二十六話 え?
ー/ー「ん?」
神妙に倒れた冥土を見守っていた大輔が首を傾げる。
次の瞬間、
「うっわ。見たことあるぞ、あれ」
「天使です?」
「偽顕天使じゃな。あれは。ラファエルかの?」
倒れていた冥土の体から、神々しい光を放つ天使が現れ、冥土を包み込む。
同時に冥土が倒れている周りに草木が生える。それはゆっくりと広がり、直樹たちの足元にも及ぶ。
直樹とウィオリナが少し驚き、ティーガンが昔に見た記憶を探る。
「何がなんだか分からないけど、とりあえず――」
「ダイスケ。あれは問題ないぞ。あれは郭の偽顕天使じゃ」
大輔は“天心眼”等々を発動させイーラ・グロブスで偽顕天使ラファエルを打ち抜こうとするが、ティーガンが止める。
「烏丸先生の?」
「うむ。伝承の天使を創り出す技での。伝承においてアスモデウスの天敵はラファエルじゃからの。それにしても本来は数百人単位で、もしくは贄を必要とする技なのじゃが……優秀じゃの」
「それはいいよ。それよりも、冥土は大丈夫なの?」
大輔の質問にティーガンが頷く。
「大丈夫じゃろう。それよりも、アスモデウスが追い出されてくるはずじゃ。ここで仕留めるぞ」
「なら、それは俺の仕事だな。仕留めるのは得意だし」
「じゃあ、直樹、お願い」
「任せとけ」
そう直樹が頷いた瞬間。
豪ッ。
倒れていた冥土から黒翼が突然生えたかと思うと、極光がその身から放たれる。偽顕天使ラファエルが閃光を放ち、消える。
「あれかッ」
同時に紫の煙が冥土の体から逃げるように現れる。直樹は“白華眼”と“星泉眼”を発動させた鋭い瞳でそれを捉え、幻斬を抜き去る。
そのまま魔力を注ぎ、
「[心討ち]ッ!」
『ッッッッッッッッ!!!!』
捕捉した魂魄を直接斬る技巧、“暗殺術[心討ち]”によって紫の煙を斬る。
「って、結構しぶといぞ、こいつ」
しかし、アスモデウスは相当しぶといようで、魂魄の殆どを欠損したのにも関わらず、それでも生き延びていた。
極小の紫の煙と化し、闇夜に紛れて逃げようとする。
もちろん、直樹はそれを見逃すわけもなく。
だがしかし、その前に、
「私の体で創造主様たちに傷を付けた罪、万死に値しますッッ!!」
漆黒の翼を羽ばたかせ死神のごとく満月の夜空を飛ぶ冥土が、恐ろしい程深い漆黒の魔力を右腕に集め、極小の紫の煙に向かって放った。
「あ、ちょっ、俺いるッ!?」
直樹も巻き込んで。
『――――!!!!』
漆黒の極光に貫かれた極小の紫の煙は断末魔すら響かせず消滅した。また、直樹は慌てて回避したが間に合わず、漆黒の極光が頬を掠め、涙目になっていた。
そんな事も気にせず、着地して黒翼をカシュンカシュンとスライドさせながら背中に収納した冥土は、大輔たちに向かって深々とカーテシーをする。
「創造主様、ウィオリナ様、ティーガン様、此度はご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「これくらい迷惑に入らないよ」
「大丈夫ですッ!」
「うむ。気にせんでよい」
大輔たちは朗らかに頷き、
「ねぇ、俺への謝罪はッ!?」
「そうです。上姉さまッ。一番の功労者である私になんの一言もないの!?」
直樹とイムニティが冥土に抗議する。
冥土はチラリと直樹とイムニティを見て、ハンッと鼻で笑った。
「副創造主様は、まぁ副創造主様ですので、謝罪は不要です」
「はぁっ!?」
「あと、功労者は創造主様であり、お前じゃない。大体、お前がさっさとプログラムを完成させていればこのような事態にはならなかったのです。責めはすれど、感謝することなど一つもありません。というか、お前に感謝など、死んでも嫌です」
「酷いッ! 感謝! ありがとうの一言くらい良いじゃんッ! プー子姉さまの馬鹿ッ!!」
「馬鹿とはなんですッ!」
冥土が馬鹿と言われてキレ、イムニティとキャットファイトを始める。
それを見て、大輔は溜息を吐いた。
