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第九話 相性80%

ー/ー



 城ヶ崎が肉類を山のように積んで帰ってきた。

「…凄いな」

 声が自然に漏れ出る。
 想像していたよりずっと多く肉を取ってきたので面食らった。
 さっき入れた野菜達をほとんど踏み潰して視界から消し去ってしまっている。
 ミートボール、ハンバーグ、ベーコン、ハム。この場にある肉を全種重ねて出来たそれはなんかもう、見るだけで満腹になりそうだった。

「…引くでしょ。引くよね。絶対ドン引きだよね」
「いや引きはしないけど…」

 彼女の表情にいくらか自暴自棄な感があるのは否めない。要するに開き直ったということなんだろう。「アハハ」と乾いた笑いが漏れている。

「この子ねー、普段は金無いからってそこまで食べないんですけどねー、食べ放題だとここぞとばかりに結構食べるんですよ」

 城ヶ崎と一緒に食べ物を取りに行った凜が皿に野菜、肉、パスタ等をバランスよくのせて帰ってきて、朗らかに俺に説明してくる。

「家でもこれぐらい食べるの?」

 席についた瞬間ミートボールを三個くらい箸で刺して放り込んで一瞬で食べ終えた城ヶ崎に話しかけた。

「そんな事ないけど…」
「けど?」
「我慢はしてる、かも」

 新事実。城ヶ崎大食い系女子。

「ああ、だから今回の店も…」
「ち、違うよっ!?」

 ずいっと前のめり気味になり、必死の形相を見せる城ヶ崎。
 それを見て、凛じゃないけど悪戯心が湧いた。

「……違うの?」
「…え?……え、と……」
「……………」
「……………」
「ちょっとだけ、そんな意味も、あったり…?」

 目を逸らして指をもじもじと動かす城ヶ崎。
 思わずニヤケそうになるのを抑える。
 なんだこいつ可愛いな。

「で、でも秋春君は男子だからいっぱい食べるかなって思って…ってのが先だから!ホントに、それはホントだから!」
「う、うん。分かったから一旦落ち着いて」

 あたふた慌てて弁明してくる。別にそうだったとしても気にしないが、城ヶ崎にとっては深刻なことらしい。

 凛はそんな城ヶ崎を見かねてか、

「ところで、舞花からお兄さんに話があるんだよね~?」

 強引に軌道修正した。
 城ヶ崎はそれにはっとした表情になり、肩を上げて落として深呼吸。ハンバーグとベーコンを口に吸い込んで高速で咀嚼し、嚥下。咳払い。

「い、いいかな…?」

 上目遣いで弱々しく伺い立てる。
 改まって何を訊こうというんだろう。疑問を抱きながらも特に否定する理由が無いため頷いた。
 すると城ヶ崎はぱあっと表情を明るくし、荷物かごに入れてあった鞄から可愛らしいピンクの手帳とペンを取り出し、めくって、止めて、取材する人みたいに構えだす。

「……妻に求める資質ってなんですか?」

 いきなりわけわかんない質問きた。

「……つ、妻?」

 てっきり咲季に関する事だと思っていたし、俺への質問だとしても異質過ぎて聞き返してしまう。
 それは凛も同じ気持ちだったらしく、隣で真剣な顔をしている小動物の肩ををつつき、

「舞花、いきなりその質問は怖いから」
「え?」
「…この機会に色々リサーチしとけとは言ったけどそれは急すぎ」
「そうかな?」
「そうだろ」

 途中から小声になって何を言ってるか聞こえなかったが、なにやら注意をしているようだ。

「んー、じゃあ、」

 凛が離れると、少々不満げにしながらもなぜか鞄から本を取り出して、開いて考えるようにし、やがて「うん」と満足げに俺へ視線を向けた。

「あなたは夜の森の中にいます。すると突然茂みが揺れて何かが飛び出して来ました。それは次の内のどれ?A.虎 B.犬 Cうさぎ D.人間」

 なんか心理テスト始まった。

「……………あの」
「どれ?」

 そしてなんか圧が(つえ)え。

「び、Bかな」
「Bね!えっと…、…っ!やた!」

 俺の答えに小さくガッツポーズし、身体を振ってやたらと喜ぶ城ヶ崎。え、何?なんなの?

