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閑話 男を見る目はないのですけどね

ー/ー



「アハハハ! まだ女装癖治ってなかったんだ」
「女装癖なんて元からねぇっ!」
「嘘だね。直樹の女装の写真、結構持ってるんだからね」
「おいっ、誰だ、それ渡したのっ!? ヘレナかっ? 灯さんかっ? いや、慎太郎っていう――」
「慎太郎」
「ぶっ殺すっ!」
「まぁ落ち着きなよ」

 大輔は隣を歩く直樹をなだめる。だが、直樹は収まらない。

「っつか、お前のスマホ貸せっ! 消すっ!」
「駄目。脅し材料として使うんだから」
「おい、マジでやめろっ!」
「嫌だよ」

 掴みかかってくる直樹を大輔は軽々といなす。まるで小学生か中学生か……どっちにしろ、つい先日に超常的な戦いをしていた者たちとは全く思えない。

 どこにでもいる青年二人だ。

「ほら、直樹。そんなに慌てると中身崩れるよ」
「……チッ」

 直樹は苦々しく舌打ちした。さすがに手に持っている紙袋の中身を振り回すわけにはいかないからだ。お菓子は最高の状態で渡さなければ。

 杏の母親、百目鬼芽衣が命を取り戻した翌日。

 直樹たちは雪の家に向かっている。

 つまり、優斗との約束を果たしに来たのだ。

 直樹が肩をがっくりと落とす。

「はぁ、面倒だ」
「そう? なら僕は帰るよ」

 仕方ない、と言わんばかりに大輔は回れ右をしようとして、

「やめろっ。お前だってあの場にいただろっ!」

 ガシっと直樹がインターセプトする。

 大輔はフリだよ、フリと言いながら、直樹に呆れたように視線を向ける。

「でも、約束したのって直樹だけなんでしょ? 僕、関係ないじゃん」
「俺一人であいつの家に行かせるつもりか!?」
「駄目なことでもあるの? ねぇ?」
「……」

 直樹が黙り込む。大輔がニヤニヤ笑う。

 けど、

「じゃあ、今度百目鬼の家についていかなくてもいいな。俺はまったくもって活躍しなかったしな」
「ちょ、それはやめてくれない? 困るんだけど」
「何か問題でもあるのか?」
「……」

 今度は大輔は黙り込む。直樹がニヤニヤ笑う。

 それから二人して、

「不毛だな」
「そうだね」

 話題を逸らす。

 それから、今後の方針をあれこれ話し合いながら歩くこと、十分ちょっと。

 とある小さなマンションが見えてきた。

 そしてそこに、

「直樹さん! 鈴木さん!」
 
 雪が待っていた。

 雪は二人を見つけると、パアァと笑顔になる。

「……別に外で待つ必要はなかったんだぞ? どうせ家に伺うんだしな」
「いえ、外で待っていた方がいいんです」

 少し渋面とした直樹の顔を下から覗き込むように、雪は微笑む。直樹はバツが悪そうな顔をしてそっぽを向く。

 大輔がへぇ、と丸眼鏡をキラリと光らせる。

(大変そうだけど……まぁ、面白いからこのままにしておこうかな)

