1話 結成「コロシ部」
ー/ー 空き家というよりは廃屋という言葉が相応しい建造物で、四人の少女が火を囲んでいた。
窓ガラスのない風が吹き込む家で、彼女たちは床材を火にくべて暖を取っている。
彼女たちは今日訓練兵期間を終えたばかりで、正式所属をせずに軍から抜けてきたのだ。
一応それは脱走ではなく、合法的な選択肢だ。
*
「ぶ、か……つ?」
ムラのある金髪の少女が初めて聞いた単語を区切りながら発する。
「そう、部活動っていうんだ。三十年くらい前かな……私たちみたいな子はみんなやってたんだって。まあ『アドバンス』が生まれてから下火になったらしいけど」
通称「アドバンス」……突然全世界的に生まれ始めた超能力者の少女たち。
四人の少女も皆「アドバンス」だった。
黒髪の少女がボロボロの冊子を周囲に見せながら話す。そこには陸上競技の写真が載っていた。
「ルナっち物知り~でもそりゃどうして?」
ダボついたの軍服の袖をひらひらとさせながら、小動物のような女子が食いつく。
黒髪の少女はルナというらしい。
「渚ちゃん、それだよね。多分大体の部活動がスポーツみたいな競技目的だから……一般人は『アドバンス』と勝負したくなかったんだと思う」
「わ、私はそういう文化がなくてよかったと思ってます……きっとチームでも個人でもボロボロに負けて、馬鹿にされて……」
背の高いポニーテールの少女が消え入りそうな声で話していたが、自分が言ったことで悲しくなり黙ってしまった。
「まあまあ凛子先輩……一般人なんか束になったって先輩に敵いっこないからさぁ。元気出してくれよな」
「アカネちゃんは……や、優しいね」
アカネと呼ばれた金髪の少女は、直接そう言われて照れてしまったのか耳を赤くしてまくし立てる。
「それでぇ!? ブカツドウがなんだってんだよぉ? 軍抜けて、明日っから自分の力で生きていかなきゃならないこのタイミングで急に何の話だって!?」
「アカネにどうか~ん。まさかホントにスポーツ始めるわけじゃないだろうし~。ルナっちの考えが渚ちゃん的には気になるワケ」
アカネと渚。凛子とルナ。火を囲む四人の元訓練兵。
「うん。『部活動』を作ろうと思ってる。できればこの四人でやっていきたいんだ」
堂々とルナは言ってのけた。
「はぁ!? ホントにスポーツやって食ってけるわけねえだろ?」
「アカネちゃん、聞いてよ。だからこの新しい東京流の『新しい部活動』をだよ。じゃあさ、私たちが得意でお金になりそうなことといえば何かな?」
ルナは問いかけた。
この数年を費やして、とにかく鍛えてきたことについて。
すると三人が息をそろえて答える。
「殺し」
「そう。だから殺し部。殺しだけをするわけじゃないけど、みんなの殺しの腕と力を合わせてこの世界を生き延びようよ」
突然のルナの提案にアカネは思わずうろたえる。
「マジかよ……ちょっとは仲良かったけど同じタイミングで辞めたってだけで、一緒に働くなんて……」
「渚ちゃんはさんせ~い! だってどっかで一から下積みやるよりルナっちについていった方が楽にのし上がれるっしょ~」
「わ、私がそこにいていいなら……その、ルナちゃんのためになんだってするから……連れて行ってください!」
渚と凛子は挙手し、即答してみせた。
訓練兵期間を終えて正式所属の道を進まなかった彼女たちは、軍の傘下で様々な依頼を受けて生計を立てることになる。
つまりこれは二人がルナからのラブコールに応じたということだ。
「共に命を懸けて稼がないか?」という意味の。
この仕組みには「実力はあるが素行不良の者」を軍には置かず汚れ仕事をさせたり、軍における超能力者である少女たちの数を一定数に留めて反乱を未然に防ぐ目的もある。
そして軍傘下となった少女たちによる無数の「チーム」に小競り合いを続けさせることで、軍そのものへの反発を防ぐのだ。
「えっ……? えっ……?」
戸惑うアカネ。
彼女は今まで頑張った分、訓練期間満了の一時金でしばらくの間のんびりと過ごしてから次の道を決めればいいとのん気に構えていたということもある。
だが、手を挙げられなかった理由は別にあった。
