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閑話 発狂しないことを祈るわ

ー/ー



 荒野。

 乾いた地面に低い草木がまばらに伸びている。近くには、高い城壁で囲まれた都があり、その中央には寺院にも近い宮殿が鎮座していた。

 多種協議連合国(ダークエルフ)の宮殿だ。

 その宮殿がもつ広大な庭に巨大な白の金属が墜落していた。

 それを少し遠くで眺めていた絶世という言葉が陳腐に思えてしまうほどの神世の銀髪の美女が、困ったような様子だった。

 神世の美女が纏う白の衣が風に揺れた時、ザッと足音が聞こえた。

「……久しぶり、ツヴァイ。終わったの?」
「久しぶりだ、ヘレナ。治療は終わったし、技術と知識の伝授も終わった。まぁ、相当疲れてたからな。シンタロウは一室を借りて寝かせてる」

 身長は190cmを超えているか。

 ギラギラと鋭く光る灰色の瞳。(たてがみ)の如く荒々しく美しい灰色の長髪。少し丸みを帯びた犬耳に、ふさふさの犬尻尾。

 精悍(せいかん)な顔立ちは美しい。

 ほぼビキニといっても過言ではない露出が高い服は、出すぎず引っ込みすぎず、鍛えられたその筋肉質なプロポーションを強調している。背中に背負う戦斧は彼女の二倍近い身長があるだろう。

 そんな彼女――ツヴァイ・グピディタース・ファミーヌは、片眉を上げる。

「……で、オレたちがいない一ヵ月間になにがあった?」
「私も詳しくは。イザベラも私もミラたちと一緒に二週間近くここでお世話になってから。で、ヴァイス・ヴァールに帰ろうとしたら」
「こうなっていた、と」

 神世の美女――ヘレナは静かに頷く。

 その視線の先には……

「で、もう一度説明してくれないかしら?」
「そ、その……むしゃくしゃして」

 絹のように艶やかな黒ローブを纏った緑混じりの黒髪の清楚な美人が、

「ふぅん、むしゃくしゃして?」
「わ、私たちが……暴れて」

 和テイストの軽装で片腕をはだけさせている青混じりの黒髪の麗人が、

「暴れて?」
「その、基幹部分をな?」

 チャイナドレスにも似た洋服を纏ったダークブラウンの長髪のグラマラス美女が、

「基幹部分を……ほぅほぅ、それで?」
「消滅させ……た」

 白のドレスとティアラを身に付けたウェーブがかった金髪の美姫が、

「そうなの、そうなの」

 白衣にも近い軽装に纏いレイピアを携えた美しい青混じりの白髪の美女――イザベラ・イーレ・クラルスに説教させられていた。正座する四人はビクビクと体を震わせている。

 イザベラ恐ろしい笑みを浮かべる。

「い、イザベラたん。違うのっ! 違うのよっ!」

 それに最初に耐えきれなくなったのは、ウェーブがかかった金髪の女性――レースノワエ・イーレ・クラルス。

 普段は極寒零度のその紫目に涙を浮かべ、美しいその顔を鼻水などの液体で濡らしてイザベラに飛びいた。というか、妹をたん付けで呼ぶのか……

「何が違うのかしら? レースノワエ様」

 しかしながら、イザベラは絶対零度の紫水晶(アメジスト)の瞳でしがみつくレースノワエを見下ろす。嫌悪の表情を浮かべ、レースノワエを無造作に引き離す。

 崩れ落ちるレースノワエ。

「あぁあぁあぁっ!!!! 私の可愛いイザベラたんが、お姉様って慕ってくれるイザベラたんがっ!!! そんな、そんなっっっ!!!」

 世界各国の首脳から恐れられている冷酷な姫君の姿はどこにもなく、レースノワエは泣きじゃくり絶望している。

 サクッと無視。イザベラは残り三人を見下ろす。

 緑混じりの黒髪の美人の頭に片手を置く。

「他に何かいうことはないかしら? ねぇ、アカリさん?」

 ヒュッと喉を鳴らした緑交じりの黒髪の美人――神無灯は、その翡翠の瞳を震わせる。

「すみませんでしたっっっ!!!」

 出るところはでている抜群のプロポーションと深窓の令嬢とも言えるその美しい様からは想像もできない、土下座をくりだす。グリグリと頭を地面にこすり付けるその姿は、なんというか、悲しい。

