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34.尊との出会い

ー/ー



 急いで男の子たちの近くから離れて本来の目的に戻る。
 デュエルスペースは満席になっているけど、みんなが対戦しているわけではなく座って雑談している人も多い。
 誰か対戦してくれそうな人はいないかな。

「真琴さん、チワっす」

 キョロキョロしていると声をかけられた。
 声のする方を見ると隼人が座っている。
 目の前にたくさんカードが並んでいるのでどうも一人でデッキを整理していたようだ。

「こんちは、早いな」
「休みの日は大抵朝からいますよ」
「そうなのか」

 俺は昼以降にしか来ないので隼人もそうだと思ってた。
 朝からいるのを知ってたなら俺も朝から来ることあったかもな。

「何揉めてたんすか?」
「独り言言ってたら絡まれたんだよ」
「真琴さんのひとりごとって話しかけてきてるとしか思えないっすからね」

 ケラケラと笑う隼人。
 相変わらず楽しそうな奴だ。

「お前が一人でいるのは珍しいな」
「デッキ整理したくなったんすよ」

 誰かと話すのが好きで四六時中誰かと会話しているので一人でいるのは珍しい。

「デッキ整理で忙しそう?」
「空いてるっすよ、対戦すか?」
「そうそう、ゼピュロスデッキなんてそうそう使えないからね」
「昨日、〘ゼピュロス〙出した瞬間席立たれたの見たっすよ」

 そんなレベルなのか。
 まあフリープレイの状況なら魔法使いたい放題だし対戦する気にならないか。
 悪名高いMOMAの冬はそんな感じだったらしいし。

「今日の俺はブリシンデッキっすよ」
「ほう、珍しいな」
「ちょうど今さっき組み終えた所っす」
「よしやるか」

 ・・・

「これで僕の勝ちっすね」
「負けたー、グッドゲーム」

 惨敗だった。
 〘ブリシン〙は戦闘時に重量級モンスターの即時召喚が可能な召喚士だ。
 普通、重量級モンスターは本陣でしか召喚できないので、戦闘時に召喚できるのはとても強い。
 ただし道には容量がありそれを超えるモンスターは召喚できない。

 つまり重量級モンスターばかりで組むと戦闘中の即時召喚が使えず軽量級モンスターばかりで組むと肝心な時に重量級モンスターが手札にない。
 軽量級モンスターと重量級モンスターの両方がバランス良く必要になるので構築や運用がかなり難しいデッキだ。

「あんなに上手く回るんだな」
「回るんじゃないっすよ、回すんすよ」
「つまりKIAIか」
「KIAIっす、これでもシンクロ率低いっすよ」
「シンクロ率上がったら手も足もでないな」

 ボロボロだったけどゼピュロスデッキは本来こんなものだ。
 ダイスロールにすべてを賭けるので運次第でしかない。

「真琴さんのデッキは対戦してて楽しいっすね」
「そう言ってもらえたら幸いだよ」
「魔法なんてなければよかったっすね」

 しみじみと言う隼人。
 たしかにゼピュロスデッキの使い手としてはそうだけど魔法好きとしては違う。

「魔法があるから出来ることもあるんだぞ【群像の投影】」

「なんすかこれ!?」

 世界書を取り出して魔法を使う。
 効果はカードのイラストイメージの3D化だ。

「すげぇ、僕のモンスターが具現化してる!!」

 モンスターが道に沿って並んでいるのはけっこう迫力がある。
 AR技術を使えば魔法が無くても出来るけど、何も仕込みのないカードで出来るのは魔法の特権だ。

「こんな魔法あるんすか!?」
「俺が作った」
「すげええええ、まじすげえっす」

 目をキラキラさせながら自分のカードと俺のカードを見比べている。
 隼人は中二と言っていたから陽菜と一緒か。
 これぐらいの年の子は素直に感動してくれるので嬉しい。