「いや、やったじゃないだろ」

 俺の心の声を代弁するように、隣の凛から頭に軽めのチョップ。

「お兄さんめっちゃ戸惑ってるから」
「見て!見てこれ!」

 気にした様子も無く、広げた本を宝物を見つけた子供のように凛に見せつける可愛い生物。

「…は、何?……相性80%?え、舞花今時こんなの信じてんの?乙女かよ」

 相性?

 相性ってあれか、男女の相性占い的なアレか?
 何?…城ヶ崎が俺との相性を気にして心理テストを突然してきた…ってこと…?

 ……いや、それはないか。発想が突飛すぎる。そもそも今は男性に対して恐怖心を抱いているんだ。可能性としてはかなり低いだろう。多分聞き間違いだ。

「城ヶ崎、今の何の心理テスト?」
「え?う、うん!秋春君は犬との相性80%だって!」
「なんだその特殊な心理テスト」

 まんま過ぎて心理テストの体を成してねぇし。凛も呆れ顔だ。
 けど、なぜかその顔が俺にも向けられている気がするのはなんなんだろう。

「何その目?」
「いえ、ここまでくるとどっちもどっちだなーとか思ってませんから安心して下さい」
「あ?」

 言ってる意味がよく分からん。
 疑問符を何個も頭に浮かべていると、凛はあからさまにため息をついて、城ヶ崎へ向き直る。

「舞花、さっきからお兄さん困ってる。次は普通の質問な〜」
「…わかってるよ…えっと…じゃあ、出身ってどこ?」

 また突拍子もなかったが、さっきまでのよりはまともな質問だった。

「産まれたのも育ったのも灯夏市」
「…なるほど」

 普通に答えると、突然城ヶ崎が地図を広げ始めてペンで印を付け始めた。
 え、何が始まったの?

「ちなみに寝ている時の頭の方向は?」
「え?えっ…と、考えた事無いけど……まあ、大体南かな…?」
「ふむ…部屋の窓はどこ向き?」
「窓?窓は…二つあって、西と…南」
「西と南…えーっと、」

 変な質問の後、いつの間にか取り出していた何かの表が書かれた紙をマジマジと眺めて、満面の笑み。

「これから寝る時は北向きに寝よっか!」
「ちょっと舞花こっち来よっか〜」

 城ヶ崎は凛に立たされて連行されるように後ろの方へ連れ出された。
 他の客の邪魔にならないように壁際に寄り、俺が聞こえないような小声で二人でコソコソと話し始める。

「だから。さっきからなんなの?なんで風水占いみたいなの始まったの?お兄さん引いてるから。肉よりもこっちで引かれてるから」
「だってこの表にそうした方が仲良くなれるって……」
「怖いよ。ていうかおまじないの系統に頼るな〜。ちゃんと共通の話題とか作って地道に仲良くなる方がよっぽど早いから」
「だって、アタシ男子と普通の会話ほとんどした事無いし。仲良いって思ってた人は実はアタシの事嫌ってたし…」
「だからって何もしなければ本当に何も起こんないから。灰色の高校生活で終わるよりは当たって砕けた方が思い出に残っていいでしょ〜」
「な、なんで砕ける前提なんだよっ!」
「だって、咲季から聞いたけど、お兄さん超美人の幼馴染がいるでしょ?」
「う……、って、あ!」

