第49話 ハートフルボッコ
ー/ー ティーカップを口元に運び、思いの外、苦みの強い茶を喉の奥へと流し込んで、どうにか自分の心の内にある苛立ちを抑えようと気を保つ。
ロータスは眉をひそめて沈黙。マルペルは、我を気遣おうとしているのか笑顔を取り繕うとして苦笑いでこちらを見つめている。
空気が重いというのはまさにこういうことを言う。
ソレノス王子のレッドアイズ自慢話の数々を聞かされ、城内ムキムキ筋肉ダルマ観光ツアーを終えて、ようやくして客室のソファにその身を委ねている。
我が何を言いたいのか分かるかね。
我がどんな気持ちだったのか分かるかね。
まあ、まあな。
ソレノス王子としては、レッドアイズという国がどんなに素晴らしい国であるか。そしてその国を将来的に担う立場にある自分がどんな未来を見据えているか。そういったアピールをこれでもかというくらいできて満足だったろう。
ただの親の七光りなんかではない。
ソレノス王子自身の苦悩も垣間見えてきたとは思う。思うよ、我は。
王子様ってイケメンなだけじゃなくて色々と考えてるし、しかも文武両道でカッコいい、って普通ならモテモテよ。
だが、だがな。
我にとっては聞いているだけで反吐が出る言葉がポンポンと飛び交ってきて、極めて不快だったと言わざるを得ない。
いや、我も分かっていたことだし、王子も知らなかったことなのだから、決して責めることのできない話ではあるのだが。
ここはレッドアイズ国。かつて魔王軍と対立し、そして最終的には勇者ロータス一行の手によって魔王の野望を打ち砕いた、伝説を作った国だ。
何が不快だったか、説明する必要あるか?
ソレノス王子が自慢話を一つする度に、我のことや我の城のこと、我の魔王軍のことが悉くディスられ、コケにされ、ダメ出しをされ、マシンガントークでハートブレイクされ放題だったのだ。もはや蜂の巣のように穴だらけよ。
もうね、鬼かと。鬼畜の所業よ。
いやいや、分かってるよ。ソレノス王子にとっては、魔王を倒したことを誇らしいと思っている。そのことを責めるつもりはないさ。
でも、でもさ……あんなに酷いこと言わなくてもいいじゃないか。
我、涙をこらえるのに必死だったぞ。何回、ロータスにこの拳を止められたことか。何回、マルペルにギュッと抱き寄せられたことか。
カタカタカタとカップの底がソーサーの上でタップダンスする。今にもお茶もこぼれてしまいそうだった。ああ、落ち着け、落ち着け。
我は魔王だった。そして、ソレノス王子は知らなかった。
それだけの話。たったそれだけの話。くぅ~……。
「その……なんだ。フィー、すまない。謝ることに意味はないと思うのだが、本当にすまない」
ガチのトーンで謝ってくるんじゃない。そういう気遣いが逆に心苦しいわ。
「き、き、き、気にするな。わ、わ、我だって最初っから、そう、最初っから分か、分かった上でここに来たのだから」
「フィーちゃん、どうか涙を拭いてください」
そっと身を乗り出したマルペルがハンカチで顔を拭ってくる。
ふえぇ~~~~~~ん!!!! ぐやじいよおおぉぉぉぉぉ!!!!!!
あのクソ王子ぃぃぃぃぃ!!!!!!
いつかぶっ殺してやりゅううぅぅぅぅっぅ!!!!!!!!
