みやびとのデート。いつものように彼女が選んだ映画を見た。
戦闘種族の異星人がとある惑星にて赴き、そこに居たアンドロイドと利害が一致し、即興で相棒として共に狩りを行うというものだ。シリーズものらしいが、初見でも問題なく楽しめた。今作はゴア的表現も少ないらしく、みやび曰く「スプラッター映画が苦手な人にもお勧めできる良作だったね」らしいが、そういった人間ははなからこのジャンルの映画は見ないと思うんだが野暮なツッコミはしないでおく。
映画自体は問題なく面白かった。戦闘民族である主人公に芽生えた自我。そして成長。アクション映画としても完成度は高かった。
映画のパンフレットを購入するために売店へと向かう。それに半券を挟み込み残しておく習慣が出来た。殺風景だった俺の部屋が彼女との思い出で彩られていく。
それがなんとなく気恥ずかしくもあるが、愉悦を覚える。
売店で会計を終えるとみやびがカプセルトイコーナーに気を取られたようだ。どうやら、かねてから欲しかったものが仕入れられたいるらしい。
だが、意気揚々と鞄から小銭入れを取り出したものの何故か躊躇っているようだ。
小銭が無いのだろうか? と聞いてみたがそうではないらしい。なら他に何が問題なのだろうか。欲しいのなら迷わず回せばいいのに。
俺に何かできる事は無いのだろうかと思い、彼女を見つめていたら意を決したように金を入れハンドルを回した。ガチャガチャと小気味いい音がしたかと思うと、景品が落ちたようで取り出し口に手を入れカプセルを取り出した。手慣れた様子でそれを開けたかと思うと、次の瞬間には「なんで!?」と怒りとも戸惑いとも取れる声が辺りに響いた。
店員が訝し気にこちらに視線を送ってきたので、片手をあげ「騒がしくしてすまない」と謝罪のジェスチャーを返す。するとこちらの意思が通じたようで、自分の業務へと戻っていった。
「欲しいものでは無かった?」
彼女の反応からなんとなくわかったが、念のため聞いてみる。
「そうだね。……というか、こんな種類の鮫があっただなんて驚いちゃったよ」
みやびの手の中にある小さなフィギュアを見る。架空の生き物ではないのか? と思うくらいに個性的な鮫だ。どうやって食事をしてるのだろうかと思う口。どうやら「ヘリコプリオン」という名称の古代鮫らしい。そうみやびが教えてくれた。まるで知らなかった。というか、よく知っているな。映画に出てくる鮫以外にも詳しいその知識には恐れ入る。
なぜそんなにサメが好きなんだ。
みやびから渡されたそのヘリコプリオンというサメのフィギュアをしげしげと見ている間に、続けて2回目を回したようだ。
だが、次の物も目当ての鮫ではなかったようだ。期待に胸を膨らませながらカプセルを開けたかと思うと、がっくりと肩を落としている。そのころころと変わる表情も含めて見ていて飽きない。
「……ハンマーヘッドシャーク」
その結果が納得いかなかったのか、しきりに「なんで?」と呟いている。
俺はあまりこういったものは詳しくないが、ミニブックによると全8種類+αか。それが多いのか少ないのか判断がつかないが、欲しいものは中々出ないだろうなとは思う。
こういったランダム商法は好かない。物欲が薄い方だとよく言われるが、例え欲しいものがあったとしてもこういった自分で選べないのならすぐに諦めてしまう。
だが、みやびが欲しがっているのなら何とかしてやりたい。ふと思ったが、何が欲しいのだろうか。ミニブックを見ても、個性的な鮫ぞろいで彼女が欲しがる種類はまるで見当がつかない。
というか、顎が異常に突き出ているものや、やたらと大きい口のサメなど、想像上の生き物ではないのかと疑いたくなる種類ばかりだ。種類が豊富だな、鮫。
……どういうラインナップだ。鮫好きには変わり者が多いな。
ミニブックを見ていても彼女が狙っている物が結局わからずに「どれが欲しいんだ?」と聞くが、意外にも「え。それは言えないよ」という返答が返ってきた。
言えない? 何故だろうと困惑する俺に「物欲センサー」なるものを説明してくれた。よくわからなかったが「口に出すと欲しい物が出にくくなる」らしい。機械が人の脳波や会話を読み取るわけはないだろうと思ったが、そういえば寮内でもゲームをプレイしていてそういう話をしている連中が居るな。なんでも「下位素材が欲しい時に限って確率が低いレア素材が出る」だとかなんだとか。レアなものが出るのならそれはそれでいいのでは? と思うが、そういう単純な話ではないらしい。
