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第24話 おたんこなす!

ー/ー



「お兄ちゃんのバカ!」
「………………」
「アホ!おたんこなす!フール!フーラー!フーレスト!」

 ある程度の事情を話した結果、返ってきたのは低レベルな罵倒だった。

 日曜日。少し日が落ち始めた午後。
 冷房がきいた、白を基調とした簡素な室内。
 目の前に映るのは、病院着を着た我が妹が眉を吊り上げてここぞとばかりにシャウトしまくっている姿。
 昨日の電話の時とは打って変わって元気な姿に多少安心するが、馬鹿みたいに殴り合いをしたせいで弱っている頭に咲季の高い声は結構キツいものがあり、

「…ごめん。謝るから叫ばないで頭に響く」
「私の声が響くならご褒美でしょ!」

 なんか意味不明な妄言を吐いているが、細かい事にツッコミを入れるのも億劫である。

「ホントごめんって。悪かったよ」
「本当に悪いやつだお前はー!」

 怒りに任せてベッドをバシバシ叩く咲季。

 何故こいつがキレているのか。
 それは当然、この包帯やら絆創膏だらけの体の事についてである。

 昨日、男が動かなくなった後、殴り合いでボコボコになった俺の元に凛が合流。呆然とした彼女に簡潔に事情を説明し、改めて警察へ連絡した。
 すぐに駆けつけた警察に男は連れていかれ、俺達も落ち着ける場所へ行って簡単に事情聴取。とりあえず後ほど詳しくという事でその場は解散。
 警察は城ヶ崎の親族を呼ぼうとしたが、城ヶ崎がそれを拒否し、凛もそれを幇助(ほうじょ)するように、

『今日は舞花の家誰も居ないらしくて、ウチの家泊めた方が良いと思います〜』

 と、そのまま頼りなげな足取りの城ヶ崎を連れ、タクシーを使って帰って行った(お金が無いと言われたのでタクシー代はこちらで持った)。おそらく、嘘をついた理由はあの城ヶ崎の妹に何かしらあるからなんだろうけど、その時に追求する気にはなれず、俺も自宅へ。
 そして翌日…つまり今日の午前中に俺は一応病院で検査。治療を受けた後に警察署へ出向いて詳しく話し、解放された。

 男はどうやら以前にも同様の強姦事件を起こしていて、つい最近刑務所から出所したばかりだったそうだ。
 そんな最悪な男だったが、自己防衛だったとしても流石に危害を加え過ぎた感があり、俺は戦々恐々としていたのだが、事情聴取に現れた女性警官はむしろよくやったと褒めてくれた。同時に今後は危険だから止めろと注意も受けたが。
 まあ、同じ女性として思う所があったのだと思う。

 ともかく、そんな警官とのやり取りを終えて疲れた後、次に俺の前に現れたのは、咲季にどう説明しようかという問題であった。
 最初はそのまま話そうかと思ったが、城ヶ崎が襲われかけたと言うデリケートな話題を簡単に話してもいいものかと思い至り、凛との相談の結果、

『赤坂さんが勘違いで咲季の病気の事を話してしまう → 城ヶ崎が心の整理をしたくて人気の無い場所へ → 刃物を持った男と遭遇 → たまたま居合わせた俺が警察に通報した所、逆上されて襲われてボコボコになった』

 という風な経緯で、城ヶ崎では無く俺が襲われたと話す事にした。
 赤坂さんについてはどうせのだろうから、真実は話さないでおいている。
 あいつが最悪な女だと言ったところで信じて貰えないだろうし。
 それほどに赤坂さんの周りからの信頼は厚くて、そう簡単に破れるものでは無い。
 そもそもそれが伝わったとしても咲季が傷つくだけなんだから、咲季に実害が無い内は少なくとも話さない。

「てか何だよその男!どこのどいつだよ!マイマイを刃物で脅して挙句にお兄ちゃんをボコボコにしちゃってさ!なんなの!なんなのもぉっ!!」
「ちょ、あんまり頭に血のぼらせるなって。こうやって二人とも無事だったんだし…」
「全然無事じゃないよ!舞花を傷つけ……てたのは私も同罪だけど…お兄ちゃんがそんな怪我してるんだよ!?」
「いや、そこまで酷い怪我じゃ…」
「お兄ちゃんもお兄ちゃんですっ!」