「これだと真琴さんのデカいモンスターは映えるっすね」
「迫力あるよな」
「僕もちょっとデッキ組んでみるっす」
「お、頑張れよ」

 目を輝かせているあたり、どうやらやる気になったらしい。
 うんうん、やっぱりカードゲームのカジュアル勢はこんなノリでやるほうがいい。
 最近カジュアル勢なのにデッキはガチ勢のを使う人が増えてるんだよな。
 ガチ勢のデッキを使うこと自体は構わないんだけど、そういう人は負けると怒り出すからなぁ。
 多分対戦するのが楽しいんじゃなくて勝つのが楽しいタイプなんだろう。

「対戦お願いします!!」
「構わないよ」

 お、隣でも対戦が始まったぞ。
 よく見たらさっきの小さい方の男の子か。
 近くに大きい方の男の子はいないけど別行動だろうか?

 ふんふん、男の子のデッキはシトリーデッキか。
 モンスターが装備品を複数持てるようになるから重量級モンスターに装備品を多数装備させて殴り勝つデッキが多いんだよな。

 相手のおっさんは……ゼピュロスデッキか。
 今まで使ってる人を見たことなかったので自分のデッキの参考になるかもしれない。

「よろしくお願いします」
「先行はそっちか」
「はい、まずは〘黒龍ルドラ〙を召喚、〘1on1〙を本陣前にセットして終了です」

 ほっほう、男の子のデッキはやはりデカブツで殴るデッキか。
 〘1on1〙は1体しか通れない道だけどモンスターの大きさに制限はない。
 まさに重量級モンスターのために存在する道なので初手に出せているのはかなり順調な滑り出しのように見える。

「ではこちらのターン、〘昔は昔〙を〘1on1〙と置き換えてそこに〘マンキー〙を特殊召喚して終了」

 見たことのない動きだ。
 〘昔は昔〙は相手の道を置き換えることが出来るカード。
 特殊な効果を持った道を無効化するのに使われる。
 ただしモンスターが存在すると使えないので、道対策としては中途半端なカードだ。

 そして〘マンキー〙は自分の道に特殊召喚できるカード。
 今回のように敵本陣真横に召喚出来るのでそれ自体は非常に強いんだけど、これも道にモンスターがいないことが条件なのがきつい。
 しかも〘マンキー〙自身はサイコロ一個分の防御力を上げられるだけの小型モンスターなのであくまで即時召喚で増援を呼ぶ前提のモンスターだ。

 個人的にはどちらもゼピュロスデッキに不向きなカードだと思う。
 本陣を守りきれば勝てる可能性が高いデッキなので無理に攻める必要がなくて迂回路を作るなりしてじっくり攻めればいい。
 特に〘マンキー〙はこの状況で召喚しても駄目だと思うけど……。

「〘黒龍ルドラ〙を〘昔は昔〙に進軍させて〘マンキー〙とバトル」

 やっぱり攻めるよな。
 明らかにサイズ差あるんだから普通に殴っても余裕で勝てる。
 即時召喚は基本軽量級モンスターしか召喚できないのでまず負けることはないだろう。

「〘黒龍ルドラ〙に〘宝剣スレイド〙を装備させて即時召喚で〘ドラグナー改〙を出します」

 うわ、完璧な回りだ。
 〘宝剣スレイド〙は二回攻撃を可能にする装備品で、相手の反撃終了後に再度攻撃することが出来る。
 〘ドラグナー改〙はサポートモンスターで、龍に対する全てのダメージや効果を肩代わりする。
 これでほぼ〘黒龍ルドラ〙は倒せないだろう。

