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第10話 ハチャメチャに愛し合う

ー/ー



「痛い……お兄ちゃん酷い…………ごみ……股間ヘルペスに侵されろ」

 俺が電話を終えて玄関をくぐるなり「おかえりなさいあなた!」などと口にして飛び付いてきた愚妹(ぐまい)のおでこにデコピンを叩き込むと、目の前に蹲って呪詛の言葉を唱え始めた。

「お前が危険極まりない愚行をしやがるからだろーがアホ」

 しかし今回の馬鹿極まりない振る舞いは決して看過できないので、俺は説教モードである。

「私が何したってゆーのよ!」
「俺の知り合いに俺の彼女だとか名乗っただろ。もし後々お前が妹だって知れたらどうすんだ」
「だって!だって事実だもん!私お兄ちゃんの彼女だにゃん!」
「うるさい黙れ。……否定はしないけど公言すんな。気にしろ世間の目」
「んだよこのヘタレが」
「ああ?」
「はいごめんなさい謝るのでダンゴムシの飼い方の動画を流すのは止めてください」

 やって良い事とまずい事のラインの分別くらいあると思ってたのに、まさかここまでアホだとは。いや、それとも恋愛感情がこいつを狂わせているのだろうか。
 どちらにせよ厄介極まりない。俺はため息をついた。

「兄妹で恋人とか、ノリで言う事じゃないってのは分かるだろ」
「分かるけどぉ、でもぉ、あんなスーパースタイル美人がお兄ちゃんを訪ねて来たからぁ。牽制のつもりでぇ」

 スーパースタイル美人とは(あんず)の事か。言いたい事は分かる。長身だし脚長いし身だしなみも完璧だ。
 そんな杏に対して牽制のつもりで俺の恋人だとか言ったのか? 杏からしてみればふざけんなって話だろ。牽制したって事は杏が俺に好意を抱く可能性があると思ったって事。アホかこいつは失礼まであるぞ。ていうかそのしゃくれ顔何なんだよナメてんのか。

「何勘違いしてるか知らないけどさ、そもそもアレと俺が釣り合うと思うか?」

 最低限の身だしなみさえ怪しい俺と、いつでもキッチリきめている芸能人然とした美人。答えは明らかだ。

「全ッ然」

 即答。

「じゃあ気にする必要無いだろ」
「お兄ちゃん分かってないね〜、事恋愛に関しては例え相手が何であろうと牽制し合うのが女の子なの。礼儀なの。スポーツの試合の前に「しゃーっす!」って言うでしょ。それと同じ」
「はあ」

 よく分からないけど分かりたくもない。

「ていうか釣り合うとか関係無いもん。好意はそういう観点から測れません」

 こいつが言うと説得力があるな。

「ふーん、まあどっちにしても杏が恋愛なんて無いから安心しろ」
「なんで?」
「なんでって、あいつの顔見たろ」
「めっちゃ美人だった。首長かったエロい。あと声可愛い」
「そういうんじゃなくてあの仏頂面」
「あ〜…………、うん」

 思い出すように上を向いたあと、納得の声。まあまあ失礼だが正しい反応だ。

「普段からずっとあれだぞ。あれは恋愛無理だって」
「恋愛のレの字も齧ってないお兄ちゃんがどの口で物言ってんの」
「じゃあお前、あいつが誰かに引っ付いてる姿想像出来るか?」
「出来ない。ロジハラ嫁にだったらジョブチェンジ出来そう」

 同意求めた俺が言うのも難だが、一回顔合わせただけですげぇ言い様だな。

「まあ、うん、そうだろ?それに杏は色々と打ち込んでるものがあるから多分恋愛どころじゃない」
「バスケ部キャプテンの「今はバスケが大事で恋愛とか考えられねぇんだ……わりぃ」的な?」
「なんでバスケ部なのかは不明だけどそんな感じだな」

 モデルはちょっとしたバイトって言ってたから心の重きは無いんだろう。だが杏の代名詞と言っても過言ではない趣味……というか、活動が一つある。それ以外興味薄いんじゃないだろうか。

「うーん、確かに。よく考えてみればお兄ちゃんにあんな高レベル女子を口説き落とせる甲斐性無いもんね」
「うるせ」
「まあ?そんな駄兄(だあに)を好きになるなんて私くらいなもんよ」
「へーへーありがとな」

 ふふん、と鼻を鳴らして胸を張る咲季の頭に多少の感謝と共に軽く手を乗せた。

 が、一瞬で跳ね飛ばされて、ついでに頬を叩かれた。

 …………え? なんで?