「渚ちゃん、凛子先輩。二人ともありがとう。とりあえず三人いれば軍の傘下に入れるからまずは第一歩、だね」
「こ……これからも、その……よ、よろしくね」
「殺し部一期生集合〜! いえ〜い!」
アカネはルナのことを信用していなかったわけではない。
逆にアカネは自分とルナの間にある大きな実力の壁を知っていた。だからこそ。
彼女がこの何でもありの「東京」では通用しない未来のことを考えてしまい、恐れていたのだ。
ルナでダメなら自分はもっとダメだと。
それ故に。
一人だけ手を挙げることができなかった。
その姿を見たルナは優しく声をかける。
「アカネちゃん、無理強いはしたくないから一言だけいいかな」
「……んだよ」
ルナはアカネの目を見据えてただ一言、告げる。
「私は負けないよ。それだけ」
「……ああ。ああ、知ってる!」
アカネが突然立ち上がった。
「び、びっくりした……死ぬかと思った……」
アカネの大声に凛子が思わず後ずさる。
「やったらぁ! ブカツ? だかなんだか知らんが、やるならテッペン獲る勢いでいくからな!」
ルナの一言で火の着いたアカネは抜刀し、壊れた椅子に足を乗せ何か吠えている。
「いや、お前は二期生な。凛子大先輩と渚ちゃん先輩を敬え~」
「ああ~!?」
*
翌日、軍の施設に直行した彼女らは新進気鋭の「チーム」として軍に登録されることとなる。
こうして「便利屋コロシ部」の前身である「殺し部」は結成された。
「でさ~。ルナっちの冊子見たけど部活って『大会』があって、それに勝つために頑張るんでしょ~? じゃあ私たちの『大会』って何さ?」
「そうだね。殺し部の目標は『東京大会』の制覇ってところかな」
帰り道、渚にそう聞かれたルナは軍から支給された端末を握りしめて答える。
「ん~つまり? どういうこと?」
「今っぽく言うと東京征服……それが当面の目標。まずは手始めにそうだね。地区予選。新宿でも制圧しようか」
かくして崩壊した世界が生んだ少女たちの青春の日々。東京征服への挑戦が始まったのだ。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
空き家というよりは廃屋という言葉が相応しい建造物で、四人の少女が火を囲んでいた。
窓ガラスのない風が吹き込む家で、彼女たちは床材を火にくべて暖を取っている。
彼女たちは今日訓練兵期間を終えたばかりで、正式所属をせずに軍から抜けてきたのだ。
一応それは脱走ではなく、合法的な選択肢だ。
*
「ぶ、か……つ?」
ムラのある金髪の少女が初めて聞いた単語を区切りながら発する。
「そう、部活動っていうんだ。三十年くらい前かな……私たちみたいな子はみんなやってたんだって。まあ『アドバンス』が生まれてから下火になったらしいけど」
通称「アドバンス」……突然全世界的に生まれ始めた超能力者の少女たち。
四人の少女も皆「アドバンス」だった。
黒髪の少女がボロボロの冊子を周囲に見せながら話す。そこには陸上競技の写真が載っていた。
「ルナっち物知り~でもそりゃどうして?」
ダボついたの軍服の袖をひらひらとさせながら、小動物のような女子が食いつく。
黒髪の少女はルナというらしい。
「渚ちゃん、それだよね。多分大体の部活動がスポーツみたいな競技目的だから……一般人は『アドバンス』と勝負したくなかったんだと思う」
「わ、私はそういう文化がなくてよかったと思ってます……きっとチームでも個人でもボロボロに負けて、馬鹿にされて……」
背の高いポニーテールの少女が消え入りそうな声で話していたが、自分が言ったことで悲しくなり黙ってしまった。
「まあまあ凛子先輩……一般人なんか束になったって先輩に敵いっこないからさぁ。元気出してくれよな」
「アカネちゃんは……や、優しいね」
アカネと呼ばれた金髪の少女は、直接そう言われて照れてしまったのか耳を赤くしてまくし立てる。
「それでぇ!? ブカツドウがなんだってんだよぉ? 軍抜けて、明日っから自分の力で生きていかなきゃならないこのタイミングで急に何の話だって!?」
「アカネにどうか~ん。まさかホントにスポーツ始めるわけじゃないだろうし~。ルナっちの考えが渚ちゃん的には気になるワケ」