 まあこういうのをなんとかするのも楽しいんだよな。
 どう対処するのか興味ある。

「即時召喚で〘リリーアン〙を召喚、バトル開始」 

「は?」

「……見るなら静かに見ろよ」
「すみません……」

 つい声に出してしまった。
 ただこの動きはおかしい。
 戦闘前の即時召喚は基本軽量級モンスターしか呼べないが〘リリーアン〙は中量級にも関わらず即時召喚できる。
 それはサイコロを増やす特性を使って奇襲させるためだろう。
 しかしこの状況で〘リリーアン〙を出したところで何の意味がある?
 〘マンキー〙も〘リリーアン〙もスペルスロットがないので呪文を使えない。
 両方とも攻撃力とHPが低いので先手を取っても〘黒龍ルドラ〙どころか〘ドラグナー改〙すら倒せない。

「イニシアチブで、〘リリーアン〙の効果でダイス一つ追加……あ、666出たな、こちらの先攻」

「え?」
「〘マンキー〙の特殊能力発動、〘リリーアン〙の効果でダイス一つ追加……はい、ピンゾロ、条件達成で勝利」
「え? え?」

 男の子がポカンとした顔をしている。
 何もしないうちにゲームが終わったのだから当然だろう。
 そして自分の顔がこわばっているのが分かる。
 運が良かった? そんな訳あるか。
 ゼピュロスデッキでわざわざ〘リリーアン〙を捨て駒にする訳が無い。
 〘リリーアン〙がすべて倒されてしまえばサイコロを三つ振る機会自体が激減してしまうので、普通は過保護なほど大事に扱う。

 ただし必ず一回目に666が出せるなら話は別だ。
 それならどんな形でもいいから戦闘に参加させてダイスロールしようとするだろう。
 つまりこれはイカサマだ。

「いちいち大型モンス出してる暇があったらダイス振り特訓したほうがいいぞ」
「はい……」

 おっさんは余計なことを言って離れていった。
 男の子はその言葉を真に受けたようで顔を伏せている。
 これはひどいな。
 あんなの普通じゃないのにそれで落ち込んでカオスフィールドを嫌いになられちゃ困る。

「あれは交通事故と思ったほうがいい」
「あ……さっきのお兄さん、でも何も出来ずに負けたし、いい目出せるようになれば……」

 耐えきれず男の子に声をかけると顔を上げて返事をしてきた。
 表情を見る限り意外と落ち込んではいなかったようだ。
 ただ前向きなのはいいけど、その方向を目指すのはあまりよくない。

「それはただのサイコロ勝負だよ」

 ダイスロールはあくまで無作為な数字を選ぶ行為。
 振り手の技量で作為的に数字を出そうとするなら別のゲームだ。

「でも……」
「よし、なら俺のデッキもゼピュロスデッキだし対戦しようか」
「え?」 
「勝てたらさっきの対戦のリベンジを果たしたってことで」
「あ、はい!! お願いします!!」

 良い返事だ。
 こういう子が悲しくなるような対戦はやりたくないな。

 ・・・

「負けました、グッドゲーム」
「ありがとうございます、えっとグッドゲーム?」

 完敗だった。
 何をしても全て返されて最後は重量級モンスターに圧殺された。
 さっき見てたときも感じていたけどデッキが洗練されている。
 一枚のカードが複数用途で使えるようになっているので無駄がないし、シナジーが絡み合っているので一つ崩したところですぐ別の方法で攻めてくる

 俺のゼピュロスデッキなんて〘リリーアン〙を対策されると何も出来ないので対照的と言える。

「お兄さんのデッキはサイコロ一杯振るので楽しいですね」 
「そうそう、いっぱい振ると楽しいよね」 

 本来のゼピュロスデッキは対戦相手もサイコロをたくさん振れるようになるので子どもに受けが良い。

「このデッキは自分で組んだの?」
「姉に組んでもらいました!!」
「そうなんだね、かなり完成度高い気がするよ」

 もしかしたらどっかの大会の優勝デッキのコピーかな?
 ただデッキの動かし方にはかなりの慣れが見えるのでしっかり練習しているのだろう。

「あ、せっかくだしこういうのどう?【群像の投影】」

「うわぁぁ、何これ、何これ!!」

 せっかくなので魔法を使って見せると目を輝かせて見ている。
 男の子のデッキはデカブツが多いから見応えがあるなぁ。
 特に装備品はちゃんとモンスターに装備されて具現化するからカッコいい。
 まあ召喚士で無理やり装備欄増やしていて限界があったのか、ドラゴンが剣を二本咥えているケースもあるけど。