 しかし、イザベラは眉一つ動かさず、土下座している灯の頭の横にレイピアを突き刺す。

 ひぃっと灯の悲鳴が漏れる。

「謝罪はいいのよ。聞き飽きたわ。それより、ねぇ? ヴァイス・ヴァールはいつ壊れたのかしら? ねぇ?」
「そ、その」
「いつのなのかしら?」
「………………………………二週間、前、です」
「あら、二週間前なの……」

 イザベラはニッコリと笑って、

「その二週間何をしてたのかしら? クソ腹黒賢者様? ねぇ、ねぇ、どうしてなのかしら? 一日以内なら(わたくし)能力(スキル)で直せるのは知っていたはずよね? あれ、どうしたのかしら、ストーカー賢者様? ところ構わず盛る脳内ピンクな賢者様?」

 極寒の声音と共に、何度も何度もレイピアを灯の頭の近くに突き刺す。

 ザクッ、ザクッと音を立て、すれすれで地面に突き刺さるレイピアの恐怖に灯は気絶した。

 イザベラは横を見やる。

 既に青混じりの黒髪の麗人――月城麗華とダークブラウンの美女――グランミュール・ロード・ウォールが土下座していた。

 イザベラはしゃがむ。

「地べたに這いずって、なに遊んでいるのかしら? 別に土遊びをしたいなら構わないけれども……死にたいのかしら?」

 麗華もグランミュールも慌てて立ち上がる。ダラダラと冷や汗をかき、直立不動になる。

 イザベラが二人を冷たい瞳で見上げる。イザベラも女性としてはそれなりに背は高いのだが、麗華もグランミュールも、特にグランミュールは185cmもあるため、傍から見ると意外とシュールだ。

(わたくし)、お二人は比較的(・・・)真面だと思っていたの」

 イザベラはグランミュールを見やる。

「ミュールさん。アナタはヴァイス・ヴァールの件、まだいいわ。一応、このことを知らせてくれたものね?」
「う、うむ」

 グランミュールは戸惑う。

 亀の様なダークブランの耳がピコピコと揺れる。また、直立不動で立っているためか、豊満な双丘が呼吸に合わせて揺れる。いや、双丘だけでなくヒップもプルプルと揺れている。

 直立不動は案外キツいのだろう。まぁそれだけでなく、数百年生きてきた勘が鳴らす最大級の警戒に怯えているのもあるだろう。

 イザベラがグランミュールの片手を取る。

「けど」
「む、イザベラ、なに――」

 そしてイザベラはグランミュールの手を取る両手に力を入れて、

「大霊山を破壊したわね」
「のあっっ!!!」

 グランミュールの片手の甲が押した。

 すると、バキバキバキ、と音を立てて、手首から指の付け根――つまり手の甲を覆っていた黒き金属(から)がパキパキと破壊されたのだ。

 グランミュールは黒鋼亀(インビィー)族だ。全身を甲羅のような黒く堅い金属(から)で覆うことができる種族で、普段は顔も含めて全身に黒の金属(から)の線が走っている。

 が、黒鋼亀(インビィー)族の中でもその潜在能力に最も優れているグランミュールは、体の一部、手の甲や足の甲、肘に膝、後はうなじ部分が常に黒の堅い金属(から)で覆われている。

 痛覚はないが、それでも破壊されるのは辛い。グランミュールが悲鳴を上げた。

「大霊山には何があったかしら、ねぇ?」
「も、門がっ! イザベラが作っていた門がっ!」
「そうよね。ダイスケがいずれこっちに転移門を繋げるだろうから、そのための補助具を作っていたのよね。あそこは位相の安定も優れているわ」
「す、すまぬっ! だから、それだけは、それだけはっ――」

 イザベラは悶えるグランミュールのもう片方の手も取り、手の甲を覆う金属(から)を破壊する。

「ぬぅあああああああっっっっ!!!」

 グランミュールが倒れこんだ。

 イザベラが麗華を見やる。

「ねぇ、レイカさん。貴方はいつも暴走する皆を諫めてくれたはずよね?」

 麗華は一瞬、その藍色の瞳を揺らした後、直ぐに頭を下げる。綺麗で丁寧な所作だった。

「ごめんなさい。本当に、本当に。謝って許されることではない。イザベラにも、大輔にも、酷いことをした。なんでも、なんでもするわ。本当に、ごめんなさい」
「…………そう」

