夜が更けた頃、小屋の扉を叩く音が響いた。ヘレナは身を硬くしたが、やがて聞き慣れた優しい声が闇を破る。
「ヘレナ、私だよ」
育ての親である祖母の声だった。扉が開くと、皺の刻まれた慈愛に満ちた顔が月光に浮かび上がる。老婆はヘレナの変わり果てた姿を見ても、驚くことなく微笑んだ。
「やはり、血が覚醒したんだね。」
老婆は小屋に入り、ヘレナの傍らに腰を下ろした。そしてヘレナのその仕草は、幼い頃からヘレナを慈しんできた時と何も変わらなかった。
老婆は呼吸を整え、そして言った。
「あなたは魔族と人間の間に生まれた子。父は人間、母親は魔族なんだよ。」
静かに告げられた真実に、ヘレナの心が震えた。ずっと心の奥に潜んでいた違和感、記憶の奥で蠢いていた異質な感情の正体が、ようやく明らかになったのだ。
「でも、どうしてそんなことを……?」
「私は、お前の父親の母親さ。つまり、あなたの祖母ってことだよ。」
祖母の言葉に、ヘレナは息を呑んだ。長年慕ってきた育ての親が、血の繋がった祖母だったのだ。自分は少なくとも孤児ではなかった。
「あたしの息子もオクトゥスのように、相手の見た目や種族を気にすることなく、お前の母親を愛し抜いた。二人はあなたを私に預けて、追手から逃れる旅に出たのよ。」
老婆は懐から柔らかな布を取り出した。手作りのマントだった。
「これを着て、オクトゥスと一緒に旅をなさい。村に戻ってきたら、今のヘレナでは皆からまた襲われてしまうかもしれない。あたしの命にはもう限りがある。これ以上、この小さな村でお前を守りきることはできっこない。せめて、せめて姿を見られずに済めば、生きていれさえいれば。」
「おばあ……。でも、私このままおばあと別れるのもつらいわ。」
ヘレナが視線を伏せると、祖母は皺だらけの暖かい手でヘレナの頭を撫でた。
「お前の父が去り際に行っていたことだけどね。お前と同じく魔族と人間の夫婦の間に生まれた子たちがいてね、みんなちりぢりになったらしいんだよ。だから、きっとどこかに、集まる場所があるはず。両親にも会えるかもしれない。」
マントの温もりが、ヘレナの肩を包んだ。それは、祖母の愛情が込められた、確かな防寒具だった。
祖母の言葉にヘレナは何度も驚かされた。自分と同じ境遇の者がいるらしい。そして自分を置いて追手から逃れる旅をしている両親。
「まずはオクトゥスが戻ってくるまで、悪いけどここに隠れていておくれ。」
「おばあ……。」
「大丈夫さね。オクトゥスを信じなさい。まずは心を落ち着けて。」
祖母がマントの上から強く抱き締めてくる。
ヘレナの頭の中は混乱が収まらないが、今こうして祖母が抱き締めてくれているときは、安心できた。まるで幼い頃、病に伏せたときに篤く看病してくれたときのように。
ヘレナの漆黒の髪の割合が、わずかに銀髪に戻っていた。