「これ、魔法ですか!?」
「そうそう、俺の作った魔法」
「すごいです!!」

 この子もそうだし隼人もそうだけど、けっこう反応いいな。
 人気魔法になってくれるかもしれないけど消費MPがなぁ……。

「僕も使ってみたいです!!」
「あー、これ消費MPが50と多いからレベル低いと難しいかな」
「姉はけっこう高レベルなので姉に使ってもらいます!!」

 消費MP50って最低20レベル必要なんだけどそこまで高いのだろうか?
 まあいいか。

「そっか、なら是非使ってくれたらいいよ[群像の投影]って魔法名だよ」
「ぐんぞうのとうえい……」

 漢字がわからなかったようで、ひらがなでメモしている。
 対戦前の落ち込みっぷりが嘘のように元気いっぱいだ。
 こういう弟がいると可愛がりたくなるのもわかるな。

「さっき一緒にいた男の子も興味あると思うけど、どこ行ったのかな?」
「あ、幹人は用事があって帰ったんです」

 なるほど、だから一人で対戦してたのか。
 普通は大抵友達と対戦するから気にはなっていたんだ。

「さっきも助けて頂きましたし、お兄さんみたいないい人がいてくれてよかったです!!」
「い、いやさっきは助けるってほどじゃ……」

 なるべく関わらないように避けてたのに目をキラキラされて感謝されるとちょっと心が痛い。

「お兄さんのお名前は?」
「能見真琴だよ」
「僕は工藤尊って言います」 

 これが尊との出会いだった。

 この出会いがまさかあんなことにつながるとはこの時の俺はまったく考えていなかった。


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次のエピソードへ進む 35.悪用するならいくらでも手はある