 波乱が必要、波乱が。と言わんばかりに大輔はニィッと笑う。もちろん直樹はそれに気が付いており、今度、イザベラさんに爆弾としてやる、と心の中で誓う。

「じゃあ、直樹さん、鈴木さん。優斗もお母さんも首を長くして待っているので」
「ああ、分かった」
「うん」

 雪が直樹の手を掴もうとして、直樹が両手をポッケに突っ込みバリケード。ならばと雪は腕を組もうとするが、直樹は大輔の後ろに下がる。

 そんなこんなの攻防戦を繰り広げながら、エレベーターに乗り、上階に上がる。

 カクンと止まりエレベーターの扉が開く。少し歩く。

 それから雪がある扉の前で立ち止まり、懐から鍵を取り出した。

 挿し、開ける。

 そして。

「どうぞ、入って――」
「にぃにぃっ!」
「おっと」

 扉が開いたのと同時に、物凄い勢いで優斗が頭からダイブしてきた。

 直樹は少しだけ驚きながらも、それでも気配などでなんとなく分かっていたため、危なげなく優斗を抱きしめて衝撃を逃がすために一回転する。メリーゴーランド。

 それから優斗を降ろす。

「……」

 キョトンとした表情の優斗は、クリクリとした栗色の瞳で直樹を見上げる。

 そして優斗は、

「もう一回! にぃにぃ、今のもう一回っ!」
「あ~~」

 パァーーッと顔を輝かせて直樹にせがむ。直樹は困ったような声を出す。

 だって。

「「優斗?」」
「ひぃっ」

 ニッコリと微笑む雪と、雪の母親――白桃(つかさ)がいたからだ。

 二人ともとても穏やかな微笑むを浮かべているのに、背後には悪鬼羅刹もかくやと言わんばかりの守護霊(スタ〇ド)が見える。

 優斗は思わず直樹の後ろに隠れる。

 大輔は面白そうだなと思いながら成り行きを見守ろうとして、

「初めまして、佐藤さん、鈴木さん。雪の母の司と申します。それで佐藤さん、怪我とか痛みとかは大丈夫でしょうか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ、気にしないでください」

 直樹は笑うが、 

「そうですか、それは良かったです。けれどせっかく来てくださったばかりで悪いのですが、先に入って待っててくださらないでしょうか?」
「あ、はい、もちろんです」
「どうぞ、どうぞ」

 アーモンド型の茶目を細めた司の笑顔の前に従うしかなかった。直樹もだ。

 雪があ、じゃあ、と直樹たちを先に家の中に入れようとしたのだが、優斗がギュッと上着を掴んでいたため、直樹はそれができなかった。

 司はニッコリと微笑む。

「優斗。佐藤さんから離れなさい」
「……いや――」
「離れなさい」

 とても優しい声音。なのに、シャンと伸びた背筋と漂う厳かな雰囲気に逆らえなかったのか、優斗は渋々直樹の上着から手を離す。

 目に涙を溜めていて、今にも泣き出してしまいそうだ。

 直樹はそれを見て、少しだけ思案した後、

「ぅん」

 無言で優斗の頭を撫でた。

「直樹さん」
「ああ」

 それから直樹は雪についていくように家にお邪魔した。


 Φ


 ダイブした優斗の謝罪や、また病院で優斗を助けてくれたことの感謝などが終わり、少し雑談していたところ、

「にぃにぃたちはどうやってねぇねぇと知り合ったの?」
「それは……」

 直樹の膝の上に座っていた優斗が尋ねた。

 先ほどまで司と雪に説教され、グスグスと泣いていたのだが、そんなことはケロリと忘れ無邪気な表情だ。

 対して直樹と大輔は少し言葉に詰まりながら、机を挟んで対面に座っている雪を見た。

「優斗。お姉ちゃんはね――」

 雪はきたか、と思い、事前に作っていた作り話をしようとする。魔法少女等々の話は、司にも優斗にも明かしていないからだ。

 いつか明かそうと思っているが、中々踏ん切りが付かないのだ。

 と、

「優斗。それは後にしましょう。それよりお昼を食べていかないかしら?」
「……そうですね。では、お言葉に甘えて」
「お願いします」

 ちょうど正午を過ぎたチャイムが鳴り響き、司が流れるように立ち上がる。フワリとダークブラウンの長髪が揺れる。

 アーモンド型の優しい茶目に見つめられ、直樹も大輔も、なら、と頷く。

 それから、雪が昼食の準備をする司を手伝ったり、その間直樹たちが優斗と遊んだり。

 昼食を食べたり、優斗が自分が大好きなアニメ、『僕は今日、魔女(きみ)と出会った』を楽しそうに話し、直樹が「実はあの絵の原案を作ったの、義父さんなんだ」と言って優斗が大はしゃぎしたり。