 イザベラは大きく美しい紫の瞳を下げた。

 そして、

「正座」
「い、イザベラたん……」
「イザベラちゃん……」
「我が、我が悪かった。本当に……」
「はい……」

 凍える声で全員を一斉に正座させたイザベラは、優雅にフィンガースナップをする。

 すると、正座した四人の上空に青白い魔法陣が現われ、

「「「「ひゃうっ!」」」」

 極寒の氷が四人の下半身を拘束し、また四人の後ろから氷の木が生えてきた。その木は四人の頭上に枝を伸ばしていて、先端は氷柱のようだった。

「ダイスケの故郷に面白い拷問があるのよ」

 四人の顔が真っ青になる。下半身を拘束している氷の寒さにではない。これから起こることについて恐怖しているのだ。

「お願い、イザベラたん! お姉ちゃん、なんでもするから。これだけは――」
「ね、ね、イザベラちゃん。やめよ。それだけは――」
「我、我でもこれは耐えられ――」
「クッ。覚悟、覚悟をしなさい、私っ――」

 ぴとっと全員の頭に雫が垂れた。

 とても冷たい雫だ。それは器用に髪の毛を伝い、額に垂れる。

 ゾゾゾゾゾゾゾゾっ。涙を浮かべる。

 そして、

「十分に一度。三日間、そのまま我慢しなさい。発狂しないことを祈るわ」

 若干引き気味のヘレナとツヴァイのところへ歩いたイザベラは、四人を巨大な氷の城壁で覆いつくした。

 ふぅ、と溜息を吐いたイザベラに頬をひきつらせたツヴァイが尋ねる。

「………………な、なんとなく想像つくが、何したんだ、アイツら?」
「……ヴァイス・ヴァールを再起不能にしたのよ」
「……時魔法でも直せ……なさそうだな」
「ええ。消滅よ。不可逆の消滅。全力全開で、基幹部分を破壊して、そのあと、外殻以外の全てを消滅させたのよ。ったく、基幹部分の破壊の段階なら、(わたくし)でも修理できたものを」
「そ、それは、まぁ、怒って当然だな。うん」

 ツヴァイは巨大な白の金属塊を見やる。元々、アレは空飛ぶ白鯨型幻想具(アイテム)、ヴァイス・ヴァールの外殻部分に使用されていた金属だ。

 そしてそれ以外見当たらない。

「だ、大霊山の方は……」
「あっちは、直ぐに修理したし、大霊山も元に戻したわ。賭博癖(縛りプレイ好き)妄想癖(むっつりスケベ)以外真面なミュールさんは、まだましだったのよ。(わたくし)に情報が行かぬようにあの三人に拘束されてただけで」
「なら……」
(わたくし)に知らせようとした手段がまずいのよ。王獣化だけすれば、(わたくし)でも直ぐに気が付くわ」
「ま、まぁ、大霊山よりも大きくなるからな。それは分かるよな」
「そうでしょ? なのに、ミュールさんはそのうえで大霊山を押しつぶしたのよ。故意よ。故意。大霊山を破壊するほど切羽詰まってたって伝えたかったんでしょうけど、そんなことしなくても分かるわよ、って話」

 ツヴァイは、そういえば、あの人馬鹿なところがあるからな……と視線を逸らす。

 と、あれ? とツヴァイが首を傾げる。

「ショウはどこだ? あとエクスィナも」

 周りをキョロキョロと見渡し、目を瞑って半径十キロ内の気配を探る。

 ヘレナが首を振った。

「戻った」
「あん? どういう……」
「アカリがいうには地球、つまりナオキたちの故郷ね。どうにも、不安定な世界の孔が開いて、ショウさんを連れ去ったらしいよ」
「……ああ」

 ツヴァイは何ともいえない表情で頷いた。

「勘が当たったか」
「そういう事。それよりもその世界の孔の方が問題よ」
「あん? 何故だ?」

 ツヴァイは首を傾げる。ヘレナは無表情のまま虚空を見やる。

「私の経験上、突発的に開く世界の孔はその周囲全てを吸い込む。なのに聞いた話だと、ショウさんしか吸い込まれなかったらしい。エクスィナはまぁ、ショウさんの一部みたいなものだから、ともかく」
「つまり、人為的……召喚か何かだと?」
「そういうこと」