 戸惑いと怒りが一気に頭まで駆け上る。
 やっと口をついて出たのは怒りの籠った一音。

「あ?」
「前も言ったと思うけど、セットした髪触るの止めてくれる?」
「好きと言った相手に殺意向けないでくれる?」

 こいつホントわかんねぇな。
 そういや少し前にも頭撫でるな的な事言ってた気がするが、最近普通に撫でたりしてたと思うんだけどな。
 ああ、髪をセットしてなかったからOKって事? 確かに今は目と耳にかけて編み込み入れてたり 青い鳥を模した可愛らしいヘアピンとか付けてたり、いつもとは違う気がする。

「そういうとこだよなー、お兄ちゃんなー。これはモテなっぴゃいっ!!」

 脇を突いてやった。

「ちょっと! わ、脇は反則っ! だめっ!」

 珍しく顔を赤面させて両腕で脇を守るように押さえる咲季。予想外の反応だ。この反応、本気で焦っている。本当に脇は弱いらしいな。
 ……ふーん。

「ちょっとお兄ちゃん? 何その構え? なんでバスケの 1on1 みたいな構えしてるの?」
「借りは返す」
「え? 借り? もしかして叩いたこと?え、や、ち、ちょ、止めて? 止めよ? 相手にどんな恨みがあろうとそれを許せるのが本当の強さってもんみゃあんっ!!」

 脇に一撃。
 喰らった瞬間、咲季は廊下の彼方までコマみたいに回りながら飛んでいった。

「わ、分かった話し合おうぢゃないか! ち、ち、チューでどうだね!? この超絶ぷりちーな激カワ女子、咲季ちゃんからのお口にチューで手打ちだ! 悪い話じゃあないと思わないかねっんゴッびゃっ!!」

 廊下の端に追い詰めて追撃。
 咲季は大きく跳ねた後、壁に背中を付けたままペタンと床にへたりこんでしまった。

「ふゅ、ほ、こ、このおねだりさんめ! しょうがない、お望みはこれかね、この咲季ちゃんズおぱーいかね!? 男の子って結局皆そう! 皆女の子をおぱーいでしかみてなじっっチュにゃあああああはははははは!! ごめんなさああああい謝りますのでもう許してくださあああああはははは!!」

 あまりに見苦しかったのでさっさと仕留めてやった。うん、鬱憤は晴らせたな。



 # #


「言えば貸してくれるもんだな」

 家の駐車スペースに置かれた黒い軽自動車の前で俺は独りごちる。
 すると隣の咲季が体を軽くぶつからせてきた。

「何言ってんの。親が息子に車貸すくらい珍しい事じゃないでしょ」
「いやいや、俺が言っても渋られたって。咲季が言ってくれたから貸してくれたんだよ。絶対そう」

「ドライブデートしようよお兄ちゃん!」という事となって母さんに車を使う許可を求めたところあっさりと認めてくれた……という俺からすればびっくりな事件が起こったのでこの会話なわけだが、やっぱり未だに信じられない。

 ちなみになぜドライブデートになったのかと言うと、俺が車の免許が取れた事を何気なしに咲季に言ったところ、「じゃあドライブデートじゃん!」と目を輝かせて叫ばれてしまったためである。

「まだそんな事言ってる……、もうお兄ちゃんの誤解は解けたんだよ?」
「いや、解けたのかもしれないけど、そんなすぐに態度改めるなんて出来ないぞ普通」

 人間なんだから。
 咲季は良い意味でも悪い意味でも楽観的だ。

「というか母さんが一番心配してるのは俺が無理にお前を連れ出して体調が悪化したりしないかって点だろ。俺の印象の悪さはそれに付加したマイナス要素ってだけ」
「お兄ちゃんは悲観的だねぇ。坂口君見習おう」
「誰だよ坂口君」
「彼女と別れた後一瞬で私を口説きに来たスーパーフッ軽男子。一瞬で振ってあげたけど今もメッセめっちゃ来る。「照れてんだろ?」だって」