※ ※ ※
少し取り乱してしまったが、どうにか落ち着きを取り戻した我は、用意された客室のベッドの上でそのフカフカさを堪能していた。
ぁー……我の屋敷のクッションより気持ちいいわぁー……。
部屋は一人一部屋もらっている。贅沢なものだ。
よって、ここにはロータスもマルペルもいない。
招待した貴族のために用意された部屋というだけあって、かなりの高級感に満ちあふれている。先ほどまでのあのむさ苦しい空間はなんだったんだと言いたい。
急に静まりかえった部屋の中、ぽつんとひとりぼっちである。
なんだったらもう少しあの二人と雑談したかった気持ちもあるが、さすがにさっきの今あんな醜態を晒しておいて、どんな顔をして会話すればいいのか分からん。
遠出してきて、見知らぬ土地の、見知らぬ城の、見知らぬ天井をただ呆然と眺めていると、途方もなく寂しさが込み上げてくる。
どうして我の横にはミモザがいないのだろう。無理を言ってでも連れてくるべきだったような気さえしてくる。
いや、別に普段から毎日ミモザと同じベッドで寝てるわけではない。
我だって、一人で寝ることは普通だし、珍しくもない。
何せ、ミモザも工房で忙しくしてて何日も籠もりきりのときだってあるし。
ただ、今日に限っては、やはりひとりぼっちでいることが酷く辛い。
なんとなしに、ベッドからひょいと降りて、大きな窓を開く。
その先はバルコニーで、下を見下ろすと城下町がよく見えた。
丁度、広い広い公園もここから一望できた。
子供たちが遊んでいる様子がよく見える。
しかしなんだ、あの遊具は。確かここにくるまでにも見かけたな。
魔王フィテウマを模した木彫りの像。殴られ、叩かれるためにあるオモチャ。
我は、パエデロスで人間どもと戯れすぎてすっかり毒気を抜かれてしまったのだろうか。忘れることもできないはずなのだが、忘れたフリをしていたのか。
この国にとって、いや、世界にとって、我という存在は人間の敵。
令嬢などと名乗ってはいるが、所詮は悪役に過ぎない。
見てみろ、あの魔王を。あんなことをしても誰も止めないし、むしろ喜んでみんなでボッコボコじゃないか。もっとやれ、もっとやれという声も聞こえてきそう。
我は、この国にそれだけのことをしてきたんだ。
ソレノス王子のこともそう。王子は微塵も悪くない。
我だけが悪い。
この国にだけ限った話では勿論ないのだがな。我にとっては我の行動は正義であり、それは反面、人間どもからしたら巨悪だということだ。
やれやれ……心細くなると、どうにもこうにも考えることがネガティブになってきて仕方ないな。我も力を失っていなければ、魔王軍を追放されていなければ、今もまた人間どもの前に立ちはだかっていただろうに。
だが、今はどうなのだろう。
ロータスとの契約の話はなしにしても、だ。
我はまだ人間たちと対立するつもりでいるのかと言われたら、即答できそうにない自分がいる。むしろもうそれほどまでに揺らいでしまっている。
今さら仲良く手を取り合って、なんてできる立場じゃないことは分かっているのだが、我という存在意義が、概念があの日から音を立てて崩れ去っていったような、そんな気がしてならない。
これもまた、時代の移り変わりという奴なのかもしれぬな。
生きとし生けるもの、その環境に適応し、変わっていくものなのだと。
人間どもだって、進化し続けている。
我には思いもよらない文明を築き上げ、今日まで止まることを知らない。
数千年と生きてきた我はこれまでどれだけの成長を拒んできたのだろう。
人間どもを根絶やしにすることこそが我の天命だと思っていた。
世界を統べるほどの力を失って、ようやく我は目を覚ましたのかもしれない。
それはそれは、長い夢だったようだな。
なんだか色々と吹っ切れてすっきりしてしまったわ。
ぶっちゃけ、泣き疲れただけとも言う。
明日はいよいよレッドアイズ国民たち待望の魔王討伐記念感謝祭を控えている。
どうあったって心の底から楽しむことはできないだろうが、今一度、我自身のことについてを噛みしめる意味を込め堪能させてもらおう。
そうして、これからの我の身の振り方も改めるとしよう。
無論、そんなことを考える余裕が残っていたらの話だがな。
ロータスは眉をひそめて沈黙。マルペルは、我を気遣おうとしているのか笑顔を取り繕うとして苦笑いでこちらを見つめている。
空気が重いというのはまさにこういうことを言う。
ソレノス王子のレッドアイズ自慢話の数々を聞かされ、城内ムキムキ筋肉ダルマ観光ツアーを終えて、ようやくして客室のソファにその身を委ねている。
我が何を言いたいのか分かるかね。
我がどんな気持ちだったのか分かるかね。
まあ、まあな。
ソレノス王子としては、レッドアイズという国がどんなに素晴らしい国であるか。そしてその国を将来的に担う立場にある自分がどんな未来を見据えているか。そういったアピールをこれでもかというくらいできて満足だったろう。
ただの親の七光りなんかではない。
ソレノス王子自身の苦悩も垣間見えてきたとは思う。思うよ、我は。
王子様ってイケメンなだけじゃなくて色々と考えてるし、しかも文武両道でカッコいい、って普通ならモテモテよ。
だが、だがな。
我にとっては聞いているだけで反吐が出る言葉がポンポンと飛び交ってきて、極めて不快だったと言わざるを得ない。
いや、我も分かっていたことだし、王子も知らなかったことなのだから、決して責めることのできない話ではあるのだが。
ここはレッドアイズ国。かつて魔王軍と対立し、そして最終的には勇者ロータス一行の手によって魔王の野望を打ち砕いた、伝説を作った国だ。
何が不快だったか、説明する必要あるか?