 ヘレナは頷く。イザベラが付け足す。

「しかも、その孔が開いた周辺を調べたのだけれども、ショウさんをピンポイントで狙ったもので間違いないわ。勇者ではなく、ショウさんを、よ」
「……おい、魔力残滓はっ!」

 何かに思い当たったのか、ツヴァイは食い気味に尋ねる。

「ダイスケやナオキさんの魔力ではなかったわ。いえ、正確には魔力はあったのだけれども、それ以上に虚ろというべきかしら。そういうエネルギーが満ちていて、魔力の詳細が分からなかったのよ」
「けれど、十中八九、ナオキとダイスケよ」
「ええ」

 ヘレナとイザベラが力強く頷く。絶対に二人だという確信があるのだ。

 ツヴァイが喜ぶ。

「よっし。これでシンタロウが休めるっ!」
「あな――いや、お前、相当気を揉んでたからね」
「ああ。シンタロウったら、休むことを知らねぇんだ。だから、地球に帰ったら、ゆっくりしようって約束したからな。あっちなら、アイツに助けを求める人間も、目の前で傷つくやつもいない。病院とやらもキチンとあって、誰でも治療が受けられるらしいしな」

 ツヴァイは鼻歌まで歌い始める。

 それを見て、ヘレナもイザベラも頬を緩ます。

 と、その時、

「アカリさんっ!」
「分かってるよっ!」

 イザベラが一瞬で灯たちを拘束していた氷などを消す。

 また、麗華がレースノワエを抱えて転移と見間違う程の速さでイザベラ達の後ろに移動。グランミュールが灯とヘレナ達の間に割り込む。

 そして美しいローブに一瞬で着替えた灯がいつでもあらゆる魔法が行使できる準備をした瞬間、

『灯、メールだ。灯、メールだ』

 翔の格好つけた(イケメン)ボイスが流れた。

「………………着信?」

 灯は懐からスマホを取り出す。大輔によって魔改造されたスマホで、着信音などは全て翔の音声ボイスになっていたりする。

 皆が警戒するのか、灯は恐る恐るスマホを操作して、

「ッ! みんな、二週間後だってっ!」

 飛び跳ねた。嬉しそうだ。

 ヘレナがキャッキャとはしゃいで事情を説明しない灯に溜息を吐きながら尋ねる。

「……何が?」
「あ、えっと、地球に行くのっ! 大輔くんからのメールだよっ!」
「ダイスケからっ!?」

 イザベラがダダダッと豪速で移動し、灯からスマホを奪い取る。

「……『誓いは必ず。待ってて、イザベラ』……っ!」
「私にも見せて」
「我にもだ」
(わたくし)にも」

 ヘレナ以外の全員がスマホを覗き込む。

 皆、ほぁ、だの頬を赤らめるなか、ヘレナが首を傾げる。

「どうしてアカリさんのスマホ? ダイスケさんからのメールならイザベラに……それに魔力も無機質……いえ、一番素に近い。エクスィナが変換した? なにから? 虚のエネルギー。つまり、違う存在……」
「そんな事より、ヘレナさんっ! 早くミラちゃんたちにこのメール見せなきゃ。あと、ヘレナさんも絶対見なさいっ!」
「……そうね」

 ヘレナは思考を止め、メールを読んだ。

 そして悲しく、それでいて嬉しそうに微笑んだ。今、抱いた疑念が、氷解した。強い確信を持った。

 少しだけ胸が痛んだ。

 
 




======================================
公開可能情報
多種協議連合国(ダークエルフ)森酋長(エルフ)族と荒野に暮らしていた人族の子が興した里が国に発展したもの。森酋長(エルフ)を揶揄っており、いわば自らの種を至高とする森酋長(エルフ)族ではなく、自分たちはあらゆる種族を尊重し、混血種なども一人の人間だと主張している。大昔から種族の軋轢などで逃げてきた人を匿っていた。出自のこともあり、ミラとノアはここの人たちの気質が好きだったりする。また、直樹たちも同じ。

