第24話 女王
ー/ー
地球に帰還した瞳たちは、地球の暫定統治機構の代表という立場で冥界の女王に会談を申し込んだ。悠木が深く帰依している女王に、悠木の処遇を相談するためだった。
冥界の女王は神々との接触を忌み嫌っている。陰に神々の加護を受けている暫定統治機構から女王への連絡は困難と思われたが、意外にも即座に返事が返ってきた。その翌日には、冥界と現世の境界で会談の場が設けられた。
「お待ちしておりました、女王陛下。この度のご来訪に心から感謝を申し上げます」と瞳。
「挨拶はいらぬ。名を名乗るがよい」と女王。
「失礼いたしました。天野瞳と申します。この会談の全権代理使節の正使でございます」と瞳。
「この二人は予の側近、タタ卿とクク公爵じゃ。見知りおくがよい。こちらのリリス子爵とは旧知のはずじゃな」と女王。
「はい」と瞳。
「同行者を紹介するがよい」と女王。
「副使の瑠璃子内親王と同じく副使の防空隊伊沢桐子中佐です」と瞳。
「よかろう。早速本題に入る。わが夫はどこじゃ。冥界の王たるわが夫に直ちに会わせよ」と女王。
「女王様、お会いいただく前に、少しお話をさせていただけないでしょうか。このようにご来訪いただくこととなった経緯を説明させてください」と瞳。
「話など後でよい。予は夫に会うためにここに来たのじゃ」と女王。
「どうしても聞いて頂きたい話があるのです」と瞳。
「ならん!」と女王。
「女王陛下、この者たちに少々慈悲を与えてもよろしいのでは」とクク公爵。
「手短に申せ」と女王。
「まず、あなたが夫とおっしゃる伊沢悠木大尉は火星圏での異星生物との交戦で重傷を負って治療中です。会っても話をすることができません」と瞳。
「承知しておる。しかし枕頭に侍ることはできよう」と女王。
「それから、悠木大尉の意識が戻る前に相談したいことがあるのです」と瞳。
「その話はあとじゃ。まず夫に会わせよ」と女王。
「ですが、どうしてもお話を……」と瞳。
「くどいぞ。女王陛下が面会を所望しておる。まずは望みをかなえよ。話はそれからきく」とタタ卿。
「それではどうか、お約束をしていただけませんか」と瑠璃子。
「予を疑うか?」と女王。
「女王陛下、この者たちを安心させてやってもよろしいのでは」とタタ卿。
「そうか。夫に会った後に、そなたたちの話をゆっくりと聞くであろう」と女王。
「ありがとうございます」と瑠璃子。
「すまぬな。予は少し気持ちが高ぶってしまっておるようじゃ」と女王。
女王らは別室に案内された。
「そなたたちは、このガラス瓶の中の肉塊がわが夫と申すのか?」と女王。
「これは治療するための蘇生装置です。中に入っているのは紛れもなく悠木大尉の体組織の一部です。神経組織が三割以上も残っており、十分再生可能な状態です。あと三か月すれば体は元通りに回復します」と桐子。
「そなたたちは、これを生きた人間と申すのか?」と女王は再び問うた。
「この世界での医療技術は高度に進歩しているのです。この程度なら治療可能なのです」と瞳。
「しかし、肉体に心が戻ってこまい。切り刻まれた身の苦しみに、心が耐えられるはずがなかろう」と女王。
「いいえ。悠木大尉は戻ってきます。約束をしたのです」と瞳。
「約束じゃと?」と女王。
「必ず戻ってくると」と瞳。
「予の夫からどのような言質を取ったのじゃ? 一字一句たがわず申してみよ」と女王。
「骨のひとかけらになっても戦って、この星の人々を守ると」と瑠璃子。
「そなたたち! よくもぬけぬけとそのような不埒を申したな! 許さぬぞ!」と女王。
「私たちには悠木しかいないのです」と瞳。
「じゃからといって、わが夫の人の良さにつけこんで骨になっても戦うなどと誓わせることが、そなたたちの正しき行いと申すのかえ?」と女王。
「では他にどうすればよいのです?」と瞳。
「それを考えることが、そなたたちの責務であろう」と瞳。
「だから私たちのやりかたでその責務を行っているのです」と桐子。
「なんじゃと!」と女王。
「女王陛下、どうかお静まりを」とクク公爵。
「予の怒りが、そなたたちに伝わらぬのが心底口惜しいわ」と女王。
