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第二十四話 遊園地ってカンジ!

ー/ー



 野暮用を終えてすぐに遊園地へ向かったら待ち合わせの五分前に遊園地の前についた。
 丁度良い時間に着いたなと、ちょっと満足感。

 咲季へ「着いたぞ」とメッセージを送りつつ、バスから降りて藍原(あいはら)遊園地の入口へ。
 拓けた所に建てられているため周囲の土地には住宅がまばらにある程度で、見晴らしが良い。
 だがやはり遊園地の入り口付近。見晴らしが良いはずの景色には、見渡す限り車や人の群れ。
 平日だと言うのに中々賑わっている。やはり親子連れが多いが、大学生や高校生と見られる若い層もいくらか混じっていた。どこかの学校の創立記念日とか何かなのかも知れないな。
 普段ならああいうカースト上位層で賑わっている場所には極力居たくないのだが、遊園地はワイワイと賑やかな雰囲気も大事だし、今日は我慢しよう。
 とりあえず今は咲季を探さなくては。

「………………………」

 と思ったものの、それらしい人物が見当たらない。『あいはら遊園地』とカラフルに塗られたアーチ状の入口の前、その目の前の噴水、周囲のベンチ、植えられた木々。ざっと見渡すが、本当にどこにいるのか分からなかった。
 まさか場所間違えたんじゃないだろうな。いや、けど櫻井さんが同伴してるはずだからそんな事無いか。
 仕方ないのでスマホでメッセージアプリを開くと、

《さーて恒例!私は今どこにいるでしょーか?どん!》

 という返信が。
 うわ、はっ倒してぇ。

 既読無視してスマホをポケットにしまい、もう一度周囲を観察。

 すると、

「ん?」

 周囲に植えられた木の一つ、その陰からᎢシャツジーパン姿のグラサンをかけた女性がチラチラとこっちを見ているのが視界に入った。

 俺はちょっと恥ずかしい気持ちになりながらも、その怪しいへ近付く。

「櫻井さん何してるんですか」

 グラサンをかけた怪しい櫻井さんはグラサンを額まで上げ、眉間にシワを寄せたNOT歓迎な態度で俺を迎えた。

「なんで私の所に来んのさ」
「いや、なんか不審者いるなって。ていうか咲季一緒じゃないんですか?」
「さっきまで一緒だったけど、デートの待ち合わせにこんなおば……ちゃんじゃねーよ!オネイサンだよ舐めんな!!」
「すみませんセルフで急にキレないで下さいビビります」
「……ゴホン、とにかく、部外者の私があなた達のデートに入り込むなんて無粋。言ったでしょ、待ち合わせからもう既にデートなの。デートの記憶に他の女の映像は要らないの分かる?」
「は、はあ」

 なんとなく分かるかも知れない。

「ところで、なんでグラサンを?」
「状況が少し張り込みっぽいでしょ、だから気分的につけてみた。どう?」
「若いなー」
「ちょっと、褒めても何も出ないぞぉ〜♡」

 すみません、褒めてません。
 そして態度にはめっちゃ出ちゃってます。喜びの舞出ちゃってます。

「……ゴホン、ってなわけで、さっさと咲季ちゃんの所行ってやりな」

 舞を踊り終えた櫻井さんにバシバシと背中を叩かれる。
 いや、行ってやりなって言っても……

「咲季居なくないですか?」
「え、いるでしょ?ほらあそこ」

 入り口の方を指差される。
 言われた通り見てみるが、それらしい人物は見当たらなかった。

「……どこです?」
「はぁー?」

 アホでも見るかのような呆れ顔をされた。

「本気で言ってる?」
「本気ですけど」

 今度は「かーっ!」とおっさんみたいに大袈裟に嘆かれる。

「な、なんですか」
「これはいつも一緒に居過ぎて逆にって事?いや、この子の天然もあるか……」
「あ、あの」
「門の目の前、とにかく行って」
「え?」
「ダッシュ!」

