表示設定
表示設定
目次 目次




11話 建御雷

ー/ー



 朝日に照らされる輸送ヘリと、それに乗って運ばれる少女と兵士たち。

 彼らは「便利屋コロシ部」のアジト……通称「部室」を破壊し尽くした後、速やかに退却した。

 襲撃の目的は機密保持のため「極殺小隊」のオリーブを抹殺することにあった。

 ステラからの依頼を失敗した上に、隠れて香川に関する情報を集めていた彼女を生かす理由などなかったからだ。

 ザクロの敗走後、彼ら「タケミカヅチ」は部隊を二分した。

 リーダーのザクロとスモモをターゲットとする部隊と、オリーブをターゲットとした部隊。

 アンズは交戦中に死亡したためターゲットからは外れ、ステラの指揮する部隊がオリーブを担当することになった。

 本来アンズも担当するはずだったステラにとって、彼女の死は幸運だった。

 逃げに徹した透明人間を確実に殺すのは手間だし目立つ。

 そもそもオリーブの厄介な能力の対処だけで面倒なことになるのは目に見えていたからだ。

 オリーブ本体だけを殺しても、寄生先だけを殺しても、どちらかに意識が残る彼女を完全にこの世から消すためには両者をほぼ同時に殺さねばならない。

 そのため、もう一方の部隊がザクロと交戦している最中に、オリーブの本体を実力行使で強奪したのだ。

 速やかに移動し、寄生先の体をヘリの機銃で吹き飛ばしたのとほぼ同時に本体も射殺。

 ヘリが一機落とされたのは意外だったが、ステラにとっては大した損害ではない。

 赤い目をした「アドバンス」の少女、ステラがルナへと自己紹介したのはオリーブ殺しのついでのようなものだった。

 そして「極殺小隊」に探させていた香川の時計は、機銃掃射で破壊したものとしてあえてルナの下に残した。

 ステラ。柊星来を名乗る少女からの姉へ贈る挨拶代わりのつもりだった。

 *

 兵士たちが無言のまま揺られる中で、戦闘服に身を包んだ白髪の少年兵がステラに問いかける。

 まだ幼さの残る顔立ちに子供らしくない精悍さがあるのは、普段から戦場に身を置いているからか。

「あそこにいた女性は本当に君の姉なのか?」

 ステラと白髪の少年は「大東京連合」と覇権を争う「新生統一国家ヤマト」が誇る特殊部隊の一員である。

 そして内心ステラは同僚であるこの少年……もとい「神使兵」という存在そのものが苦手だった。

「そうだけど何。紫電、アンタ本当にドッペルゲンガーが存在するとでも思ってるの?」

 紫電と呼ばれた白髪の少年は少し考え込んで言う。

「否定はできない。何せバディである君に瓜二つだからな。だが初めて聞く、君に家族がいたとは……」

「いない。あの人は『お姉ちゃん』だけど家族じゃない」

 紫電は再び考え込み、深々と頭を下げた。

「すまない。確かに俺たちはバディを組んでまだ日が浅い。そう簡単に踏み込むべき問題ではなかった」

(ああ、つまらない男……)

 ステラは視線を逸らし、ため息をついた。

 *

 「タケミカヅチ」という敵対「アドバンス」掃討を目的とした部隊は、現在五つの分隊が稼働している。

 対「アドバンス」の戦力を「アドバンス」に頼り切らないことを方針として、対異種人類特殊作戦群「タケミカヅチ」は結成された。

 自衛隊で確立された訓練で鍛えた隊員たち。そこへさらに「ヤマト陸軍」に志願した「アドバンス」……ヤマトでは彼女たちは従属異種人類と呼ばれるが、その中でも優れた者を加えた部隊。