 二人の会議が終わったのか、城ヶ崎がこちらへ小走り。
 席に座って、

「秋春君。秋春君と咲季の幼馴染の赤坂さん、なんだけど」
「…………ああ、うん」

 あの人の名前が出るとは思っていなかったので不意打ちをくらい、すぐに反応出来なかった。
 赤坂さんは城ヶ崎をあんな目に遭わせた原因と言っても過言じゃない。

 咲季に影響が及べば俺が怒る。多分それを狙ってわざと城ヶ崎を追い詰めた。
 そんなこと彼女は知らないし、一々知らせて嫌な気分にさせる気も無いが、

「連絡先とか教えてくれない?」

 こんな事を言われたら話が変わってくるかも知れない。

 聞くに、どうやらあの事件の日、咲季に未来の話をするのは残酷じゃないかと怒った赤坂さんから逃げるように走り去ってしまったため、一言でも謝罪がしたいとの事だった。
 しかし、

「あー…その事だったら、少し事情話したらちゃんと分かってくれたよ。怒ってなかったし大丈夫大丈夫」
「え、そうなの?」
「うん」
「でも…」
「いいから」

 無理矢理話を切る。
 赤坂さんと城ヶ崎を関わらせるべきじゃない。そう思って適当な嘘をついた。
 城ヶ崎は精神的に不安定だ。そんなやつに赤坂さんみたいな精神災害をぶつければこの前みたいになる。
 それに城ヶ崎の事を気にしてもいないのは事実だと思うのであながち嘘でもない。

「…………」

 とはいえ、少し微妙な空気になってしまってちょっと焦る。
 まずい。口調がキツくなりすぎていたか。

「それより、えっと、そうだ。俺も色々聞きたいんだけど、いい?」

 誤魔化すために咄嗟に言葉が出た。

「う、うん」
「えー、と」

 考える。城ヶ崎に聞きたいこと…。

「ご趣味は?」

 お見合いかよ。

 と心の中で自分でツッコミを入れてしまう。俺の話のレパートリーの無さが顕になった瞬間だった。凛も「お見合いかよ」って顔で見ている。
 城ヶ崎が真面目に「うーん」と唸って考えているのが救いだ。

「友達と遊ぶの以外だと…ゲームとか」
「へ、へぇゲームやるんだ?どういう系統?」
「有名なのしかやってないけど、例えば『臓物の盛り』シリーズとか」
「………おお…。結構エグい所いくんだな」

 やった事は無いが結構ホラー要素が強い人気シュミレーションゲームだ。10年以上前からのシリーズ作品で、『あつまれ』とか『とびだせ』とか沢山のタイトルがある。シリーズを追う度にグラフィックが良くなっていって、ご飯前にはできないゲームとして名高い。

「あとは『畜生物語』シリーズとか、『病みっコ暗し』とか」
「見事にホラー系ばっかだ」
「うん、咲季に影響されちゃって」

 そこは影響受けないで欲しかった。

「ホラー番組とか、映画とかも見るの?」
「うん!最近は動画チャンネルとかも見る!」
「へー」

 なるほど、致命的に趣味合わないな。
 なんであんな悪趣味なものを楽しんで見れるのか謎だ。

「秋春君は見るの?」
「俺はそんなに見ないかなー」

 ていうか見たくない。

 凛が「ふっ」とこちらを見て小さく笑っているのが見えた。なんだよその顔。

「舞花は結構ガチですからね〜。確かこの辺の心霊スポットとか網羅してなかったっけ?」
「そんなガチじゃないし。ガチなのは咲季。今は大人しいけど中学の頃とか笑顔で心霊スポット行ってたじゃん」
「ウチはそんな咲季と舞花の心霊スポット巡りに毎回付き合わされてたわけだけど〜」

 あいつそんな事してたのか。
 そういえばたまに22時くらいに帰ってきて母さん叱られてた事があった気がする。理由を誤魔化していたが心霊スポット巡りをしてたのか。
 …理解出来ねぇ。

「舞花のお守りをしなきゃいけなかったし、だるかったな〜」
「はあ?お守りってなに?」
「だって舞花、怖いもの好きのくせにビビりじゃん。一々パニくるあんたを落ち着かせるの大変だった」

