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第二十七話 独占欲だ!

ー/ー



「少しは落ち着いたか?」
「……う〜ん」
「満身創痍だな」
「うるさ〜い」

 小規模な人の列の最後尾に付いて苦笑する俺とぶすっとしている咲季。

盛大に消耗した『スーパーアスレチック藍原』を終え、咲季が服を着替え直した頃には既に昼過ぎになっていた。つまり食事時である。
 空腹に突き動かされるように煉瓦調の街並みを模した世界を人を縫って進んでいると、やがて食べ物の屋台が立ち並ぶ一角へたどり着いた。
 それなりに並んでいるが遠くに見えるレストランの並び様に比べれば天と地ほどの差。
 咲季へ目だけ向けて確認すると立ち食いでOKとのことだったので現在列へ並んで待機中なのだった。

「お前さ」
「んー?」
「ジェットコースターとか絶対無理だろ」
「…………そう、はい、そうかも、知れませんね。自分がここまで高所苦手だとは思ってもみませんでしたね、はい」
「「きゃ!」とかキモい声出てたもんな」
「おいキモいってなんだ可愛らしいと言いなさい」
「はいはい可愛い可愛い。で、何食う?」
「ぎっとぎとの肉を所望です」
「おっけ。じゃああそこのベンチで休んでろ」

 少し離れた場所にある奇跡的に空いたベンチを指さす。

「なんで?」
「場所取り」
「とか言って少しでも彼女を休ませようって彼氏ムーブ出してきたのでは?」
「そんな意図も無いことは無い」
「うわ珍しく素直だ!」

 ゴキでも出たみたいなリアクションされた。

「たまにはそういう日もあるんだよ」
「正直ちょっと怖いですね」
「うっせ。さっさと行け」

 背中を押して追い払うとキモい声で「やーん」とくねりながら向こうへ行ったので全力で他人のフリをした。公共の場でよくやるよ。さっきの恥じらいはどこいった。

「元気なことでなにより」

 呟き、そろそろ順番が回ってきそうだったので財布を開く。

「………………」

 ……うーむ、財布軽くなったなぁ。金がスカスカ。最近バイトしてない上に二人分のチケットとか買ったからなぁ。自動車の教習所代も馬鹿にならなかったしそろそろバイトをしないとまずいか。
 だからと言ってここで割り勘とかみみっちいことはしないが。さすがに彼氏(?)との初デートで割り勘は微妙だろうし。
 それくらいは空気を読みますよ。

 ……相場より明らかに高い値段のメニュー表を見る。

「高っけぇ…………」

 なので、か細い声で情けなく言ったその言葉は聞かなかったことにしてほしい。


 ♯



「まじか」


 二つのケバブを持って咲季のいるベンチへと向かった瞬間の俺の第一声である。

 いや、もう、ほんと。目の前に広がる光景にはまじかとしか言いようがなかった。 


「すんません。ちょっとこのアトラクションの場所分かんなくて、教えてもらいたいんっすけど」
「え?あの……」
「もしかして友達と来てたり?だったらその子が来てからでも良いんだけど」

 ナンパされてた。咲季が。男二人組に。
 二人組の容姿が好青年っぽい雰囲気だから勘違いかとも思ったが、会話の内容が完っ全にナンパだった。

 デジャブか?なんか似たような場面に何度も出くわしてる気がするんだが。咲季の見舞いに来たとか言ってた同級生のツーブロ男子(名前忘れた)とか辻堂とか。
 ナンパ野郎と何回も遭遇する呪いでもかかってるんだろうか。それとも、それだけ咲季と城ヶ崎がレベル高いって事?
 けどナンパって「付いてきてくれそう」って思ってるからやって来るわけだろ?つまり相当舐められるようなオーラを出してるって事じゃないか?
 ……うん。これ以上はよそう。とにかく今は目の前のこいつらをどうにかしなければならない。

「え、少しだけなら?よっしゃ!あ、名前聞いても?」
「え、あ、か、片桐……」
「へぇ、片桐さんね」
「てか大学生?オレら大学二年なんだけどさ」
「えと、高校生……三年です……はい」
「高校生なんだ?めっちゃ大人っぽいね!あっと、タメ口いい?そっちも全然タメで良いからさ」
「あ、その、えと」
「そんな固くなんないで良いって!ほらオレら底辺大学生だし?」
「それお前だけな」
「はぁ?ざけんな」

