「涙の魔術師についての話はこれで終わりです」とリリス。「そろそろ本題に入らせていただけないでしょうか」
「そうね、このまま昔話をしていても埒が明かないわね」と瑠璃子。
「みなさん、質問はありませんか?」と瞳。「なければ話を先に進めます」
恵子が手を上げた。
「どうぞ」と瞳。
「涙の魔術師と言う名前の由来を教えていただけないでしょうか。それから、本名と言うか、本当の名前はあるのでしょうか」と恵子。
「四百年近く前に生まれた庶民階級出身の人物のことだ。今となっては生まれたときにつけられた名前なんて、本人しか知らないと思う」とリリス。「だが涙の魔術師の名前の由来なら本人から聞いたことがある。ゲート戦争以前、彼に冥界のことを教えた先生がいたそうだ」
「冥界の情報という意味でしょうか?」と舞。
「冥界への入り方、地理、魔物との戦い方などの冥界に関するもろもろの知識、それから魔術一般について教えられた」とリリス。「その先生のことを彼はとても慕っていたそうだ。彼は身につけた技術を生かして、ゲート戦争本格化の引き金になった弘前騒乱という事変に、指揮官として参戦した。魔物との会戦での初陣だったらしい。手柄を立てて戻ってきたら、その先生は亡くなっていたそうだ」
「残念ですね」と恵子。
「そうだな。しかも葬儀が終わっていて、屋敷はきれいに片付けられていた。形見になるものは何一つ残っていなかった」とリリス。「その先生は彼のことを『泣き虫魔術師さん』と呼んでいた。だからせめて自分の名乗りを『泣き虫魔術師』にして、形見として残したそうだ。だけど周りの人たちが優秀な彼のことを泣き虫魔術師なんて呼ぶことを憚って、涙の魔術師になったらしい」
「面白いわね。今でもあの子は泣き虫よ」と瞳。
「そんなことを言っては可哀そうよ」と瑠璃子。
「そろそろ本題に入らせていただきます」とリリス。