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第17話 地獄の駐車場

ー/ー



 カタストロフィがもう何度目かもわからない検問を強行突破すると、警察の警戒の薄いエリアにたどり着いた。

 車を乗り換える為に駐車場の広いスーパーマーケットに駐車し、車を降りてそれぞれが一息つこうとしたところ彼らは驚くべきものを見ることになる。

 停められた車を足場にするように飛び跳ね、戦っている者たちがいたのだ。

 何故それまでそれに気付かなかったのか、魔術的な偽装がされていたのだろうか。

 それらは人間の領域を超えたとしか思えない動きで切り結んでいる。異能者として強化された視覚でなければ何が起きているかわからなかっただろう

 死神たちだ。

 白いコートの男の刀が、赤いフードの少女の大バサミとぶつかり合う。

 巨体の屍の男に肩車された赤いチャイナ服の女が、七人の眷属を従えた黒髪の美女と向かい合っている。

 赤いマントを翻しながら刺突剣を突き出す派手な衣装の男と、迫る刺突剣をガラスの靴で弾き返す鋭い足技のドレス姿の女。

 カタストロフィのメンバーも能力を行使するごとに、異能者としての力が強化されていく実感があったが、異能者が一人で太刀打ちできる相手でないことをメンバーのそれぞれが悟る。

「俺たちは誘導されていたのか」

 呆気にとられるメンバーたちの中で最初にリーダーが言葉を発する。

「は? どういうことよ?」

 弓による遠方からの狙撃を防壁で弾きながらシールドが問う。

「つまり、我々が死神たちの戦場に迷いこむように警察を操ることのできる存在がいた?」

「俺はヴァルキリーだと思ってる。クソゲームのトップを見せしめに脱落させるつもりなんだろ」

 マイスターにリーダーが答える。思えばこの駐車場には人影がなかった。

 逃走中に機動隊員から奪った自動小銃を強化しスナイパーが撃ち返すが、次に放たれた矢が放つ衝撃波により弾道が逸らされる。

 アサシンが首を横に振る。

 この男は生来話すことができない。不意打ちをする隙がないと言いたいらしい。

「やあやあチーム・カタストロフィの諸君。酷い場所に迷い込んでしまいましたねえ。いや、もしかしたら誘い込まれたと既に気付きましたか?」

 防壁をわざとらしくノックして挨拶をするのは黒い軍服姿の男。その片目は眼帯で隠されていた。

「一応聞いておくがお前はどっちの死神だ」

 リーダーが防壁を強化するようにシールドに目配せする。

「どっちも何も。全ての死神はヴァルキリー・ジークルーネ閣下の支配下にあるのが自然の道理というもの。AもB(アーもベー)も、表も裏もありませんよ」

 これ以上戦場にいる必要はないと判断したカタストロフィのメンバーは、一斉に車に乗り込み駐車場を後にしようとする。

「まずはその厄介な防壁から潰します」

 男が眼帯を外すと、紫色の妖しい光を放つ目が隠されていた。魔眼である。

 シールドはその光を直視し、車に乗り込む体勢のまま倒れそうになる。咄嗟にスナイパーが車内に引きずり込むが、シールドの意識がない。

「ドクター! 治せるか!?」

「今やってる!」

 ドクターはシールドの意識を回復させようと能力を発現させている。

 彼女は無意識でも防壁が張れるほどに能力を理解し、強化していたが、確実にその強度は弱まった。

 リーダーは眼帯男を轢き殺すつもりで車を急発進させるが、難なく飛び越えられてしまった。

 前方に停まった車に直撃するが防壁が衝撃を緩和する。

 防壁が機能している間にこの戦場を脱出しなければならない。そう確信したリーダーは駐車場を出るべく車を再発進させる。

 次の瞬間、弱まった防壁を矢が貫通し、左の前輪がパンクする。

 が、リーダーは意に介さず車を前進させ続ける。

 すると突然前方に黒い上着の死神が出現し、白い手袋をした手で切っ先の無い斬首剣を構える。

 ドイツ式処刑人の正装をした死神。

(斬られる……!)

