2時間目が終わった中休み、6年4組に修学旅行実行委員で副委員長の
江嶋華鈴がやって来た。
藤城皐月が
神谷秀真と
岩原比呂志の三人で修学旅行の訪問先について話していたところ、華鈴が教室に入ってきて皐月に声をかけてきた。
「お話しているところ、ごめんね。藤城君、ちょっといい?」
「わざわざ来てもらって悪いね」
「藤城君から借りようと思ってた資料なんだけど、北川先生からデータのファイルをコピーさせてもらったの。だから、自分の分は自分でプリントアウトするから」
皐月は今年のしおりの資料を手渡された時からずっと元のデータがほしいと思っていた。紙の資料を見ているだけでは前に進まない。ファイルがあれば直接手を入れることができ、作業をどんどん進めることができる。
まだ華鈴に皐月の考えていた仕事の進め方を話していなかったのに、状況を理解していたのか、華鈴は自分の判断で北川から資料のファイルをもらってきた。皐月は自分で北川のところにファイルをもらいに行くことを考えると憂鬱だったが、華鈴は言わなくても皐月の代わりにやってくれた。
「そうか。データを入手できたのはありがたい。俺、北川って苦手だから江嶋がそういう交渉してくれるの、すごく助かる」
「いいよ、別に。私はあの先生のこと、大丈夫だから。去年の担任だし。そういうわけで藤城君から資料を借りなくてもよくなった、ってことを伝えに来たの。じゃあ私、戻るね」
「あっ、ちょっと待って。江嶋に時間があるんなら、ちょっと話があるんだけど」
思わず華鈴を引き止めた。皐月には華鈴に伝えたいアイデアがあった。昼休みに生徒会室で華鈴や真帆と会う約束をしているのだから、その時に話せばいいとは思ったが、せっかちな皐月は一刻も早く伝えたい。
「じゃあ、今から児童会室に行く?」
「ああ。悪いな、せっかくの中休みなのに仕事の話に付き合わせちゃって」
「気にしないで」
秀真と比呂志には事情を説明してあるので、皐月は二人との会話を打ち切って、資料を持って華鈴と生徒会室へ向かった。早速、手に入れた資料のファイルをプリントアウトすることにした。
「資料のファイルが手に入ったから、すぐにでもしおり作りを始められるな」
「資料を印刷したら、データを水野さんに渡そうと思うの。先生にしおり作りはお前らに任せるって言われた」
「それって、北川はしおり作りに一切口出ししないってこと?」
「たぶんそうだと思う。よく言えば委員会に一任するってこと、悪く言えば丸投げされたってことね」
「やった! じゃあ、好きにやっていいってことじゃん。俺、あれこれ指図されて、全然自由にできないのかと思ってた」
修学旅行実行委員会のたびに北川の顔を見ることが憂鬱だったが、ここにきて最大の懸念材料が消えた。これまで以上にのびのびと委員会ができる。
「先生は普段の授業もあるし、修学旅行に行けば旅先での心配もあるし、旅行会社との交渉もあるし、大変なんだと思う。だから実行委員会は他の委員会よりもたくさんの仕事を任されることになるし、その分責任も重くなっちゃうんだけどね」
もしかして華鈴は委員長をやりたかったのかな、と思った。華鈴は先生への配慮ができる。これは児童会長の経験が物を言っているのだろう。そう考えると華鈴の方が委員長に向いているような気がしてきた。
「小学校生活最大のイベントだからな、修学旅行って」
「修学旅行実行委員って児童会よりも大変かもしれない」
「そうなんだ。……でも大丈夫。実行委員には江嶋や水野さんのような優秀なスタッフがいるから」
「私はあまり役に立っていない気がするんだけど……」
「そんなことはない。江嶋が先生からファイルもらって来てくれたり、本当に助かってる。江嶋って気が利くっていうか、何も言わなくても自分の判断でやってくれるよね。それに江嶋って先生から信頼されてるし。この際だから副委員長のミッションを先生との交渉担当にしちゃおうかな」
「え〜っ、それって藤城君が北川先生と話をしたくないだけでしょ?」
「まあそうなんだけどね。へへへっ。北川だって俺よりも江嶋に懐かれた方が嬉しいだろ?」
「やだ! 気持ちの悪いこと言わないで!」