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第2話 スペクトル襲撃

ー/ー



 セーラー服の少女、つぐみが席を立ち、事務所の奥へ向かう。

「じゃあそろそろ“共喰いツバキ”の仕事の準備をはじめましょー」

「つぐみ、黙れ」

 事務所の隅にある金庫をつぐみが開け、無数の銃器が現れる。

 椿とつぐみは銃器を一矢の前の机に並べる。

「……死神と戦うための武器、ですか?」

「ええ。私は死神ではありますが便利な能力を持ち合わせておりませんので。これらで死神に対応します。銃が通用するようにするのが私の得意分野ですから」

 そして机に並べられた銃器の中でも一際大きなショットガンを手に取り、彼に手渡そうとした。

「俺も一緒に戦うんですか……?」

「それが得策かと。今まで奴を無為に追ってきたわけではありませんから、奴の思考は手に取るようにわかります。今度こそ仕留めます」

 椿が銃を手にして宣言した。

「今度こそ? 一体そのスペクトルとか言う奴とどういう関係なんですか?」

「質問の多いクライアントだ。かつての依頼人を殺した男と、その探偵。それだけです」

(このままおとなしくしていても姉さんに殺されて、しかも俺も悪霊にされて親しい人物を手にかけることになる。そんなことは絶対に嫌だ……!)

 一矢は覚悟を決め、ショットガンを受け取った。ずしりとした重みに、命を預ける安心感を覚える。

「どういう手はずで敵と戦うんですか」

「奴の『こだわり』を利用します」

「こだわり…?」

 敵の死神にどんながこだわりあって、それがどう自身の生存に繋がるのか。

 全く理解が追いつかない一矢は思わず聞き返す。

「死神は狩りの形にこだわり、長く生きるほどそのやり方を貫き通します。そしてスペクトルのこだわりは『獲物が死ぬのを見届ける』こと。あなたには囮になっていただき、霊を引きつけて奴を呼び出してもらいます」

「……これでそのスペクトルを殺せってことですか?」

 ショットガンを握りしめた一矢の手のひらが汗ばむ。

「違います。その銃は霊から身を守る自衛用です。霊があなたを殺せる間合いに入ったら撃ってください。そしてスペクトルが現れるのを見計らって奴から遠ざけます。」

「じゃあ、スペクトルがそのこだわりを守らない可能性は?」

「ありません。千年近く狩りをしてきた者が突然そのやり方を変えることはないでしょう。私も三百年、死神として狩りを続けてきたからこそ、その習性を熟知しています」

 椿の鋭い眼光がその過去を物語るようで、一矢に有無を言わさない説得力を与える。

「……わかりました。言う通りにします。でもその代わり絶対助けてください。俺のこと。……報酬が俺の命とか言わないでくださいね」

 自身が支払う報酬について一矢が探るように触れる。

「絶対の保証はできませんが、努力しましょう。それと確かに報酬はいただくと申し上げました。が、想像上の死神は一旦頭から消した方がいい」

 弓美を解放したい気持ちもあるが、自分が助かるために命を取られては元も子もない。

 一矢はその言葉を聞き一安心した。

「では早速私は仕掛けに出かけます。銃の操作方法はつぐみに聞いて下さい」

「出かけるって、どこへ……?」

「スペクトルをおびき出す我々のホームへですよ。私の所有地で大がかりな準備を行います」



 その夜。いつもの時間。包丁でドアを削る音が響く。

 椿の種明かしで、弓美の霊は一矢を恐怖させ、絶望させ、悪霊に堕とす目的だとわかった。

 すぐに刺し殺すことはない……と信じるしかない。

「恐れるな……奴が来るまで耐えろ……」

 だが、穴の開いたドアから見える青白い死人の顔は、怒りでゆがんでいるようだ。

 ドアが壊れ始めてから、弓美の包丁にこもる力は強くなっているように思えた。

 穴が大きくなり、木片が落ちる。弓美の上半身が勢いで部屋に入った。

(今だ!)