 と、いうのが「タケミカヅチ」結成時の部隊の形である。

 だがこの段階の「タケミカヅチ」を軍の上層部は「アドバンス」制圧用の特殊部隊として評価しなかった。

 従属異種人類たちの生まれ持った能力の多くが唯一無二であり、中心となる彼女らが強力であるほど、一度失えば部隊として機能しなくなるからだ。

 故に「ヤマト陸軍」は戦力の増強と安定を目的として、替えの効く人工的な「アドバンス」の研究に着手した。

 そして独自に発展した遺伝子操作技術によって生み出されたのが「神使兵」であり、紫電という少年もその一人だった。

 彼らが部隊に加えられてからというもの、作戦中やプライベート問わず従属異種人類と「神使兵」は二人一組で行動することを義務付けられることになる。

 それは従属異種人類が命令違反や重大な規律違反を犯した際、即座に「神使兵」が制圧、殺害できるように。

 それだけの力が「神使兵」にはあった。

 だが本来立場としては分隊長である紫電は「自分はまだ人を率いる器ではない」として、自ら隊の指揮をステラに明け渡していた。

 つまりステラとしては自身の目的のために自由に動くことができ、失敗は紫電に押し付けることができるという申し分のない立場ではあった。

 しかしこの真面目一辺倒な男とのやり取りがステラにとってはとにかくやりづらくて仕方がなかった。

「俺はこのまま補給に戻ってもいいと考えているが、きっと君の考えは違うのだろう。ただ一つだけ言わせてもらうと、君のやり方は少し……派手だ」

「ド派手上等じゃない。逆にアンタの生き方は堅実すぎて退屈そうね」

 紫電は何か言い返そうとして、やめた。

 自分から先に「一つだけ」と前置きしていたからだ。

 紫電は律儀な男だった。

「オリーブの死体を引き渡したら、ヘリもそこの部隊に預けちゃって。その後、我々第一分隊は第四分隊と合流後、東京に突入します」

 ステラの突拍子のない作戦に隊員たちが驚くことはない。

 彼らは作戦中に動揺を始めとした一切の感情を表さない訓練を受けているからだ。

 ただ一人を除いて。

「それはどうだろう。ヤマト本国と『大東京連合』における相互不可侵を破る形になってしまうのではないだろうか」

「もうヘリで乗り込んで『極殺』のメンバーを殺してる以上、不可侵もクソもないから」

 そもそも「ヤマト」と「連合」の相互不可侵と言っても具体的な境界線があるわけでもなかった。

 互いに勢力圏付近で小競り合いが起きた程度では「見て見ぬふりをする」というのが実態である。

 武装ヘリコプターで乗り込んで機銃をぶっ放すという全体未聞の事態も、被害が「アドバンス」の小娘一人ということでは大事にはならない。

 そうステラは考えていた。

「どれだけの工作員が互いに潜入し合っていると思ってるの。少しは考えなさいって」

(そう。私たち以外の勢力がチップを狙っているはず……)

「うん。君がそう言うのならそうなのだろう。俺は考えるのは苦手だから、君に任せるとしよう」

「あら? それはご丁寧にどうも」

「だが戦闘の際はもっと俺を頼って欲しい。君の能力は強力だが、少し前に出過ぎだ」

 自身を気遣う紫電の言葉にステラは嫌悪すら覚えた。

(『柊陽向』の系譜たる私が遅れを取ることはない……そう、誰にだって)