 有無を言わさず、背中を思いっ切り押されてたたらを踏んだ。
 櫻井さんの態度に釈然としないものを感じながら、言われた通り入口の門の前に。

 改めて門の周りにいる人達を見てみる。
 父親を待っているっぽい家族連れや大学生っぽいグループ。カップルが数組、やたらベタベタくっついてるカップルが一組。そして――

「ほらほら!あの子だよあの子」

 を視界に入れた瞬間、ヒソヒソとした(隠しきれていないが)数人の男の声が耳に届いた。

「どれだよ……って、あれか、門の前のあの子?」
「そうその娘!ヤバくね?」
「……確かにめっちゃ可愛いな」

 男達の視線を捕らえているのが誰なのか、すぐに分かった。
 丁度俺の正面。スマホを鏡代わりにして前髪を整えている少女だ。

 軽くウェーブのかかった黒髪を下の方でポニーテールにしていて、十中八九が目を引くような容姿。
 肌はきめ細やかで白い。物憂げなその表情はどこか深窓の令嬢のようにも映る。
 服装は、鎖骨から両肩にかけて若干露出の大きい黒のカットソーに、膝までの淡いピンク色のスカート。その境の腰の部分にはピンクと黒の二つから成るリボンがアクセントとして付いている。
 大人っぽさと少女らしさを合わせ持つ絶妙な魅力を持った人物だ。周りの人間の目を引くのも頷ける。

「芸能人かな?撮影?」
「だとしたらグラビア女優じゃね?ほら、スタイル良いっつーか、胸……」
「……ああ」
「……な」

 体型も相まってか、下衆(げす)な視線も集めていた。
 いや、公共の場で慎めよ。


 と、少女がふいに顔を上げた。

「あ」

 そして俺を見るなり、恥ずかしそうに視線を逸らし、また合わせる。

「あーっと、えと、お兄……あ、あき、はる、くん」

 明らかな挙動不審で俺の名前を呼ぶ少女。
 それでやっと脳が理解した。

「……まさか、咲季?」
「は、はい!」

 何故か背筋を伸ばして気を付けをする少女。

 あー、これは咲季だ。
 仕草といい声といい、信じられない事にこの美少女は咲季だと俺の脳が言っている。
 確かにちゃんと見れば顔も咲季のもので間違い無い。なんでさっきまで気づけなかったのだろうと不思議に思うくらいだ。

 きっと要因はアレンジされた髪と、服装と化粧だろう。いつもと雰囲気が全然違う。普段見る咲季は病院着ですっぴんで髪もそのまま下ろしていた。それが急にがらりと変わったから……。

 それにしても、ちょっと気合入れるだけでここまで違うものなのか。城ヶ崎もそうだったし、女子すげえ。ホントビビる。

「な、何、お……秋春くん」
「え?あー、えっと、あー」
「?」

 困惑して首を傾げる咲季。

「もしかして……何か変、だったり?」
「いや、違くて」

 言い淀む俺に、咲季は不安げに自分の服装を逐一目視で確認する
 くそ、何だそれ。卑怯だろ反則だ。
 あまり真っ向から認めたくないけど、こんなの誰でも思うだろ。

 なんとなく視線を感じてちらりと後ろを見る。

「ほ・め・ろ!」

 とグラサンの櫻井さんが口だけで言っていた。
 ……言われなくても分かってますよ。

「可愛い」
「え?」

 視線を戻し、自分で気色悪いと思うくらいの上擦った声で言うと、咲季は目を丸くした。

「……似合ってる。髪とか、服とか、色々」
「…………」

 恥ずかしさで勝手に動く手で後頭部をいじりながら、顔を熱くして言った。
 降り注ぐ日差しも相まって額から汗が次々と流れる。

 そんな俺に咲季は、

「え、どうしたの怖い……」

 引いてた。

「おい、なんでそうなる?」
「いや、だって違くない?お兄ちゃ、秋春くんってもっとこう、酷い物言いするじゃん?「身の程知れよ」とか言うじゃん?」
「言わないから」
「要求はなんですか?」
「……あのな、お前一体俺をなんだと思ってんだ」
「えっ?それは〜、私の恋人!…………なんじゃないでしょうか」