 一矢は震える手で、対魔仕様の弾丸が装填されているショットガンを構えた。

「……姉さん。ごめん」

 ドアごと後方に吹き飛ぶ弓美の霊。

「かずや……かずやかずやかずや」

 弓美がうわ言のように繰り返す。

 否、主の操作により恐怖を与える言葉しか話せないようになっているのだ。

「……これは? 最後の障壁を破ったことまでは確認したのですが。とんだ番狂わせもあったものですね」

 いつの間にか部屋に現れていたのは、真夏にも関わらず革のロングコートを着込んだ細身の人物。

 声からして男。乱れた長髪が特徴的で、顔は鼻から下が黒い布で覆われている。

「お前か……! ドクトゥール・スペクトル……!」

「おやおや。既に死んでいるはずの人間が生きていて、自由意志によって言葉を発している。これはよくない。よくないですよ。誤りは、正さねば」

 霊を狩る死神、ドクトゥール・スペクトル。

 その死神は嘲りを隠しきれない声を発し、コートに隠れていた右腕を構える。

 五指にはそれぞれ鋭利な爪が伸びた金属の指輪がはめられ、一矢の心臓を狙っていた。

 一矢は咄嗟にショットガンを構えるが、遅い。

 一矢に向かって死の爪が突き出された瞬間。窓をぶち破り乱入してきた存在がいた。

 スペクトルは直撃の瞬間に身を翻し、とっさに距離を取る。

 一方で部屋に突っ込んで来た漆黒の影、つぐみは一矢の手を取り、引きずるようにして窓から飛び降りる。

「わああ、ああ!!」

「口閉じて! 舌噛んじゃう!」

 即座につぐみのセーラー服の襟から、彼女の全身と同じ黒色の大きな両翼が展開し、勢いよく飛翔するつぐみ。

 これこそ一矢の身を挺した陽動作戦。これこそがスペクトルを倒すため椿が考案した秘策だった。


次のエピソードへ進む 第3話 椿響子という女


みんなのリアクション

 セーラー服の少女、つぐみが席を立ち、事務所の奥へ向かう。
「じゃあそろそろ“共喰いツバキ”の仕事の準備をはじめましょー」
「つぐみ、黙れ」
 事務所の隅にある金庫をつぐみが開け、無数の銃器が現れる。
 椿とつぐみは銃器を一矢の前の机に並べる。
「……死神と戦うための武器、ですか?」
「ええ。私は死神ではありますが便利な能力を持ち合わせておりませんので。これらで死神に対応します。銃が通用するようにするのが私の得意分野ですから」
 そして机に並べられた銃器の中でも一際大きなショットガンを手に取り、彼に手渡そうとした。
「俺も一緒に戦うんですか……?」
「それが得策かと。今まで奴を無為に追ってきたわけではありませんから、奴の思考は手に取るようにわかります。今度こそ仕留めます」
 椿が銃を手にして宣言した。
「今度こそ? 一体そのスペクトルとか言う奴とどういう関係なんですか?」
「質問の多いクライアントだ。かつての依頼人を殺した男と、その探偵。それだけです」
(このままおとなしくしていても姉さんに殺されて、しかも俺も悪霊にされて親しい人物を手にかけることになる。そんなことは絶対に嫌だ……!)
 一矢は覚悟を決め、ショットガンを受け取った。ずしりとした重みに、命を預ける安心感を覚える。
「どういう手はずで敵と戦うんですか」
「奴の『こだわり』を利用します」
「こだわり…?」
 敵の死神にどんながこだわりあって、それがどう自身の生存に繋がるのか。
 全く理解が追いつかない一矢は思わず聞き返す。
「死神は狩りの形にこだわり、長く生きるほどそのやり方を貫き通します。そしてスペクトルのこだわりは『獲物が死ぬのを見届ける』こと。あなたには囮になっていただき、霊を引きつけて奴を呼び出してもらいます」