ソレノス王子が自慢話を一つする度に、我のことや我の城のこと、我の魔王軍のことが悉くディスられ、コケにされ、ダメ出しをされ、マシンガントークでハートブレイクされ放題だったのだ。もはや蜂の巣のように穴だらけよ。
もうね、鬼かと。鬼畜の所業よ。
いやいや、分かってるよ。ソレノス王子にとっては、魔王を倒したことを誇らしいと思っている。そのことを責めるつもりはないさ。
でも、でもさ……あんなに酷いこと言わなくてもいいじゃないか。
我、涙をこらえるのに必死だったぞ。何回、ロータスにこの拳を止められたことか。何回、マルペルにギュッと抱き寄せられたことか。
カタカタカタとカップの底がソーサーの上でタップダンスする。今にもお茶もこぼれてしまいそうだった。ああ、落ち着け、落ち着け。
我は魔王だった。そして、ソレノス王子は知らなかった。
それだけの話。たったそれだけの話。くぅ~……。
「その……なんだ。フィー、すまない。謝ることに意味はないと思うのだが、本当にすまない」
ガチのトーンで謝ってくるんじゃない。そういう気遣いが逆に心苦しいわ。
「き、き、き、気にするな。わ、わ、我だって最初っから、そう、最初っから分か、分かった上でここに来たのだから」
「フィーちゃん、どうか涙を拭いてください」
そっと身を乗り出したマルペルがハンカチで顔を拭ってくる。
ふえぇ~~~~~~ん!!!! ぐやじいよおおぉぉぉぉぉ!!!!!!
あのクソ王子ぃぃぃぃぃ!!!!!!
いつかぶっ殺してやりゅううぅぅぅぅっぅ!!!!!!!!
※ ※ ※
少し取り乱してしまったが、どうにか落ち着きを取り戻した我は、用意された客室のベッドの上でそのフカフカさを堪能していた。
ぁー……我の屋敷のクッションより気持ちいいわぁー……。
部屋は一人一部屋もらっている。贅沢なものだ。
よって、ここにはロータスもマルペルもいない。
招待した貴族のために用意された部屋というだけあって、かなりの高級感に満ちあふれている。先ほどまでのあのむさ苦しい空間はなんだったんだと言いたい。
急に静まりかえった部屋の中、ぽつんとひとりぼっちである。
なんだったらもう少しあの二人と雑談したかった気持ちもあるが、さすがにさっきの今あんな醜態を晒しておいて、どんな顔をして会話すればいいのか分からん。
遠出してきて、見知らぬ土地の、見知らぬ城の、見知らぬ天井をただ呆然と眺めていると、途方もなく寂しさが込み上げてくる。
どうして我の横にはミモザがいないのだろう。無理を言ってでも連れてくるべきだったような気さえしてくる。
いや、別に普段から毎日ミモザと同じベッドで寝てるわけではない。
我だって、一人で寝ることは普通だし、珍しくもない。
何せ、ミモザも工房で忙しくしてて何日も籠もりきりのときだってあるし。
ただ、今日に限っては、やはりひとりぼっちでいることが酷く辛い。
なんとなしに、ベッドからひょいと降りて、大きな窓を開く。
その先はバルコニーで、下を見下ろすと城下町がよく見えた。
丁度、広い広い公園もここから一望できた。
子供たちが遊んでいる様子がよく見える。
しかしなんだ、あの遊具は。確かここにくるまでにも見かけたな。
魔王フィテウマを模した木彫りの像。殴られ、叩かれるためにあるオモチャ。
我は、パエデロスで人間どもと戯れすぎてすっかり毒気を抜かれてしまったのだろうか。忘れることもできないはずなのだが、忘れたフリをしていたのか。
この国にとって、いや、世界にとって、我という存在は人間の敵。
令嬢などと名乗ってはいるが、所詮は悪役に過ぎない。
見てみろ、あの魔王を。あんなことをしても誰も止めないし、むしろ喜んでみんなでボッコボコじゃないか。もっとやれ、もっとやれという声も聞こえてきそう。
我は、この国にそれだけのことをしてきたんだ。
ソレノス王子のこともそう。王子は微塵も悪くない。
我だけが悪い。
この国にだけ限った話では勿論ないのだがな。我にとっては我の行動は正義であり、それは反面、人間どもからしたら巨悪だということだ。