公開可能情報と登場人物を投稿したのち、四章に入っていきます。
また、今回の公開可能情報と登場人物は一話に納まっています。公開可能情報が多くなかったので。


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 荒野。
 乾いた地面に低い草木がまばらに伸びている。近くには、高い城壁で囲まれた都があり、その中央には寺院にも近い宮殿が鎮座していた。
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 その宮殿がもつ広大な庭に巨大な白の金属が墜落していた。
 それを少し遠くで眺めていた絶世という言葉が陳腐に思えてしまうほどの神世の銀髪の美女が、困ったような様子だった。
 神世の美女が纏う白の衣が風に揺れた時、ザッと足音が聞こえた。
「……久しぶり、ツヴァイ。終わったの?」
「久しぶりだ、ヘレナ。治療は終わったし、技術と知識の伝授も終わった。まぁ、相当疲れてたからな。シンタロウは一室を借りて寝かせてる」
 身長は190cmを超えているか。
 ギラギラと鋭く光る灰色の瞳。|鬣《たてがみ》の如く荒々しく美しい灰色の長髪。少し丸みを帯びた犬耳に、ふさふさの犬尻尾。
 |精悍《せいかん》な顔立ちは美しい。
 ほぼビキニといっても過言ではない露出が高い服は、出すぎず引っ込みすぎず、鍛えられたその筋肉質なプロポーションを強調している。背中に背負う戦斧は彼女の二倍近い身長があるだろう。
 そんな彼女――ツヴァイ・グピディタース・ファミーヌは、片眉を上げる。
「……で、オレたちがいない一ヵ月間になにがあった?」
「私も詳しくは。イザベラも私もミラたちと一緒に二週間近くここでお世話になってから。で、ヴァイス・ヴァールに帰ろうとしたら」
「こうなっていた、と」
 神世の美女――ヘレナは静かに頷く。
 その視線の先には……
「で、もう一度説明してくれないかしら?」
「そ、その……むしゃくしゃして」
 絹のように艶やかな黒ローブを纏った緑混じりの黒髪の清楚な美人が、
「ふぅん、むしゃくしゃして?」
「わ、私たちが……暴れて」
 和テイストの軽装で片腕をはだけさせている青混じりの黒髪の麗人が、
「暴れて?」
「その、基幹部分をな?」
 チャイナドレスにも似た洋服を纏ったダークブラウンの長髪のグラマラス美女が、
「基幹部分を……ほぅほぅ、それで?」
「消滅させ……た」
 白のドレスとティアラを身に付けたウェーブがかった金髪の美姫が、
「そうなの、そうなの」
 白衣にも近い軽装に纏いレイピアを携えた美しい青混じりの白髪の美女――イザベラ・イーレ・クラルスに説教させられていた。正座する四人はビクビクと体を震わせている。
 イザベラ恐ろしい笑みを浮かべる。
「い、イザベラたん。違うのっ! 違うのよっ!」
 それに最初に耐えきれなくなったのは、ウェーブがかかった金髪の女性――レースノワエ・イーレ・クラルス。
 普段は極寒零度のその紫目に涙を浮かべ、美しいその顔を鼻水などの液体で濡らしてイザベラに飛びいた。というか、妹をたん付けで呼ぶのか……
「何が違うのかしら? レースノワエ様」
 しかしながら、イザベラは絶対零度の|紫水晶《アメジスト》の瞳でしがみつくレースノワエを見下ろす。嫌悪の表情を浮かべ、レースノワエを無造作に引き離す。
 崩れ落ちるレースノワエ。
「あぁあぁあぁっ!!!! 私の可愛いイザベラたんが、お姉様って慕ってくれるイザベラたんがっ!!! そんな、そんなっっっ!!!」
 世界各国の首脳から恐れられている冷酷な姫君の姿はどこにもなく、レースノワエは泣きじゃくり絶望している。
 サクッと無視。イザベラは残り三人を見下ろす。
 緑混じりの黒髪の美人の頭に片手を置く。
「他に何かいうことはないかしら? ねぇ、アカリさん?」
 ヒュッと喉を鳴らした緑交じりの黒髪の美人――神無灯は、その翡翠の瞳を震わせる。
「すみませんでしたっっっ!!!」
