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第13話 それは聞いていないです、お母さん

ー/ー



 そんな娘の心境など知らず。室内に入ってきたジークハルトをナタリーはぎろりと睨む。


「お前か、シャロンの婿候補というのは」


 ナタリーはジークハルトの目の前に立つと見定めるように観察する。その視線というのが鋭く、まるで猛禽類が獲物を品定めするようだった。

 そろりとディルクがカノアの元までやってきて、どうしたのとひそひそ問う。

 シャロンの両親と聞いて、あぁと彼は納得したようにジークハルトを見た。


「ふむ。顔が良い、流石はあたしの娘が助けただけある」

「娘?」

「助けたのと顔の良さは関係ないでしょ、お母さん!」


 ナタリーに突っ込みをシャロンが入れれば、彼女ははっはっはと大きく笑った。

 その会話でシャロンとの関係性にジークハルトは気づいたようだ。どうすればいいのかといった少し不安げな表情をみせている。


「アノンより体格は良いぞ、見た目は合格点だ」

「それ、僕のこと華奢って言ってるよね、ナタリー」

「華奢だろう。まぁ、あたしの旦那になるだけの技量はあったがな!」


 また大笑するとナタリーにアノンははぁと息を吐く。

 そんな二人からそっとジークハルトは距離を取ったので、シャロンは彼の傍によってすみませんと謝る。


「あの二人はシャロンの両親、でいいのか?」

「そうです……」


 まごうことなき両親、頭の中にある記憶がそう言っている。帰ってきたことを認めたくはないがこれが現実だ。

 両親にはさっき説明しましたと声を潜めて伝えれば、ジークハルトは大丈夫なのかといったふうな表情をする。

 婿候補として匿っている状況であるのを良く思わないのではないか、そう言いたいのだ。

 ひそひそと話す二人にナタリーがおいと声をかける。


「母を無視して話をするな。お前は婿候補だろう?」

「一応は……」

「ならば、シャロンをどう思っているのだ」


 ナタリーの問いにシャロンは声を上げそうになる。何を言っているのだと。

(母よ、何を聞いているのですか!)