 紫電を無視したステラは、隊員の一人に指示を出す。

「……屠龍とコメットに連絡を取って」

 第四分隊の「神使兵」屠龍と従属異種人類であるコメットは、ザクロとスモモを殺すために分かれた部隊の二人だった。


次のエピソードへ進む 12話 再始動


みんなのリアクション

 朝日に照らされる輸送ヘリと、それに乗って運ばれる少女と兵士たち。
 彼らは「便利屋コロシ部」のアジト……通称「部室」を破壊し尽くした後、速やかに退却した。
 襲撃の目的は機密保持のため「極殺小隊」のオリーブを抹殺することにあった。
 ステラからの依頼を失敗した上に、隠れて香川に関する情報を集めていた彼女を生かす理由などなかったからだ。
 ザクロの敗走後、彼ら「タケミカヅチ」は部隊を二分した。
 リーダーのザクロとスモモをターゲットとする部隊と、オリーブをターゲットとした部隊。
 アンズは交戦中に死亡したためターゲットからは外れ、ステラの指揮する部隊がオリーブを担当することになった。
 本来アンズも担当するはずだったステラにとって、彼女の死は幸運だった。
 逃げに徹した透明人間を確実に殺すのは手間だし目立つ。
 そもそもオリーブの厄介な能力の対処だけで面倒なことになるのは目に見えていたからだ。
 オリーブ本体だけを殺しても、寄生先だけを殺しても、どちらかに意識が残る彼女を完全にこの世から消すためには両者をほぼ同時に殺さねばならない。
 そのため、もう一方の部隊がザクロと交戦している最中に、オリーブの本体を実力行使で強奪したのだ。
 速やかに移動し、寄生先の体をヘリの機銃で吹き飛ばしたのとほぼ同時に本体も射殺。
 ヘリが一機落とされたのは意外だったが、ステラにとっては大した損害ではない。
 赤い目をした「アドバンス」の少女、ステラがルナへと自己紹介したのはオリーブ殺しのついでのようなものだった。
 そして「極殺小隊」に探させていた香川の時計は、機銃掃射で破壊したものとしてあえてルナの下に残した。
 ステラ。柊星来を名乗る少女からの姉へ贈る挨拶代わりのつもりだった。
 *
 兵士たちが無言のまま揺られる中で、戦闘服に身を包んだ白髪の少年兵がステラに問いかける。
 まだ幼さの残る顔立ちに子供らしくない精悍さがあるのは、普段から戦場に身を置いているからか。
「あそこにいた女性は本当に君の姉なのか?」
 ステラと白髪の少年は「大東京連合」と覇権を争う「新生統一国家ヤマト」が誇る特殊部隊の一員である。
 そして内心ステラは同僚であるこの少年……もとい「神使兵」という存在そのものが苦手だった。
「そうだけど何。紫電、アンタ本当にドッペルゲンガーが存在するとでも思ってるの?」
 紫電と呼ばれた白髪の少年は少し考え込んで言う。
「否定はできない。何せバディである君に瓜二つだからな。だが初めて聞く、君に家族がいたとは……」
「いない。あの人は『お姉ちゃん』だけど家族じゃない」
 紫電は再び考え込み、深々と頭を下げた。
「すまない。確かに俺たちはバディを組んでまだ日が浅い。そう簡単に踏み込むべき問題ではなかった」
(ああ、つまらない男……)
 ステラは視線を逸らし、ため息をついた。
 *
 「タケミカヅチ」という敵対「アドバンス」掃討を目的とした部隊は、現在五つの分隊が稼働している。
 対「アドバンス」の戦力を「アドバンス」に頼り切らないことを方針として、対異種人類特殊作戦群「タケミカヅチ」は結成された。
 自衛隊で確立された訓練で鍛えた隊員たち。そこへさらに「ヤマト陸軍」に志願した「アドバンス」……ヤマトでは彼女たちは従属異種人類と呼ばれるが、その中でも優れた者を加えた部隊。
 と、いうのが「タケミカヅチ」結成時の部隊の形である。
 だがこの段階の「タケミカヅチ」を軍の上層部は「アドバンス」制圧用の特殊部隊として評価しなかった。
 従属異種人類たちの生まれ持った能力の多くが唯一無二であり、中心となる彼女らが強力であるほど、一度失えば部隊として機能しなくなるからだ。
 故に「ヤマト陸軍」は戦力の増強と安定を目的として、替えの効く人工的な「アドバンス」の研究に着手した。
 そして独自に発展した遺伝子操作技術によって生み出されたのが「神使兵」であり、紫電という少年もその一人だった。
 彼らが部隊に加えられてからというもの、作戦中やプライベート問わず従属異種人類と「神使兵」は二人一組で行動することを義務付けられることになる。
 それは従属異種人類が命令違反や重大な規律違反を犯した際、即座に「神使兵」が制圧、殺害できるように。
 それだけの力が「神使兵」にはあった。
 だが本来立場としては分隊長である紫電は「自分はまだ人を率いる器ではない」として、自ら隊の指揮をステラに明け渡していた。
 つまりステラとしては自身の目的のために自由に動くことができ、失敗は紫電に押し付けることができるという申し分のない立場ではあった。
 しかしこの真面目一辺倒な男とのやり取りがステラにとってはとにかくやりづらくて仕方がなかった。
「俺はこのまま補給に戻ってもいいと考えているが、きっと君の考えは違うのだろう。ただ一つだけ言わせてもらうと、君のやり方は少し……派手だ」
「ド派手上等じゃない。逆にアンタの生き方は堅実すぎて退屈そうね」
 紫電は何か言い返そうとして、やめた。
 自分から先に「一つだけ」と前置きしていたからだ。
 紫電は律儀な男だった。
「オリーブの死体を引き渡したら、ヘリもそこの部隊に預けちゃって。その後、我々第一分隊は第四分隊と合流後、東京に突入します」
 ステラの突拍子のない作戦に隊員たちが驚くことはない。
 彼らは作戦中に動揺を始めとした一切の感情を表さない訓練を受けているからだ。
 ただ一人を除いて。
「それはどうだろう。ヤマト本国と『大東京連合』における相互不可侵を破る形になってしまうのではないだろうか」
「もうヘリで乗り込んで『極殺』のメンバーを殺してる以上、不可侵もクソもないから」
 そもそも「ヤマト」と「連合」の相互不可侵と言っても具体的な境界線があるわけでもなかった。
 互いに勢力圏付近で小競り合いが起きた程度では「見て見ぬふりをする」というのが実態である。
 武装ヘリコプターで乗り込んで機銃をぶっ放すという全体未聞の事態も、被害が「アドバンス」の小娘一人ということでは大事にはならない。
 そうステラは考えていた。
「どれだけの工作員が互いに潜入し合っていると思ってるの。少しは考えなさいって」
(そう。私たち以外の勢力がチップを狙っているはず……)
「うん。君がそう言うのならそうなのだろう。俺は考えるのは苦手だから、君に任せるとしよう」
「あら? それはご丁寧にどうも」
「だが戦闘の際はもっと俺を頼って欲しい。君の能力は強力だが、少し前に出過ぎだ」
 自身を気遣う紫電の言葉にステラは嫌悪すら覚えた。
(『柊陽向』の系譜たる私が遅れを取ることはない……そう、誰にだって)
 紫電を無視したステラは、隊員の一人に指示を出す。
「……屠龍とコメットに連絡を取って」
 第四分隊の「神使兵」屠龍と従属異種人類であるコメットは、ザクロとスモモを殺すために分かれた部隊の二人だった。