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 デュエルスペースは満席になっているけど、みんなが対戦しているわけではなく座って雑談している人も多い。
 誰か対戦してくれそうな人はいないかな。
「真琴さん、チワっす」
 キョロキョロしていると声をかけられた。
 声のする方を見ると隼人が座っている。
 目の前にたくさんカードが並んでいるのでどうも一人でデッキを整理していたようだ。
「こんちは、早いな」
「休みの日は大抵朝からいますよ」
「そうなのか」
 俺は昼以降にしか来ないので隼人もそうだと思ってた。
 朝からいるのを知ってたなら俺も朝から来ることあったかもな。
「何揉めてたんすか?」
「独り言言ってたら絡まれたんだよ」
「真琴さんのひとりごとって話しかけてきてるとしか思えないっすからね」
 ケラケラと笑う隼人。
 相変わらず楽しそうな奴だ。
「お前が一人でいるのは珍しいな」
「デッキ整理したくなったんすよ」
 誰かと話すのが好きで四六時中誰かと会話しているので一人でいるのは珍しい。
「デッキ整理で忙しそう?」
「空いてるっすよ、対戦すか?」
「そうそう、ゼピュロスデッキなんてそうそう使えないからね」
「昨日、〘ゼピュロス〙出した瞬間席立たれたの見たっすよ」
 そんなレベルなのか。
 まあフリープレイの状況なら魔法使いたい放題だし対戦する気にならないか。
 悪名高いMOMAの冬はそんな感じだったらしいし。
「今日の俺はブリシンデッキっすよ」
「ほう、珍しいな」
「ちょうど今さっき組み終えた所っす」
「よしやるか」
 ・・・
「これで僕の勝ちっすね」
「負けたー、グッドゲーム」
 惨敗だった。
 〘ブリシン〙は戦闘時に重量級モンスターの即時召喚が可能な召喚士だ。
 普通、重量級モンスターは本陣でしか召喚できないので、戦闘時に召喚できるのはとても強い。
 ただし道には容量がありそれを超えるモンスターは召喚できない。
 つまり重量級モンスターばかりで組むと戦闘中の即時召喚が使えず軽量級モンスターばかりで組むと肝心な時に重量級モンスターが手札にない。
 軽量級モンスターと重量級モンスターの両方がバランス良く必要になるので構築や運用がかなり難しいデッキだ。
「あんなに上手く回るんだな」
「回るんじゃないっすよ、回すんすよ」
「つまりKIAIか」
「KIAIっす、これでもシンクロ率低いっすよ」
「シンクロ率上がったら手も足もでないな」
 ボロボロだったけどゼピュロスデッキは本来こんなものだ。
 ダイスロールにすべてを賭けるので運次第でしかない。
「真琴さんのデッキは対戦してて楽しいっすね」
「そう言ってもらえたら幸いだよ」
「魔法なんてなければよかったっすね」
 しみじみと言う隼人。
 たしかにゼピュロスデッキの使い手としてはそうだけど魔法好きとしては違う。
「魔法があるから出来ることもあるんだぞ【群像の投影】」
「なんすかこれ!?」
 世界書を取り出して魔法を使う。
 効果はカードのイラストイメージの3D化だ。
「すげぇ、僕のモンスターが具現化してる!!」
 モンスターが道に沿って並んでいるのはけっこう迫力がある。
 AR技術を使えば魔法が無くても出来るけど、何も仕込みのないカードで出来るのは魔法の特権だ。
「こんな魔法あるんすか!?」
「俺が作った」
「すげええええ、まじすげえっす」
 目をキラキラさせながら自分のカードと俺のカードを見比べている。
 隼人は中二と言っていたから陽菜と一緒か。
 これぐらいの年の子は素直に感動してくれるので嬉しい。
「これだと真琴さんのデカいモンスターは映えるっすね」
「迫力あるよな」
「僕もちょっとデッキ組んでみるっす」
「お、頑張れよ」
 目を輝かせているあたり、どうやらやる気になったらしい。
 うんうん、やっぱりカードゲームのカジュアル勢はこんなノリでやるほうがいい。
 最近カジュアル勢なのにデッキはガチ勢のを使う人が増えてるんだよな。
 ガチ勢のデッキを使うこと自体は構わないんだけど、そういう人は負けると怒り出すからなぁ。
 多分対戦するのが楽しいんじゃなくて勝つのが楽しいタイプなんだろう。
「対戦お願いします!!」
「構わないよ」