 人差し指を立ててドヤ顔で言った、と思ったら目を逸して赤くなる咲季。
 そんな照れるんだったらわざわざ言うな。こっちまで恥ずかしくなるだろうが。

「あーともかく、今のは普通に褒めたんだから素直に受け取ってくれ」
「ヤダ」
「なんで」
「心臓爆発しそうになるから」
「なんだそれ?」
「嬉し過ぎて、心臓が破裂しそうになるの」
「………………そりゃあ洒落にならないですね」
「………………そ、そうですね」

 ……なんだコレ、恥ずっ!
 これすっごい恥ずいんだけど!

 周りの家族連れからの生暖かい視線が痛い!
 微笑ましそうに見るな!そしてさっきの男共は舌打ちして睨みつけるな!

「とりあえず、中入るか」
「……うん」

 耐えきれなくて俺はさっさとこの場から逃げる事にした。
 ちょこちょこと歩く咲季の歩幅に合わせつつ、入場口の係員にチケットを見せ、行列と共に中へ。
 咲季は照れているのか顔が赤いが、それ以外はいつも通り。まるで病気が発覚する前の頃のようだ。
 いやまあ、今も昔も相変わらず元気過ぎるくらいだけどさ。

「凄いよなホント」
「何?」
「なんでもない。それよりほら、さっさと行くぞ」

 誤魔化しついでに、俺は左手で咲季の手を取った。

「あ……」

 咲季は一瞬驚きはしたものの、頬を緩ませて俺の指に手を絡め、強く握り返す。
 いわゆる恋人繋ぎというやつだ。

「うん!」

 花が咲いたような満面の笑み。
 つられて苦笑しながら園の中を進んだ。

「ここ、昔来たけど今全然違うね!」

 甘えるようにピタリとくっついて俺の顔をじっと見つめつつ、咲季。

「そうだっけ?」
「うんうん!遊園地ってカンジ!」

 じゃあ昔はなんだったんだよ。

 思いながら辺りの景色を見渡す。確かに咲季の言いたいことは理解できた。

 一言で言うなら異世界。
 周囲には煉瓦の家を模した建物が所々に連なっていて、それらがお土産屋やレストランになっている。地面も無骨なアスファルトじゃなくおしゃれな石造り。
 まだアトラクションの姿は一つも見えないが、おそらくこの煉瓦の建物の通りを進んでいった先にあるのだろう。
 俺も小学校低学年の時に行ったきりでほぼ初見みたいなものだから、中々新鮮な気分だ。
 なるほど、中世の街を模してるのか。地方の遊園地にしては気合いが入ってる。ちょっと浮足立ってきた。

「ね、早く行こ?アトラクション!アトラクション!」
「分かった。分かったから腕引っ張……ってぇな一本背負いでもすんのかお前!」
「先ジェットコースターね!『スーパー地獄車』ってやつ!」
「念のため激しい絶叫系は無しって話だったはずだけど?」
「地獄車は全国5位程度の実力みたいだから大丈夫だよー!雑魚だよー!」
「5本指に入ってんじゃねーか!ていうか名前的にアウトだろ!」
「四天王にも入れないやつって考えると弱そうでしょ?」
「藍原遊園地のスタッフの皆様に謝れ」