 出るところはでている抜群のプロポーションと深窓の令嬢とも言えるその美しい様からは想像もできない、土下座をくりだす。グリグリと頭を地面にこすり付けるその姿は、なんというか、悲しい。
 しかし、イザベラは眉一つ動かさず、土下座している灯の頭の横にレイピアを突き刺す。
 ひぃっと灯の悲鳴が漏れる。
「謝罪はいいのよ。聞き飽きたわ。それより、ねぇ? ヴァイス・ヴァールはいつ壊れたのかしら? ねぇ?」
「そ、その」
「いつのなのかしら?」
「………………………………二週間、前、です」
「あら、二週間前なの……」
 イザベラはニッコリと笑って、
「その二週間何をしてたのかしら? クソ腹黒賢者様? ねぇ、ねぇ、どうしてなのかしら? 一日以内なら|私《わたくし》の|能力《スキル》で直せるのは知っていたはずよね? あれ、どうしたのかしら、ストーカー賢者様? ところ構わず盛る脳内ピンクな賢者様?」
 極寒の声音と共に、何度も何度もレイピアを灯の頭の近くに突き刺す。
 ザクッ、ザクッと音を立て、すれすれで地面に突き刺さるレイピアの恐怖に灯は気絶した。
 イザベラは横を見やる。
 既に青混じりの黒髪の麗人――月城麗華とダークブラウンの美女――グランミュール・ロード・ウォールが土下座していた。
 イザベラはしゃがむ。
「地べたに這いずって、なに遊んでいるのかしら? 別に土遊びをしたいなら構わないけれども……死にたいのかしら?」
 麗華もグランミュールも慌てて立ち上がる。ダラダラと冷や汗をかき、直立不動になる。
 イザベラが二人を冷たい瞳で見上げる。イザベラも女性としてはそれなりに背は高いのだが、麗華もグランミュールも、特にグランミュールは185cmもあるため、傍から見ると意外とシュールだ。
「|私《わたくし》、お二人は|比較的《・・・》真面だと思っていたの」
 イザベラはグランミュールを見やる。
「ミュールさん。アナタはヴァイス・ヴァールの件、まだいいわ。一応、このことを知らせてくれたものね?」
「う、うむ」
 グランミュールは戸惑う。
 亀の様なダークブランの耳がピコピコと揺れる。また、直立不動で立っているためか、豊満な双丘が呼吸に合わせて揺れる。いや、双丘だけでなくヒップもプルプルと揺れている。
 直立不動は案外キツいのだろう。まぁそれだけでなく、数百年生きてきた勘が鳴らす最大級の警戒に怯えているのもあるだろう。
 イザベラがグランミュールの片手を取る。
「けど」
「む、イザベラ、なに――」
 そしてイザベラはグランミュールの手を取る両手に力を入れて、
「大霊山を破壊したわね」
「のあっっ!!!」
 グランミュールの片手の甲が押した。
 すると、バキバキバキ、と音を立てて、手首から指の付け根――つまり手の甲を覆っていた黒き|金属《から》がパキパキと破壊されたのだ。
 グランミュールは|黒鋼亀《インビィー》族だ。全身を甲羅のような黒く堅い|金属《から》で覆うことができる種族で、普段は顔も含めて全身に黒の|金属《から》の線が走っている。
 が、黒鋼亀《インビィー》族の中でもその潜在能力に最も優れているグランミュールは、体の一部、手の甲や足の甲、肘に膝、後はうなじ部分が常に黒の堅い|金属《から》で覆われている。
 痛覚はないが、それでも破壊されるのは辛い。グランミュールが悲鳴を上げた。
「大霊山には何があったかしら、ねぇ?」
「も、門がっ! イザベラが作っていた門がっ!」
「そうよね。ダイスケがいずれこっちに転移門を繋げるだろうから、そのための補助具を作っていたのよね。あそこは位相の安定も優れているわ」
「す、すまぬっ! だから、それだけは、それだけはっ――」
 イザベラは悶えるグランミュールのもう片方の手も取り、手の甲を覆う|金属《から》を破壊する。
「ぬぅあああああああっっっっ!!!」
 グランミュールが倒れこんだ。
 イザベラが麗華を見やる。
「ねぇ、レイカさん。貴方はいつも暴走する皆を諫めてくれたはずよね?」
