺したくせに!」
 グレーテルを遮りメイジーが叫んだ。
 そこに今まで彼ら相手におどおどしていたレッドフードとしての姿は無かった。
「ああそうかよ。でも忘れてないか? お前たちが負けて罪を被るんだぜ」
「いいや、お前たちは負けて命を弄ぶ罪の重さを知るべきだ」
 そう言いながら一矢の脳裏にスペクトルと彼に操られる弓美の姿がよぎった。
 仮にも死神は世界の管理の一部を請け負った存在である。
 だからこそ世を乱すラグナロクのような存在と戦っているのだ。一矢にとってヘンゼルとグレーテルはその領分を超えた行いをしているように思えた。
「御託はそれまでにしろ。双方、構え」
 ヘンゼルとグレーテル。メイジーと一矢がそれぞれ構える。
「始めよ!」
 グリムゲルデの号令と共に戦いの火蓋が切って落とされる。
 ヘンゼルとグレーテルは魔術師狩りの死神だった。
 伝承通り相手が女の魔術師であればより権能が強くなる。
 メイジーと向かい合うヘンゼルの権能は霊力の奪取。
 魔女が彼を太らせてから喰らうために監禁し食事を与えたが、魔女を騙しその食事で生き延びたことに由来する能力。
 身に宿す霊力を主体に戦う術師戦で特に有効に働く。
 一矢と向かい合うグレーテルの権能は一手先の予知。
 魔女が彼女を焼いて食おうとしていることに気付き、逆に焼き殺したことに由来する能力。
 対術師だけでなく様々な場面で応用が効く。
 メイジーは大バサミを召喚しヘンゼルに斬りかかる。
 が、彼女はレックス戦で権能を使った反動で霊力を大きく消費している。
 さらにそこからヘンゼルの権能で霊力が削られ、動きは緩慢だ。ヘンゼルは最小限の動きで攻撃を避ける。
 一方で一矢も椿のナイフによる連撃で機先を制したように見えた。
 しかしグレーテルに攻撃が当たらないどころか、不自然なまでに行動が潰される。
 一矢が蹴りを交えようとすれば先に足を踏まれ、ナイフを突き出せば狙われた場所を知っていたかのように白刃取りの要領で折ろうとする。
 少女の姿をしているとはいっても数百年生き延びてきた死神である。
 単純な腕力だけでは一矢は敵わない。すんでの所でナイフを折られることだけは避けたが、時折隙を突いて繰り出される攻撃により徐々に体力を削られていく。
 だがそれで十分だった。敵が油断した瞬間にメイジーが武器を召喚し続けてさえいれば。
「メイジー! 貸して!」
 メイジーの手から大バサミが消える。
 どこへ行ったのか? 一矢の手の中だ。
 一矢がそれを手にし、注げるだけの霊力を叩き込み横薙ぎに振るう。
 グレーテルの胴に大バサミによる一撃が直撃する。刃がないとはいえ鉄の塊だ。
 グレーテルは勢いよく吹き飛ばされ木に激突するも、その勢いは衰えずそのまま数本の木を折る。
 彼女には確かにその攻撃が見えていた。
 見えていたが、突然大バサミを手にした一矢の未来を見て何が起こっているのかが理解できずに反応が遅れたのだった。
 それを見てヘンゼルは狼狽えた。未来予知のグレーテルがあろうことか、生まれたての死神に一撃で負けたからだ。彼はあまりの衝撃にメイジーから目を離してしまう。
「ありえな……があっ」
 その顔面にメイジーの右ストレートがめり込んだ。
 仲間を殺した断罪の、そして決別を意味する渾身の一撃が。