 そしてあいつなんであんなオドオドしてんだ。これまで何人も告白されてきたんならああいう輩のあしらい方は身についてると思ってたんだが。成功しかかってるぞ。
 ……ていうかあいつら近ぇっつうの。肩触れてんじゃねえよ馴れ馴れしいな。

「咲季」

 男達が喋ってる途中、俺はあえてその会話の間に割り込んだ。

「あ、おに……秋春くん!」

 不安げに戸惑っていた咲季の顔がパッと華やいだ。男二人組から離れるように小走りに近寄ってくる。
 彼らはそれで色々と察したようで気まずそうな顔。どうやらツーブロ君や辻堂みたいに常識が著しく欠けているわけじゃないらしい。

「連れが何かしました?」

 出来るだけ無表情で無感動な声で言った。
 二人組は目を見合わせ、

「え、いや、別に……なあ?」
「な、何でもないっす」

 そそくさと去って行った。
 普段常識無い人間に囲まれていたからか、あっさりしてるなという感想を抱いた。
 まあ普通はリスクを負ってまでしつこく絡みはしないか。

「遊園地まで来てナンパって暇すぎだろ」

 ひとりごちてぼぅ、と俺を見上げる咲季に片方のケバブを差し出す。

「ほら、俺の奢りだありがたく頂け」
「あ、うん」

 なぜか恥ずかしげに俯いて手で顔を煽ぐ咲季はケバブを受け取ってから、

「ありがと」

 どのことに対する言葉か分からない感謝を伝えた。

「ん」

 ケバブを一口食べつつ短く返事。
 すると顔を覗きこまれる。

「……怒ってる?」
「なんで?」
「なんとなく?」

 なんとも要領を得ない返し。
 だが、そんなことを聞いてくる割には綻んだ表情で俺を見上げている。

 そして何を思ったのか、咲季ははっとして人差し指を突きつけ、

「あ、分かった独占欲だ!」

 鬼の首でも取ったみたいに得意げになって言った。

「……違いますが」
「そんなこと言ってぇ他の男に取られるんじゃないかって心配だったんでしょー。やだー私愛されてるー♡」
「ああ?」
「隠せない嫉妬心で私を惑わせないで困りますぅ」
「ああ?」
「…………あの、威圧良くない。止めよ?それ止めよ?」

 苛立ちを込めた声にたじろぐ咲季。
 こうなるのは分かってるだろうになんで同じような事繰り返すんだこいつ。

 俺はベンチに座りつつ、残った苛立ちを鎮めるようにケバブに齧りついた。
 飲み込み、倣って隣に座った咲季へ質問。

「お前何度も告られたりしてんだからさ、ああいう奴らのあしらい方くらい分かんないの?」
「そういうのはマイマイが担当だったのでね!」

 咲季、なぜかドヤ顔である。

「……あー」

 確かに城ヶ崎は咲季の騎士的存在だったか。今までずっと守られてきたわけだ。

 …………そう言えばあの、事故でキスした(っぽくなった)日から城ヶ崎と全く連絡がつかなかくなってたな。
 謝るために電話もしたけど出なかったしメッセージも既読つかないし、これは完全に嫌われたかも知れない。

 と、思考を脇道に逸していると、

「あむっ」

 咲季が俺のケバブに齧り付いていた。

「あ、おい!」
「ふ、隙だらけ(しゅきでゃらへ)だな小僧」
「お前な……」

 ホント好き放題だ。
 今までも二人で出かけることがあったけどその時はあまり奇行には走っていなかった。
 周りの目を気にしてたのと、俺に告白をする前だったからっていうのもあるんだろうけど。
 やっぱりタガが外れると人間って怖い。

「はい」
「あ?」

 そして今度はなぜか自分のケバブを差し出してくる。
 思わず目を細めてそれを見つめた。

「お返しに一口どーぞ」
「……意図が全く分からないんだけど」
「いいからっ」
「…………」

 まじで何がしたいんだこいつは。どっちも同じ物なんだからシェアする意味が無いだろうに。ていうかバカップル同士の〝あーん〟みたいで恥ずいわ。

 そのまま数秒睨み合っていたがなんだかそれも見つめ合ってるバカップルみたいでキモいなと思い、さっさとケバブを一口食べた。
 周囲からのチラチラした視線が痛い。

 咀嚼しながら横目で見た咲季の顔には、だらしの無い笑み。

「えへへ、カップルだねぇ私達」
「は?」
「えへー」

 俺の肩に頭をコツンとつけ、犬のマーキングのように擦ってくる咲季。

「私がこんなことするのは、今もこれからも秋春くんだけなんですよー」
「……あのさ、だから嫉妬だとかそういうんじゃないんだけど。てか暑い」
「照れんなよぅ」
「照れてない」