 麗華は一瞬、その藍色の瞳を揺らした後、直ぐに頭を下げる。綺麗で丁寧な所作だった。
「ごめんなさい。本当に、本当に。謝って許されることではない。イザベラにも、大輔にも、酷いことをした。なんでも、なんでもするわ。本当に、ごめんなさい」
「…………そう」
 イザベラは大きく美しい紫の瞳を下げた。
 そして、
「正座」
「い、イザベラたん……」
「イザベラちゃん……」
「我が、我が悪かった。本当に……」
「はい……」
 凍える声で全員を一斉に正座させたイザベラは、優雅にフィンガースナップをする。
 すると、正座した四人の上空に青白い魔法陣が現われ、
「「「「ひゃうっ!」」」」
 極寒の氷が四人の下半身を拘束し、また四人の後ろから氷の木が生えてきた。その木は四人の頭上に枝を伸ばしていて、先端は氷柱のようだった。
「ダイスケの故郷に面白い拷問があるのよ」
 四人の顔が真っ青になる。下半身を拘束している氷の寒さにではない。これから起こることについて恐怖しているのだ。
「お願い、イザベラたん! お姉ちゃん、なんでもするから。これだけは――」
「ね、ね、イザベラちゃん。やめよ。それだけは――」
「我、我でもこれは耐えられ――」
「クッ。覚悟、覚悟をしなさい、私っ――」
 ぴとっと全員の頭に雫が垂れた。
 とても冷たい雫だ。それは器用に髪の毛を伝い、額に垂れる。
 ゾゾゾゾゾゾゾゾっ。涙を浮かべる。
 そして、
「十分に一度。三日間、そのまま我慢しなさい。発狂しないことを祈るわ」
 若干引き気味のヘレナとツヴァイのところへ歩いたイザベラは、四人を巨大な氷の城壁で覆いつくした。
 ふぅ、と溜息を吐いたイザベラに頬をひきつらせたツヴァイが尋ねる。
「………………な、なんとなく想像つくが、何したんだ、アイツら?」
「……ヴァイス・ヴァールを再起不能にしたのよ」
「……時魔法でも直せ……なさそうだな」
「ええ。消滅よ。不可逆の消滅。全力全開で、基幹部分を破壊して、そのあと、外殻以外の全てを消滅させたのよ。ったく、基幹部分の破壊の段階なら、|私《わたくし》でも修理できたものを」
「そ、それは、まぁ、怒って当然だな。うん」
 ツヴァイは巨大な白の金属塊を見やる。元々、アレは空飛ぶ白鯨型|幻想具《アイテム》、ヴァイス・ヴァールの外殻部分に使用されていた金属だ。
 そしてそれ以外見当たらない。
「だ、大霊山の方は……」
「あっちは、直ぐに修理したし、大霊山も元に戻したわ。|賭博癖《縛りプレイ好き》と|妄想癖《むっつりスケベ》以外真面なミュールさんは、まだましだったのよ。|私《わたくし》に情報が行かぬようにあの三人に拘束されてただけで」
「なら……」
「|私《わたくし》に知らせようとした手段がまずいのよ。王獣化だけすれば、|私《わたくし》でも直ぐに気が付くわ」
「ま、まぁ、大霊山よりも大きくなるからな。それは分かるよな」
「そうでしょ? なのに、ミュールさんはそのうえで大霊山を押しつぶしたのよ。故意よ。故意。大霊山を破壊するほど切羽詰まってたって伝えたかったんでしょうけど、そんなことしなくても分かるわよ、って話」
 ツヴァイは、そういえば、あの人馬鹿なところがあるからな……と視線を逸らす。
 と、あれ? とツヴァイが首を傾げる。
「ショウはどこだ? あとエクスィナも」
 周りをキョロキョロと見渡し、目を瞑って半径十キロ内の気配を探る。
 ヘレナが首を振った。
「戻った」
「あん? どういう……」
「アカリがいうには地球、つまりナオキたちの故郷ね。どうにも、不安定な世界の孔が開いて、ショウさんを連れ去ったらしいよ」
「……ああ」
 ツヴァイは何ともいえない表情で頷いた。
「勘が当たったか」
「そういう事。それよりもその世界の孔の方が問題よ」
「あん? 何故だ?」
 ツヴァイは首を傾げる。ヘレナは無表情のまま虚空を見やる。
「私の経験上、突発的に開く世界の孔はその周囲全てを吸い込む。なのに聞いた話だと、ショウさんしか吸い込まれなかったらしい。エクスィナはまぁ、ショウさんの一部みたいなものだから、ともかく」
