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第19話 二人はお似合いだと思うと言われて

ー/ー



「カノアめぇ……」


 カノアの文句をぶつぶつと呟きながら飾りつけをしていると、とんとんと肩を叩かれた。

 なんだろうかと顔を向けると、花嫁であるハルピュイアのロミンがにこにこと笑みを浮かべている。

 何かあったのかと聞いてみると、「ちょっとお話したいなって」と返された。何かあっただろうかと首を傾げながら飾りつけをする手を止める。


「アナタが一番最初に連れてきたんでしょ?」

「いや、その……候補ですけども……」


 ロミンは知らなかったようなのでシャロンが事の経緯を話すと、彼女はなるほどと頷く。

 シャロンとジークハルトの関係を一応は把握したらしく、「それは大変ね」と返した。


「じゃあ、まだ式はしてないのね」

「うん。まだ夫婦じゃないし……なれるかわからないし……」


 シャロンがそう答えれば、ロミンはふむふむと考えるように顎に手を当てる。


「でも、シャロンは好きでしょ?」

「嫌いじゃないよ?」

「それは好きってことよね」

「まだよく分かんないの」


 自分の気持ちがよく分からなくてシャロンは俯く。そんな彼女を見て、ロミンは「恋ってそういうものだよ」と笑みを見せた。

 恋なんて知らず知らずに落ちているもので、考えて答えを出すようなものではないとロミンは言った。

 愛しているだとか、好きだとか難しく考えたってわかるものではないのだと。

 そういうものなのだろうかとシャロンが考えれば、「ほら、また考えてる」と指摘される。


「難しく考えてもだめだよ」

「でも……」

「考えなくたって答えはでるよ」

「そうかなぁ」

「そうだよ」


 考えたって分からなくて気持ち悪いだけだから時間に任せる方がいいとロミンは言う。

 彼女の言いたいことはなんとなくわかったので、シャロンはそれもそうかと納得する。

 彼女の言う通り、考えてもよく分からなくてもやもやするだけなのだ。

 この気持ちを抱いたままよりは、気にしないようにして時間が解決いしてくれることに期待するほうが幾分か楽になる。


「あのさ、ロミンはどうやって旦那さんと出逢ったの?」

「ジャンとはね、町で出逢ったの!」


 ジャンという烏の獣人と出逢ったのは草原を越えた先にある小さな町で、ロミンはそこの酒場で働かせてもらっていたのだという。

 唄が得意だった彼女はその歌声で客を楽しませていたのだが、酒に酔った男に絡まれることもあった。そんな時に助けてくれたのが彼だった。

 ジャンはロミンの唄が好きで毎日とは言わないもののよく来ていた酒場の常連だった。

 唄の感想をよく聞かせてくれるので、名前と顔を認識ていたロミンは助けられたことで、彼の優しさとその後の対応に誠実さを感じたという。

 助けてくれたお礼をしたいと言えば、ジャンは首を振ってロミンに言ったのだ。

『貴女が無事ならばそれだけで十分ですよ』

 また唄を聴かせてくださいと、たったそれだけ言って彼は何事もなかったかのように酒場を出ていった。

 その背に惹かれてしまった自分に、初めてこれが恋なのだと気づいたとロミンは笑む。


「それからはわたしからのもうアピールよ!」

「なんか、カノアもそうだったけどみんなアピール凄いよね」

「カノアは別格じゃない? 攫ってきたし」

「それもそうか」

「口説き落とすのにひと月もかかったけど、彼もわたしのこと好きだったみた
いだからね」


 ジャンはロミンのことが好きだったけれど、自分が相手では相応しくないと思い込んでいたようだった。

 だから、ロミンから口説き落とすことにしたらしい。待っていても声をかけてはくれないだろうと察したのだと。

 行動力は大事だと力説するロミンにカノアにも言われたなとシャロンは思い出す。

 とはいえ、自分はまだ気持ちにすら気づけていないため行動には移せないので彼女の言葉に頷くしかない。


「わたしね、シャロンと婿候補のジークハルトはお似合いだと思うよ」