 シャロンは今それを聞かなくてもいいじゃないかと突っ込みたかった。ただ、両親的にはそこは気になるのかもしれないとも思った。

 でも、もう少し話をしてからでもいいのではないだろうかと言い返したかったが、そんな隙を相手は与えてくれない。

 答えられないのかといった鋭い眼がジークハルトを襲う。そんなに威圧しては彼も言うに言えないのではないかとシャロンは慌てる。


「……彼女は優しい」


 ジークハルトは一つ、息をついて答えた。

 シャロンは優しい娘だ。見も知らない人間の男を助け、訳も聞かずに匿っている。

 本当ならばもっといい婿を探せただろうに、こんな自分をまず知るところから始めてくれていて、普通ならばそうはできないだろうと。


「人間の俺に合わせてくれる気遣いもできる。俺には勿体無い女性だ」


 ジークハルトの言葉にナタリーはほうと顎に手をやって、目を細めるとはっはっはっはと笑った。


「あたしの子なんだ、良くできる娘なのは当然! お前はよく見ているな」


 笑いながらジークハルトの肩をばんばんと叩くナタリーに、彼は困惑した様子を見せていた。

 そんな彼女をアノンが止めに入る、相手が驚いているだろうと。


「いやー、すまんな。これはしっかりと聞かねばならないと思ったんだ」


 好きかどうかはまだ判断できないだろうが、それでも二人で過ごしてきて思った感じたことはあるのではないか。

 それが聞きたかったのだとナタリーは話す。


「その様子だと、悪くないようだな」

「それは……しかし……」

「なんだ、もしかして訳アリなことを気にしているのか?」


 ジークハルトの様子にナタリーが問と彼は視線を逸らしながら頷いた。

 ナタリーはだろうなと呟いてまた笑うと、「そんなもの気になどしていないさ」と答えた。


「なんせ、あたしの旦那も訳アリ男だったからな!」

「ナタリー!」


 アノンが慌てて話に入れば、「隠すことじゃないだろう」とナタリーは返す。

 もう隠すこともないといったふうに言葉を続けた。


「なんせ、アノンは良い所のお坊ちゃまで、父親に婚約者を用意されたけど結婚が嫌で家を飛び出したんだからね」


 ナタリーは「父親が雇った追手から逃げているところをあたしが助けたんだ」と、思い出したのかその時の話をする。

 助けたはいいが話を聞くに父親は諦めないだろう。

 このままでは捕まるのがオチだと途方に暮れるアノンを見て、ナタリーは放っておけず、両親を説得してやることにしたのだという。


「アノンの父は凄かったねぇ。ハルピュイアがなんだ! って怒鳴られたから、息子の話も聞いてやらない奴が親を名乗るな! って言い返してやったんだ」


 両親なのだろう、ならば子供の話に耳を傾けるべきだ。

 子を想っているのならばしっかりと話し合いをするべきで、自分の考えを押し付けるべきではないとナタリーは父親を説得するのではなく、叱りつけた。


「まー、結局は結婚を強行しようとした父親から逃げたわけだけど。訳アリだろ? だって逃げている身だからな。今はもうどうなっているかは知らんが。そんな奴を夫にしたんだ、お前が訳アリだろうと気にしないさ」


