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第21話 好きになった理由は様々で

ー/ー



「お母さんってどうしてお父さんを選んだの?」


 家に戻ったシャロンは平然とテーブルの椅子に座って待っていたナタリーに突っ込むことはせずに問う。

 そんな娘にナタリーは「いきなりだねぇ」と少しばかり驚いた表情を見せた。


「何かあったのかい?」

「いや、なんか気になって」


 父、アノンは話を聞くに訳アリな男だ。

 家を逃げ出した身なのだから、そんな男の世話をしたいとは思わないのではないのかとシャロンは思ったのだ。

 それを聞いてナタリーはあぁと疑問に納得したのか答えた。


「アノンはね、あたしに助けられた時に言ったんだよ」


 父の追手からアノンを助けたナタリーはそんな彼から言われたのだという。

『天使がいる』

 一瞬、何を言っているのだろうかとナタリーは思った。天使や悪魔だと神話に出てくるのもので、実物など誰も見たことはないのだからと。

 暫く考えてこの男は自分に言っているのかと気づいて笑ってしまった。

 白銀の髪に真っ白な翼は確かにイメージする天使によく似ているだろう。それなら人翼種のほうが余程、天使と言われてもおかしくはないはずだ。

 というのに、ハルピュイアにその言葉を言ったのだ。可笑しくて腹を抱えたのをナタリーは覚えていた。

 面白い男だと思ったから話を聞いてみれば、アノンの父親に苛立って「あたしが言ってやるよ」と一緒に家に戻った。

 彼の父親と口論したはいいものの、結局は結婚を押し切ろうとして。

 アノンが泣きそうになりながら「嫌だ」と呟いたの見て、放っておけなくなってしまった。


「こうなったら逃がしてやろうって思ってね。アノンを追手から撒いてやったんだ。そこであとは自分でやりなって、別れるつもりだったんだけどね……」


 なんとか追手から撒いて安全な町まで送ったナタリーは、そこでアノンと別れるつもりだった。

 あとは自分でやりなといって別れようとした時にアノンは言った。

『貴女は僕の天使でした。助けてくれてありがとう』

 またしてもアノンはナタリーを天使と言ったのだ。

 見間違えたわけでもなく、ハルピュイアだと分かっていながら天使だと言った彼に、ナタリーは本当に面白い男だなと思った。

 この男はずっと自分のことを天使だと思ってくれるのだろうかと興味が湧いて、「あんたの天使でずっとあたしはいられるかい?」と聞いてみた。

 するとアノンは「もちろんですよ」と微笑みながら答えたのだという。

『どんな時でも僕だけの天使として忘れませんよ』

 なんとも純真な男だろうかとナタリーは思った。

 それと同じく、こんな可愛らしいとはいえない、きつい眼のハルピュイアを天使だと言ってくれる男と離れがたいと思ってしまった。

 彼ならば、このあたしを愛してくれるのではないかと。


「だから、言ったんだよ。あたしは今、婿探しの儀の途中で夫になる男を探していることを。で、あたしの夫になるかい?って聞いたんだ」

「お父さん、なんて答えたの?」

「こんな僕で貴女の傍にいてもいいのですか? って驚いたように言われたね」

「お父さんっぽい」


 ナタリーはそんな返しに笑って「こんなハルピュイアを天使だと言う度胸があればいけるさ」と言ったのだと話した。

 そうして、アノンをこの里に連れてきて祝儀を上げて夫婦となり、シャロンを産んだのだと。


「お母さんはお父さんが好きなんだよね?」

「好きに決まっているだろ。あたしのことを天使だなんて今だに思っている男だぞ。嫌いになるものか」


 ナタリーは「手放すつもりもないね」とはっきりと答えた。

 そこに彼女なりの愛情を感じて、シャロンは愛しているのだなと母の想いを知る。


「お母さんの花嫁衣裳って何だったの?」

「黒だよ」

「え、黒なんだ!」

「あたしの強い意志にアエロー様が選んだんだ」


 黒にはいろんな意味がある。その中でも花嫁衣裳の黒には「あなた以外には染まることはない」という意味があり、それは花嫁の強い意志が籠められていた。

 ナタリーのアノンを手放さないという強い想いにアエローがならばと勧めたらしい。


「あたしを染められた唯一の男だからね。アノン以外には染まらないっていうあたしにぴったりだと思ってそうしたんだ」

「な、なるほど……色にも意味があるんだ……」

「シャロンは何色がいいんだい?」

「え? カノアとかには白が似合うって言われたけど……」

「あー、白か。確かにお前によく似合っているね」


 純真なお前にはよく似合っているとナタリーは笑う。

 そんなものなのだろうかとシャロンは自分の髪を触れてみると、「見た目もだけれど意味もだよ」と返された。

 白いウェディングドレスには「純粋・純真」などの意味が籠められている。

 シャロンの嘘がつけない性格というのは白をイメージさせるので、よく似合うだろうとナタリーは思ったのだと言った。