 矢継ぎ早にまくし立てられ、ビシっと人差し指を突きつけられる。
 そしてじとっとした、責めるような目で見つめられた。

「左手、ナイフを素手で掴んだんだって?」

 予想外の言葉に驚く。

「…な、なんでそれを?」
「ナースさんが教えてくれました」

 櫻井さんか…。
 確かにこの病院で治療を受けたが、伝わるの速くないか?ついさっきの事だぞ。

「大した怪我でしょーが!なんでそんな危険な事するかなぁっ!?」

 咲季が詰め寄る。
 本当に、自分以外の事なのに自分の事のように怒るやつだ。
 しかし、普段なら誇らしく思えるそれは今は少し厄介である。

「いや、それは、あれだ。自衛のためって言うか…やむを得ない状況だったと言うか…」
「違うね。お兄ちゃんアレでしょ、昔の不良の血が騒いじゃったんでしょ。どうせ真っ先に立ち向かって行ったんでしょ」
「いやそんな事…」
「…………………」

 不良の血なんて恥ずかしい単語が出て、反射的に否定しようとしたが、咲季の悪鬼のような鋭い視線が飛んできて言葉に詰まり、

「まあ、無きにしも非ず……?」

 屈した。
 枕で頭を叩かれた。

「お兄ちゃん」
「はい」
「私はね、そういう、危険に真っ先に飛び込めちゃうヤサイ人みたいな気質に一番怒ってるの」
「………いや、それ言うならサイヤ…」
「うるさ……ん?サイ…、ヤサ……あ!サイヤ!あーそうだった、間違……って!そんな事はどうでもいーの!話逸らそうとすんなっ!」

 また枕で殴られた。

「ともかく!今後は危険があったら立ち向かうんじゃなくて逃げること!いい!?」
「了解」
「絶対ね」

 キスでもされるんじゃないか思うような距離まで詰められる。
 俺はそれを避けるように顔を逸らし、

「そんなに念押ししなくても、もうあんな目に遭うのはごめんだよ」
「そう思ってても、誰かが危ないってなったら絶対助けようとするもん」

 咲季の断定的な言葉に思わず苦虫を噛んだような気分になる。

「……俺はそんなヒーローみたいな性質(たち)じゃ無い」
「ふーん…」

 疑ってかかる目。
 確かに、今回みたいな状況が目の前で起これば冷静な判断は出来ないかも知れないが、こんな事件に遭遇するのなんて一生に一度レベルだろう。
 それと今回はほとんど男に八つ当たりしてただけだし、やった事は暴力。美談にされるのは少し抵抗があった。

「……まーそういう所がかっこよくて魅力的なんだけど……あぁけど危険な目には遭って欲しくないよ何このジレンマ……!」
「ん?」

 なんかブツブツ言っている咲季を見つめると「な、何でもないよ?」と両手を振られる。

 なんだかよく分からないが、少し怒りのボルテージが下がってきたらしい。
 この機を逃す手は無い。

「ところで、城ヶ崎から何か連絡あった?」

 話を逸らす…と言うか気になっていたので、訊いた。
 おそらく彼女の性格ならすぐにでも謝罪の連絡をしているだろう。短い付き合いだが、そう予測出来るくらいには城ヶ崎の性格は分かりやすい。

「……うん。さっき電話来たよ。なんかすっごい謝ってくれた。勘違いしててごめんって。……むしろ謝るのは私なのにね」

 やはり。
 しかしまだ面と向かえるほど回復はしていないらしい。

「まあ、ケジメってやつだろ。言葉にして謝らなきゃ収まりつかない時もある」
「んー、そんなに気にしなくてもよかったのになぁ……あ、お陰様でお互い謝って仲直り出来ました。ありがとうございます」