「……これでそのスペクトルを殺せってことですか?」
 ショットガンを握りしめた一矢の手のひらが汗ばむ。
「違います。その銃は霊から身を守る自衛用です。霊があなたを殺せる間合いに入ったら撃ってください。そしてスペクトルが現れるのを見計らって奴から遠ざけます。」
「じゃあ、スペクトルがそのこだわりを守らない可能性は?」
「ありません。千年近く狩りをしてきた者が突然そのやり方を変えることはないでしょう。私も三百年、死神として狩りを続けてきたからこそ、その習性を熟知しています」
 椿の鋭い眼光がその過去を物語るようで、一矢に有無を言わさない説得力を与える。
「……わかりました。言う通りにします。でもその代わり絶対助けてください。俺のこと。……報酬が俺の命とか言わないでくださいね」
 自身が支払う報酬について一矢が探るように触れる。
「絶対の保証はできませんが、努力しましょう。それと確かに報酬はいただくと申し上げました。が、想像上の死神は一旦頭から消した方がいい」
 弓美を解放したい気持ちもあるが、自分が助かるために命を取られては元も子もない。
 一矢はその言葉を聞き一安心した。
「では早速私は仕掛けに出かけます。銃の操作方法はつぐみに聞いて下さい」
「出かけるって、どこへ……?」
「スペクトルをおびき出す我々のホームへですよ。私の所有地で大がかりな準備を行います」
 その夜。いつもの時間。包丁でドアを削る音が響く。
 椿の種明かしで、弓美の霊は一矢を恐怖させ、絶望させ、悪霊に堕とす目的だとわかった。
 すぐに刺し殺すことはない……と信じるしかない。
「恐れるな……奴が来るまで耐えろ……」
 だが、穴の開いたドアから見える青白い死人の顔は、怒りでゆがんでいるようだ。
 ドアが壊れ始めてから、弓美の包丁にこもる力は強くなっているように思えた。
 穴が大きくなり、木片が落ちる。弓美の上半身が勢いで部屋に入った。
(今だ!)
 一矢は震える手で、対魔仕様の弾丸が装填されているショットガンを構えた。
「……姉さん。ごめん」
 ドアごと後方に吹き飛ぶ弓美の霊。
「かずや……かずやかずやかずや」
 弓美がうわ言のように繰り返す。
 否、主の操作により恐怖を与える言葉しか話せないようになっているのだ。
「……これは? 最後の障壁を破ったことまでは確認したのですが。とんだ番狂わせもあったものですね」
 いつの間にか部屋に現れていたのは、真夏にも関わらず革のロングコートを着込んだ細身の人物。
 声からして男。乱れた長髪が特徴的で、顔は鼻から下が黒い布で覆われている。
「お前か……! ドクトゥール・スペクトル……!」
「おやおや。既に死んでいるはずの人間が生きていて、自由意志によって言葉を発している。これはよくない。よくないですよ。誤りは、正さねば」
 霊を狩る死神、ドクトゥール・スペクトル。
 その死神は嘲りを隠しきれない声を発し、コートに隠れていた右腕を構える。
 五指にはそれぞれ鋭利な爪が伸びた金属の指輪がはめられ、一矢の心臓を狙っていた。
 一矢は咄嗟にショットガンを構えるが、遅い。
 一矢に向かって死の爪が突き出された瞬間。窓をぶち破り乱入してきた存在がいた。
 スペクトルは直撃の瞬間に身を翻し、とっさに距離を取る。
 一方で部屋に突っ込んで来た漆黒の影、つぐみは一矢の手を取り、引きずるようにして窓から飛び降りる。
「わああ、ああ!!」
「口閉じて! 舌噛んじゃう!」
 即座につぐみのセーラー服の襟から、彼女の全身と同じ黒色の大きな両翼が展開し、勢いよく飛翔するつぐみ。
 これこそ一矢の身を挺した陽動作戦。これこそがスペクトルを倒すため椿が考案した秘策だった。