 お気に入りの話を見て、感想を言い合ったり。

 直樹と大輔と遊ぶのが楽しかったのか、優斗は二人にひしっと引っ付いたままだった。司は少し困った様子だったが、それでも嬉しそうだった。

 そうして夕方に近くなり、直樹たちはお暇することになった。

「にぃにぃ……」

 マンションの前で、優斗は直樹の服をギュッと掴み、栗色の目に涙を溜める。

 直樹はフッと頬を緩ませ、屈む。優斗と視線を合わせる。

「また今度会える」
「……本当?」
「ああ、本当だ。お前の姉ちゃんとも約束したしな」
「……そうなの?」

 優斗は雪を見た。雪は頷く。

「本当だよ、優斗。また、すぐ会えるから」
「いつ?」
「……それは――」

 雪は言い淀む。直樹の子供であるミラとノアと一緒に優斗と遊ぶことを約束した。

 だから会えるのは確かだ。

 けれど、いつとは断言――

「一ヵ月以内には必ず」
「本当っ!」
「ああ、本当だ」

 直樹は真剣な瞳で顔を輝かせる優斗に頷く。大輔は、ああ言っちゃった、と苦笑する。

 つまるところ、十二月の終わりだった予定を早めるということだ。それだけの無茶をするのだが……

 大輔はそれを咎めたりはしない。

 直樹は小指を差し出す。

「ほれ、指きりだ」
「うん」

 直樹は優斗の小指に自分の小指を絡ませ、指きりげんまんした。

 約束だった。

 直樹は立ち上がる。

「……いいんですか?」
「ああ、問題ない。まぁお前にも手伝ってもらうが」
「はい」

 雪は感謝しつつ、しっかりと頷いた。

 それから直樹と大輔は後ろで見守っていた司に顔を上げる。

「司さん。今日はありがとうございました。ご飯、美味しかったです」
「今度、レシピを教えてください」

 二人はペコリと頭を下げ、また司も頭を軽く下げる。

「こちらこそ、今日はありがとうございました。優斗と遊んでくださり、本当に」

 司は優斗の手を握る。

 それから、今度は深く頭を下げる。

「どうか雪の事をよろしくお願いします」
「え……」

 それはとても真剣な声音だった。凛と響き、とても雪を想う心配と愛情に溢れていた。頭を上げ、アーモンド型の瞳が直樹たちに向けられた。

 雪はとても驚く。

 直樹たちは少し思案して、

「止めはしないのか?」
「僕たち、とても得体がしれないよ?」

 司に真剣に向き合う。言葉遣いも変え、本心をぶつける。

 それに動じることなく司は頬に手をあて、驚きで声もでない雪をチラリと見る。

「この子を信頼していますし、私がとやかく言えない程に成長していますから。それに人を見る目はあるんですよ」

 司は雪の頭を撫で、

「まぁ、男を見る目はないのですけどね」

 そう冗談めかした。

 