「え、えぇ!」

「だって、二人とも相手のことを考えてるでしょ?」


 心配をかけていないか、大丈夫だろうか。言いたくないことは言わなくていいと相手のことを考えているというのは難しいものだ。

 気になり出すと聞きだしたくなるし、我が身が可愛くて相手の心配などそこそこになることもあるけれど、二人はそうではなくて。

 シャロンはジークハルトが婿候補になってしまったことを心配しているし、ジークハルトも同じようなことを考えている。


「それって相手のことをちゃんと考えてるってことじゃん。そう思い合えるって夫婦には大事なことだよ」

「そうかなぁ」

「そうだよ」


 にこっとロミンに微笑まれてシャロンはそうかなと頷く。なんだか、彼女に言われるとそんな気がしたのだ。


「シャロンちゃーん」

「オーキュペテー様、どうしました?」


 ロミンと話しているとオーキュペテーが飛んできた。彼女は「花集めに行ってくれる?」と小首を傾げる。


「もう少しだけほしくってぇ~」

「いいですよ」


 シャロンは特に問題もなかったのでオーキュペテーの頼みを引き受けた。「お願いね」と彼女はウィンクをすると籠を差し出してきた。

 それを受け取ってシャロンはロミンに「じゃあ」と声をかけてから空を飛ぶ。

 そのまま門前を抜けよとして「シャロン」と呼ばれた。なんだろうかと下を見ればジークハルトが立っていたので、地上に降りる。


「どうしました?」

「シャロンがどこかへ行こうとしていたから声をかけたんだが……」

「あぁ、花集めをしようと」


 もう少し必要らしくてと籠を見せるとジークハルトは納得したようだ。

 なるほどと頷いてから「一緒に行こう」と返してきたので、シャロンは思わず「何故?」と言ってしまう。


「一人は危ないだろう」

「花探すだけですし、大丈夫ですよ?」

「俺が心配なんだ」


 そう言われてはシャロンも断れないので「わかりました」と返事を返すしかない。

 ジークハルトは安堵したように息を吐いてから行こうかと歩き出したので、シャロンはその隣を歩くことにした。



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「カノアめぇ……」
 カノアの文句をぶつぶつと呟きながら飾りつけをしていると、とんとんと肩を叩かれた。
 なんだろうかと顔を向けると、花嫁であるハルピュイアのロミンがにこにこと笑みを浮かべている。
 何かあったのかと聞いてみると、「ちょっとお話したいなって」と返された。何かあっただろうかと首を傾げながら飾りつけをする手を止める。
「アナタが一番最初に連れてきたんでしょ?」
「いや、その……候補ですけども……」
 ロミンは知らなかったようなのでシャロンが事の経緯を話すと、彼女はなるほどと頷く。
 シャロンとジークハルトの関係を一応は把握したらしく、「それは大変ね」と返した。
「じゃあ、まだ式はしてないのね」
「うん。まだ夫婦じゃないし……なれるかわからないし……」
 シャロンがそう答えれば、ロミンはふむふむと考えるように顎に手を当てる。
「でも、シャロンは好きでしょ?」
「嫌いじゃないよ?」
「それは好きってことよね」
「まだよく分かんないの」
 自分の気持ちがよく分からなくてシャロンは俯く。そんな彼女を見て、ロミンは「恋ってそういうものだよ」と笑みを見せた。
 恋なんて知らず知らずに落ちているもので、考えて答えを出すようなものではないとロミンは言った。
 愛しているだとか、好きだとか難しく考えたってわかるものではないのだと。
 そういうものなのだろうかとシャロンが考えれば、「ほら、また考えてる」と指摘される。
「難しく考えてもだめだよ」
「でも……」
「考えなくたって答えはでるよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
 考えたって分からなくて気持ち悪いだけだから時間に任せる方がいいとロミンは言う。
 彼女の言いたいことはなんとなくわかったので、シャロンはそれもそうかと納得する。