軽く文句を言って上品にフォークを使ってアスパラとベーコンを口に入れる凛。
城ヶ崎は言葉を詰まらせた。

「…………それは…、だって、好きだけど、怖いものは怖いんだもん…」

 照れ隠しなのか、城ヶ崎はパクパクと無尽蔵に肉を口に入れつつもじもじ。
 皿の上に積まれた肉の山がどんどん消えていった。

「中学のトイレのやつが凄かったよねぇ〜」

 そういえばと、今思い出したふうに苦笑して、凛。
 俺は気になって続きを促す。

「何があったの?」
「いやね〜、ウチらの中学…っていうかお兄さんも同じ中学でしたっけ?」
「ああ、うん」

 咲季が通っていた中学校は俺と同じ所だ。

「じゃああれ知ってます?南校舎の女子トイレの話」
「南校舎…?」
「ほら、あの家庭科室と技術室のある校舎の」
「あー」

 言われて思い出す。移動教室で使われるような教室が集まった校舎。確かにあそこは南校舎なんて呼ばれてた気がする。

 そして――同時。

「そこの家庭科室近くのトイレに、幽霊が出るって噂があったんですよ〜」

 なんてことも無しに語られるそれに、息を詰まらせた。

「ゆう、れい」
「はい。なんでもそこで…」

 ふっふっふとニヤケ顔で俺の反応を伺うようにしている凛。
 だけど正直それどころじゃない。

 戸惑い、怒り、苦しみ。そしてそれに伴う自己嫌悪。

 俺の心に湧いた思いは、混ざり、混ざって、黒。

「…………………」

 自分の表情がどうなっているか分からない。だけど明らかな異常を周囲が感じ取っているのは確実で、

「……秋春、君?」
「あ、あれ?こういう話本当に無理な感じですか?」

 心配そうに俺の名前を呼ぶ城ヶ崎と、戸惑う凛。
 そんな二人にこれ以上何も悟られないように、必死で笑顔を作る。


「……なんでもないよ」


 ――そう、なんでもない。

 はもう過去で、終わった事なんだ。

「そうだよ」

 終わってしまった事なんだ。




次のエピソードへ進む 第十話 セーブ・ジ・イモウト


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 城ヶ崎が肉類を山のように積んで帰ってきた。
「…凄いな」
 声が自然に漏れ出る。
 想像していたよりずっと多く肉を取ってきたので面食らった。
 さっき入れた野菜達をほとんど踏み潰して視界から消し去ってしまっている。
 ミートボール、ハンバーグ、ベーコン、ハム。この場にある肉を全種重ねて出来たそれはなんかもう、見るだけで満腹になりそうだった。
「…引くでしょ。引くよね。絶対ドン引きだよね」
「いや引きはしないけど…」
 彼女の表情にいくらか自暴自棄な感があるのは否めない。要するに開き直ったということなんだろう。「アハハ」と乾いた笑いが漏れている。
「この子ねー、普段は金無いからってそこまで食べないんですけどねー、食べ放題だとここぞとばかりに結構食べるんですよ」
 城ヶ崎と一緒に食べ物を取りに行った凜が皿に野菜、肉、パスタ等をバランスよくのせて帰ってきて、朗らかに俺に説明してくる。
「家でもこれぐらい食べるの?」
 席についた瞬間ミートボールを三個くらい箸で刺して放り込んで一瞬で食べ終えた城ヶ崎に話しかけた。
「そんな事ないけど…」
「けど?」
「我慢はしてる、かも」
 新事実。城ヶ崎大食い系女子。
「ああ、だから今回の店も…」
「ち、違うよっ!?」
 ずいっと前のめり気味になり、必死の形相を見せる城ヶ崎。
 それを見て、凛じゃないけど悪戯心が湧いた。
「……違うの?」
「…え?……え、と……」
「……………」
「……………」
「ちょっとだけ、そんな意味も、あったり…?」