 だから、気にすることはないとナタリーはそう言ってジークハルトの肩を叩く。


「訳は話したくなったら話せばいい。訳を聞いたからと言って、シャロンはお前を拒絶したりはしないさ」


 それだけ言ってナタリーはシャロンのほうを向いて「お母さんたちは暫く滞在するからね」とウィンクをする。


「え、暫く?」

「あぁ、安心しな。一つ空き家があってそこを宿代わりに借りるから」


 お前たちが夫婦になるのが楽しみだよと、にこっと笑みをみせるナタリーにシャロンは胃が痛くなった。

 これから暫く両親にジークハルトとの関係を見守られるのだと思うと。

 腹部を押さえるシャロンにカノアとディルクが同情するように声をかけていた。




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 そんな娘の心境など知らず。室内に入ってきたジークハルトをナタリーはぎろりと睨む。
「お前か、シャロンの婿候補というのは」
 ナタリーはジークハルトの目の前に立つと見定めるように観察する。その視線というのが鋭く、まるで猛禽類が獲物を品定めするようだった。
 そろりとディルクがカノアの元までやってきて、どうしたのとひそひそ問う。
 シャロンの両親と聞いて、あぁと彼は納得したようにジークハルトを見た。
「ふむ。顔が良い、流石はあたしの娘が助けただけある」
「娘?」
「助けたのと顔の良さは関係ないでしょ、お母さん!」
 ナタリーに突っ込みをシャロンが入れれば、彼女ははっはっはと大きく笑った。
 その会話でシャロンとの関係性にジークハルトは気づいたようだ。どうすればいいのかといった少し不安げな表情をみせている。
「アノンより体格は良いぞ、見た目は合格点だ」
「それ、僕のこと華奢って言ってるよね、ナタリー」
「華奢だろう。まぁ、あたしの旦那になるだけの技量はあったがな!」
 また大笑するとナタリーにアノンははぁと息を吐く。
 そんな二人からそっとジークハルトは距離を取ったので、シャロンは彼の傍によってすみませんと謝る。
「あの二人はシャロンの両親、でいいのか?」
「そうです……」
 まごうことなき両親、頭の中にある記憶がそう言っている。帰ってきたことを認めたくはないがこれが現実だ。
 両親にはさっき説明しましたと声を潜めて伝えれば、ジークハルトは大丈夫なのかといったふうな表情をする。
 婿候補として匿っている状況であるのを良く思わないのではないか、そう言いたいのだ。
 ひそひそと話す二人にナタリーがおいと声をかける。
「母を無視して話をするな。お前は婿候補だろう?」
「一応は……」
「ならば、シャロンをどう思っているのだ」
 ナタリーの問いにシャロンは声を上げそうになる。何を言っているのだと。
(母よ、何を聞いているのですか!)
 シャロンは今それを聞かなくてもいいじゃないかと突っ込みたかった。ただ、両親的にはそこは気になるのかもしれないとも思った。
 でも、もう少し話をしてからでもいいのではないだろうかと言い返したかったが、そんな隙を相手は与えてくれない。
 答えられないのかといった鋭い眼がジークハルトを襲う。そんなに威圧しては彼も言うに言えないのではないかとシャロンは慌てる。
「……彼女は優しい」
 ジークハルトは一つ、息をついて答えた。
 シャロンは優しい娘だ。見も知らない人間の男を助け、訳も聞かずに匿っている。
 本当ならばもっといい婿を探せただろうに、こんな自分をまず知るところから始めてくれていて、普通ならばそうはできないだろうと。
「人間の俺に合わせてくれる気遣いもできる。俺には勿体無い女性だ」
 ジークハルトの言葉にナタリーはほうと顎に手をやって、目を細めるとはっはっはっはと笑った。
「あたしの子なんだ、良くできる娘なのは当然! お前はよく見ているな」
 笑いながらジークハルトの肩をばんばんと叩くナタリーに、彼は困惑した様子を見せていた。
 そんな彼女をアノンが止めに入る、相手が驚いているだろうと。
「いやー、すまんな。これはしっかりと聞かねばならないと思ったんだ」
 好きかどうかはまだ判断できないだろうが、それでも二人で過ごしてきて思った感じたことはあるのではないか。
 それが聞きたかったのだとナタリーは話す。
「その様子だと、悪くないようだな」
「それは……しかし……」
「なんだ、もしかして訳アリなことを気にしているのか?」
 ジークハルトの様子にナタリーが問と彼は視線を逸らしながら頷いた。
 ナタリーはだろうなと呟いてまた笑うと、「そんなもの気になどしていないさ」と答えた。
「なんせ、あたしの旦那も訳アリ男だったからな!」
「ナタリー!」
 アノンが慌てて話に入れば、「隠すことじゃないだろう」とナタリーは返す。
 もう隠すこともないといったふうに言葉を続けた。
「なんせ、アノンは良い所のお坊ちゃまで、父親に婚約者を用意されたけど結婚が嫌で家を飛び出したんだからね」
 ナタリーは「父親が雇った追手から逃げているところをあたしが助けたんだ」と、思い出したのかその時の話をする。
 助けたはいいが話を聞くに父親は諦めないだろう。
 このままでは捕まるのがオチだと途方に暮れるアノンを見て、ナタリーは放っておけず、両親を説得してやることにしたのだという。
「アノンの父は凄かったねぇ。ハルピュイアがなんだ! って怒鳴られたから、息子の話も聞いてやらない奴が親を名乗るな! って言い返してやったんだ」
 両親なのだろう、ならば子供の話に耳を傾けるべきだ。
 子を想っているのならばしっかりと話し合いをするべきで、自分の考えを押し付けるべきではないとナタリーは父親を説得するのではなく、叱りつけた。
「まー、結局は結婚を強行しようとした父親から逃げたわけだけど。訳アリだろ? だって逃げている身だからな。今はもうどうなっているかは知らんが。そんな奴を夫にしたんだ、お前が訳アリだろうと気にしないさ」
 だから、気にすることはないとナタリーはそう言ってジークハルトの肩を叩く。
「訳は話したくなったら話せばいい。訳を聞いたからと言って、シャロンはお前を拒絶したりはしないさ」
 それだけ言ってナタリーはシャロンのほうを向いて「お母さんたちは暫く滞在するからね」とウィンクをする。
「え、暫く?」
「あぁ、安心しな。一つ空き家があってそこを宿代わりに借りるから」
 お前たちが夫婦になるのが楽しみだよと、にこっと笑みをみせるナタリーにシャロンは胃が痛くなった。
 これから暫く両親にジークハルトとの関係を見守られるのだと思うと。
 腹部を押さえるシャロンにカノアとディルクが同情するように声をかけていた。