 直樹たちを見送り、その背中が見えなくなったころ。

 雪は隣にいた司を見た。

「……お母さん、私――」
「雪、それは家に入ってからね」

 司は雪に微笑み、優斗の手を引きながらマンションの中へと入る。

 雪は敵わないな、と思いながら、小走りして司を追いかけたのだった。


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「女装癖なんて元からねぇっ!」
「嘘だね。直樹の女装の写真、結構持ってるんだからね」
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「慎太郎」
「ぶっ殺すっ!」
「まぁ落ち着きなよ」
 大輔は隣を歩く直樹をなだめる。だが、直樹は収まらない。
「っつか、お前のスマホ貸せっ! 消すっ!」
「駄目。脅し材料として使うんだから」
「おい、マジでやめろっ!」
「嫌だよ」
 掴みかかってくる直樹を大輔は軽々といなす。まるで小学生か中学生か……どっちにしろ、つい先日に超常的な戦いをしていた者たちとは全く思えない。
 どこにでもいる青年二人だ。
「ほら、直樹。そんなに慌てると中身崩れるよ」
「……チッ」
 直樹は苦々しく舌打ちした。さすがに手に持っている紙袋の中身を振り回すわけにはいかないからだ。お菓子は最高の状態で渡さなければ。
 杏の母親、百目鬼芽衣が命を取り戻した翌日。
 直樹たちは雪の家に向かっている。
 つまり、優斗との約束を果たしに来たのだ。
 直樹が肩をがっくりと落とす。
「はぁ、面倒だ」
「そう? なら僕は帰るよ」
 仕方ない、と言わんばかりに大輔は回れ右をしようとして、
「やめろっ。お前だってあの場にいただろっ!」
 ガシっと直樹がインターセプトする。
 大輔はフリだよ、フリと言いながら、直樹に呆れたように視線を向ける。
「でも、約束したのって直樹だけなんでしょ? 僕、関係ないじゃん」
「俺一人であいつの家に行かせるつもりか!?」
「駄目なことでもあるの? ねぇ?」
「……」
 直樹が黙り込む。大輔がニヤニヤ笑う。
 けど、
「じゃあ、今度百目鬼の家についていかなくてもいいな。俺はまったくもって活躍しなかったしな」
「ちょ、それはやめてくれない? 困るんだけど」
「何か問題でもあるのか?」
「……」
 今度は大輔は黙り込む。直樹がニヤニヤ笑う。
 それから二人して、
「不毛だな」
「そうだね」
 話題を逸らす。
 それから、今後の方針をあれこれ話し合いながら歩くこと、十分ちょっと。
 とある小さなマンションが見えてきた。
 そしてそこに、
「直樹さん! 鈴木さん!」
 雪が待っていた。
 雪は二人を見つけると、パアァと笑顔になる。
「……別に外で待つ必要はなかったんだぞ? どうせ家に伺うんだしな」
「いえ、外で待っていた方がいいんです」
 少し渋面とした直樹の顔を下から覗き込むように、雪は微笑む。直樹はバツが悪そうな顔をしてそっぽを向く。
 大輔がへぇ、と丸眼鏡をキラリと光らせる。
(大変そうだけど……まぁ、面白いからこのままにしておこうかな)
 波乱が必要、波乱が。と言わんばかりに大輔はニィッと笑う。もちろん直樹はそれに気が付いており、今度、イザベラさんに爆弾としてやる、と心の中で誓う。
「じゃあ、直樹さん、鈴木さん。優斗もお母さんも首を長くして待っているので」
「ああ、分かった」
「うん」
 雪が直樹の手を掴もうとして、直樹が両手をポッケに突っ込みバリケード。ならばと雪は腕を組もうとするが、直樹は大輔の後ろに下がる。
 そんなこんなの攻防戦を繰り広げながら、エレベーターに乗り、上階に上がる。
 カクンと止まりエレベーターの扉が開く。少し歩く。
 それから雪がある扉の前で立ち止まり、懐から鍵を取り出した。
 挿し、開ける。
 そして。
「どうぞ、入って――」
「にぃにぃっ!」
「おっと」
 扉が開いたのと同時に、物凄い勢いで優斗が頭からダイブしてきた。
 直樹は少しだけ驚きながらも、それでも気配などでなんとなく分かっていたため、危なげなく優斗を抱きしめて衝撃を逃がすために一回転する。メリーゴーランド。
 それから優斗を降ろす。
「……」
 キョトンとした表情の優斗は、クリクリとした栗色の瞳で直樹を見上げる。
 そして優斗は、
「もう一回! にぃにぃ、今のもう一回っ!」
「あ~~」
 パァーーッと顔を輝かせて直樹にせがむ。直樹は困ったような声を出す。
 だって。
「「優斗?」」
「ひぃっ」
 ニッコリと微笑む雪と、雪の母親――白桃|司《つかさ》がいたからだ。
 二人ともとても穏やかな微笑むを浮かべているのに、背後には悪鬼羅刹もかくやと言わんばかりの|守護霊《スタ〇ド》が見える。
 優斗は思わず直樹の後ろに隠れる。
 大輔は面白そうだなと思いながら成り行きを見守ろうとして、
「初めまして、佐藤さん、鈴木さん。雪の母の司と申します。それで佐藤さん、怪我とか痛みとかは大丈夫でしょうか?」
「あ、はい。大丈夫ですよ、気にしないでください」
 直樹は笑うが、 
「そうですか、それは良かったです。けれどせっかく来てくださったばかりで悪いのですが、先に入って待っててくださらないでしょうか?」