 実際は少し照れていた。
 めかし込んでいるこいつは普段とは別人。これに甘えられては普段のようにぞんざいに振り払うのは難しい。

「ふぇー、ふひ……、どこ行く?」
「お前が行きたい所で良いよ。てか食べながら喋るな」

 内容物が見えるぞはしたない。

「キミと共にいれるならどこだって構わないサ☆」
「じゃあ帰るか」
「待ってそれは早計。待たれよ暫し待たれよ……いや、うん?秋春くんから誘ったデートなんだからあなたが行き先を決めてエスコートすべきでは?」
「……なんでも男が引っ張ってくれると思うな。お互い支え合ってこそだろうが」
「センセー。片桐くんがもっともらしい事言ってノープランを正当化しようとしてまーす」
「娯楽施設での計画性を俺に求めるのが間違ってる」
「あぁ、秋春くん陽キャ寄りだけど結局陰キャだもんね。こういうとこ縁無いか」

 しみじみ言うなうるせぇな。

「しょうがないなあ。ウェイウェイしてる同級生を羨んでいただけの暗ーい人生を送ってきた秋春くんに私が助け舟を出してあげようじゃないですか」

 手元のケバブをついばむように食べながら片手で園内図を広げる咲季。
 時々こちらを見上げてきて、視線が合うと一々嬉しそうに微笑む。
「ここはどう?」なんて相談して、くっついた肩から伝わる体温が熱い。