「はぁ、やっぱり性格設定ミスったかな。統合個体と防衛個体の同時陥落を防ぐためにそれなりに敵愾心は植えたけど……ミスった感が半端ない」
「ってか、俺へのあの態度はなんなんだ? なんか、助けて損した感じがするんだが」
「それは自業自得でしょ? 名前は一生怨まれるからね」
「う」
直樹がバツの悪そうな表情をする。
と、次の瞬間。
「創造主様。申し訳ございません。少し休眠しなければならないようです」
「私もそんな感じです。ごめんなさい」
キャットファイトしていた冥土とイムニティがそう謝ると同時に機能停止してしまった。
「おい、大輔」
「いや、問題はないよ。だけど、急激に負荷がかかったせいで、処理が遅れているみたい。全員“収納庫”にしまっておくよ」
直樹にそう答えながら大輔は冥土たちを“収納庫”にしまった。
それを見ていたティーガンが大輔に尋ねる。
「それで、これからどうするんじゃ」
「う~ん。先行部隊はあらかた斃し終わったから、本隊が日本に攻めてくる前に親玉を叩きに行きたいんだよね。けど、その前に僕たちも回復したいし、この状況もどうにかしないと……」
大輔が周りを見渡す。
京都の現状は悲惨だ。
死之怨巨鬼神によって建物は跡形もなく朽ちており、死の灰に満ちた大地となっている。事前に住民を府外に移動させていなければ、多くの死者がでていただろう。
直樹の影の異空間にいる神和ぎ社の戦闘員や補助員などの被害状況もいいとは言えない。
立て直しが必要なのである。
直樹はウィオリナを見やる。今回において全権を持つ存在に尋ねるのが一番だからだ。
「ウィオリナ。カガミヒメはなんて言っているんだ?」
「あ、ええっと……」
ウィオリナは自らの影の異空間にいるカガミヒメに尋ねる。
「あ、分かりました」
カガミヒメと話していたウィオリナが頷くと、ウィオリナは自らの血を目の前に垂らした。
すると、陽光の光が迸り、そこから少し疲れた様子のカガミヒメが現れた。ウィオリナを通して話をするより、直接出てきた方がいい。
「大輔様、直樹様、ウィオリナ様にティーガン様。死之怨巨鬼神の件。ありがとうございました。特に直樹様には死之怨巨鬼神の神性より多くの人々を救っていただきありがとうございます」
出てきたカガミヒメは何よりも先に大輔たちに深々と礼をした。感謝はいかなる時でも忘れてはいけない。特に、利害の一致により協力関係にある大輔たち相手には。
「お前の気持ちは分かったから、それよりも――」
状況が状況のため、直樹たちはカガミヒメのその誠心誠意の礼を後に回してくれと言おうとして、
「……え?」
カガミヒメの上半身に大きな穴が空いた。血まみれのイタチがカガミヒメの心臓を抉り取ったのだ。
そして血まみれのイタチは大きな葉っぱを咥えていた。祈力一葉。
「やられたッ!!」
「ッ、クソッ!!」
確かに大輔と直樹も疲れていた。それでも警戒は怠ってはいなかった。なのに、やられた。感知を潜り抜けられた。
そのイタチは天獄界の手先であり、祈力一葉が奪われたのだ。
大輔は血まみれのイタチに向かってイーラ・グロブスとインセクタを神速で抜き撃ちする。
直樹は転移でイタチの背後を取る。
しかし、
「クソッたれッ!!」
イタチはその一瞬前にスーと消え去った。痕跡は一切残っておらず、直ぐには追いかけられない。
大輔も直樹も歯噛みする。
が、そんな暇はない。
「カガミヒメさんッ!」
「ウィオリナ、うろたえるでないッ! 出血を抑えるんじゃッ!」
「ッ! 分かりましたッ!」
ウィオリナが血液操作でカガミヒメの出血を抑えていた。心臓を失い、カガミヒメの魂魄の一部でもあった祈力一葉さえも奪われたせいで、死にかけていた。
焦りの表情を浮かべながらもティーガンは生命に干渉する権能でカガミヒメの心臓を創造し、欠損した肉体を修復していく。
同時に、酷く傷ついたカガミヒメの魂魄の修復にもとりかかる。
しかし、うまくいかない。
「補助に回るッ! 大輔はアイツの居場所を探れッ!」
「もうやってるッ!」
