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第1話 クロノスの使徒

ー/ー



 ぼくは膝をついて、深呼吸をした。
 疲れ果てていた。
 ——ひどく、ひどく、疲れ果てていた。

 目の前に、倒さなければならない相手であるグリューンがいるのに、顔をあげることすら、できない。
 槍を握る手も、握力が半ば、消えてしまっている。
 全身、傷だらけで、血も流れている。

 かすり傷や軽傷がほとんどであるものの、体を動かすと痛みが走り抜けていく。
 それに、死の恐怖が、ぼくの脚をすくませる。

 ぼくには、ずっと過去に一度、死にかけている。
 アカネを救うために、捨て身の行動をして、瀕死となってしまったようだ。
 その時は、アカネの父親、アカツキによって命を救われているのだが、それを思い出すと、ここから逃げ出したくなってしまう。

 あぁ——でも!
 やらなきゃ……。

 額から血が流れ落ちてきた。
 ぼくは、それを上衣の袖で拭いながら、舞台のはじっこにいる、ふたりを見た。

 アカネとチカが——両手を広げた状態で、磔にされてしまっている。
 気絶しているのか、どちらも目を閉ざしている。

「まだ、わしを招魂獣(しょうこんじゅう)と思うぞな? のぉ、坊よ」
 グリューンが声をかけてくる。

「しつこいね。だって、こんな塔の奥深いところにいるんだから、グリューンを招魂獣と勘違いしても、仕方ないでしょ」
「ふふ——そうか。それと、わしのことは、グリューンさま、と呼ぶようにな」
「……なんか、ズルくないかな。ぼくは名無しなのに、そっちはさま付けで呼べなんてさ。それとも、呼ばなかったら、天賦は与えてくれない、ってつもり?」

 ぼくはグリューンを改めて、見上げた
 彼女は女性ながら、ぼくよりずっと背が高い。
 まぁ……もともと、ぼくの背が低いってことはあるんだけどね。

「——そこまでは、言わぬ。ただ、礼節というものぞえよの。わしはそなたに戦いの技を叩き込んでおるのじゃからな。グリューンさま先生、でもいいぞえ」
 からかわれているのだろう。
 それが、とても悔しい……。

 ぼくは、”屠るもの”を手にして、やっと立ち上がった。
 今は意識がないのかもしれないけど、アカネやチカに情けないと思われるようなことはしちゃいけない。

 ”屠るもの”は、グリューンによると、古代に鍛えられた優れた武器らしい。
 石突にも小さな穂先はあるが、反対側には、炎みたいに、大きな波を打っているような、槍の穂先が突き出しているのが特徴だ。
 命中すれば、かなりのダメージを与えられそうなんだけど、ぼくの実力ではどうにも、グリューンさまの身体に当たりそうにない。

 一方のグリューンさまは、尖端が三叉に分かれた、長柄の武器を手にしていた。
 ぼくが使っている槍は、”屠るもの”で、グリューンさまが手にしている長柄武器は”鉄扇の意思”という名前らしい。

「そろそろ、休憩時間は終わりじゃ。いくぞ——」
 グリューンさまから、仕掛けてくる。

 激しい突きから、薙ぎ払い、斬撃、そして、また、突き、突き、突き。
 鋭い攻撃の連続に、受けるのが精一杯だ。
「ほれ! どうした。わしに一撃を与えるだけじゃぞ。脚も止まっておるのぉ」

 グリューンさまの攻撃の速度は、かなりのものだ。
 ぼくの背後を取り、後ろから攻撃してきたり、正面に立ったかと思ったら、今度は空中から飛来して、”鉄扇の意思”を振り下ろしてくる。

「うぉっ!」
 床を転がりながら、ぼくは何とか、致命的な一撃は受けないようにするのが精一杯だ。
 歯噛みしつつも、ぼくは何とかグリューンの隙を見つけようとする。
 しかし——。

 足元を狙われ、ぼくは”鉄扇の意思”の穂先を回避しようとする。
 が、グリューンさまは、床を”鉄扇の意思”で突き、そこを起点にして、ジャンプをした。

 ——めちゃ、高いジャンプだ。
 そして、空中から”鉄扇の意思”を振り下ろしてくる。
 だめだ——今度は避けられない。

 斧刃が、迫ってくるのが、見えた。
 そして、ぼくの胸を斧刃が無慈悲に切り裂いた。
 熱さではなく、冷たさを感じた。

 それから、傷跡に沿って、熱さが走り抜けていく。
 致命的な一撃を受けて、ぼくは床に転がった。
 意識が遠のいていく。

 ——あぁ、今回もダメだったみたい……。
 指の先から、”屠るもの”が舞台の上を転がっていくのを感じる。
 ぼくはゆっくりと、目を閉ざした。


次のエピソードへ進む 第2話 塔の探索、はじまり!