 目を逸らして指をもじもじと動かす城ヶ崎。
 思わずニヤケそうになるのを抑える。
 なんだこいつ可愛いな。
「で、でも秋春君は男子だからいっぱい食べるかなって思って…ってのが先だから!ホントに、それはホントだから!」
「う、うん。分かったから一旦落ち着いて」
 あたふた慌てて弁明してくる。別にそうだったとしても気にしないが、城ヶ崎にとっては深刻なことらしい。
 凛はそんな城ヶ崎を見かねてか、
「ところで、舞花からお兄さんに話があるんだよね~?」
 強引に軌道修正した。
 城ヶ崎はそれにはっとした表情になり、肩を上げて落として深呼吸。ハンバーグとベーコンを口に吸い込んで高速で咀嚼し、嚥下。咳払い。
「い、いいかな…?」
 上目遣いで弱々しく伺い立てる。
 改まって何を訊こうというんだろう。疑問を抱きながらも特に否定する理由が無いため頷いた。
 すると城ヶ崎はぱあっと表情を明るくし、荷物かごに入れてあった鞄から可愛らしいピンクの手帳とペンを取り出し、めくって、止めて、取材する人みたいに構えだす。
「……妻に求める資質ってなんですか?」
 いきなりわけわかんない質問きた。
「……つ、妻?」
 てっきり咲季に関する事だと思っていたし、俺への質問だとしても異質過ぎて聞き返してしまう。
 それは凛も同じ気持ちだったらしく、隣で真剣な顔をしている小動物の肩ををつつき、
「舞花、いきなりその質問は怖いから」
「え?」
「…この機会に色々リサーチしとけとは言ったけどそれは急すぎ」
「そうかな?」
「そうだろ」
 途中から小声になって何を言ってるか聞こえなかったが、なにやら注意をしているようだ。
「んー、じゃあ、」
 凛が離れると、少々不満げにしながらもなぜか鞄から本を取り出して、開いて考えるようにし、やがて「うん」と満足げに俺へ視線を向けた。
「あなたは夜の森の中にいます。すると突然茂みが揺れて何かが飛び出して来ました。それは次の内のどれ?A.虎 B.犬 Cうさぎ D.人間」
 なんか心理テスト始まった。
「……………あの」
「どれ?」
 そしてなんか圧が強《つえ》え。
「び、Bかな」
「Bね!えっと…、…っ!やた!」
 俺の答えに小さくガッツポーズし、身体を振ってやたらと喜ぶ城ヶ崎。え、何?なんなの?
「いや、やったじゃないだろ」
 俺の心の声を代弁するように、隣の凛から頭に軽めのチョップ。
「お兄さんめっちゃ戸惑ってるから」
「見て!見てこれ!」
 気にした様子も無く、広げた本を宝物を見つけた子供のように凛に見せつける可愛い生物。
「…は、何?……相性80%?え、舞花今時こんなの信じてんの?乙女かよ」
 相性?
 相性ってあれか、男女の相性占い的なアレか?
 何?…城ヶ崎が俺との相性を気にして心理テストを突然してきた…ってこと…?
 ……いや、それはないか。発想が突飛すぎる。そもそも今は男性に対して恐怖心を抱いているんだ。可能性としてはかなり低いだろう。多分聞き間違いだ。
「城ヶ崎、今の何の心理テスト?」
「え?う、うん!秋春君は犬との相性80%だって!」
「なんだその特殊な心理テスト」
 まんま過ぎて心理テストの体を成してねぇし。凛も呆れ顔だ。
 けど、なぜかその顔が俺にも向けられている気がするのはなんなんだろう。
「何その目?」
「いえ、ここまでくるとどっちもどっちだなーとか思ってませんから安心して下さい」
「あ?」
 言ってる意味がよく分からん。
 疑問符を何個も頭に浮かべていると、凛はあからさまにため息をついて、城ヶ崎へ向き直る。
「舞花、さっきからお兄さん困ってる。次は普通の質問な〜」
「…わかってるよ…えっと…じゃあ、出身ってどこ?」