俺が思案に暮れている間も、みやびは財布を片手に機械を睨みつけている。どうやら次がラストだと決めているらしい。金銭の問題なら引き当てるまで俺が金を出してもいいのだが、みやびの性格上それはあまり好まないだろう。
頼ってくれてもいいのに。みやびの笑顔の為ならいくらでも金をつぎ込めるのに。だが、彼女が望まないというのならそれは出来ない。俺に他に出来る事はと考えてふと思いついた。
欲しいものに限って出ないということなら、俺が引くのはどうだろう? と提案してみる。
一瞬戸惑ったようだが、俺がこの手のカプセルトイは引いたことが無いと聞いて、ハンドルを回せるように場をあけてくれた。
もしかしたら俺がこの手の物を試したことが無いと言ったからなのだろうか。気を使わせてしまったな。
何はともあれ、俺に出来る事はただ無心になってこれを回すことだけだ。
ハンドルを握りしめ、ゆっくりと回す。心を無にする事は仕事柄得意だ。ハンドルがひっかかったようにこれ以上は動かなくなったと思ったら景品が落ちてくる音がした。それをそのままみやびへと渡す。
恐らくだが、開けるのも楽しみの一つなのだろう。
それを受け取ったみやびがカプセルを開けたかと思ったら、すぐに満面の笑顔になった。
「アオザメ!! やったあ!! ありがとう!!」
歓喜の声と共に首にしがみつかれた。突然の事と、体重が思い切りかかってしまったので若干ふらついてしまったが、しっかりと彼女を受け止める。
鼻をくすぐる彼女の香り、そして密着した体の熱が伝わってくる。……女性特有の柔らかさも。
店員の冷ややかな視線が突き刺さるが、そんなことはどうでもいい。もう少し抱擁を感じていたかったが、人に見られてると気づきみやびは居心地悪そうにそっと離れていった。……残念だ。
「やった! やったあ!! 本当にいい出来だよね。真の鮫スキーが手掛けた造形だよね! この可愛さの中に漂う恐ろしさ。うーん……最高!!」と言いながら、フィギュアに頬を寄せる。
嫉妬を隠しながら「喜んでもらえたのなら、よかった」と返す。鮫のフィギュアめ、みやびに頬ずりされるとは羨ましいだろう。その柔らかそうな頬に俺も触れたい。
だが、みやびが何かに気付いたようにしげしげとサメのフィギュアを見つめたかと思うと、困惑したようにミニブックとを見比べている。眉間の皺がどんどんと深く刻まれていく。どういうことだろうか。
そしてぽつりとつぶやく。
「バケアオザメだ」
聞きなれない単語が出た。アオザメの亜種、なのだろうか。だがさっき見たミニブックにはその名称の鮫は記載されていなかった。
しばらく後に「……シークレットだ、これ」という声がみやびから漏れた。ああ、確かにあったな「???」で姿と名前が隠されていた鮫が。なんとなく彼女が欲していたアオザメとシルエットが似通っていると思っていたが。
だが、そうするとみやびが欲しかったアオザメは入手できなかったのか。申し訳ない。
「シークレット? ……すまない、欲しいものが引けなかったようだな」
こうなったら、彼女が止めるだろうがそれを振り切ってでもこの機械を空にする勢いでガチャを回すべきだろうか。機械の中の在庫具合を見ると全部排出するのに1万円はかからないだろう。だが余計なことをして嫌われたくもない。
――どうすればいいんだ。
「うーん……狙っていたものではないけれど、これはこれでレアだしバケアオザメも好きだから大丈夫だよ」
その笑顔には嘘は無いのだろうが……。彼女のささやかな望みすらかなえてやれないだなんて、自分が不甲斐なくて仕方がない。
そんな空気を察したのか、取り繕うようにみやびが口を開いた。
「ね、お腹減っちゃったよね? 待たせてゴメンね、ご飯にしようか」
飯か。丁度昼飯時だし、気分を切り替えるのには最適だなと彼女の提案に乗る。
「そうだな。もうこんな時間だし、何か食いに行くか?」と言うと、満面の笑みだったみやびの顔が一瞬曇った。散財したから今日は自炊がいいらしい。そういえばこのカプセルトイは1回400円だったか。結局3回回したので1200円の出費。学生には辛い金額だろうな。
ならせめて昼飯は俺が腕によりをかけて作るか。唯一の懸念はみやびの家のキッチンが狭いので品数が多く作れない事だな。
早く、新居を見つけて2人で暮らしたいものだ。
彼女が卒業するまであと数か月。
卒業後、彼女がどうするのか、どうしたいのかという話は未だ出来ていないが、バイトに学業にと日々忙殺されている今よりは時間に余裕が出来るだろう。とても待ち遠しいものだ。