 こいつ学校行かなくてもなおモテてんのかよ。

「見習わねーよ。ていうかそんな妖怪みたいなの本当に居るんだ」
「お兄ちゃんを殴ったツーブロック男子。あ、安心してね、さっきブロックした」

 あー、城ヶ崎と初めてあった時にハッピーセットで付いてきたアレか。
 確かに感心するレベルの唯我独尊っぷりだったな。ていうか咲季の事まだ諦めて無かったのな。ブロックして正解だ。

「ていうかお兄ちゃんいつの間に車の免許取り終わってたの?」
「数週間前にな」
「キモいくらい勉強してた成果ってわけねー」
「自腹で20万近く払ってんだから必死にもなるわ」
「たっか!」

 毒にも薬にもならない会話をしつつ、車内へ。咲季は助手席に飛び乗り(あぶねぇな)、俺は運転席へ。運転席の位置を調整しつつ、横の咲季を見遣る。咲季はずっと俺を見ていたようで、にへらと緩みきった笑顔を向けられた。
 ……普通に可愛いなと思ってしまった自分にムカついた。

「で、ホントにドライブだけでいいの?」
「うん!ドライブデートとか憧れてたんだぁ……!」

 目がキラキラ輝いている。
 俺はドライブデートって言われても正直ピンと来ないけど、こいつには思い描いている何かがあるらしい。まあ、半年以上晴れ晴れとした気分での外出は無かったし、はしゃぐのも仕方ないか。

「海沿いの道路を走ってぇ、海の見えるカフェでまったりしっぽり過ごしてぇ、最後は夕暮れの浜辺でハチャメチャに愛し合う!」
「最後だけ要らんな」
「早とちりしないでよお兄ちゃん、愛し合うって性的な意味だよ?」

 真顔でなんか言ってきた。

「知ってたよ補足しなくていいよ変態」
「変態とはなんだね! 空の下でおせっせなんてほとんどの動物がやってるんだから! むしろそれが出来なくなった我々人間のなんと愚かな事か!右に(なら)えが日本人の美徳でしょ!倣えよ!」
「その無駄な情熱を真っ当な方に向けてくれたらなー」
「いいもん、そうやって余裕こいてればいいよ。ハウツー本で予習した私に操れない男なんていないんだからね!」