 彼女の言う通り、考えてもよく分からなくてもやもやするだけなのだ。
 この気持ちを抱いたままよりは、気にしないようにして時間が解決いしてくれることに期待するほうが幾分か楽になる。
「あのさ、ロミンはどうやって旦那さんと出逢ったの?」
「ジャンとはね、町で出逢ったの!」
 ジャンという烏の獣人と出逢ったのは草原を越えた先にある小さな町で、ロミンはそこの酒場で働かせてもらっていたのだという。
 唄が得意だった彼女はその歌声で客を楽しませていたのだが、酒に酔った男に絡まれることもあった。そんな時に助けてくれたのが彼だった。
 ジャンはロミンの唄が好きで毎日とは言わないもののよく来ていた酒場の常連だった。
 唄の感想をよく聞かせてくれるので、名前と顔を認識ていたロミンは助けられたことで、彼の優しさとその後の対応に誠実さを感じたという。
 助けてくれたお礼をしたいと言えば、ジャンは首を振ってロミンに言ったのだ。
『貴女が無事ならばそれだけで十分ですよ』
 また唄を聴かせてくださいと、たったそれだけ言って彼は何事もなかったかのように酒場を出ていった。
 その背に惹かれてしまった自分に、初めてこれが恋なのだと気づいたとロミンは笑む。
「それからはわたしからのもうアピールよ!」
「なんか、カノアもそうだったけどみんなアピール凄いよね」
「カノアは別格じゃない? 攫ってきたし」
「それもそうか」
「口説き落とすのにひと月もかかったけど、彼もわたしのこと好きだったみた
いだからね」
 ジャンはロミンのことが好きだったけれど、自分が相手では相応しくないと思い込んでいたようだった。
 だから、ロミンから口説き落とすことにしたらしい。待っていても声をかけてはくれないだろうと察したのだと。
 行動力は大事だと力説するロミンにカノアにも言われたなとシャロンは思い出す。
 とはいえ、自分はまだ気持ちにすら気づけていないため行動には移せないので彼女の言葉に頷くしかない。
「わたしね、シャロンと婿候補のジークハルトはお似合いだと思うよ」
「え、えぇ!」
「だって、二人とも相手のことを考えてるでしょ?」
 心配をかけていないか、大丈夫だろうか。言いたくないことは言わなくていいと相手のことを考えているというのは難しいものだ。
 気になり出すと聞きだしたくなるし、我が身が可愛くて相手の心配などそこそこになることもあるけれど、二人はそうではなくて。
 シャロンはジークハルトが婿候補になってしまったことを心配しているし、ジークハルトも同じようなことを考えている。
「それって相手のことをちゃんと考えてるってことじゃん。そう思い合えるって夫婦には大事なことだよ」
「そうかなぁ」
「そうだよ」
 にこっとロミンに微笑まれてシャロンはそうかなと頷く。なんだか、彼女に言われるとそんな気がしたのだ。
「シャロンちゃーん」
「オーキュペテー様、どうしました?」
 ロミンと話しているとオーキュペテーが飛んできた。彼女は「花集めに行ってくれる?」と小首を傾げる。
「もう少しだけほしくってぇ~」
「いいですよ」
 シャロンは特に問題もなかったのでオーキュペテーの頼みを引き受けた。「お願いね」と彼女はウィンクをすると籠を差し出してきた。
 それを受け取ってシャロンはロミンに「じゃあ」と声をかけてから空を飛ぶ。
 そのまま門前を抜けよとして「シャロン」と呼ばれた。なんだろうかと下を見ればジークハルトが立っていたので、地上に降りる。
「どうしました?」
「シャロンがどこかへ行こうとしていたから声をかけたんだが……」
「あぁ、花集めをしようと」
 もう少し必要らしくてと籠を見せるとジークハルトは納得したようだ。
 なるほどと頷いてから「一緒に行こう」と返してきたので、シャロンは思わず「何故?」と言ってしまう。
「一人は危ないだろう」
「花探すだけですし、大丈夫ですよ?」
「俺が心配なんだ」
 そう言われてはシャロンも断れないので「わかりました」と返事を返すしかない。
 ジークハルトは安堵したように息を吐いてから行こうかと歩き出したので、シャロンはその隣を歩くことにした。