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 ぼくは膝をついて、深呼吸をした。
 疲れ果てていた。
 ——ひどく、ひどく、疲れ果てていた。
 目の前に、倒さなければならない相手であるグリューンがいるのに、顔をあげることすら、できない。
 槍を握る手も、握力が半ば、消えてしまっている。
 全身、傷だらけで、血も流れている。
 かすり傷や軽傷がほとんどであるものの、体を動かすと痛みが走り抜けていく。
 それに、死の恐怖が、ぼくの脚をすくませる。
 ぼくには、ずっと過去に一度、死にかけている。
 アカネを救うために、捨て身の行動をして、瀕死となってしまったようだ。
 その時は、アカネの父親、アカツキによって命を救われているのだが、それを思い出すと、ここから逃げ出したくなってしまう。
 あぁ——でも!
 やらなきゃ……。
 額から血が流れ落ちてきた。
 ぼくは、それを上衣の袖で拭いながら、舞台のはじっこにいる、ふたりを見た。
 アカネとチカが——両手を広げた状態で、磔にされてしまっている。
 気絶しているのか、どちらも目を閉ざしている。
「まだ、わしを|招魂獣《しょうこんじゅう》と思うぞな? のぉ、坊よ」
 グリューンが声をかけてくる。
「しつこいね。だって、こんな塔の奥深いところにいるんだから、グリューンを招魂獣と勘違いしても、仕方ないでしょ」
「ふふ——そうか。それと、わしのことは、グリューンさま、と呼ぶようにな」
「……なんか、ズルくないかな。ぼくは名無しなのに、そっちはさま付けで呼べなんてさ。それとも、呼ばなかったら、天賦は与えてくれない、ってつもり?」
 ぼくはグリューンを改めて、見上げた
 彼女は女性ながら、ぼくよりずっと背が高い。
 まぁ……もともと、ぼくの背が低いってことはあるんだけどね。
「——そこまでは、言わぬ。ただ、礼節というものぞえよの。わしはそなたに戦いの技を叩き込んでおるのじゃからな。グリューンさま先生、でもいいぞえ」
 からかわれているのだろう。
 それが、とても悔しい……。
 ぼくは、”屠るもの”を手にして、やっと立ち上がった。
 今は意識がないのかもしれないけど、アカネやチカに情けないと思われるようなことはしちゃいけない。
 ”屠るもの”は、グリューンによると、古代に鍛えられた優れた武器らしい。
 石突にも小さな穂先はあるが、反対側には、炎みたいに、大きな波を打っているような、槍の穂先が突き出しているのが特徴だ。
 命中すれば、かなりのダメージを与えられそうなんだけど、ぼくの実力ではどうにも、グリューンさまの身体に当たりそうにない。
 一方のグリューンさまは、尖端が三叉に分かれた、長柄の武器を手にしていた。
 ぼくが使っている槍は、”屠るもの”で、グリューンさまが手にしている長柄武器は”鉄扇の意思”という名前らしい。
「そろそろ、休憩時間は終わりじゃ。いくぞ——」
 グリューンさまから、仕掛けてくる。
 激しい突きから、薙ぎ払い、斬撃、そして、また、突き、突き、突き。
 鋭い攻撃の連続に、受けるのが精一杯だ。
「ほれ! どうした。わしに一撃を与えるだけじゃぞ。脚も止まっておるのぉ」
 グリューンさまの攻撃の速度は、かなりのものだ。
 ぼくの背後を取り、後ろから攻撃してきたり、正面に立ったかと思ったら、今度は空中から飛来して、”鉄扇の意思”を振り下ろしてくる。
「うぉっ!」
 床を転がりながら、ぼくは何とか、致命的な一撃は受けないようにするのが精一杯だ。
 歯噛みしつつも、ぼくは何とかグリューンの隙を見つけようとする。
 しかし——。
 足元を狙われ、ぼくは”鉄扇の意思”の穂先を回避しようとする。
 が、グリューンさまは、床を”鉄扇の意思”で突き、そこを起点にして、ジャンプをした。
 ——めちゃ、高いジャンプだ。
 そして、空中から”鉄扇の意思”を振り下ろしてくる。
 だめだ——今度は避けられない。
 斧刃が、迫ってくるのが、見えた。
 そして、ぼくの胸を斧刃が無慈悲に切り裂いた。
 熱さではなく、冷たさを感じた。
 それから、傷跡に沿って、熱さが走り抜けていく。
 致命的な一撃を受けて、ぼくは床に転がった。
 意識が遠のいていく。
 ——あぁ、今回もダメだったみたい……。
 指の先から、”屠るもの”が舞台の上を転がっていくのを感じる。
 ぼくはゆっくりと、目を閉ざした。