「初心だしねぇ」

「そ、それは、そのー」

「ジークにも似合うと言われただろ」

「……何故、それを」

「すぐわかるよ」


 彼なら言うだろうとナタリーは言う。なんでも分かっているようなナタリーに、これが母の勘というものなのだろうかとシャロンが思っていれば、玄関が開いた。

 見遣れば、アノンとジークハルトが入ってきて「何しているんだい」と父に話しかけられる。


「駄目だろ、シャロンの邪魔しちゃ」

「してないよ。質問されたから答えていたんだよ」

「何をだい?」

「どうしてアノンを選んだのか」

「え、それ話したのかい?」

「もちろん」


 にこりと笑んでナタリーが答えれば、アノンは途端に顔を赤くさせた。娘に妻を天使だと思っていることを知られたのは恥ずかしかったようだ。

 シャロンが「お父さん、おかしくないから大丈夫だよ」とフォローを入れてみるも、顔を手で覆って黙っている。

 そんなアノンに追い打ちをかけるように「ジークも聞くかい」とナタリーは話しを始めて、彼は「ナタリー!」と声を上げた。


「恥ずかしがることないさ。あたしはそんなあんたが好きなんだから」

「そ、それはだね……」

「はいはい。恥ずかしがらないの」


 ナタリーはアノンの頭を撫でると「じゃあ、お母さんたちは戻るよ」と、恥ずかしそうにしいる彼を連れて家を出ていった。

 シャロンはお父さん大丈夫だろうかと心配しつつも、両親の夫婦になったきっかけを聞いて面白かったなと思う。

 カノアもロミンも、ナタリーもそれぞれ夫にしても良いと思い、惹かれた部分があったのだ。

 明確な理由というようなものではなくて、それが何だが羨ましくも感じた。自分もそんなふうに愛せたらいいなと。


「天使、か」

「あ、そこ引っかかります?」

「引っかかるというよりは確かになと」


 白銀の髪に白い翼というのは人間でも天使を想像することができるので、確かになと思ったのだとジークハルトは話す。

 人間でもそうなのかとシャロンが「そんなものなんですね」と言えば、「思ってしまう気持ちは分からなくもない」と返された。


「なるほどなー」

「まぁ、シャロンの父が言いたいことは分かってしまうなと」

「そうなんですね」


 シャロンはなるほどなと頷くと、ジークハルトがその様子に何とも言えない表情をしていた。

 どうしたのだろうと聞いてみるも、何でもないと返されて、シャロンは少し気になったものの、まぁいいかと深く突っ込むことはしなかった。




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次のエピソードへ進む 第22話 アナタもきっと


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「お母さんってどうしてお父さんを選んだの?」
 家に戻ったシャロンは平然とテーブルの椅子に座って待っていたナタリーに突っ込むことはせずに問う。
 そんな娘にナタリーは「いきなりだねぇ」と少しばかり驚いた表情を見せた。
「何かあったのかい?」
「いや、なんか気になって」
 父、アノンは話を聞くに訳アリな男だ。
 家を逃げ出した身なのだから、そんな男の世話をしたいとは思わないのではないのかとシャロンは思ったのだ。
 それを聞いてナタリーはあぁと疑問に納得したのか答えた。
「アノンはね、あたしに助けられた時に言ったんだよ」
 父の追手からアノンを助けたナタリーはそんな彼から言われたのだという。
『天使がいる』
 一瞬、何を言っているのだろうかとナタリーは思った。天使や悪魔だと神話に出てくるのもので、実物など誰も見たことはないのだからと。
 暫く考えてこの男は自分に言っているのかと気づいて笑ってしまった。
 白銀の髪に真っ白な翼は確かにイメージする天使によく似ているだろう。それなら人翼種のほうが余程、天使と言われてもおかしくはないはずだ。
 というのに、ハルピュイアにその言葉を言ったのだ。可笑しくて腹を抱えたのをナタリーは覚えていた。
 面白い男だと思ったから話を聞いてみれば、アノンの父親に苛立って「あたしが言ってやるよ」と一緒に家に戻った。
 彼の父親と口論したはいいものの、結局は結婚を押し切ろうとして。
 アノンが泣きそうになりながら「嫌だ」と呟いたの見て、放っておけなくなってしまった。
「こうなったら逃がしてやろうって思ってね。アノンを追手から撒いてやったんだ。そこであとは自分でやりなって、別れるつもりだったんだけどね……」
 なんとか追手から撒いて安全な町まで送ったナタリーは、そこでアノンと別れるつもりだった。
 あとは自分でやりなといって別れようとした時にアノンは言った。
『貴女は僕の天使でした。助けてくれてありがとう』
 またしてもアノンはナタリーを天使と言ったのだ。
 見間違えたわけでもなく、ハルピュイアだと分かっていながら天使だと言った彼に、ナタリーは本当に面白い男だなと思った。