魂魄の扱いを得意とする直樹が慌ててティーガンの治癒の補助をし、大輔は“天心眼[界越真眼]”でイタチの居場所を探る。
が、状況は更に悪くなる。
「え~、先越されちゃったよ~」
「「「「ッ!?」」」」
突如として、京都の上空に膨大な空間の歪みが発生したかと思うと、大きな顎の門が三つ開いた。死之怨巨鬼神の死の瘴気によって、テンプルムが破壊されていたのだ。
中央の門から妙に幼い顔つきの少年が現れた。背中には三対六翼の黒の翼を携え、頭には漆黒に輝く天使の輪っか。
まるで、堕天使そのものと言わざるを得なくて。
そして左右の門からはそれぞれ十万を超える悪魔と天使が現れて。
「サタンったら、やっぱり僕たちを騙してたんだね。はぁ、酷い酷い」
やけに軽々しいその堕天使は、
「ルシフェルッッッ!!!」
「あぁ! アザゼルの転生体だ!」
「ッ!」
天獄界の七王の一人にして、傲慢の王。ルシフェル。最強の一角。
ルシフェルの気配を感じて転移してきた郭が嵐の剣をルシフェルに振り下ろす。ここでルシフェルを仕留めないと、マズイッ! と言わんばかりの気迫だった。
しかし、ルシフェルは特に驚くこともなく無邪気に笑いながらその嵐の剣を片手で受け止める。握りつぶし、消滅させる。
同時に郭の本能が警戒をかき鳴らす。
瞬間、
「なッッ!!??」
星が堕ちてきた。比喩でもなく、本物の隕石。直径、数百メートルほどのそれはいつの間にか夜空を突き破っており、あと十数秒も待たずに地上に落下する寸前だった。
「先生ッ、その場から離れろっ!」
「ッ、分かったッ!」
“空転眼”を発動させながら、直樹が叫び、郭は天使の翼を羽ばたかせその場を離脱する。
同時に、とてつもなく不安定な空間の門が出来上がると、周囲の一切合切を吸い込む重力場が発生する。
隕石がその重力場に引かれ、軌道を変える。
そして不安定な空間の門と隕石が接触した瞬間、
「どっかに飛べッ!!」
「ああ、消えちゃったよ」
血涙を流しながら、直樹は隕石を宇宙の彼方へと転移させた。同時にカガミヒメの治療が終わった。しかし、意識は戻らない。
ルシフェルは少しだけ残念そうな表情を浮かべたが、直ぐに無邪気に笑う。
「まぁ、いいか。それよりももっと面白いことが起こるしね!」
ルシフェルは両手を広げる。
「皆、おいでよ!」
そして現れる。
「ッ」
「おいおい、本当にまずいぞ」
「……妾でも、ちょいと多いの」
「ヤバい……です」
「ネフィルム……でも足りないな」
本隊。
ルシフェルと共に現れた十万の天使と悪魔が霞むくらいの数。百万に近いのではないだろうか。海外の化生の殆どが京都の上空に現れ、天を覆いつくしていた。
その全てがルシフェルによって精神支配されており、直樹たちに向かって殺気を放っていた。
ヤバい。直樹たちをしても、相手にするのが難しい数だ。
日本が本当に陥落する。
「じゃあ、皆! 一緒にこの地を滅ぼそうか!――」
そして夜空を覆う無数の海外の化生の間から、流星群が瞬き光ったのが見え、同時に海外の化生たちがその身に宿る力を練り上げる。
いつの間にか周囲の空間自体が書き換えられていて、直樹の転移による脱出も敵わない。
直樹も大輔も、他の皆も諦めてはいないが、この絶望的状況を打開するには時間もなにもが足りない。
仕方なく、致命傷くらい我慢するかと思ったその時。
「あの~、すみません」
「尋ねたい事があるんだが」
まるで道を尋ねるが如く、軽い声が響いた。
「は?」
「うん?」
直樹と大輔の目が点となる。
ルシフェルの左右にあった二つの門から、とてつもなく見覚えのある声が響いたから。
同時に、
「誰だ、貴さま――」
「どこから現れ――」
天使と悪魔たちが背後から現れたその声の主たちに攻撃をして、
「「「「「「「ッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」」」」」」」