 それ言ったら全部無駄になると思うぞ。
 思ったけど面倒くさかったので言わないでおいた。
 教習所以来初の運転だからな、ちゃんと集中して運転しよう。








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「痛い……お兄ちゃん酷い…………ごみ……股間ヘルペスに侵されろ」
 俺が電話を終えて玄関をくぐるなり「おかえりなさいあなた!」などと口にして飛び付いてきた愚妹《ぐまい》のおでこにデコピンを叩き込むと、目の前に蹲って呪詛の言葉を唱え始めた。
「お前が危険極まりない愚行をしやがるからだろーがアホ」
 しかし今回の馬鹿極まりない振る舞いは決して看過できないので、俺は説教モードである。
「私が何したってゆーのよ!」
「俺の知り合いに俺の彼女だとか名乗っただろ。もし後々お前が妹だって知れたらどうすんだ」
「だって!だって事実だもん!私お兄ちゃんの彼女だにゃん!」
「うるさい黙れ。……否定はしないけど公言すんな。気にしろ世間の目」
「んだよこのヘタレが」
「ああ?」
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 やって良い事とまずい事のラインの分別くらいあると思ってたのに、まさかここまでアホだとは。いや、それとも恋愛感情がこいつを狂わせているのだろうか。
 どちらにせよ厄介極まりない。俺はため息をついた。
「兄妹で恋人とか、ノリで言う事じゃないってのは分かるだろ」
「分かるけどぉ、でもぉ、あんなスーパースタイル美人がお兄ちゃんを訪ねて来たからぁ。牽制のつもりでぇ」
 スーパースタイル美人とは杏《あんず》の事か。言いたい事は分かる。長身だし脚長いし身だしなみも完璧だ。
 そんな杏に対して牽制のつもりで俺の恋人だとか言ったのか? 杏からしてみればふざけんなって話だろ。牽制したって事は杏が俺に好意を抱く可能性があると思ったって事。アホかこいつは失礼まであるぞ。ていうかそのしゃくれ顔何なんだよナメてんのか。
「何勘違いしてるか知らないけどさ、そもそもアレと俺が釣り合うと思うか?」
 最低限の身だしなみさえ怪しい俺と、いつでもキッチリきめている芸能人然とした美人。答えは明らかだ。
「全ッ然」
 即答。
「じゃあ気にする必要無いだろ」
「お兄ちゃん分かってないね〜、事恋愛に関しては例え相手が何であろうと牽制し合うのが女の子なの。礼儀なの。スポーツの試合の前に「しゃーっす!」って言うでしょ。それと同じ」
「はあ」
 よく分からないけど分かりたくもない。
「ていうか釣り合うとか関係無いもん。好意はそういう観点から測れません」
 こいつが言うと説得力があるな。
「ふーん、まあどっちにしても杏が恋愛なんて無いから安心しろ」
「なんで?」
「なんでって、あいつの顔見たろ」
「めっちゃ美人だった。首長かったエロい。あと声可愛い」
「そういうんじゃなくてあの仏頂面」
「あ〜…………、うん」
 思い出すように上を向いたあと、納得の声。まあまあ失礼だが正しい反応だ。
「普段からずっとあれだぞ。あれは恋愛無理だって」
「恋愛のレの字も齧ってないお兄ちゃんがどの口で物言ってんの」
「じゃあお前、あいつが誰かに引っ付いてる姿想像出来るか?」
「出来ない。ロジハラ嫁にだったらジョブチェンジ出来そう」
 同意求めた俺が言うのも難だが、一回顔合わせただけですげぇ言い様だな。
「まあ、うん、そうだろ?それに杏は色々と打ち込んでるものがあるから多分恋愛どころじゃない」
「バスケ部キャプテンの「今はバスケが大事で恋愛とか考えられねぇんだ……わりぃ」的な?」
「なんでバスケ部なのかは不明だけどそんな感じだな」
 モデルはちょっとしたバイトって言ってたから心の重きは無いんだろう。だが杏の代名詞と言っても過言ではない趣味……というか、活動が一つある。それ以外興味薄いんじゃないだろうか。
「うーん、確かに。よく考えてみればお兄ちゃんにあんな高レベル女子を口説き落とせる甲斐性無いもんね」
「うるせ」
「まあ?そんな駄兄《だあに》を好きになるなんて私くらいなもんよ」
「へーへーありがとな」
 ふふん、と鼻を鳴らして胸を張る咲季の頭に多少の感謝と共に軽く手を乗せた。
 が、一瞬で跳ね飛ばされて、ついでに頬を叩かれた。
 …………え? なんで?
 戸惑いと怒りが一気に頭まで駆け上る。
 やっと口をついて出たのは怒りの籠った一音。
「あ?」
「前も言ったと思うけど、セットした髪触るの止めてくれる?」
「好きと言った相手に殺意向けないでくれる?」
 こいつホントわかんねぇな。
 そういや少し前にも頭撫でるな的な事言ってた気がするが、最近普通に撫でたりしてたと思うんだけどな。
 ああ、髪をセットしてなかったからOKって事? 確かに今は目と耳にかけて編み込み入れてたり 青い鳥を模した可愛らしいヘアピンとか付けてたり、いつもとは違う気がする。
「そういうとこだよなー、お兄ちゃんなー。これはモテなっぴゃいっ!!」
 脇を突いてやった。
「ちょっと! わ、脇は反則っ! だめっ!」