 お、隣でも対戦が始まったぞ。
 よく見たらさっきの小さい方の男の子か。
 近くに大きい方の男の子はいないけど別行動だろうか?
 ふんふん、男の子のデッキはシトリーデッキか。
 モンスターが装備品を複数持てるようになるから重量級モンスターに装備品を多数装備させて殴り勝つデッキが多いんだよな。
 相手のおっさんは……ゼピュロスデッキか。
 今まで使ってる人を見たことなかったので自分のデッキの参考になるかもしれない。
「よろしくお願いします」
「先行はそっちか」
「はい、まずは〘黒龍ルドラ〙を召喚、〘1on1〙を本陣前にセットして終了です」
 ほっほう、男の子のデッキはやはりデカブツで殴るデッキか。
 〘1on1〙は1体しか通れない道だけどモンスターの大きさに制限はない。
 まさに重量級モンスターのために存在する道なので初手に出せているのはかなり順調な滑り出しのように見える。
「ではこちらのターン、〘昔は昔〙を〘1on1〙と置き換えてそこに〘マンキー〙を特殊召喚して終了」
 見たことのない動きだ。
 〘昔は昔〙は相手の道を置き換えることが出来るカード。
 特殊な効果を持った道を無効化するのに使われる。
 ただしモンスターが存在すると使えないので、道対策としては中途半端なカードだ。
 そして〘マンキー〙は自分の道に特殊召喚できるカード。
 今回のように敵本陣真横に召喚出来るのでそれ自体は非常に強いんだけど、これも道にモンスターがいないことが条件なのがきつい。
 しかも〘マンキー〙自身はサイコロ一個分の防御力を上げられるだけの小型モンスターなのであくまで即時召喚で増援を呼ぶ前提のモンスターだ。
 個人的にはどちらもゼピュロスデッキに不向きなカードだと思う。
 本陣を守りきれば勝てる可能性が高いデッキなので無理に攻める必要がなくて迂回路を作るなりしてじっくり攻めればいい。
 特に〘マンキー〙はこの状況で召喚しても駄目だと思うけど……。
「〘黒龍ルドラ〙を〘昔は昔〙に進軍させて〘マンキー〙とバトル」
 やっぱり攻めるよな。
 明らかにサイズ差あるんだから普通に殴っても余裕で勝てる。
 即時召喚は基本軽量級モンスターしか召喚できないのでまず負けることはないだろう。
「〘黒龍ルドラ〙に〘宝剣スレイド〙を装備させて即時召喚で〘ドラグナー改〙を出します」
 うわ、完璧な回りだ。
 〘宝剣スレイド〙は二回攻撃を可能にする装備品で、相手の反撃終了後に再度攻撃することが出来る。
 〘ドラグナー改〙はサポートモンスターで、龍に対する全てのダメージや効果を肩代わりする。
 これでほぼ〘黒龍ルドラ〙は倒せないだろう。
 まあこういうのをなんとかするのも楽しいんだよな。
 どう対処するのか興味ある。
「即時召喚で〘リリーアン〙を召喚、バトル開始」 
「は?」
「……見るなら静かに見ろよ」
「すみません……」
 つい声に出してしまった。
 ただこの動きはおかしい。
 戦闘前の即時召喚は基本軽量級モンスターしか呼べないが〘リリーアン〙は中量級にも関わらず即時召喚できる。
 それはサイコロを増やす特性を使って奇襲させるためだろう。
 しかしこの状況で〘リリーアン〙を出したところで何の意味がある?
 〘マンキー〙も〘リリーアン〙もスペルスロットがないので呪文を使えない。
 両方とも攻撃力とHPが低いので先手を取っても〘黒龍ルドラ〙どころか〘ドラグナー改〙すら倒せない。
「イニシアチブで、〘リリーアン〙の効果でダイス一つ追加……あ、666出たな、こちらの先攻」
「え?」
「〘マンキー〙の特殊能力発動、〘リリーアン〙の効果でダイス一つ追加……はい、ピンゾロ、条件達成で勝利」
「え? え?」
 男の子がポカンとした顔をしている。
 何もしないうちにゲームが終わったのだから当然だろう。
 そして自分の顔がこわばっているのが分かる。
 運が良かった? そんな訳あるか。
 ゼピュロスデッキでわざわざ〘リリーアン〙を捨て駒にする訳が無い。
 〘リリーアン〙がすべて倒されてしまえばサイコロを三つ振る機会自体が激減してしまうので、普通は過保護なほど大事に扱う。
 ただし必ず一回目に666が出せるなら話は別だ。
 それならどんな形でもいいから戦闘に参加させてダイスロールしようとするだろう。