やれやれ……心細くなると、どうにもこうにも考えることがネガティブになってきて仕方ないな。我も力を失っていなければ、魔王軍を追放されていなければ、今もまた人間どもの前に立ちはだかっていただろうに。
だが、今はどうなのだろう。
ロータスとの契約の話はなしにしても、だ。
我はまだ人間たちと対立するつもりでいるのかと言われたら、即答できそうにない自分がいる。むしろもうそれほどまでに揺らいでしまっている。
今さら仲良く手を取り合って、なんてできる立場じゃないことは分かっているのだが、我という存在意義が、概念があの日から音を立てて崩れ去っていったような、そんな気がしてならない。
これもまた、時代の移り変わりという奴なのかもしれぬな。
生きとし生けるもの、その環境に適応し、変わっていくものなのだと。
人間どもだって、進化し続けている。
我には思いもよらない文明を築き上げ、今日まで止まることを知らない。
数千年と生きてきた我はこれまでどれだけの成長を拒んできたのだろう。
人間どもを根絶やしにすることこそが我の天命だと思っていた。
世界を統べるほどの力を失って、ようやく我は目を覚ましたのかもしれない。
それはそれは、長い夢だったようだな。
なんだか色々と吹っ切れてすっきりしてしまったわ。
ぶっちゃけ、泣き疲れただけとも言う。
明日はいよいよレッドアイズ国民たち待望の魔王討伐記念感謝祭を控えている。
どうあったって心の底から楽しむことはできないだろうが、今一度、我自身のことについてを噛みしめる意味を込め堪能させてもらおう。
そうして、これからの我の身の振り方も改めるとしよう。
無論、そんなことを考える余裕が残っていたらの話だがな。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
ティーカップを口元に運び、思いの外、苦みの強い茶を喉の奥へと流し込んで、どうにか自分の心の内にある苛立ちを抑えようと気を保つ。
ロータスは眉をひそめて沈黙。マルペルは、我を気遣おうとしているのか笑顔を取り繕うとして苦笑いでこちらを見つめている。
空気が重いというのはまさにこういうことを言う。
空気が重いというのはまさにこういうことを言う。
ソレノス王子のレッドアイズ自慢話の数々を聞かされ、城内ムキムキ筋肉ダルマ観光ツアーを終えて、ようやくして客室のソファにその身を委ねている。
我が何を言いたいのか分かるかね。
我がどんな気持ちだったのか分かるかね。
我がどんな気持ちだったのか分かるかね。
まあ、まあな。
ソレノス王子としては、レッドアイズという国がどんなに素晴らしい国であるか。そしてその国を将来的に担う立場にある自分がどんな未来を見据えているか。そういったアピールをこれでもかというくらいできて満足だったろう。
ただの親の七光りなんかではない。
ソレノス王子自身の苦悩も垣間見えてきたとは思う。思うよ、我は。
王子様ってイケメンなだけじゃなくて色々と考えてるし、しかも文武両道でカッコいい、って普通ならモテモテよ。
ソレノス王子自身の苦悩も垣間見えてきたとは思う。思うよ、我は。
王子様ってイケメンなだけじゃなくて色々と考えてるし、しかも文武両道でカッコいい、って普通ならモテモテよ。
だが、だがな。
我にとっては聞いているだけで反吐が出る言葉がポンポンと飛び交ってきて、極めて不快だったと言わざるを得ない。
いや、我も分かっていたことだし、王子も知らなかったことなのだから、決して責めることのできない話ではあるのだが。
いや、我も分かっていたことだし、王子も知らなかったことなのだから、決して責めることのできない話ではあるのだが。
ここはレッドアイズ国。かつて魔王軍と対立し、そして最終的には勇者ロータス一行の手によって魔王の野望を打ち砕いた、伝説を作った国だ。
何が不快だったか、説明する必要あるか?