 珍しく顔を赤面させて両腕で脇を守るように押さえる咲季。予想外の反応だ。この反応、本気で焦っている。本当に脇は弱いらしいな。
 ……ふーん。
「ちょっとお兄ちゃん? 何その構え? なんでバスケの 1on1 みたいな構えしてるの?」
「借りは返す」
「え? 借り? もしかして叩いたこと?え、や、ち、ちょ、止めて? 止めよ? 相手にどんな恨みがあろうとそれを許せるのが本当の強さってもんみゃあんっ!!」
 脇に一撃。
 喰らった瞬間、咲季は廊下の彼方までコマみたいに回りながら飛んでいった。
「わ、分かった話し合おうぢゃないか! ち、ち、チューでどうだね!? この超絶ぷりちーな激カワ女子、咲季ちゃんからのお口にチューで手打ちだ! 悪い話じゃあないと思わないかねっんゴッびゃっ!!」
 廊下の端に追い詰めて追撃。
 咲季は大きく跳ねた後、壁に背中を付けたままペタンと床にへたりこんでしまった。
「ふゅ、ほ、こ、このおねだりさんめ! しょうがない、お望みはこれかね、この咲季ちゃんズおぱーいかね!? 男の子って結局皆そう! 皆女の子をおぱーいでしかみてなじっっチュにゃあああああはははははは!! ごめんなさああああい謝りますのでもう許してくださあああああはははは!!」
 あまりに見苦しかったのでさっさと仕留めてやった。うん、鬱憤は晴らせたな。
 # #
「言えば貸してくれるもんだな」
 家の駐車スペースに置かれた黒い軽自動車の前で俺は独りごちる。
 すると隣の咲季が体を軽くぶつからせてきた。
「何言ってんの。親が息子に車貸すくらい珍しい事じゃないでしょ」
「いやいや、俺が言っても渋られたって。咲季が言ってくれたから貸してくれたんだよ。絶対そう」
「ドライブデートしようよお兄ちゃん!」という事となって母さんに車を使う許可を求めたところあっさりと認めてくれた……という俺からすればびっくりな事件が起こったのでこの会話なわけだが、やっぱり未だに信じられない。
 ちなみになぜドライブデートになったのかと言うと、俺が車の免許が取れた事を何気なしに咲季に言ったところ、「じゃあドライブデートじゃん!」と目を輝かせて叫ばれてしまったためである。
「まだそんな事言ってる……、もうお兄ちゃんの誤解は解けたんだよ?」
「いや、解けたのかもしれないけど、そんなすぐに態度改めるなんて出来ないぞ普通」
 人間なんだから。
 咲季は良い意味でも悪い意味でも楽観的だ。
「というか母さんが一番心配してるのは俺が無理にお前を連れ出して体調が悪化したりしないかって点だろ。俺の印象の悪さはそれに付加したマイナス要素ってだけ」
「お兄ちゃんは悲観的だねぇ。坂口君見習おう」
「誰だよ坂口君」
「彼女と別れた後一瞬で私を口説きに来たスーパーフッ軽男子。一瞬で振ってあげたけど今もメッセめっちゃ来る。「照れてんだろ?」だって」
 こいつ学校行かなくてもなおモテてんのかよ。
「見習わねーよ。ていうかそんな妖怪みたいなの本当に居るんだ」
「お兄ちゃんを殴ったツーブロック男子。あ、安心してね、さっきブロックした」
 あー、城ヶ崎と初めてあった時にハッピーセットで付いてきたアレか。
 確かに感心するレベルの唯我独尊っぷりだったな。ていうか咲季の事まだ諦めて無かったのな。ブロックして正解だ。
「ていうかお兄ちゃんいつの間に車の免許取り終わってたの?」
「数週間前にな」
「キモいくらい勉強してた成果ってわけねー」
「自腹で20万近く払ってんだから必死にもなるわ」
「たっか!」
 毒にも薬にもならない会話をしつつ、車内へ。咲季は助手席に飛び乗り(あぶねぇな)、俺は運転席へ。運転席の位置を調整しつつ、横の咲季を見遣る。咲季はずっと俺を見ていたようで、にへらと緩みきった笑顔を向けられた。
 ……普通に可愛いなと思ってしまった自分にムカついた。
「で、ホントにドライブだけでいいの?」
「うん!ドライブデートとか憧れてたんだぁ……!」
 目がキラキラ輝いている。
 俺はドライブデートって言われても正直ピンと来ないけど、こいつには思い描いている何かがあるらしい。まあ、半年以上晴れ晴れとした気分での外出は無かったし、はしゃぐのも仕方ないか。
「海沿いの道路を走ってぇ、海の見えるカフェでまったりしっぽり過ごしてぇ、最後は夕暮れの浜辺でハチャメチャに愛し合う!」
「最後だけ要らんな」
「早とちりしないでよお兄ちゃん、愛し合うって性的な意味だよ?」
 真顔でなんか言ってきた。
「知ってたよ補足しなくていいよ変態」
「変態とはなんだね! 空の下でおせっせなんてほとんどの動物がやってるんだから! むしろそれが出来なくなった我々人間のなんと愚かな事か!右に倣《なら》えが日本人の美徳でしょ!倣えよ!」
「その無駄な情熱を真っ当な方に向けてくれたらなー」
「いいもん、そうやって余裕こいてればいいよ。ハウツー本で予習した私に操れない男なんていないんだからね!」
 それ言ったら全部無駄になると思うぞ。
 思ったけど面倒くさかったので言わないでおいた。
 教習所以来初の運転だからな、ちゃんと集中して運転しよう。