 また突拍子もなかったが、さっきまでのよりはまともな質問だった。
「産まれたのも育ったのも灯夏市」
「…なるほど」
 普通に答えると、突然城ヶ崎が地図を広げ始めてペンで印を付け始めた。
 え、何が始まったの?
「ちなみに寝ている時の頭の方向は?」
「え?えっ…と、考えた事無いけど……まあ、大体南かな…?」
「ふむ…部屋の窓はどこ向き?」
「窓?窓は…二つあって、西と…南」
「西と南…えーっと、」
 変な質問の後、いつの間にか取り出していた何かの表が書かれた紙をマジマジと眺めて、満面の笑み。
「これから寝る時は北向きに寝よっか!」
「ちょっと舞花こっち来よっか〜」
 城ヶ崎は凛に立たされて連行されるように後ろの方へ連れ出された。
 他の客の邪魔にならないように壁際に寄り、俺が聞こえないような小声で二人でコソコソと話し始める。
「だから。さっきからなんなの?なんで風水占いみたいなの始まったの?お兄さん引いてるから。肉よりもこっちで引かれてるから」
「だってこの表にそうした方が仲良くなれるって……」
「怖いよ。ていうかおまじないの系統に頼るな〜。ちゃんと共通の話題とか作って地道に仲良くなる方がよっぽど早いから」
「だって、アタシ男子と普通の会話ほとんどした事無いし。仲良いって思ってた人は実はアタシの事嫌ってたし…」
「だからって何もしなければ本当に何も起こんないから。灰色の高校生活で終わるよりは当たって砕けた方が思い出に残っていいでしょ〜」
「な、なんで砕ける前提なんだよっ!」
「だって、咲季から聞いたけど、お兄さん超美人の幼馴染がいるでしょ?」
「う……、って、あ!」
 二人の会議が終わったのか、城ヶ崎がこちらへ小走り。
 席に座って、
「秋春君。秋春君と咲季の幼馴染の赤坂さん、なんだけど」
「…………ああ、うん」
 あの人の名前が出るとは思っていなかったので不意打ちをくらい、すぐに反応出来なかった。
 赤坂さんは城ヶ崎をあんな目に遭わせた原因と言っても過言じゃない。
 咲季に影響が及べば俺が怒る。多分それを狙ってわざと城ヶ崎を追い詰めた。
 そんなこと彼女は知らないし、一々知らせて嫌な気分にさせる気も無いが、
「連絡先とか教えてくれない?」
 こんな事を言われたら話が変わってくるかも知れない。
 聞くに、どうやらあの事件の日、咲季に未来の話をするのは残酷じゃないかと怒った赤坂さんから逃げるように走り去ってしまったため、一言でも謝罪がしたいとの事だった。
 しかし、
「あー…その事だったら、少し事情話したらちゃんと分かってくれたよ。怒ってなかったし大丈夫大丈夫」
「え、そうなの?」
「うん」
「でも…」
「いいから」
 無理矢理話を切る。
 赤坂さんと城ヶ崎を関わらせるべきじゃない。そう思って適当な嘘をついた。
 城ヶ崎は精神的に不安定だ。そんなやつに赤坂さんみたいな精神災害をぶつければこの前みたいになる。
 それに城ヶ崎の事を気にしてもいないのは事実だと思うのであながち嘘でもない。
「…………」
 とはいえ、少し微妙な空気になってしまってちょっと焦る。
 まずい。口調がキツくなりすぎていたか。
「それより、えっと、そうだ。俺も色々聞きたいんだけど、いい?」
 誤魔化すために咄嗟に言葉が出た。
「う、うん」
「えー、と」
 考える。城ヶ崎に聞きたいこと…。
「ご趣味は?」
 お見合いかよ。
 と心の中で自分でツッコミを入れてしまう。俺の話のレパートリーの無さが顕になった瞬間だった。凛も「お見合いかよ」って顔で見ている。
 城ヶ崎が真面目に「うーん」と唸って考えているのが救いだ。
「友達と遊ぶの以外だと…ゲームとか」
「へ、へぇゲームやるんだ?どういう系統?」