ソレノス王子が自慢話を一つする度に、我のことや我の城のこと、我の魔王軍のことが悉くディスられ、コケにされ、ダメ出しをされ、マシンガントークでハートブレイクされ放題だったのだ。もはや蜂の巣のように穴だらけよ。
もうね、鬼かと。鬼畜の所業よ。
いやいや、分かってるよ。ソレノス王子にとっては、魔王を倒したことを誇らしいと思っている。そのことを責めるつもりはないさ。
でも、でもさ……あんなに酷いこと言わなくてもいいじゃないか。
我、涙をこらえるのに必死だったぞ。何回、ロータスにこの拳を止められたことか。何回、マルペルにギュッと抱き寄せられたことか。
我、涙をこらえるのに必死だったぞ。何回、ロータスにこの拳を止められたことか。何回、マルペルにギュッと抱き寄せられたことか。
カタカタカタとカップの底がソーサーの上でタップダンスする。今にもお茶もこぼれてしまいそうだった。ああ、落ち着け、落ち着け。
我は魔王だった。そして、ソレノス王子は知らなかった。
それだけの話。たったそれだけの話。くぅ~……。
それだけの話。たったそれだけの話。くぅ~……。
「その……なんだ。フィー、すまない。謝ることに意味はないと思うのだが、本当にすまない」
ガチのトーンで謝ってくるんじゃない。そういう気遣いが逆に心苦しいわ。
ガチのトーンで謝ってくるんじゃない。そういう気遣いが逆に心苦しいわ。
「き、き、き、気にするな。わ、わ、我だって最初っから、そう、最初っから分か、分かった上でここに来たのだから」
「フィーちゃん、どうか涙を拭いてください」
そっと身を乗り出したマルペルがハンカチで顔を拭ってくる。
「フィーちゃん、どうか涙を拭いてください」
そっと身を乗り出したマルペルがハンカチで顔を拭ってくる。
ふえぇ~~~~~~ん!!!! ぐやじいよおおぉぉぉぉぉ!!!!!!
あのクソ王子ぃぃぃぃぃ!!!!!!
いつかぶっ殺してやりゅううぅぅぅぅっぅ!!!!!!!!
あのクソ王子ぃぃぃぃぃ!!!!!!
いつかぶっ殺してやりゅううぅぅぅぅっぅ!!!!!!!!
※ ※ ※
少し取り乱してしまったが、どうにか落ち着きを取り戻した我は、用意された客室のベッドの上でそのフカフカさを堪能していた。
ぁー……我の屋敷のクッションより気持ちいいわぁー……。
部屋は一人一部屋もらっている。贅沢なものだ。
よって、ここにはロータスもマルペルもいない。
よって、ここにはロータスもマルペルもいない。
招待した貴族のために用意された部屋というだけあって、かなりの高級感に満ちあふれている。先ほどまでのあのむさ苦しい空間はなんだったんだと言いたい。
急に静まりかえった部屋の中、ぽつんとひとりぼっちである。
なんだったらもう少しあの二人と雑談したかった気持ちもあるが、さすがにさっきの今あんな醜態を晒しておいて、どんな顔をして会話すればいいのか分からん。
なんだったらもう少しあの二人と雑談したかった気持ちもあるが、さすがにさっきの今あんな醜態を晒しておいて、どんな顔をして会話すればいいのか分からん。
遠出してきて、見知らぬ土地の、見知らぬ城の、見知らぬ天井をただ呆然と眺めていると、途方もなく寂しさが込み上げてくる。
どうして我の横にはミモザがいないのだろう。無理を言ってでも連れてくるべきだったような気さえしてくる。
どうして我の横にはミモザがいないのだろう。無理を言ってでも連れてくるべきだったような気さえしてくる。
いや、別に普段から毎日ミモザと同じベッドで寝てるわけではない。
我だって、一人で寝ることは普通だし、珍しくもない。
何せ、ミモザも工房で忙しくしてて何日も籠もりきりのときだってあるし。
我だって、一人で寝ることは普通だし、珍しくもない。
何せ、ミモザも工房で忙しくしてて何日も籠もりきりのときだってあるし。
ただ、今日に限っては、やはりひとりぼっちでいることが酷く辛い。
なんとなしに、ベッドからひょいと降りて、大きな窓を開く。