アカネと渚。凛子とルナ。火を囲む四人の元訓練兵。
「うん。『部活動』を作ろうと思ってる。できればこの四人でやっていきたいんだ」
堂々とルナは言ってのけた。
「はぁ!? ホントにスポーツやって食ってけるわけねえだろ?」
「アカネちゃん、聞いてよ。だからこの新しい東京流の『新しい部活動』をだよ。じゃあさ、私たちが得意でお金になりそうなことといえば何かな?」
ルナは問いかけた。
この数年を費やして、とにかく鍛えてきたことについて。
すると三人が息をそろえて答える。
「殺し」
「そう。だから殺し部。殺しだけをするわけじゃないけど、みんなの殺しの腕と力を合わせてこの世界を生き延びようよ」
突然のルナの提案にアカネは思わずうろたえる。
「マジかよ……ちょっとは仲良かったけど同じタイミングで辞めたってだけで、一緒に働くなんて……」
「渚ちゃんはさんせ~い! だってどっかで一から下積みやるよりルナっちについていった方が楽にのし上がれるっしょ~」
「わ、私がそこにいていいなら……その、ルナちゃんのためになんだってするから……連れて行ってください!」
渚と凛子は挙手し、即答してみせた。
訓練兵期間を終えて正式所属の道を進まなかった彼女たちは、軍の傘下で様々な依頼を受けて生計を立てることになる。
つまりこれは二人がルナからのラブコールに応じたということだ。
「共に命を懸けて稼がないか?」という意味の。
この仕組みには「実力はあるが素行不良の者」を軍には置かず汚れ仕事をさせたり、軍における超能力者である少女たちの数を一定数に留めて反乱を未然に防ぐ目的もある。
そして軍傘下となった少女たちによる無数の「チーム」に小競り合いを続けさせることで、軍そのものへの反発を防ぐのだ。
「えっ……? えっ……?」
戸惑うアカネ。
彼女は今まで頑張った分、訓練期間満了の一時金でしばらくの間のんびりと過ごしてから次の道を決めればいいとのん気に構えていたということもある。
だが、手を挙げられなかった理由は別にあった。
「渚ちゃん、凛子先輩。二人ともありがとう。とりあえず三人いれば軍の傘下に入れるからまずは第一歩、だね」
「こ……これからも、その……よ、よろしくね」
「殺し部一期生集合〜! いえ〜い!」
アカネはルナのことを信用していなかったわけではない。
逆にアカネは自分とルナの間にある大きな実力の壁を知っていた。だからこそ。
彼女がこの何でもありの「東京」では通用しない未来のことを考えてしまい、恐れていたのだ。
ルナでダメなら自分はもっとダメだと。
それ故に。
一人だけ手を挙げることができなかった。
その姿を見たルナは優しく声をかける。
「アカネちゃん、無理強いはしたくないから一言だけいいかな」
「……んだよ」
ルナはアカネの目を見据えてただ一言、告げる。
「私は負けないよ。それだけ」
「……ああ。ああ、知ってる!」
アカネが突然立ち上がった。
「び、びっくりした……死ぬかと思った……」
アカネの大声に凛子が思わず後ずさる。
「やったらぁ! ブカツ? だかなんだか知らんが、やるならテッペン獲る勢いでいくからな!」
ルナの一言で火の着いたアカネは抜刀し、壊れた椅子に足を乗せ何か吠えている。
「いや、お前は二期生な。凛子大先輩と渚ちゃん先輩を敬え~」
「ああ~!?」
*
翌日、軍の施設に直行した彼女らは新進気鋭の「チーム」として軍に登録されることとなる。
こうして「便利屋コロシ部」の前身である「殺し部」は結成された。
「でさ~。ルナっちの冊子見たけど部活って『大会』があって、それに勝つために頑張るんでしょ~? じゃあ私たちの『大会』って何さ?」
「そうだね。殺し部の目標は『東京大会』の制覇ってところかな」
帰り道、渚にそう聞かれたルナは軍から支給された端末を握りしめて答える。
「ん~つまり? どういうこと?」
「今っぽく言うと東京征服……それが当面の目標。まずは手始めにそうだね。地区予選。新宿でも制圧しようか」
かくして崩壊した世界が生んだ少女たちの青春の日々。東京征服への挑戦が始まったのだ。