「あ、はい、もちろんです」
「どうぞ、どうぞ」
 アーモンド型の茶目を細めた司の笑顔の前に従うしかなかった。直樹もだ。
 雪があ、じゃあ、と直樹たちを先に家の中に入れようとしたのだが、優斗がギュッと上着を掴んでいたため、直樹はそれができなかった。
 司はニッコリと微笑む。
「優斗。佐藤さんから離れなさい」
「……いや――」
「離れなさい」
 とても優しい声音。なのに、シャンと伸びた背筋と漂う厳かな雰囲気に逆らえなかったのか、優斗は渋々直樹の上着から手を離す。
 目に涙を溜めていて、今にも泣き出してしまいそうだ。
 直樹はそれを見て、少しだけ思案した後、
「ぅん」
 無言で優斗の頭を撫でた。
「直樹さん」
「ああ」
 それから直樹は雪についていくように家にお邪魔した。
 Φ
 ダイブした優斗の謝罪や、また病院で優斗を助けてくれたことの感謝などが終わり、少し雑談していたところ、
「にぃにぃたちはどうやってねぇねぇと知り合ったの?」
「それは……」
 直樹の膝の上に座っていた優斗が尋ねた。
 先ほどまで司と雪に説教され、グスグスと泣いていたのだが、そんなことはケロリと忘れ無邪気な表情だ。
 対して直樹と大輔は少し言葉に詰まりながら、机を挟んで対面に座っている雪を見た。
「優斗。お姉ちゃんはね――」
 雪はきたか、と思い、事前に作っていた作り話をしようとする。魔法少女等々の話は、司にも優斗にも明かしていないからだ。
 いつか明かそうと思っているが、中々踏ん切りが付かないのだ。
 と、
「優斗。それは後にしましょう。それよりお昼を食べていかないかしら?」
「……そうですね。では、お言葉に甘えて」
「お願いします」
 ちょうど正午を過ぎたチャイムが鳴り響き、司が流れるように立ち上がる。フワリとダークブラウンの長髪が揺れる。
 アーモンド型の優しい茶目に見つめられ、直樹も大輔も、なら、と頷く。
 それから、雪が昼食の準備をする司を手伝ったり、その間直樹たちが優斗と遊んだり。
 昼食を食べたり、優斗が自分が大好きなアニメ、『僕は今日、|魔女《きみ》と出会った』を楽しそうに話し、直樹が「実はあの絵の原案を作ったの、義父さんなんだ」と言って優斗が大はしゃぎしたり。
 お気に入りの話を見て、感想を言い合ったり。
 直樹と大輔と遊ぶのが楽しかったのか、優斗は二人にひしっと引っ付いたままだった。司は少し困った様子だったが、それでも嬉しそうだった。
 そうして夕方に近くなり、直樹たちはお暇することになった。
「にぃにぃ……」
 マンションの前で、優斗は直樹の服をギュッと掴み、栗色の目に涙を溜める。
 直樹はフッと頬を緩ませ、屈む。優斗と視線を合わせる。
「また今度会える」
「……本当?」
「ああ、本当だ。お前の姉ちゃんとも約束したしな」
「……そうなの?」
 優斗は雪を見た。雪は頷く。
「本当だよ、優斗。また、すぐ会えるから」
「いつ?」
「……それは――」
 雪は言い淀む。直樹の子供であるミラとノアと一緒に優斗と遊ぶことを約束した。
 だから会えるのは確かだ。
 けれど、いつとは断言――
「一ヵ月以内には必ず」
「本当っ!」
「ああ、本当だ」
 直樹は真剣な瞳で顔を輝かせる優斗に頷く。大輔は、ああ言っちゃった、と苦笑する。
 つまるところ、十二月の終わりだった予定を早めるということだ。それだけの無茶をするのだが……
 大輔はそれを咎めたりはしない。
 直樹は小指を差し出す。
「ほれ、指きりだ」
「うん」
 直樹は優斗の小指に自分の小指を絡ませ、指きりげんまんした。
 約束だった。
 直樹は立ち上がる。
「……いいんですか?」
「ああ、問題ない。まぁお前にも手伝ってもらうが」
「はい」
 雪は感謝しつつ、しっかりと頷いた。
 それから直樹と大輔は後ろで見守っていた司に顔を上げる。
「司さん。今日はありがとうございました。ご飯、美味しかったです」
「今度、レシピを教えてください」
 二人はペコリと頭を下げ、また司も頭を軽く下げる。
「こちらこそ、今日はありがとうございました。優斗と遊んでくださり、本当に」
 司は優斗の手を握る。
 それから、今度は深く頭を下げる。
「どうか雪の事をよろしくお願いします」
「え……」
 それはとても真剣な声音だった。凛と響き、とても雪を想う心配と愛情に溢れていた。頭を上げ、アーモンド型の瞳が直樹たちに向けられた。
 雪はとても驚く。
 直樹たちは少し思案して、
「止めはしないのか?」
「僕たち、とても得体がしれないよ?」
 司に真剣に向き合う。言葉遣いも変え、本心をぶつける。
 それに動じることなく司は頬に手をあて、驚きで声もでない雪をチラリと見る。
「この子を信頼していますし、私がとやかく言えない程に成長していますから。それに人を見る目はあるんですよ」
 司は雪の頭を撫で、
「まぁ、男を見る目はないのですけどね」
 そう冗談めかした。
 直樹たちを見送り、その背中が見えなくなったころ。
 雪は隣にいた司を見た。
「……お母さん、私――」
「雪、それは家に入ってからね」
 司は雪に微笑み、優斗の手を引きながらマンションの中へと入る。
 雪は敵わないな、と思いながら、小走りして司を追いかけたのだった。