「「「「「「「ガァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」」」」」」」
天使と悪魔の半数が滅んだ。大爆発と空間切断と重力の嵐と巨大な剣と消滅の光等々の過剰すぎる力が迸ったのだ。
ついでに、それによって海外の化生の大部分が吹き飛ばされ、空に瞬いていた流星群も消えてしまった。
ルシフェルも吹き飛ばされた。
「……ええっと、これがこの世界の挨拶なのかな?」
「……たぶん、そうよ。だから問題ないわ」
「いや、流石に挨拶で殺意増しましに殴りかかってくる世界など、ありはせんよ。お主ら、咄嗟に反撃してしもうたから現実逃避しておるだけじゃろ」
「それよりもヘレナさんたちについて尋ねますわよ?」
悪魔たちが現れた門からは四人組の女性が現れ、
「や、ヤバい。魂保護しなきゃ。敵対意志を確認しなきゃ」
「いいだろ。そいつら、絶対害悪な奴だし。オレの勘がそう叫んでるんだし、たまには問答無用であういう奴らを殺してもいいだろ。それよりもイザベラについて尋ねるぞ」
天使たちが現れた門からは、二人組の女性が現れた。
そして、その女性たちは、
「あれ、なんでここにいるの?」
「お前たちこそ、何故ここにいる?」
互いを見て首を傾げる。
だがしかし、もっと首を傾げたい、っというか、叫びたい奴がいる。
「なんでお前らここにいるんだッッッッ!?!?!?」
「なんでお前らここにいるのッッッッ!?!?!?」
直樹と大輔である。
「「「「「「え?」」」」」」
そして、今頃直樹たちに気が付いた彼女たち、灯、麗華、レースノワエ、グランミュール、ツヴァイ、慎太郎が目を点にした。
======================================
公開可能情報
“暗殺術[心討ち]”:技巧。捕捉した魂魄を斬る技。大抵の生物は少しでも魂魄を斬られれば死ぬため、一発でも与えれば討てる。ただ、魂魄の強度や格が強い相手だと、その限りではない。
神妙に倒れた冥土を見守っていた大輔が首を傾げる。
次の瞬間、
「うっわ。見たことあるぞ、あれ」
「天使です?」
「偽顕天使じゃな。あれは。ラファエルかの?」
倒れていた冥土の体から、神々しい光を放つ天使が現れ、冥土を包み込む。
同時に冥土が倒れている周りに草木が生える。それはゆっくりと広がり、直樹たちの足元にも及ぶ。
直樹とウィオリナが少し驚き、ティーガンが昔に見た記憶を探る。
「何がなんだか分からないけど、とりあえず――」
「ダイスケ。あれは問題ないぞ。あれは郭の偽顕天使じゃ」
大輔は“天心眼”等々を発動させイーラ・グロブスで偽顕天使ラファエルを打ち抜こうとするが、ティーガンが止める。
「烏丸先生の?」
「うむ。伝承の天使を創り出す技での。伝承においてアスモデウスの天敵はラファエルじゃからの。それにしても本来は数百人単位で、もしくは贄を必要とする技なのじゃが……優秀じゃの」
「それはいいよ。それよりも、冥土は大丈夫なの?」
大輔の質問にティーガンが頷く。
「大丈夫じゃろう。それよりも、アスモデウスが追い出されてくるはずじゃ。ここで仕留めるぞ」
「なら、それは俺の仕事だな。仕留めるのは得意だし」
「じゃあ、直樹、お願い」
「任せとけ」
そう直樹が頷いた瞬間。
豪ッ。
倒れていた冥土から黒翼が突然生えたかと思うと、極光がその身から放たれる。偽顕天使ラファエルが閃光を放ち、消える。
「あれかッ」
同時に紫の煙が冥土の体から逃げるように現れる。直樹は“白華眼”と“星泉眼”を発動させた鋭い瞳でそれを捉え、幻斬を抜き去る。
そのまま魔力を注ぎ、
「[心討ち]ッ!」
『ッッッッッッッッ!!!!』
捕捉した魂魄を直接斬る技巧、“暗殺術[心討ち]”によって紫の煙を斬る。
「って、結構しぶといぞ、こいつ」
しかし、アスモデウスは相当しぶといようで、魂魄の殆どを欠損したのにも関わらず、それでも生き延びていた。
極小の紫の煙と化し、闇夜に紛れて逃げようとする。