「あっつ…………」
「お、なんだ嫌味か?」
「ちげーよ」

 ただ、俺も結構浮かれてんのかなって思っただけだ。
 こちらとしては太陽のせいだと言い訳したいところだけど。










次のエピソードへ進む 第二十八話 タコパ


みんなのリアクション

「少しは落ち着いたか?」
「……う〜ん」
「満身創痍だな」
「うるさ〜い」
 小規模な人の列の最後尾に付いて苦笑する俺とぶすっとしている咲季。
盛大に消耗した『スーパーアスレチック藍原』を終え、咲季が服を着替え直した頃には既に昼過ぎになっていた。つまり食事時である。
 空腹に突き動かされるように煉瓦調の街並みを模した世界を人を縫って進んでいると、やがて食べ物の屋台が立ち並ぶ一角へたどり着いた。
 それなりに並んでいるが遠くに見えるレストランの並び様に比べれば天と地ほどの差。
 咲季へ目だけ向けて確認すると立ち食いでOKとのことだったので現在列へ並んで待機中なのだった。
「お前さ」
「んー?」
「ジェットコースターとか絶対無理だろ」
「…………そう、はい、そうかも、知れませんね。自分がここまで高所苦手だとは思ってもみませんでしたね、はい」
「「きゃ!」とかキモい声出てたもんな」
「おいキモいってなんだ可愛らしいと言いなさい」
「はいはい可愛い可愛い。で、何食う?」
「ぎっとぎとの肉を所望です」
「おっけ。じゃああそこのベンチで休んでろ」
 少し離れた場所にある奇跡的に空いたベンチを指さす。
「なんで?」
「場所取り」
「とか言って少しでも彼女を休ませようって彼氏ムーブ出してきたのでは?」
「そんな意図も無いことは無い」
「うわ珍しく素直だ!」
 ゴキでも出たみたいなリアクションされた。
「たまにはそういう日もあるんだよ」
「正直ちょっと怖いですね」
「うっせ。さっさと行け」
 背中を押して追い払うとキモい声で「やーん」とくねりながら向こうへ行ったので全力で他人のフリをした。公共の場でよくやるよ。さっきの恥じらいはどこいった。
「元気なことでなにより」
 呟き、そろそろ順番が回ってきそうだったので財布を開く。
「………………」
 ……うーむ、財布軽くなったなぁ。金がスカスカ。最近バイトしてない上に二人分のチケットとか買ったからなぁ。自動車の教習所代も馬鹿にならなかったしそろそろバイトをしないとまずいか。
 だからと言ってここで割り勘とかみみっちいことはしないが。さすがに彼氏(?)との初デートで割り勘は微妙だろうし。
 それくらいは空気を読みますよ。
 ……相場より明らかに高い値段のメニュー表を見る。
「高っけぇ…………」
 なので、か細い声で情けなく言ったその言葉は聞かなかったことにしてほしい。
 ♯
「まじか」
 二つのケバブを持って咲季のいるベンチへと向かった瞬間の俺の第一声である。
 いや、もう、ほんと。目の前に広がる光景にはまじかとしか言いようがなかった。 
「すんません。ちょっとこのアトラクションの場所分かんなくて、教えてもらいたいんっすけど」
「え?あの……」
「もしかして友達と来てたり?だったらその子が来てからでも良いんだけど」
 ナンパされてた。咲季が。男二人組に。
 二人組の容姿が好青年っぽい雰囲気だから勘違いかとも思ったが、会話の内容が完っ全にナンパだった。
 デジャブか?なんか似たような場面に何度も出くわしてる気がするんだが。咲季の見舞いに来たとか言ってた同級生のツーブロ男子(名前忘れた)とか辻堂とか。
 ナンパ野郎と何回も遭遇する呪いでもかかってるんだろうか。それとも、それだけ咲季と城ヶ崎がレベル高いって事?
 けどナンパって「付いてきてくれそう」って思ってるからやって来るわけだろ?つまり相当舐められるようなオーラを出してるって事じゃないか?
 ……うん。これ以上はよそう。とにかく今は目の前のこいつらをどうにかしなければならない。
「え、少しだけなら?よっしゃ!あ、名前聞いても?」
「え、あ、か、片桐……」
「へぇ、片桐さんね」
「てか大学生?オレら大学二年なんだけどさ」
「えと、高校生……三年です……はい」
「高校生なんだ?めっちゃ大人っぽいね!あっと、タメ口いい?そっちも全然タメで良いからさ」
「あ、その、えと」
「そんな固くなんないで良いって!ほらオレら底辺大学生だし?」
「それお前だけな」
「はぁ?ざけんな」
 そしてあいつなんであんなオドオドしてんだ。これまで何人も告白されてきたんならああいう輩のあしらい方は身についてると思ってたんだが。成功しかかってるぞ。
 ……ていうかあいつら近ぇっつうの。肩触れてんじゃねえよ馴れ馴れしいな。
「咲季」
 男達が喋ってる途中、俺はあえてその会話の間に割り込んだ。
「あ、おに……秋春くん!」
 不安げに戸惑っていた咲季の顔がパッと華やいだ。男二人組から離れるように小走りに近寄ってくる。
 彼らはそれで色々と察したようで気まずそうな顔。どうやらツーブロ君や辻堂みたいに常識が著しく欠けているわけじゃないらしい。
「連れが何かしました?」
 出来るだけ無表情で無感動な声で言った。
 二人組は目を見合わせ、