 早速ハイテンションな咲季。
 この後体力切れにならないか心配になるくらいだ。

 ていうかこいつ夢の国じゃ無いからってブーイングしてたくせに、ちゃっかり事前に調べるくらい楽しみにしてるじゃん。

 咲季に引っ張られながら、まずは出だしの好調っぷりに頬を緩めた。







次のエピソードへ進む 第二十五話 コーヒーカップなんて


みんなのリアクション

 野暮用を終えてすぐに遊園地へ向かったら待ち合わせの五分前に遊園地の前についた。
 丁度良い時間に着いたなと、ちょっと満足感。
 咲季へ「着いたぞ」とメッセージを送りつつ、バスから降りて藍原《あいはら》遊園地の入口へ。
 拓けた所に建てられているため周囲の土地には住宅がまばらにある程度で、見晴らしが良い。
 だがやはり遊園地の入り口付近。見晴らしが良いはずの景色には、見渡す限り車や人の群れ。
 平日だと言うのに中々賑わっている。やはり親子連れが多いが、大学生や高校生と見られる若い層もいくらか混じっていた。どこかの学校の創立記念日とか何かなのかも知れないな。
 普段ならああいうカースト上位層で賑わっている場所には極力居たくないのだが、遊園地はワイワイと賑やかな雰囲気も大事だし、今日は我慢しよう。
 とりあえず今は咲季を探さなくては。
「………………………」
 と思ったものの、それらしい人物が見当たらない。『あいはら遊園地』とカラフルに塗られたアーチ状の入口の前、その目の前の噴水、周囲のベンチ、植えられた木々。ざっと見渡すが、本当にどこにいるのか分からなかった。
 まさか場所間違えたんじゃないだろうな。いや、けど櫻井さんが同伴してるはずだからそんな事無いか。
 仕方ないのでスマホでメッセージアプリを開くと、
《さーて恒例!私は今どこにいるでしょーか?どん!》
 という返信が。
 うわ、はっ倒してぇ。
 既読無視してスマホをポケットにしまい、もう一度周囲を観察。
 すると、
「ん?」
 周囲に植えられた木の一つ、その陰からᎢシャツジーパン姿のグラサンをかけた女性がチラチラとこっちを見ているのが視界に入った。
 俺はちょっと恥ずかしい気持ちになりながらも、その怪しい《《知り合い》》へ近付く。
「櫻井さん何してるんですか」
 グラサンをかけた怪しい櫻井さんはグラサンを額まで上げ、眉間にシワを寄せたNOT歓迎な態度で俺を迎えた。
「なんで私の所に来んのさ」
「いや、なんか不審者いるなって。ていうか咲季一緒じゃないんですか?」
「さっきまで一緒だったけど、デートの待ち合わせにこんなおば……ちゃんじゃねーよ!オネイサンだよ舐めんな!!」
「すみませんセルフで急にキレないで下さいビビります」
「……ゴホン、とにかく、部外者の私があなた達のデートに入り込むなんて無粋。言ったでしょ、待ち合わせからもう既にデートなの。デートの記憶に他の女の映像は要らないの分かる?」
「は、はあ」
 なんとなく分かるかも知れない。
「ところで、なんでグラサンを?」
「状況が少し張り込みっぽいでしょ、だから気分的につけてみた。どう?」
「若いなー」
「ちょっと、褒めても何も出ないぞぉ〜♡」
 すみません、褒めてません。
 そして態度にはめっちゃ出ちゃってます。喜びの舞出ちゃってます。
「……ゴホン、ってなわけで、さっさと咲季ちゃんの所行ってやりな」
 舞を踊り終えた櫻井さんにバシバシと背中を叩かれる。
 いや、行ってやりなって言っても……
「咲季居なくないですか?」
「え、いるでしょ?ほらあそこ」
 入り口の方を指差される。
 言われた通り見てみるが、それらしい人物は見当たらなかった。
「……どこです?」
「はぁー?」