もちろん、直樹はそれを見逃すわけもなく。
だがしかし、その前に、
「私の体で創造主様たちに傷を付けた罪、万死に値しますッッ!!」
漆黒の翼を羽ばたかせ死神のごとく満月の夜空を飛ぶ冥土が、恐ろしい程深い漆黒の魔力を右腕に集め、極小の紫の煙に向かって放った。
「あ、ちょっ、俺いるッ!?」
直樹も巻き込んで。
『――――!!!!』
漆黒の極光に貫かれた極小の紫の煙は断末魔すら響かせず消滅した。また、直樹は慌てて回避したが間に合わず、漆黒の極光が頬を掠め、涙目になっていた。
そんな事も気にせず、着地して黒翼をカシュンカシュンとスライドさせながら背中に収納した冥土は、大輔たちに向かって深々とカーテシーをする。
「創造主様、ウィオリナ様、ティーガン様、此度はご迷惑をおかけして申し訳ありません」
「これくらい迷惑に入らないよ」
「大丈夫ですッ!」
「うむ。気にせんでよい」
大輔たちは朗らかに頷き、
「ねぇ、俺への謝罪はッ!?」
「そうです。上姉さまッ。一番の功労者である私になんの一言もないの!?」
直樹とイムニティが冥土に抗議する。
冥土はチラリと直樹とイムニティを見て、ハンッと鼻で笑った。
「副創造主様は、まぁ副創造主様ですので、謝罪は不要です」
「はぁっ!?」
「あと、功労者は創造主様であり、お前じゃない。大体、お前がさっさとプログラムを完成させていればこのような事態にはならなかったのです。責めはすれど、感謝することなど一つもありません。というか、お前に感謝など、死んでも嫌です」
「酷いッ! 感謝! ありがとうの一言くらい良いじゃんッ! プー子姉さまの馬鹿ッ!!」
「馬鹿とはなんですッ!」
冥土が馬鹿と言われてキレ、イムニティとキャットファイトを始める。
それを見て、大輔は溜息を吐いた。
「はぁ、やっぱり性格設定ミスったかな。統合個体と防衛個体の同時陥落を防ぐためにそれなりに敵愾心は植えたけど……ミスった感が半端ない」
「ってか、俺へのあの態度はなんなんだ? なんか、助けて損した感じがするんだが」
「それは自業自得でしょ? 名前は一生怨まれるからね」
「う」
直樹がバツの悪そうな表情をする。
と、次の瞬間。
「創造主様。申し訳ございません。少し休眠しなければならないようです」
「私もそんな感じです。ごめんなさい」
キャットファイトしていた冥土とイムニティがそう謝ると同時に機能停止してしまった。
「おい、大輔」
「いや、問題はないよ。だけど、急激に負荷がかかったせいで、処理が遅れているみたい。全員“収納庫”にしまっておくよ」
直樹にそう答えながら大輔は冥土たちを“収納庫”にしまった。
それを見ていたティーガンが大輔に尋ねる。
「それで、これからどうするんじゃ」
「う~ん。先行部隊はあらかた斃し終わったから、本隊が日本に攻めてくる前に親玉を叩きに行きたいんだよね。けど、その前に僕たちも回復したいし、この状況もどうにかしないと……」
大輔が周りを見渡す。
京都の現状は悲惨だ。
死之怨巨鬼神によって建物は跡形もなく朽ちており、死の灰に満ちた大地となっている。事前に住民を府外に移動させていなければ、多くの死者がでていただろう。
直樹の影の異空間にいる神和ぎ社の戦闘員や補助員などの被害状況もいいとは言えない。
立て直しが必要なのである。
直樹はウィオリナを見やる。今回において全権を持つ存在に尋ねるのが一番だからだ。
「ウィオリナ。カガミヒメはなんて言っているんだ?」
「あ、ええっと……」
ウィオリナは自らの影の異空間にいるカガミヒメに尋ねる。
「あ、分かりました」
カガミヒメと話していたウィオリナが頷くと、ウィオリナは自らの血を目の前に垂らした。
すると、陽光の光が迸り、そこから少し疲れた様子のカガミヒメが現れた。ウィオリナを通して話をするより、直接出てきた方がいい。
「大輔様、直樹様、ウィオリナ様にティーガン様。死之怨巨鬼神の件。ありがとうございました。特に直樹様には死之怨巨鬼神の神性より多くの人々を救っていただきありがとうございます」