 つまりこれはイカサマだ。
「いちいち大型モンス出してる暇があったらダイス振り特訓したほうがいいぞ」
「はい……」
 おっさんは余計なことを言って離れていった。
 男の子はその言葉を真に受けたようで顔を伏せている。
 これはひどいな。
 あんなの普通じゃないのにそれで落ち込んでカオスフィールドを嫌いになられちゃ困る。
「あれは交通事故と思ったほうがいい」
「あ……さっきのお兄さん、でも何も出来ずに負けたし、いい目出せるようになれば……」
 耐えきれず男の子に声をかけると顔を上げて返事をしてきた。
 表情を見る限り意外と落ち込んではいなかったようだ。
 ただ前向きなのはいいけど、その方向を目指すのはあまりよくない。
「それはただのサイコロ勝負だよ」
 ダイスロールはあくまで無作為な数字を選ぶ行為。
 振り手の技量で作為的に数字を出そうとするなら別のゲームだ。
「でも……」
「よし、なら俺のデッキもゼピュロスデッキだし対戦しようか」
「え?」 
「勝てたらさっきの対戦のリベンジを果たしたってことで」
「あ、はい!! お願いします!!」
 良い返事だ。
 こういう子が悲しくなるような対戦はやりたくないな。
 ・・・
「負けました、グッドゲーム」
「ありがとうございます、えっとグッドゲーム?」
 完敗だった。
 何をしても全て返されて最後は重量級モンスターに圧殺された。
 さっき見てたときも感じていたけどデッキが洗練されている。
 一枚のカードが複数用途で使えるようになっているので無駄がないし、シナジーが絡み合っているので一つ崩したところですぐ別の方法で攻めてくる
 俺のゼピュロスデッキなんて〘リリーアン〙を対策されると何も出来ないので対照的と言える。
「お兄さんのデッキはサイコロ一杯振るので楽しいですね」 
「そうそう、いっぱい振ると楽しいよね」 
 本来のゼピュロスデッキは対戦相手もサイコロをたくさん振れるようになるので子どもに受けが良い。
「このデッキは自分で組んだの?」
「姉に組んでもらいました!!」
「そうなんだね、かなり完成度高い気がするよ」
 もしかしたらどっかの大会の優勝デッキのコピーかな?
 ただデッキの動かし方にはかなりの慣れが見えるのでしっかり練習しているのだろう。
「あ、せっかくだしこういうのどう?【群像の投影】」
「うわぁぁ、何これ、何これ!!」
 せっかくなので魔法を使って見せると目を輝かせて見ている。
 男の子のデッキはデカブツが多いから見応えがあるなぁ。
 特に装備品はちゃんとモンスターに装備されて具現化するからカッコいい。
 まあ召喚士で無理やり装備欄増やしていて限界があったのか、ドラゴンが剣を二本咥えているケースもあるけど。
「これ、魔法ですか!?」
「そうそう、俺の作った魔法」
「すごいです!!」
 この子もそうだし隼人もそうだけど、けっこう反応いいな。
 人気魔法になってくれるかもしれないけど消費MPがなぁ……。
「僕も使ってみたいです!!」
「あー、これ消費MPが50と多いからレベル低いと難しいかな」
「姉はけっこう高レベルなので姉に使ってもらいます!!」
 消費MP50って最低20レベル必要なんだけどそこまで高いのだろうか?
 まあいいか。
「そっか、なら是非使ってくれたらいいよ[群像の投影]って魔法名だよ」
「ぐんぞうのとうえい……」
 漢字がわからなかったようで、ひらがなでメモしている。
 対戦前の落ち込みっぷりが嘘のように元気いっぱいだ。
 こういう弟がいると可愛がりたくなるのもわかるな。
「さっき一緒にいた男の子も興味あると思うけど、どこ行ったのかな?」
「あ、幹人は用事があって帰ったんです」
 なるほど、だから一人で対戦してたのか。
 普通は大抵友達と対戦するから気にはなっていたんだ。
「さっきも助けて頂きましたし、お兄さんみたいないい人がいてくれてよかったです!!」
「い、いやさっきは助けるってほどじゃ……」
 なるべく関わらないように避けてたのに目をキラキラされて感謝されるとちょっと心が痛い。
「お兄さんのお名前は?」
「能見真琴だよ」
「僕は工藤尊って言います」 
 これが尊との出会いだった。
 この出会いがまさかあんなことにつながるとはこの時の俺はまったく考えていなかった。