表示設定
表示設定
目次 目次




第31話:地上から届く、宇宙の光(前編)

ー/ー



 その日の午後、軌道エレベーターの地上駅は、いつもの喧騒が嘘のように、静まり返っていた。



 キィィィィィィィィィィィン…!



 突然、耳障りな電子音が鳴り響き、駅構内の照明が、一斉に消えた。
 大規模な停電だった。エレベーターは停止し、地上と宇宙の通信も途絶えた。

「お客様、ご安心ください!ただいま電力システムを復旧させております!」

 森野悠希は、非常灯のわずかな明かりの中、乗客の不安を和らげようと奮闘していた。彼女の明るい声と笑顔が、パニック寸前だった乗客たちに、わずかな安心感をもたらしていく。

「大丈夫ですか?お子様、怖くないですよ。お母さんの手をしっかり握っていてね」

 ユウキは、怯えた様子の母親と子供に優しく語りかけた。母親は、ユウキの言葉に、安堵したように微笑んだ。

「ありがとう、お姉さん。でも、いつになったら動くのかしら…」

 母親が不安そうに尋ねると、ユウキは、精一杯の笑顔で応える。

「ご安心ください!私たちが、必ず、皆様を安全にお運びしますから!」

 ユウキは、そう言って、乗客の不安を取り除こうと努める。

 その時、ルナがユウキの元へ駆け寄ってきた。彼女の顔にも、わずかな不安の色が浮かんでいる。

「ユウキさん!大丈夫かな?まさか、こんな大規模な停電が起きるなんて…!」

 ルナは、不安そうな顔でユウキに尋ねた。

「地上と宇宙の通信が途絶えたわ…運行管理室とも連絡が取れないの。アキくんたちがどうしているか、今は全く分からない…」

 ユウキは、アキのことが心配になり、無意識のうちにルナの手を強く握りしめた。

「大丈夫ですよ、ユウキさん。あのアキさんなら、どんなトラブルにも冷静に対処できます。それに、カイも一緒にいるはずですから…!」

 ルナの言葉に、ユウキは、胸の奥が熱くなるのを感じた。







 その頃、軌道エレベーターの運行管理室では、高遠陽樹が、トラブル対応に追われていた。

 モニターは、赤いアラートが点滅し、世界各国から集まったチームメンバーたちが、焦った声を上げている。上司であるベテラン運行管理者のサカグチが、鋭い声で指示を飛ばしている。

「高遠、メインプロトコルのバイパスを頼む!カイ、バックアップシステムの起動を急げ!」

「はい!」

 アキとカイは、迷いなくキーボードを叩く。

 彼らの指は、まるでピアノを弾くかのように軽やかだった。

 けれども、彼らの心は、張り詰めた糸のようにぴんと張っていた。原因は、地上の電力供給システムのトラブルで、復旧には時間がかかりそうだった。

「地上の復旧を待っている間に、宇宙側のシステムも不安定になる。一時的に一部の電源を落とすしかない…!」

 アキは、冷静な声で指示を出す。彼の頭の中には、エレベーターの構造と、あらゆるトラブルの対処法が、完璧に叩き込まれている。






 一方、地上駅では、ユウキが、乗客の避難誘導を終え、ルナも持ち場に戻った。

 時刻は深夜を回っていた。

 ユウキは、会社の自動販売機で、温かいコーヒーを買うと、誰もいない駅の外に出た。夜空を見上げると、通常は煌々と輝いているはずの軌道エレベーターの照明が、一部消えていることに気づく。

「…アキくん…」

 ユウキは、その光景に、胸が締め付けられるような思いがした。それは、アキたちが復旧作業のために、一部の電源を落としているからだと、ユウキは知っていた。

 不規則に光るエレベーターの照明は、まるで、アキが頑張っている証拠のように見えた。言葉を交わすことはできなくても、二人の間に確かな絆があることを、ユウキは、その光を見つめながら、強く感じていた。

「アキくん、頑張って…!」

 ユウキは、心の中で、アキにエールを送った。



 その声は、遠く離れたアキの元に届くはずもない。
 しかし、ユウキの想いは、確かに、アキの元に届いていた。




スタンプを贈って作者を応援しよう!