「有名なのしかやってないけど、例えば『臓物の盛り』シリーズとか」
「………おお…。結構エグい所いくんだな」
 やった事は無いが結構ホラー要素が強い人気シュミレーションゲームだ。10年以上前からのシリーズ作品で、『あつまれ』とか『とびだせ』とか沢山のタイトルがある。シリーズを追う度にグラフィックが良くなっていって、ご飯前にはできないゲームとして名高い。
「あとは『畜生物語』シリーズとか、『病みっコ暗し』とか」
「見事にホラー系ばっかだ」
「うん、咲季に影響されちゃって」
 そこは影響受けないで欲しかった。
「ホラー番組とか、映画とかも見るの?」
「うん!最近は動画チャンネルとかも見る!」
「へー」
 なるほど、致命的に趣味合わないな。
 なんであんな悪趣味なものを楽しんで見れるのか謎だ。
「秋春君は見るの?」
「俺はそんなに見ないかなー」
 ていうか見たくない。
 凛が「ふっ」とこちらを見て小さく笑っているのが見えた。なんだよその顔。
「舞花は結構ガチですからね〜。確かこの辺の心霊スポットとか網羅してなかったっけ?」
「そんなガチじゃないし。ガチなのは咲季。今は大人しいけど中学の頃とか笑顔で心霊スポット行ってたじゃん」
「ウチはそんな咲季と舞花の心霊スポット巡りに毎回付き合わされてたわけだけど〜」
 あいつそんな事してたのか。
 そういえばたまに22時くらいに帰ってきて母さん叱られてた事があった気がする。理由を誤魔化していたが心霊スポット巡りをしてたのか。
 …理解出来ねぇ。
「舞花のお守りをしなきゃいけなかったし、だるかったな〜」
「はあ?お守りってなに?」
「だって舞花、怖いもの好きのくせにビビりじゃん。一々パニくるあんたを落ち着かせるの大変だった」
軽く文句を言って上品にフォークを使ってアスパラとベーコンを口に入れる凛。
城ヶ崎は言葉を詰まらせた。
「…………それは…、だって、好きだけど、怖いものは怖いんだもん…」
 照れ隠しなのか、城ヶ崎はパクパクと無尽蔵に肉を口に入れつつもじもじ。
 皿の上に積まれた肉の山がどんどん消えていった。
「中学のトイレのやつが凄かったよねぇ〜」
 そういえばと、今思い出したふうに苦笑して、凛。
 俺は気になって続きを促す。
「何があったの?」
「いやね〜、ウチらの中学…っていうかお兄さんも同じ中学でしたっけ?」
「ああ、うん」
 咲季が通っていた中学校は俺と同じ所だ。
「じゃああれ知ってます?南校舎の女子トイレの話」
「南校舎…?」
「ほら、あの家庭科室と技術室のある校舎の」
「あー」
 言われて思い出す。移動教室で使われるような教室が集まった校舎。確かにあそこは南校舎なんて呼ばれてた気がする。
 そして――同時。
「そこの家庭科室近くのトイレに、幽霊が出るって噂があったんですよ〜」
 なんてことも無しに語られるそれに、息を詰まらせた。
「ゆう、れい」
「はい。なんでもそこで…」
 ふっふっふとニヤケ顔で俺の反応を伺うようにしている凛。
 だけど正直それどころじゃない。
 戸惑い、怒り、苦しみ。そしてそれに伴う自己嫌悪。
 俺の心に湧いた思いは、混ざり、混ざって、黒。
「…………………」
 自分の表情がどうなっているか分からない。だけど明らかな異常を周囲が感じ取っているのは確実で、
「……秋春、君?」
「あ、あれ?こういう話本当に無理な感じですか?」
 心配そうに俺の名前を呼ぶ城ヶ崎と、戸惑う凛。
 そんな二人にこれ以上何も悟られないように、必死で笑顔を作る。
「……なんでもないよ」
 ――そう、なんでもない。
 《《それ》》はもう過去で、終わった事なんだ。
「そうだよ」
 終わってしまった事なんだ。