「え、いや、別に……なあ?」
「な、何でもないっす」
 そそくさと去って行った。
 普段常識無い人間に囲まれていたからか、あっさりしてるなという感想を抱いた。
 まあ普通はリスクを負ってまでしつこく絡みはしないか。
「遊園地まで来てナンパって暇すぎだろ」
 ひとりごちてぼぅ、と俺を見上げる咲季に片方のケバブを差し出す。
「ほら、俺の奢りだありがたく頂け」
「あ、うん」
 なぜか恥ずかしげに俯いて手で顔を煽ぐ咲季はケバブを受け取ってから、
「ありがと」
 どのことに対する言葉か分からない感謝を伝えた。
「ん」
 ケバブを一口食べつつ短く返事。
 すると顔を覗きこまれる。
「……怒ってる?」
「なんで?」
「なんとなく?」
 なんとも要領を得ない返し。
 だが、そんなことを聞いてくる割には綻んだ表情で俺を見上げている。
 そして何を思ったのか、咲季ははっとして人差し指を突きつけ、
「あ、分かった独占欲だ!」
 鬼の首でも取ったみたいに得意げになって言った。
「……違いますが」
「そんなこと言ってぇ他の男に取られるんじゃないかって心配だったんでしょー。やだー私愛されてるー♡」
「ああ?」
「隠せない嫉妬心で私を惑わせないで困りますぅ」
「ああ?」
「…………あの、威圧良くない。止めよ?それ止めよ?」
 苛立ちを込めた声にたじろぐ咲季。
 こうなるのは分かってるだろうになんで同じような事繰り返すんだこいつ。
 俺はベンチに座りつつ、残った苛立ちを鎮めるようにケバブに齧りついた。
 飲み込み、倣って隣に座った咲季へ質問。
「お前何度も告られたりしてんだからさ、ああいう奴らのあしらい方くらい分かんないの?」
「そういうのはマイマイが担当だったのでね!」
 咲季、なぜかドヤ顔である。
「……あー」
 確かに城ヶ崎は咲季の騎士的存在だったか。今までずっと守られてきたわけだ。
 …………そう言えばあの、事故でキスした(っぽくなった)日から城ヶ崎と全く連絡がつかなかくなってたな。
 謝るために電話もしたけど出なかったしメッセージも既読つかないし、これは完全に嫌われたかも知れない。
 と、思考を脇道に逸していると、
「あむっ」
 咲季が俺のケバブに齧り付いていた。
「あ、おい!」
「ふ、|隙だらけ《しゅきでゃらへ》だな小僧」
「お前な……」
 ホント好き放題だ。
 今までも二人で出かけることがあったけどその時はあまり奇行には走っていなかった。
 周りの目を気にしてたのと、俺に告白をする前だったからっていうのもあるんだろうけど。
 やっぱりタガが外れると人間って怖い。
「はい」
「あ?」
 そして今度はなぜか自分のケバブを差し出してくる。
 思わず目を細めてそれを見つめた。
「お返しに一口どーぞ」
「……意図が全く分からないんだけど」
「いいからっ」
「…………」
 まじで何がしたいんだこいつは。どっちも同じ物なんだからシェアする意味が無いだろうに。ていうかバカップル同士の〝あーん〟みたいで恥ずいわ。
 そのまま数秒睨み合っていたがなんだかそれも見つめ合ってるバカップルみたいでキモいなと思い、さっさとケバブを一口食べた。
 周囲からのチラチラした視線が痛い。
 咀嚼しながら横目で見た咲季の顔には、だらしの無い笑み。
「えへへ、カップルだねぇ私達」
「は?」
「えへー」
 俺の肩に頭をコツンとつけ、犬のマーキングのように擦ってくる咲季。
「私がこんなことするのは、今もこれからも秋春くんだけなんですよー」
「……あのさ、だから嫉妬だとかそういうんじゃないんだけど。てか暑い」
「照れんなよぅ」
「照れてない」
 実際は少し照れていた。
 めかし込んでいるこいつは普段とは別人。これに甘えられては普段のようにぞんざいに振り払うのは難しい。
「ふぇー、ふひ……、どこ行く?」
「お前が行きたい所で良いよ。てか食べながら喋るな」
 内容物が見えるぞはしたない。
「キミと共にいれるならどこだって構わないサ☆」
「じゃあ帰るか」
「待ってそれは早計。待たれよ暫し待たれよ……いや、うん?秋春くんから誘ったデートなんだからあなたが行き先を決めてエスコートすべきでは?」
「……なんでも男が引っ張ってくれると思うな。お互い支え合ってこそだろうが」
「センセー。片桐くんがもっともらしい事言ってノープランを正当化しようとしてまーす」
「娯楽施設での計画性を俺に求めるのが間違ってる」
「あぁ、秋春くん陽キャ寄りだけど結局陰キャだもんね。こういうとこ縁無いか」
 しみじみ言うなうるせぇな。
「しょうがないなあ。ウェイウェイしてる同級生を羨んでいただけの暗ーい人生を送ってきた秋春くんに私が助け舟を出してあげようじゃないですか」
 手元のケバブをついばむように食べながら片手で園内図を広げる咲季。
 時々こちらを見上げてきて、視線が合うと一々嬉しそうに微笑む。
「ここはどう?」なんて相談して、くっついた肩から伝わる体温が熱い。
「あっつ…………」
「お、なんだ嫌味か?」
「ちげーよ」
 ただ、俺も結構浮かれてんのかなって思っただけだ。
 こちらとしては太陽のせいだと言い訳したいところだけど。