 思い出したように俺に頭を下げる咲季。
 軽いように言っているが、照れ隠しだろう。

「いや、俺は特に何もやってないから。一番の立役者…って言うか要因は赤坂さんだしな」
「あー、結愛ちゃんが勘違いで言っちゃったんだっけ。寿命の事」
「寿命って……。まあ、親友だから当然知ってるって思ったんじゃねーの?」
「大丈夫かな舞花…」
「大丈夫では無いだろうな」

 咲季の余命を知るのと同時に起こった強姦未遂。その二つの衝撃で心が麻痺しているのか、今の所は割と落ち着いている…と言うか、心が沈み過ぎてぼーっとしてると言うか。とにかく結果的な荒療治で、なんとかなってはいるらしい(凛からの情報だが)。
 そんな状態でも咲季に謝罪の電話をかけたのは「それだけはやらなければならない」と強く思っていたからだろう。
 しかしそれについてはゆっくりと回復してもらうしかない。
 城ヶ崎にはいい友達もいるし、それに時間だってある。咲季には無いそれがまだ沢山有るのだから。

「お兄ちゃん?」
「ん?」
「…なんか、怖い顔してた」
「………何でもないよ」

 不安げな咲季を誤魔化すように頭に手を乗せた。そのままポンポンと軽く叩くように頭を撫でる。

「……お兄ちゃんが自らなでなでするなんて珍しいね。どうしたの気持ち悪いよ?」

 真顔で咲季が言う。

「お前ね…」
「それと前も言ったけど髪セットした後だったらキレてるからね」
「はいはいごめんなさい」

 そんな事を言っているが嬉しそうに頬を綻ばせているのはあからさまだった。
 それに髪をセットって言っても外に出る時以外しないんだし、そんなの……

「………………………」

 咲季の頭に乗せていた手が、するりと落ちる。

 思い至った時、湧いて来た想い。
 同情。哀れみ。

 それは、咲季の好まない感情。

 俺の中にそれは確かに存在した。
 咲季に対して、それは消すことの出来ない感情なのだと気づいてしまった。

 ――結局俺も周りの人間と同じじゃないか。

「………………………」

 分かっていた事だが、少なからずショックを受ける。

 だが。
 それでも。








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「お兄ちゃんのバカ!」
「………………」
「アホ!おたんこなす!フール!フーラー!フーレスト!」
 ある程度の事情を話した結果、返ってきたのは低レベルな罵倒だった。
 日曜日。少し日が落ち始めた午後。
 冷房がきいた、白を基調とした簡素な室内。
 目の前に映るのは、病院着を着た我が妹が眉を吊り上げてここぞとばかりにシャウトしまくっている姿。
 昨日の電話の時とは打って変わって元気な姿に多少安心するが、馬鹿みたいに殴り合いをしたせいで弱っている頭に咲季の高い声は結構キツいものがあり、
「…ごめん。謝るから叫ばないで頭に響く」
「私の声が響くならご褒美でしょ!」
 なんか意味不明な妄言を吐いているが、細かい事にツッコミを入れるのも億劫である。
「ホントごめんって。悪かったよ」
「本当に悪いやつだお前はー!」
 怒りに任せてベッドをバシバシ叩く咲季。
 何故こいつがキレているのか。
 それは当然、この包帯やら絆創膏だらけの体の事についてである。
 昨日、男が動かなくなった後、殴り合いでボコボコになった俺の元に凛が合流。呆然とした彼女に簡潔に事情を説明し、改めて警察へ連絡した。
 すぐに駆けつけた警察に男は連れていかれ、俺達も落ち着ける場所へ行って簡単に事情聴取。とりあえず後ほど詳しくという事でその場は解散。
 警察は城ヶ崎の親族を呼ぼうとしたが、城ヶ崎がそれを拒否し、凛もそれを幇助《ほうじょ》するように、
『今日は舞花の家誰も居ないらしくて、ウチの家泊めた方が良いと思います〜』