 本能で防壁が持たないことを感じ取るリーダー。

 だが進路を変えればそこは死神同士が争う戦場の真っ只中。リーダーは直進を選択し、処刑人姿の死神に突撃する。

 死神が斬首剣を一振りすると防壁が崩れ落ちた。

 リーダーとマイスターは一斉に拳銃で銃撃を開始する。効果を期待していたわけではないが、打つ手はそれくらいしかない。

 カタストロフィの車が進まない。

 死神が片足で車を押さえつけているのだ。

 左の後輪が狙撃により破裂する。リーダーはスナイパーに弓矢の狙撃手の対応をさせつつ、アサシンと共に白兵戦に移行しようとする。

「判断が早いのはいいことですが、無謀では?」

 魔眼の死神がゆっくりと近づきながら言った。

 その手には背後から彼を突き刺そうとしたアサシンの腕が掴まれている。魔眼の死神は余裕の笑みを浮かべると、アスファルトにアサシンを叩きつけた。

 リーダーの眼前には処刑人が迫る。彼はサバイバルナイフを抜いて構える。

 この破滅の瞬間、リーダーは過去最高に生を実感していた。

 幸せにも感じた。そう感じる自分が意外だった。

 だがその至福の時間は突然終わった。

 目の前の死神に赤い何かが直撃したのだ。横合いに弾かれる処刑人。

 へこんだボンネットから起き上がった処刑人が片手にぶら下げるのは死神レッドフード。

 レッドフードと斬り合っていた白いコートの男が、リーダーの目の前に立っていた。

「“首切り”ライヒハート、お前がこいつらの処刑人か?」

 容赦なく斬りかかりながら問う白コート。

 ライヒハートと呼ばれた死神はレッドフードを突き出して盾にしようとする。

 泣きながら大バサミで剣を受け止めるレッドフード。

「退きましょうライヒハート。しかし、『おとぎ話(ナーサリー・テール)』も存外大した事ないですねえ」

「いいのか将校(オフィツィア)。戦況はこちらが有利なようだが」

「そんなものこの男一人でいくらでもひっくり返りますよ」

 オフィツィアと呼ばれた魔眼の死神が白コートの死神を指差して言った。

 転移により次々と退去するヴァルキリー側の死神たち。

「俺はラグナロクのレックス。カタストロフィ。お前たちを助けに来た」

 白いコートの死神、レックスはそう告げた。


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 カタストロフィがもう何度目かもわからない検問を強行突破すると、警察の警戒の薄いエリアにたどり着いた。
 車を乗り換える為に駐車場の広いスーパーマーケットに駐車し、車を降りてそれぞれが一息つこうとしたところ彼らは驚くべきものを見ることになる。
 停められた車を足場にするように飛び跳ね、戦っている者たちがいたのだ。
 何故それまでそれに気付かなかったのか、魔術的な偽装がされていたのだろうか。
 それらは人間の領域を超えたとしか思えない動きで切り結んでいる。異能者として強化された視覚でなければ何が起きているかわからなかっただろう
 死神たちだ。
 白いコートの男の刀が、赤いフードの少女の大バサミとぶつかり合う。
 巨体の屍の男に肩車された赤いチャイナ服の女が、七人の眷属を従えた黒髪の美女と向かい合っている。
 赤いマントを翻しながら刺突剣を突き出す派手な衣装の男と、迫る刺突剣をガラスの靴で弾き返す鋭い足技のドレス姿の女。
 カタストロフィのメンバーも能力を行使するごとに、異能者としての力が強化されていく実感があったが、異能者が一人で太刀打ちできる相手でないことをメンバーのそれぞれが悟る。
「俺たちは誘導されていたのか」
 呆気にとられるメンバーたちの中で最初にリーダーが言葉を発する。
「は? どういうことよ?」
 弓による遠方からの狙撃を防壁で弾きながらシールドが問う。
「つまり、我々が死神たちの戦場に迷いこむように警察を操ることのできる存在がいた?」
「俺はヴァルキリーだと思ってる。クソゲームのトップを見せしめに脱落させるつもりなんだろ」
 マイスターにリーダーが答える。思えばこの駐車場には人影がなかった。
 逃走中に機動隊員から奪った自動小銃を強化しスナイパーが撃ち返すが、次に放たれた矢が放つ衝撃波により弾道が逸らされる。