その先はバルコニーで、下を見下ろすと城下町がよく見えた。
丁度、広い広い公園もここから一望できた。
その先はバルコニーで、下を見下ろすと城下町がよく見えた。
丁度、広い広い公園もここから一望できた。
子供たちが遊んでいる様子がよく見える。
しかしなんだ、あの遊具は。確かここにくるまでにも見かけたな。
魔王フィテウマを模した木彫りの像。殴られ、叩かれるためにあるオモチャ。
しかしなんだ、あの遊具は。確かここにくるまでにも見かけたな。
魔王フィテウマを模した木彫りの像。殴られ、叩かれるためにあるオモチャ。
我は、パエデロスで人間どもと戯れすぎてすっかり毒気を抜かれてしまったのだろうか。忘れることもできないはずなのだが、忘れたフリをしていたのか。
この国にとって、いや、世界にとって、我という存在は人間の敵。
令嬢などと名乗ってはいるが、所詮は悪役に過ぎない。
令嬢などと名乗ってはいるが、所詮は悪役に過ぎない。
見てみろ、あの魔王を。あんなことをしても誰も止めないし、むしろ喜んでみんなでボッコボコじゃないか。もっとやれ、もっとやれという声も聞こえてきそう。
我は、この国にそれだけのことをしてきたんだ。
ソレノス王子のこともそう。王子は微塵も悪くない。
我は、この国にそれだけのことをしてきたんだ。
ソレノス王子のこともそう。王子は微塵も悪くない。
我だけが悪い。
この国にだけ限った話では勿論ないのだがな。我にとっては我の行動は正義であり、それは反面、人間どもからしたら巨悪だということだ。
やれやれ……心細くなると、どうにもこうにも考えることがネガティブになってきて仕方ないな。我も力を失っていなければ、魔王軍を追放されていなければ、今もまた人間どもの前に立ちはだかっていただろうに。
だが、今はどうなのだろう。
ロータスとの契約の話はなしにしても、だ。
我はまだ人間たちと対立するつもりでいるのかと言われたら、即答できそうにない自分がいる。むしろもうそれほどまでに揺らいでしまっている。
我はまだ人間たちと対立するつもりでいるのかと言われたら、即答できそうにない自分がいる。むしろもうそれほどまでに揺らいでしまっている。
今さら仲良く手を取り合って、なんてできる立場じゃないことは分かっているのだが、我という存在意義が、概念があの日から音を立てて崩れ去っていったような、そんな気がしてならない。
これもまた、時代の移り変わりという奴なのかもしれぬな。
生きとし生けるもの、その環境に適応し、変わっていくものなのだと。
生きとし生けるもの、その環境に適応し、変わっていくものなのだと。
人間どもだって、進化し続けている。
我には思いもよらない文明を築き上げ、今日《こんにち》まで止まることを知らない。
数千年と生きてきた我はこれまでどれだけの成長を拒んできたのだろう。
我には思いもよらない文明を築き上げ、今日《こんにち》まで止まることを知らない。
数千年と生きてきた我はこれまでどれだけの成長を拒んできたのだろう。
人間どもを根絶やしにすることこそが我の天命だと思っていた。
世界を統べるほどの力を失って、ようやく我は目を覚ましたのかもしれない。
それはそれは、長い夢だったようだな。
世界を統べるほどの力を失って、ようやく我は目を覚ましたのかもしれない。
それはそれは、長い夢だったようだな。
なんだか色々と吹っ切れてすっきりしてしまったわ。
ぶっちゃけ、泣き疲れただけとも言う。
ぶっちゃけ、泣き疲れただけとも言う。
明日はいよいよレッドアイズ国民たち待望の魔王討伐記念感謝祭を控えている。
どうあったって心の底から楽しむことはできないだろうが、今一度、我自身のことについてを噛みしめる意味を込め堪能させてもらおう。
そうして、これからの我の身の振り方も改めるとしよう。
無論、そんなことを考える余裕が残っていたらの話だがな。
無論、そんなことを考える余裕が残っていたらの話だがな。