 と、そのまま頼りなげな足取りの城ヶ崎を連れ、タクシーを使って帰って行った(お金が無いと言われたのでタクシー代はこちらで持った)。おそらく、嘘をついた理由はあの城ヶ崎の妹に何かしらあるからなんだろうけど、その時に追求する気にはなれず、俺も自宅へ。
 そして翌日…つまり今日の午前中に俺は一応病院で検査。治療を受けた後に警察署へ出向いて詳しく話し、解放された。
 男はどうやら以前にも同様の強姦事件を起こしていて、つい最近刑務所から出所したばかりだったそうだ。
 そんな最悪な男だったが、自己防衛だったとしても流石に危害を加え過ぎた感があり、俺は戦々恐々としていたのだが、事情聴取に現れた女性警官はむしろよくやったと褒めてくれた。同時に今後は危険だから止めろと注意も受けたが。
 まあ、同じ女性として思う所があったのだと思う。
 ともかく、そんな警官とのやり取りを終えて疲れた後、次に俺の前に現れたのは、咲季にどう説明しようかという問題であった。
 最初はそのまま話そうかと思ったが、城ヶ崎が襲われかけたと言うデリケートな話題を簡単に話してもいいものかと思い至り、凛との相談の結果、
『赤坂さんが勘違いで咲季の病気の事を話してしまう → 城ヶ崎が心の整理をしたくて人気の無い場所へ → 刃物を持った男と遭遇 → たまたま居合わせた俺が警察に通報した所、逆上されて襲われてボコボコになった』
 という風な経緯で、城ヶ崎では無く俺が襲われたと話す事にした。
 赤坂さんについてはどうせ《《そういう風に伝わる》》のだろうから、真実は話さないでおいている。
 あいつが最悪な女だと言ったところで信じて貰えないだろうし。
 それほどに赤坂さんの周りからの信頼は厚くて、そう簡単に破れるものでは無い。
 そもそもそれが伝わったとしても咲季が傷つくだけなんだから、咲季に実害が無い内は少なくとも話さない。
「てか何だよその男!どこのどいつだよ!マイマイを刃物で脅して挙句にお兄ちゃんをボコボコにしちゃってさ!なんなの!なんなのもぉっ!!」
「ちょ、あんまり頭に血のぼらせるなって。こうやって二人とも無事だったんだし…」
「全然無事じゃないよ!舞花を傷つけ……てたのは私も同罪だけど…お兄ちゃんがそんな怪我してるんだよ!?」
「いや、そこまで酷い怪我じゃ…」
「お兄ちゃんもお兄ちゃんですっ!」
 矢継ぎ早にまくし立てられ、ビシっと人差し指を突きつけられる。
 そしてじとっとした、責めるような目で見つめられた。
「左手、ナイフを素手で掴んだんだって?」
 予想外の言葉に驚く。
「…な、なんでそれを?」
「ナースさんが教えてくれました」
 櫻井さんか…。
 確かにこの病院で治療を受けたが、伝わるの速くないか?ついさっきの事だぞ。
「大した怪我でしょーが!なんでそんな危険な事するかなぁっ!?」
 咲季が詰め寄る。
 本当に、自分以外の事なのに自分の事のように怒るやつだ。
 しかし、普段なら誇らしく思えるそれは今は少し厄介である。
「いや、それは、あれだ。自衛のためって言うか…やむを得ない状況だったと言うか…」
「違うね。お兄ちゃんアレでしょ、昔の不良の血が騒いじゃったんでしょ。どうせ真っ先に立ち向かって行ったんでしょ」
「いやそんな事…」
「…………………」
 不良の血なんて恥ずかしい単語が出て、反射的に否定しようとしたが、咲季の悪鬼のような鋭い視線が飛んできて言葉に詰まり、
「まあ、無きにしも非ず……?」
 屈した。
 枕で頭を叩かれた。
「お兄ちゃん」
「はい」
「私はね、そういう、危険に真っ先に飛び込めちゃうヤサイ人みたいな気質に一番怒ってるの」
「………いや、それ言うならサイヤ…」
「うるさ……ん?サイ…、ヤサ……あ!サイヤ!あーそうだった、間違……って!そんな事はどうでもいーの!話逸らそうとすんなっ!」
 また枕で殴られた。
「ともかく!今後は危険があったら立ち向かうんじゃなくて逃げること!いい!?」
「了解」
「絶対ね」