 アサシンが首を横に振る。
 この男は生来話すことができない。不意打ちをする隙がないと言いたいらしい。
「やあやあチーム・カタストロフィの諸君。酷い場所に迷い込んでしまいましたねえ。いや、もしかしたら誘い込まれたと既に気付きましたか?」
 防壁をわざとらしくノックして挨拶をするのは黒い軍服姿の男。その片目は眼帯で隠されていた。
「一応聞いておくがお前はどっちの死神だ」
 リーダーが防壁を強化するようにシールドに目配せする。
「どっちも何も。全ての死神はヴァルキリー・ジークルーネ閣下の支配下にあるのが自然の道理というもの。|AもB《アーもベー》も、表も裏もありませんよ」
 これ以上戦場にいる必要はないと判断したカタストロフィのメンバーは、一斉に車に乗り込み駐車場を後にしようとする。
「まずはその厄介な防壁から潰します」
 男が眼帯を外すと、紫色の妖しい光を放つ目が隠されていた。魔眼である。
 シールドはその光を直視し、車に乗り込む体勢のまま倒れそうになる。咄嗟にスナイパーが車内に引きずり込むが、シールドの意識がない。
「ドクター! 治せるか!?」
「今やってる!」
 ドクターはシールドの意識を回復させようと能力を発現させている。
 彼女は無意識でも防壁が張れるほどに能力を理解し、強化していたが、確実にその強度は弱まった。
 リーダーは眼帯男を轢き殺すつもりで車を急発進させるが、難なく飛び越えられてしまった。
 前方に停まった車に直撃するが防壁が衝撃を緩和する。
 防壁が機能している間にこの戦場を脱出しなければならない。そう確信したリーダーは駐車場を出るべく車を再発進させる。
 次の瞬間、弱まった防壁を矢が貫通し、左の前輪がパンクする。
 が、リーダーは意に介さず車を前進させ続ける。
 すると突然前方に黒い上着の死神が出現し、白い手袋をした手で切っ先の無い斬首剣を構える。
 ドイツ式処刑人の正装をした死神。
(斬られる……!)
 本能で防壁が持たないことを感じ取るリーダー。
 だが進路を変えればそこは死神同士が争う戦場の真っ只中。リーダーは直進を選択し、処刑人姿の死神に突撃する。
 死神が斬首剣を一振りすると防壁が崩れ落ちた。
 リーダーとマイスターは一斉に拳銃で銃撃を開始する。効果を期待していたわけではないが、打つ手はそれくらいしかない。
 カタストロフィの車が進まない。
 死神が片足で車を押さえつけているのだ。
 左の後輪が狙撃により破裂する。リーダーはスナイパーに弓矢の狙撃手の対応をさせつつ、アサシンと共に白兵戦に移行しようとする。
「判断が早いのはいいことですが、無謀では?」
 魔眼の死神がゆっくりと近づきながら言った。
 その手には背後から彼を突き刺そうとしたアサシンの腕が掴まれている。魔眼の死神は余裕の笑みを浮かべると、アスファルトにアサシンを叩きつけた。
 リーダーの眼前には処刑人が迫る。彼はサバイバルナイフを抜いて構える。
 この破滅の瞬間、リーダーは過去最高に生を実感していた。
 幸せにも感じた。そう感じる自分が意外だった。
 だがその至福の時間は突然終わった。
 目の前の死神に赤い何かが直撃したのだ。横合いに弾かれる処刑人。
 へこんだボンネットから起き上がった処刑人が片手にぶら下げるのは死神レッドフード。
 レッドフードと斬り合っていた白いコートの男が、リーダーの目の前に立っていた。
「“首切り”ライヒハート、お前がこいつらの処刑人か?」
 容赦なく斬りかかりながら問う白コート。
 ライヒハートと呼ばれた死神はレッドフードを突き出して盾にしようとする。
 泣きながら大バサミで剣を受け止めるレッドフード。
「退きましょうライヒハート。しかし、『|おとぎ話《ナーサリー・テール》』も存外大した事ないですねえ」
「いいのか|将校《オフィツィア》。戦況はこちらが有利なようだが」
「そんなものこの男一人でいくらでもひっくり返りますよ」
 オフィツィアと呼ばれた魔眼の死神が白コートの死神を指差して言った。
 転移により次々と退去するヴァルキリー側の死神たち。
「俺はラグナロクのレックス。カタストロフィ。お前たちを助けに来た」
 白いコートの死神、レックスはそう告げた。