 アホでも見るかのような呆れ顔をされた。
「本気で言ってる?」
「本気ですけど」
 今度は「かーっ!」とおっさんみたいに大袈裟に嘆かれる。
「な、なんですか」
「これはいつも一緒に居過ぎて逆にって事?いや、この子の天然もあるか……」
「あ、あの」
「門の目の前、とにかく行って」
「え?」
「ダッシュ!」
 有無を言わさず、背中を思いっ切り押されてたたらを踏んだ。
 櫻井さんの態度に釈然としないものを感じながら、言われた通り入口の門の前に。
 改めて門の周りにいる人達を見てみる。
 父親を待っているっぽい家族連れや大学生っぽいグループ。カップルが数組、やたらベタベタくっついてるカップルが一組。そして――
「ほらほら!あの子だよあの子」
 《《その人物》》を視界に入れた瞬間、ヒソヒソとした(隠しきれていないが)数人の男の声が耳に届いた。
「どれだよ……って、あれか、門の前のあの子?」
「そうその娘!ヤバくね?」
「……確かにめっちゃ可愛いな」
 男達の視線を捕らえているのが誰なのか、すぐに分かった。
 丁度俺の正面。スマホを鏡代わりにして前髪を整えている少女だ。
 軽くウェーブのかかった黒髪を下の方でポニーテールにしていて、十中八九が目を引くような容姿。
 肌はきめ細やかで白い。物憂げなその表情はどこか深窓の令嬢のようにも映る。
 服装は、鎖骨から両肩にかけて若干露出の大きい黒のカットソーに、膝までの淡いピンク色のスカート。その境の腰の部分にはピンクと黒の二つから成るリボンがアクセントとして付いている。
 大人っぽさと少女らしさを合わせ持つ絶妙な魅力を持った人物だ。周りの人間の目を引くのも頷ける。
「芸能人かな?撮影?」
「だとしたらグラビア女優じゃね?ほら、スタイル良いっつーか、胸……」
「……ああ」
「……な」
 体型も相まってか、下衆《げす》な視線も集めていた。
 いや、公共の場で慎めよ。
 と、少女がふいに顔を上げた。
「あ」
 そして俺を見るなり、恥ずかしそうに視線を逸らし、また合わせる。
「あーっと、えと、お兄……あ、あき、はる、くん」
 明らかな挙動不審で俺の名前を呼ぶ少女。
 それでやっと脳が理解した。
「……まさか、咲季?」
「は、はい!」
 何故か背筋を伸ばして気を付けをする少女。
 あー、これは咲季だ。
 仕草といい声といい、信じられない事にこの美少女は咲季だと俺の脳が言っている。
 確かにちゃんと見れば顔も咲季のもので間違い無い。なんでさっきまで気づけなかったのだろうと不思議に思うくらいだ。
 きっと要因はアレンジされた髪と、服装と化粧だろう。いつもと雰囲気が全然違う。普段見る咲季は病院着ですっぴんで髪もそのまま下ろしていた。それが急にがらりと変わったから……。
 それにしても、ちょっと気合入れるだけでここまで違うものなのか。城ヶ崎もそうだったし、女子すげえ。ホントビビる。
「な、何、お……秋春くん」
「え?あー、えっと、あー」
「?」
 困惑して首を傾げる咲季。
「もしかして……何か変、だったり?」
「いや、違くて」
 言い淀む俺に、咲季は不安げに自分の服装を逐一目視で確認する
 くそ、何だそれ。卑怯だろ反則だ。
 あまり真っ向から認めたくないけど、こんなの誰でも思うだろ。
 なんとなく視線を感じてちらりと後ろを見る。
「ほ・め・ろ!」
 とグラサンの櫻井さんが口だけで言っていた。
 ……言われなくても分かってますよ。
「可愛い」
「え?」
 視線を戻し、自分で気色悪いと思うくらいの上擦った声で言うと、咲季は目を丸くした。
「……似合ってる。髪とか、服とか、色々」
「…………」
 恥ずかしさで勝手に動く手で後頭部をいじりながら、顔を熱くして言った。