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地球に帰還した瞳たちは、地球の暫定統治機構の代表という立場で冥界の女王に会談を申し込んだ。悠木が深く|帰依《きえ》している女王に、悠木の処遇を相談するためだった。
冥界の女王は神々との接触を忌み嫌っている。陰に神々の加護を受けている暫定統治機構から女王への連絡は困難と思われたが、意外にも即座に返事が返ってきた。その翌日には、冥界と現世の境界で会談の場が設けられた。
「お待ちしておりました、女王陛下。この度のご来訪に心から感謝を申し上げます」と瞳。
「挨拶はいらぬ。名を名乗るがよい」と女王。
「失礼いたしました。天野瞳と申します。この会談の全権代理使節の正使でございます」と瞳。
「この二人は予の側近、タタ卿とクク公爵じゃ。見知りおくがよい。こちらのリリス子爵とは旧知のはずじゃな」と女王。
「はい」と瞳。
「同行者を紹介するがよい」と女王。
「副使の瑠璃子内親王と同じく副使の防空隊伊沢桐子中佐です」と瞳。
「よかろう。早速本題に入る。わが夫はどこじゃ。冥界の王たるわが夫に直ちに会わせよ」と女王。
「女王様、お会いいただく前に、少しお話をさせていただけないでしょうか。このようにご来訪いただくこととなった経緯を説明させてください」と瞳。
「話など後でよい。予は夫に会うためにここに来たのじゃ」と女王。
「どうしても聞いて頂きたい話があるのです」と瞳。
「ならん!」と女王。
「女王陛下、この者たちに少々慈悲を与えてもよろしいのでは」とクク公爵。
「手短に申せ」と女王。
「まず、あなたが夫とおっしゃる伊沢悠木大尉は火星圏での異星生物との交戦で重傷を負って治療中です。会っても話をすることができません」と瞳。
「承知しておる。しかし|枕頭《ちんとう》に|侍《はべ》ることはできよう」と女王。
「それから、悠木大尉の意識が戻る前に相談したいことがあるのです」と瞳。
「その話はあとじゃ。まず夫に会わせよ」と女王。
「ですが、どうしてもお話を……」と瞳。
「くどいぞ。女王陛下が面会を所望しておる。まずは望みをかなえよ。話はそれからきく」とタタ卿。
「それではどうか、お約束をしていただけませんか」と瑠璃子。
「予を疑うか?」と女王。
「女王陛下、この者たちを安心させてやってもよろしいのでは」とタタ卿。
「そうか。夫に会った後に、そなたたちの話をゆっくりと聞くであろう」と女王。
「ありがとうございます」と瑠璃子。
「すまぬな。予は少し気持ちが高ぶってしまっておるようじゃ」と女王。
女王らは別室に案内された。
「そなたたちは、このガラス瓶の中の肉塊がわが夫と申すのか?」と女王。
「これは治療するための蘇生装置です。中に入っているのは紛れもなく悠木大尉の体組織の一部です。神経組織が三割以上も残っており、十分再生可能な状態です。あと三か月すれば体は元通りに回復します」と桐子。
「そなたたちは、これを生きた人間と申すのか?」と女王は再び問うた。
「この世界での医療技術は高度に進歩しているのです。この程度なら治療可能なのです」と瞳。
「しかし、肉体に心が戻ってこまい。切り刻まれた身の苦しみに、心が耐えられるはずがなかろう」と女王。
「いいえ。悠木大尉は戻ってきます。約束をしたのです」と瞳。
「約束じゃと?」と女王。
「必ず戻ってくると」と瞳。
「予の夫からどのような|言質《げんち》を取ったのじゃ? 一字一句たがわず申してみよ」と女王。
「骨のひとかけらになっても戦って、この星の人々を守ると」と瑠璃子。
「そなたたち! よくもぬけぬけとそのような不埒を申したな! 許さぬぞ!」と女王。
「私たちには悠木しかいないのです」と瞳。
「じゃからといって、わが夫の人の良さにつけこんで骨になっても戦うなどと誓わせることが、そなたたちの正しき行いと申すのかえ?」と女王。
「では他にどうすればよいのです?」と瞳。
「それを考えることが、そなたたちの責務であろう」と瞳。
「だから私たちのやりかたでその責務を行っているのです」と桐子。
「なんじゃと!」と女王。
「女王陛下、どうかお静まりを」とクク公爵。
「予の怒りが、そなたたちに伝わらぬのが心底|口惜《くちを》しいわ」と女王。