 キスでもされるんじゃないか思うような距離まで詰められる。
 俺はそれを避けるように顔を逸らし、
「そんなに念押ししなくても、もうあんな目に遭うのはごめんだよ」
「そう思ってても、誰かが危ないってなったら絶対助けようとするもん」
 咲季の断定的な言葉に思わず苦虫を噛んだような気分になる。
「……俺はそんなヒーローみたいな性質《たち》じゃ無い」
「ふーん…」
 疑ってかかる目。
 確かに、今回みたいな状況が目の前で起これば冷静な判断は出来ないかも知れないが、こんな事件に遭遇するのなんて一生に一度レベルだろう。
 それと今回はほとんど男に八つ当たりしてただけだし、やった事は暴力。美談にされるのは少し抵抗があった。
「……まーそういう所がかっこよくて魅力的なんだけど……あぁけど危険な目には遭って欲しくないよ何このジレンマ……!」
「ん?」
 なんかブツブツ言っている咲季を見つめると「な、何でもないよ?」と両手を振られる。
 なんだかよく分からないが、少し怒りのボルテージが下がってきたらしい。
 この機を逃す手は無い。
「ところで、城ヶ崎から何か連絡あった?」
 話を逸らす…と言うか気になっていたので、訊いた。
 おそらく彼女の性格ならすぐにでも謝罪の連絡をしているだろう。短い付き合いだが、そう予測出来るくらいには城ヶ崎の性格は分かりやすい。
「……うん。さっき電話来たよ。なんかすっごい謝ってくれた。勘違いしててごめんって。……むしろ謝るのは私なのにね」
 やはり。
 しかしまだ面と向かえるほど回復はしていないらしい。
「まあ、ケジメってやつだろ。言葉にして謝らなきゃ収まりつかない時もある」
「んー、そんなに気にしなくてもよかったのになぁ……あ、お陰様でお互い謝って仲直り出来ました。ありがとうございます」
 思い出したように俺に頭を下げる咲季。
 軽いように言っているが、照れ隠しだろう。
「いや、俺は特に何もやってないから。一番の立役者…って言うか要因は《《結果的に》》赤坂さんだしな」
「あー、結愛ちゃんが勘違いで言っちゃったんだっけ。寿命の事」
「寿命って……。まあ、親友だから当然知ってるって思ったんじゃねーの?」
「大丈夫かな舞花…」
「大丈夫では無いだろうな」
 咲季の余命を知るのと同時に起こった強姦未遂。その二つの衝撃で心が麻痺しているのか、今の所は割と落ち着いている…と言うか、心が沈み過ぎてぼーっとしてると言うか。とにかく結果的な荒療治で、なんとかなってはいるらしい(凛からの情報だが)。
 そんな状態でも咲季に謝罪の電話をかけたのは「それだけはやらなければならない」と強く思っていたからだろう。
 しかしそれについてはゆっくりと回復してもらうしかない。
 城ヶ崎にはいい友達もいるし、それに時間だってある。咲季には無いそれがまだ沢山有るのだから。
「お兄ちゃん?」
「ん?」
「…なんか、怖い顔してた」
「………何でもないよ」
 不安げな咲季を誤魔化すように頭に手を乗せた。そのままポンポンと軽く叩くように頭を撫でる。
「……お兄ちゃんが自らなでなでするなんて珍しいね。どうしたの気持ち悪いよ?」
 真顔で咲季が言う。
「お前ね…」
「それと前も言ったけど髪セットした後だったらキレてるからね」
「はいはいごめんなさい」
 そんな事を言っているが嬉しそうに頬を綻ばせているのはあからさまだった。
 それに髪をセットって言っても外に出る時以外しないんだし、そんなの……
「………………………」
 咲季の頭に乗せていた手が、するりと落ちる。
 思い至った時、湧いて来た想い。
 同情。哀れみ。
 それは、咲季の好まない感情。
 俺の中にそれは確かに存在した。
 咲季に対して、それは消すことの出来ない感情なのだと気づいてしまった。
 ――結局俺も周りの人間と同じじゃないか。
「………………………」
 分かっていた事だが、少なからずショックを受ける。
 だが。
 それでも。