出てきたカガミヒメは何よりも先に大輔たちに深々と礼をした。感謝はいかなる時でも忘れてはいけない。特に、利害の一致により協力関係にある大輔たち相手には。
「お前の気持ちは分かったから、それよりも――」
状況が状況のため、直樹たちはカガミヒメのその誠心誠意の礼を後に回してくれと言おうとして、
「……え?」
カガミヒメの上半身に大きな穴が空いた。血まみれのイタチがカガミヒメの心臓を抉り取ったのだ。
そして血まみれのイタチは大きな葉っぱを咥えていた。祈力一葉。
「やられたッ!!」
「ッ、クソッ!!」
確かに大輔と直樹も疲れていた。それでも警戒は怠ってはいなかった。なのに、やられた。感知を潜り抜けられた。
そのイタチは天獄界の手先であり、祈力一葉が奪われたのだ。
大輔は血まみれのイタチに向かってイーラ・グロブスとインセクタを神速で抜き撃ちする。
直樹は転移でイタチの背後を取る。
しかし、
「クソッたれッ!!」
イタチはその一瞬前にスーと消え去った。痕跡は一切残っておらず、直ぐには追いかけられない。
大輔も直樹も歯噛みする。
が、そんな暇はない。
「カガミヒメさんッ!」
「ウィオリナ、うろたえるでないッ! 出血を抑えるんじゃッ!」
「ッ! 分かりましたッ!」
ウィオリナが血液操作でカガミヒメの出血を抑えていた。心臓を失い、カガミヒメの魂魄の一部でもあった祈力一葉さえも奪われたせいで、死にかけていた。
焦りの表情を浮かべながらもティーガンは生命に干渉する権能でカガミヒメの心臓を創造し、欠損した肉体を修復していく。
同時に、酷く傷ついたカガミヒメの魂魄の修復にもとりかかる。
しかし、うまくいかない。
「補助に回るッ! 大輔はアイツの居場所を探れッ!」
「もうやってるッ!」
魂魄の扱いを得意とする直樹が慌ててティーガンの治癒の補助をし、大輔は“天心眼[界越真眼]”でイタチの居場所を探る。
が、状況は更に悪くなる。
「え~、先越されちゃったよ~」
「「「「ッ!?」」」」
突如として、京都の上空に膨大な空間の歪みが発生したかと思うと、大きな顎の門が三つ開いた。死之怨巨鬼神の死の瘴気によって、テンプルムが破壊されていたのだ。
中央の門から妙に幼い顔つきの少年が現れた。背中には三対六翼の黒の翼を携え、頭には漆黒に輝く天使の輪っか。
まるで、堕天使そのものと言わざるを得なくて。
そして左右の門からはそれぞれ十万を超える悪魔と天使が現れて。
「サタンったら、やっぱり僕たちを騙してたんだね。はぁ、酷い酷い」
やけに軽々しいその堕天使は、
「ルシフェルッッッ!!!」
「あぁ! アザゼルの転生体だ!」
「ッ!」
天獄界の七王の一人にして、傲慢の王。ルシフェル。最強の一角。
ルシフェルの気配を感じて転移してきた郭が嵐の剣をルシフェルに振り下ろす。ここでルシフェルを仕留めないと、マズイッ! と言わんばかりの気迫だった。
しかし、ルシフェルは特に驚くこともなく無邪気に笑いながらその嵐の剣を片手で受け止める。握りつぶし、消滅させる。
同時に郭の本能が警戒をかき鳴らす。
瞬間、
「なッッ!!??」
星が堕ちてきた。比喩でもなく、本物の隕石。直径、数百メートルほどのそれはいつの間にか夜空を突き破っており、あと十数秒も待たずに地上に落下する寸前だった。
「先生ッ、その場から離れろっ!」
「ッ、分かったッ!」
“空転眼”を発動させながら、直樹が叫び、郭は天使の翼を羽ばたかせその場を離脱する。
同時に、とてつもなく不安定な空間の門が出来上がると、周囲の一切合切を吸い込む重力場が発生する。
隕石がその重力場に引かれ、軌道を変える。
そして不安定な空間の門と隕石が接触した瞬間、
「どっかに飛べッ!!」
「ああ、消えちゃったよ」
血涙を流しながら、直樹は隕石を宇宙の彼方へと転移させた。同時にカガミヒメの治療が終わった。しかし、意識は戻らない。