みんなのリアクション



おすすめ作品を読み込み中です…



 その日の午後、軌道エレベーターの地上駅は、いつもの喧騒が嘘のように、静まり返っていた。
 キィィィィィィィィィィィン…!
 突然、耳障りな電子音が鳴り響き、駅構内の照明が、一斉に消えた。
 大規模な停電だった。エレベーターは停止し、地上と宇宙の通信も途絶えた。
「お客様、ご安心ください!ただいま電力システムを復旧させております!」
 森野悠希は、非常灯のわずかな明かりの中、乗客の不安を和らげようと奮闘していた。彼女の明るい声と笑顔が、パニック寸前だった乗客たちに、わずかな安心感をもたらしていく。
「大丈夫ですか?お子様、怖くないですよ。お母さんの手をしっかり握っていてね」
 ユウキは、怯えた様子の母親と子供に優しく語りかけた。母親は、ユウキの言葉に、安堵したように微笑んだ。
「ありがとう、お姉さん。でも、いつになったら動くのかしら…」
 母親が不安そうに尋ねると、ユウキは、精一杯の笑顔で応える。
「ご安心ください!私たちが、必ず、皆様を安全にお運びしますから!」
 ユウキは、そう言って、乗客の不安を取り除こうと努める。
 その時、ルナがユウキの元へ駆け寄ってきた。彼女の顔にも、わずかな不安の色が浮かんでいる。
「ユウキさん!大丈夫かな?まさか、こんな大規模な停電が起きるなんて…!」
 ルナは、不安そうな顔でユウキに尋ねた。
「地上と宇宙の通信が途絶えたわ…運行管理室とも連絡が取れないの。アキくんたちがどうしているか、今は全く分からない…」
 ユウキは、アキのことが心配になり、無意識のうちにルナの手を強く握りしめた。
「大丈夫ですよ、ユウキさん。あのアキさんなら、どんなトラブルにも冷静に対処できます。それに、カイも一緒にいるはずですから…!」
 ルナの言葉に、ユウキは、胸の奥が熱くなるのを感じた。
 その頃、軌道エレベーターの運行管理室では、高遠陽樹が、トラブル対応に追われていた。
 モニターは、赤いアラートが点滅し、世界各国から集まったチームメンバーたちが、焦った声を上げている。上司であるベテラン運行管理者のサカグチが、鋭い声で指示を飛ばしている。
「高遠、メインプロトコルのバイパスを頼む!カイ、バックアップシステムの起動を急げ!」
「はい!」
 アキとカイは、迷いなくキーボードを叩く。
 彼らの指は、まるでピアノを弾くかのように軽やかだった。
 けれども、彼らの心は、張り詰めた糸のようにぴんと張っていた。原因は、地上の電力供給システムのトラブルで、復旧には時間がかかりそうだった。
「地上の復旧を待っている間に、宇宙側のシステムも不安定になる。一時的に一部の電源を落とすしかない…!」
 アキは、冷静な声で指示を出す。彼の頭の中には、エレベーターの構造と、あらゆるトラブルの対処法が、完璧に叩き込まれている。
 一方、地上駅では、ユウキが、乗客の避難誘導を終え、ルナも持ち場に戻った。
 時刻は深夜を回っていた。
 ユウキは、会社の自動販売機で、温かいコーヒーを買うと、誰もいない駅の外に出た。夜空を見上げると、通常は煌々と輝いているはずの軌道エレベーターの照明が、一部消えていることに気づく。
「…アキくん…」
 ユウキは、その光景に、胸が締め付けられるような思いがした。それは、アキたちが復旧作業のために、一部の電源を落としているからだと、ユウキは知っていた。
 不規則に光るエレベーターの照明は、まるで、アキが頑張っている証拠のように見えた。言葉を交わすことはできなくても、二人の間に確かな絆があることを、ユウキは、その光を見つめながら、強く感じていた。
「アキくん、頑張って…!」
 ユウキは、心の中で、アキにエールを送った。
 その声は、遠く離れたアキの元に届くはずもない。
 しかし、ユウキの想いは、確かに、アキの元に届いていた。