「つまり、人為的……召喚か何かだと?」
「そういうこと」
 ヘレナは頷く。イザベラが付け足す。
「しかも、その孔が開いた周辺を調べたのだけれども、ショウさんをピンポイントで狙ったもので間違いないわ。勇者ではなく、ショウさんを、よ」
「……おい、魔力残滓はっ!」
 何かに思い当たったのか、ツヴァイは食い気味に尋ねる。
「ダイスケやナオキさんの魔力ではなかったわ。いえ、正確には魔力はあったのだけれども、それ以上に虚ろというべきかしら。そういうエネルギーが満ちていて、魔力の詳細が分からなかったのよ」
「けれど、十中八九、ナオキとダイスケよ」
「ええ」
 ヘレナとイザベラが力強く頷く。絶対に二人だという確信があるのだ。
 ツヴァイが喜ぶ。
「よっし。これでシンタロウが休めるっ!」
「あな――いや、お前、相当気を揉んでたからね」
「ああ。シンタロウったら、休むことを知らねぇんだ。だから、地球に帰ったら、ゆっくりしようって約束したからな。あっちなら、アイツに助けを求める人間も、目の前で傷つくやつもいない。病院とやらもキチンとあって、誰でも治療が受けられるらしいしな」
 ツヴァイは鼻歌まで歌い始める。
 それを見て、ヘレナもイザベラも頬を緩ます。
 と、その時、
「アカリさんっ!」
「分かってるよっ!」
 イザベラが一瞬で灯たちを拘束していた氷などを消す。
 また、麗華がレースノワエを抱えて転移と見間違う程の速さでイザベラ達の後ろに移動。グランミュールが灯とヘレナ達の間に割り込む。
 そして美しいローブに一瞬で着替えた灯がいつでもあらゆる魔法が行使できる準備をした瞬間、
『灯、メールだ。灯、メールだ』
 翔の|格好つけた《イケメン》ボイスが流れた。
「………………着信?」
 灯は懐からスマホを取り出す。大輔によって魔改造されたスマホで、着信音などは全て翔の音声ボイスになっていたりする。
 皆が警戒するのか、灯は恐る恐るスマホを操作して、
「ッ! みんな、二週間後だってっ!」
 飛び跳ねた。嬉しそうだ。
 ヘレナがキャッキャとはしゃいで事情を説明しない灯に溜息を吐きながら尋ねる。
「……何が?」
「あ、えっと、地球に行くのっ! 大輔くんからのメールだよっ!」
「ダイスケからっ!?」
 イザベラがダダダッと豪速で移動し、灯からスマホを奪い取る。
「……『誓いは必ず。待ってて、イザベラ』……っ!」
「私にも見せて」
「我にもだ」
「|私《わたくし》にも」
 ヘレナ以外の全員がスマホを覗き込む。
 皆、ほぁ、だの頬を赤らめるなか、ヘレナが首を傾げる。
「どうしてアカリさんのスマホ? ダイスケさんからのメールならイザベラに……それに魔力も無機質……いえ、一番素に近い。エクスィナが変換した? なにから? 虚のエネルギー。つまり、違う存在……」
「そんな事より、ヘレナさんっ! 早くミラちゃんたちにこのメール見せなきゃ。あと、ヘレナさんも絶対見なさいっ!」
「……そうね」
 ヘレナは思考を止め、メールを読んだ。
 そして悲しく、それでいて嬉しそうに微笑んだ。今、抱いた疑念が、氷解した。強い確信を持った。
 少しだけ胸が痛んだ。
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公開可能情報
|多種協議連合国《ダークエルフ》:|森酋長《エルフ》族と荒野に暮らしていた人族の子が興した里が国に発展したもの。|森酋長《エルフ》を揶揄っており、いわば自らの種を至高とする|森酋長《エルフ》族ではなく、自分たちはあらゆる種族を尊重し、混血種なども一人の人間だと主張している。大昔から種族の軋轢などで逃げてきた人を匿っていた。出自のこともあり、ミラとノアはここの人たちの気質が好きだったりする。また、直樹たちも同じ。
公開可能情報と登場人物を投稿したのち、四章に入っていきます。
また、今回の公開可能情報と登場人物は一話に納まっています。公開可能情報が多くなかったので。