水野真帆が児童会室を出て行き、
藤城皐月と
江嶋華鈴の二人になった。華鈴は残っていた作業を続けたので、皐月は背後から華鈴の仕事ぶりを眺めていた。
「こうして誌面を作っていると、藤城君のアイデアっていいよね。修学旅行のしおりがどんどん面白い読み物に変わっていく。過去のしおりと比べて断然面白いと思うよ、私たちの年度のしおりって」
「俺もそう思う。ホント、圧倒的だよな、俺たちって」
皐月は華鈴が浮ついたことを言うのを初めて聞いた。五年生の頃の華鈴は常に喜怒哀楽を表に出さなかった。皐月はそんな華鈴の大人びたところを尊敬をしていたが、少し面白みに欠けると不満にも思っていた。
今こうして二人で一緒にはしゃいでいると、華鈴が本来とても明るい子だとわかる。皐月は今の華鈴に何の不満もない。
「アンケートも楽しみだな。みんな、どんなこと書いてくるんだろう。ところで江嶋は京都、どこ回るんだ?」
「私たちの班は金閣寺から
龍安寺、
仁和寺の世界遺産を巡って、午後は清水寺と
祇園を回るコース」
「いいね。龍安寺と仁和寺は金閣寺から歩いて行くんだよね」
「藤城君、知ってるの?」
「そのパターンはガイドブックで見たからね。俺たちの班でもちょっとだけ話題になったよ。仁和寺の後は映画村とか
嵐山に行くコースが学校から指定されていたけど、どうして江嶋たちは清水寺に行こうと思ったの? 移動時間、長くない?」
「長いーっ! でもね、やっぱり清水寺は外せないっていうことで、みんなで清水寺に行こうって決めたの。私たちの班は学校から配られたプランを変更したよ。藤城君たちは?」
「俺たちも清水寺と祇園に行くよ。あとは伏見稲荷とか
下鴨神社とか
東寺かな。全て鉄道と歩きでまわるんだ」
「えっ? どうして? バス使わないの?」
「バスは時間が読めないから避けた。バスでしか行けないところもあるけれど、そういうところは諦めて、鉄道だけで行けるところを選んだ」
真帆が職員室から児童会室へ戻って来た。
「お待たせ。黄木君って表紙のイラスト以外に、私たち個別のイラストも描いてくれていたんだね。一応スキャンしておいたけど、使うところってあるかな?」
「そうだな……。ワンポイントでイラストとして挿入するか、しおりの最後に編集後記みたいなのを作るか、かな。1ページくらい増やしても大丈夫だよな?」
「北川先生は私たちに全部任せるって言ってたから、好きにしていいんじゃない? だいぶページが増えそうだけど、今は気にしないで後で考えよう」
真帆がスキャンしてきた表紙のイラストをしおりに取り込んだ。これで今日の作業が終わった。真帆の言う通り、委員会の延長戦はすぐに終わった。
「じゃあ、帰ろうか。明日の委員会は放課後だ」
三人揃って児童会室を出た。校門に着くまでの間、皐月と華鈴は真帆に京都はどこを回るのか聞いた。真帆たちはら清水寺から
三十三間堂へ行って、午後は平等院と伏見稲荷へ行くと言う。これは学校から推奨されているコースで、皐月のクラスでもこのコースを採用している班がある。皐月と華鈴も自分たちの班が回るコースを真帆に話した。
校門を出ると皐月と華鈴は真帆と別れることになる。真帆の帰る方角は皐月が昨日一緒に帰った
二橋絵梨花と同じ方角だ。
「水野さんの家ってどこ? 俺ん家は
栄町」
「私の家は
新宿町。ここから近いよ。でも中学生になったら学校が遠くなるな……」
「私は
仲町だから近くなるよ」
二学期になると、クラスでも友達同士で地元の稲荷中学のことが話題に上るようになってきた。真帆と華鈴も中学のことを気にし始めているようだ。
修学旅行が終われば小学校生活は急速に終焉に近づく。六年生はみんな、小学校を卒業して中学校に進学することに不安を感じているのかもしれない。
「みんな稲荷中学に行くんだよな。当たり前か」
「委員長、何言ってるの?」
「いや、俺のクラスに名古屋の私立中学に行く子がいるからさ」
「私、知ってる。前、図書館で見た子たちだよね。二橋さんと栗林さん」
「江嶋、お前なんでクラスが違うのに、そんなことまで知ってんだよ?」
「児童会長だからね」
華鈴が意味不明な返事をした。いつも質問には簡潔明瞭に答える華鈴にしては珍しい。
「水野さん、児童会ってそんな探偵みたいなことしてるの?」
「いや……たぶん会長の趣味なんだと思う。私はそんなこと知らないから」
「趣味じゃないよ。たまたま知ってるだけだから。担任の先生に『お前、中学受験するのか?』って聞かれたことがあって、『中学受験って何ですか?』って聞いたら、4組に受験する子が2人いるって言ってたの」
「へえ〜、委員長のクラスにそんな子たちがいるんだ。2組にはそんな子、いなさそうだな」
「1組もいないよ。3組もいないんじゃないかな。私は聞いていない」
皐月は稲荷小学校の児童の中学受験への関心の低さを改めて知った。たまたま皐月の近くに中学受験をする子がいるだけのようだ。
「じゃあ私はこっちだから、ここで。さようなら」
「また明日ね」
「バイバイ」