 この男はずっと自分のことを天使だと思ってくれるのだろうかと興味が湧いて、「あんたの天使でずっとあたしはいられるかい?」と聞いてみた。
 するとアノンは「もちろんですよ」と微笑みながら答えたのだという。
『どんな時でも僕だけの天使として忘れませんよ』
 なんとも純真な男だろうかとナタリーは思った。
 それと同じく、こんな可愛らしいとはいえない、きつい眼のハルピュイアを天使だと言ってくれる男と離れがたいと思ってしまった。
 彼ならば、このあたしを愛してくれるのではないかと。
「だから、言ったんだよ。あたしは今、婿探しの儀の途中で夫になる男を探していることを。で、あたしの夫になるかい?って聞いたんだ」
「お父さん、なんて答えたの?」
「こんな僕で貴女の傍にいてもいいのですか? って驚いたように言われたね」
「お父さんっぽい」
 ナタリーはそんな返しに笑って「こんなハルピュイアを天使だと言う度胸があればいけるさ」と言ったのだと話した。
 そうして、アノンをこの里に連れてきて祝儀を上げて夫婦となり、シャロンを産んだのだと。
「お母さんはお父さんが好きなんだよね?」
「好きに決まっているだろ。あたしのことを天使だなんて今だに思っている男だぞ。嫌いになるものか」
 ナタリーは「手放すつもりもないね」とはっきりと答えた。
 そこに彼女なりの愛情を感じて、シャロンは愛しているのだなと母の想いを知る。
「お母さんの花嫁衣裳って何だったの?」
「黒だよ」
「え、黒なんだ!」
「あたしの強い意志にアエロー様が選んだんだ」
 黒にはいろんな意味がある。その中でも花嫁衣裳の黒には「あなた以外には染まることはない」という意味があり、それは花嫁の強い意志が籠められていた。
 ナタリーのアノンを手放さないという強い想いにアエローがならばと勧めたらしい。
「あたしを染められた唯一の男だからね。アノン以外には染まらないっていうあたしにぴったりだと思ってそうしたんだ」
「な、なるほど……色にも意味があるんだ……」
「シャロンは何色がいいんだい?」
「え? カノアとかには白が似合うって言われたけど……」
「あー、白か。確かにお前によく似合っているね」
 純真なお前にはよく似合っているとナタリーは笑う。
 そんなものなのだろうかとシャロンは自分の髪を触れてみると、「見た目もだけれど意味もだよ」と返された。
 白いウェディングドレスには「純粋・純真」などの意味が籠められている。
 シャロンの嘘がつけない性格というのは白をイメージさせるので、よく似合うだろうとナタリーは思ったのだと言った。
「初心だしねぇ」
「そ、それは、そのー」
「ジークにも似合うと言われただろ」
「……何故、それを」
「すぐわかるよ」
 彼なら言うだろうとナタリーは言う。なんでも分かっているようなナタリーに、これが母の勘というものなのだろうかとシャロンが思っていれば、玄関が開いた。
 見遣れば、アノンとジークハルトが入ってきて「何しているんだい」と父に話しかけられる。
「駄目だろ、シャロンの邪魔しちゃ」
「してないよ。質問されたから答えていたんだよ」
「何をだい?」
「どうしてアノンを選んだのか」
「え、それ話したのかい?」
「もちろん」
 にこりと笑んでナタリーが答えれば、アノンは途端に顔を赤くさせた。娘に妻を天使だと思っていることを知られたのは恥ずかしかったようだ。
 シャロンが「お父さん、おかしくないから大丈夫だよ」とフォローを入れてみるも、顔を手で覆って黙っている。
 そんなアノンに追い打ちをかけるように「ジークも聞くかい」とナタリーは話しを始めて、彼は「ナタリー!」と声を上げた。
「恥ずかしがることないさ。あたしはそんなあんたが好きなんだから」
「そ、それはだね……」
「はいはい。恥ずかしがらないの」
 ナタリーはアノンの頭を撫でると「じゃあ、お母さんたちは戻るよ」と、恥ずかしそうにしいる彼を連れて家を出ていった。
 シャロンはお父さん大丈夫だろうかと心配しつつも、両親の夫婦になったきっかけを聞いて面白かったなと思う。
 カノアもロミンも、ナタリーもそれぞれ夫にしても良いと思い、惹かれた部分があったのだ。
 明確な理由というようなものではなくて、それが何だが羨ましくも感じた。自分もそんなふうに愛せたらいいなと。
「天使、か」
「あ、そこ引っかかります?」
「引っかかるというよりは確かになと」
 白銀の髪に白い翼というのは人間でも天使を想像することができるので、確かになと思ったのだとジークハルトは話す。
 人間でもそうなのかとシャロンが「そんなものなんですね」と言えば、「思ってしまう気持ちは分からなくもない」と返された。
「なるほどなー」
「まぁ、シャロンの父が言いたいことは分かってしまうなと」
「そうなんですね」
 シャロンはなるほどなと頷くと、ジークハルトがその様子に何とも言えない表情をしていた。
 どうしたのだろうと聞いてみるも、何でもないと返されて、シャロンは少し気になったものの、まぁいいかと深く突っ込むことはしなかった。