ルシフェルは少しだけ残念そうな表情を浮かべたが、直ぐに無邪気に笑う。
「まぁ、いいか。それよりももっと面白いことが起こるしね!」
ルシフェルは両手を広げる。
「皆、おいでよ!」
そして現れる。
「ッ」
「おいおい、本当にまずいぞ」
「……妾でも、ちょいと多いの」
「ヤバい……です」
「ネフィルム……でも足りないな」
本隊。
ルシフェルと共に現れた十万の天使と悪魔が霞むくらいの数。百万に近いのではないだろうか。海外の化生の殆どが京都の上空に現れ、天を覆いつくしていた。
その全てがルシフェルによって精神支配されており、直樹たちに向かって殺気を放っていた。
ヤバい。直樹たちをしても、相手にするのが難しい数だ。
日本が本当に陥落する。
「じゃあ、皆! 一緒にこの地を滅ぼそうか!――」
そして夜空を覆う無数の海外の化生の間から、流星群が瞬き光ったのが見え、同時に海外の化生たちがその身に宿る力を練り上げる。
いつの間にか周囲の空間自体が書き換えられていて、直樹の転移による脱出も敵わない。
直樹も大輔も、他の皆も諦めてはいないが、この絶望的状況を打開するには時間もなにもが足りない。
仕方なく、致命傷くらい我慢するかと思ったその時。
「あの~、すみません」
「尋ねたい事があるんだが」
まるで道を尋ねるが如く、軽い声が響いた。
「は?」
「うん?」
直樹と大輔の目が点となる。
ルシフェルの左右にあった二つの門から、とてつもなく見覚えのある声が響いたから。
同時に、
「誰だ、貴さま――」
「どこから現れ――」
天使と悪魔たちが背後から現れたその声の主たちに攻撃をして、
「「「「「「「ッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!」」」」」」」
「「「「「「「ガァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」」」」」」」
天使と悪魔の半数が滅んだ。大爆発と空間切断と重力の嵐と巨大な剣と消滅の光等々の過剰すぎる力が迸ったのだ。
ついでに、それによって海外の化生の大部分が吹き飛ばされ、空に瞬いていた流星群も消えてしまった。
ルシフェルも吹き飛ばされた。
「……ええっと、これがこの世界の挨拶なのかな?」
「……たぶん、そうよ。だから問題ないわ」
「いや、流石に挨拶で殺意増しましに殴りかかってくる世界など、ありはせんよ。お主ら、咄嗟に反撃してしもうたから現実逃避しておるだけじゃろ」
「それよりもヘレナさんたちについて尋ねますわよ?」
悪魔たちが現れた門からは四人組の女性が現れ、
「や、ヤバい。魂保護しなきゃ。敵対意志を確認しなきゃ」
「いいだろ。そいつら、絶対害悪な奴だし。オレの勘がそう叫んでるんだし、たまには問答無用であういう奴らを殺してもいいだろ。それよりもイザベラについて尋ねるぞ」
天使たちが現れた門からは、二人組の女性が現れた。
そして、その女性たちは、
「あれ、なんでここにいるの?」
「お前たちこそ、何故ここにいる?」
互いを見て首を傾げる。
だがしかし、もっと首を傾げたい、っというか、叫びたい奴がいる。
「なんでお前らここにいるんだッッッッ!?!?!?」
「なんでお前らここにいるのッッッッ!?!?!?」
直樹と大輔である。
「「「「「「え?」」」」」」
そして、今頃直樹たちに気が付いた彼女たち、灯、麗華、レースノワエ、グランミュール、ツヴァイ、慎太郎が目を点にした。
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公開可能情報
“暗殺術[心討ち]”:技巧。捕捉した魂魄を斬る技。大抵の生物は少しでも魂魄を斬られれば死ぬため、一発でも与えれば討てる。ただ、魂魄の強度や格が強い相手だと、その限りではない。
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