 降り注ぐ日差しも相まって額から汗が次々と流れる。
 そんな俺に咲季は、
「え、どうしたの怖い……」
 引いてた。
「おい、なんでそうなる?」
「いや、だって違くない?お兄ちゃ、秋春くんってもっとこう、酷い物言いするじゃん?「身の程知れよ」とか言うじゃん?」
「言わないから」
「要求はなんですか?」
「……あのな、お前一体俺をなんだと思ってんだ」
「えっ?それは〜、私の恋人!…………なんじゃないでしょうか」
 人差し指を立ててドヤ顔で言った、と思ったら目を逸して赤くなる咲季。
 そんな照れるんだったらわざわざ言うな。こっちまで恥ずかしくなるだろうが。
「あーともかく、今のは普通に褒めたんだから素直に受け取ってくれ」
「ヤダ」
「なんで」
「心臓爆発しそうになるから」
「なんだそれ?」
「嬉し過ぎて、心臓が破裂しそうになるの」
「………………そりゃあ洒落にならないですね」
「………………そ、そうですね」
 ……なんだコレ、恥ずっ!
 これすっごい恥ずいんだけど!
 周りの家族連れからの生暖かい視線が痛い!
 微笑ましそうに見るな!そしてさっきの男共は舌打ちして睨みつけるな!
「とりあえず、中入るか」
「……うん」
 耐えきれなくて俺はさっさとこの場から逃げる事にした。
 ちょこちょこと歩く咲季の歩幅に合わせつつ、入場口の係員にチケットを見せ、行列と共に中へ。
 咲季は照れているのか顔が赤いが、それ以外はいつも通り。まるで病気が発覚する前の頃のようだ。
 いやまあ、今も昔も相変わらず元気過ぎるくらいだけどさ。
「凄いよなホント」
「何?」
「なんでもない。それよりほら、さっさと行くぞ」
 誤魔化しついでに、俺は左手で咲季の手を取った。
「あ……」
 咲季は一瞬驚きはしたものの、頬を緩ませて俺の指に手を絡め、強く握り返す。
 いわゆる恋人繋ぎというやつだ。
「うん!」
 花が咲いたような満面の笑み。
 つられて苦笑しながら園の中を進んだ。
「ここ、昔来たけど今全然違うね!」
 甘えるようにピタリとくっついて俺の顔をじっと見つめつつ、咲季。
「そうだっけ?」
「うんうん!遊園地ってカンジ!」
 じゃあ昔はなんだったんだよ。
 思いながら辺りの景色を見渡す。確かに咲季の言いたいことは理解できた。
 一言で言うなら異世界。
 周囲には煉瓦の家を模した建物が所々に連なっていて、それらがお土産屋やレストランになっている。地面も無骨なアスファルトじゃなくおしゃれな石造り。
 まだアトラクションの姿は一つも見えないが、おそらくこの煉瓦の建物の通りを進んでいった先にあるのだろう。
 俺も小学校低学年の時に行ったきりでほぼ初見みたいなものだから、中々新鮮な気分だ。
 なるほど、中世の街を模してるのか。地方の遊園地にしては気合いが入ってる。ちょっと浮足立ってきた。
「ね、早く行こ?アトラクション!アトラクション!」
「分かった。分かったから腕引っ張……ってぇな一本背負いでもすんのかお前!」
「先ジェットコースターね!『スーパー地獄車』ってやつ!」
「念のため激しい絶叫系は無しって話だったはずだけど?」
「地獄車は全国5位程度の実力みたいだから大丈夫だよー!雑魚だよー!」
「5本指に入ってんじゃねーか!ていうか名前的にアウトだろ!」
「四天王にも入れないやつって考えると弱そうでしょ?」
「藍原遊園地のスタッフの皆様に謝れ」
 早速ハイテンションな咲季。
 この後体力切れにならないか心配になるくらいだ。
 ていうかこいつ夢の国じゃ無いからってブーイングしてたくせに、ちゃっかり事前に調べるくらい楽しみにしてるじゃん。
 咲季に引っ張られながら、まずは出だしの好調っぷりに頬を緩めた。