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第24話:地上の家族と宇宙の故郷(後編)

ー/ー



 夕食の時間になり、四人は食卓を囲んだ。

 テーブルには、里香が腕によりをかけた料理が所狭しと並んでいる。誠治は、嬉しそうにビールを注ぎながら、ユウキに話しかけた。

「ユウキちゃん、陽樹は昔から、本当にエレベーターが好きでな。小学生の頃、夏休みの自由研究で、エレベーターの模型を作ったことがあるんだ」

 誠治は、そう言って、リビングに飾られた古びた模型を指さした。それは、精巧とは言えないが、細部まで丁寧に作られた、手作りのエレベーターの模型だった。

「すごい!これ、アキくんが作ったの?」

 ユウキは、模型に見入った。アキは、気恥ずかしそうに顔を赤らめる。

「昔の話だ。もう、覚えてない」

「覚えてないわけないじゃない。夜遅くまで、毎日、一生懸命作っていたじゃないの」

 里香が、アキの言葉を遮るように言った。

「そうなんだよ、ユウキちゃん。こいつはな、小学生のくせに、俺たちの仕事の専門用語を使いこなして、大人顔負けの模型を作ったんだ。俺たちが、エレベーターのケーブルの素材について話していると、『お父さん、それ、カーボンナノチューブの複合素材の方が、強度が高くて軽くなるんじゃない?』なんて、生意気な口をきくんだぜ」

 誠治は、誇らしげに語る。その話は止まらない。

「そしてな、小学生のくせに、エレベーターの速度制御システムについて、俺と夜通し語り合ったこともあるんだ。エレベーターってのは、ただ上に上がるだけじゃない。乗客にGをかけないように、いかに滑らかに加速・減速させるかが、技術者の腕の見せ所なんだ。俺は、その制御システムに、自分の人生を賭けてきたんだが、こいつは、俺のシステムの問題点を、一瞬で見抜いちまった」

 誠治は、ビールを一口飲むと、さらに熱を帯びて語り始めた。

「こいつはな、『お父さんのシステムは、確かに滑らかだ。でも、緊急時に、もっと早く減速できるんじゃない?』なんて、恐ろしいことを言うんだ。俺は、冗談じゃない、と最初は笑い飛ばしたが、家に帰って、こいつが考えたっていう数式を見て、驚いたなんてもんじゃない。俺が何年もかけて考えていたことより、ずっとシンプルで、ずっと効率的な数式だったんだ!」

 誠治は、そう言って、再びビールを(あお)った。アキは、顔を覆い、里香は、そんな誠治を、苦笑いしながら見つめている。

「お父さん、もうその話はいいから…」

 アキがそう言うと、誠治は、さらに勢いを増した。

「いいわけあるか!この話は、何度でも語り継いでいかなければならない、俺たちの伝説だ!俺は、その数式に、こいつの頭文字を取って、『陽樹の最終段階軌道(Haruki's Final-Phase Trajectory)』、略して『H-F.P.T.』って名前をつけたんだ」

 誠治は、そう言って、ビールを飲み干すと、そのままテーブルに突っ伏して、寝息を立て始めた。

「…もう、陽樹のお父さんは、本当にエレベーターマニアなのよ。お酒が入ると、いつもこうなんだから」

 里香は、苦笑いしながら、ユウキにそう言った。

 ユウキは、そんな高遠家の人々の温かさと、アキの意外な一面に、胸の奥が温かくなるのを感じた。

「…俺は、親父が作ったエレベーターを、いつか宇宙から見てみたかったんだ」

 アキがそう呟くと、ユウキは、アキの言葉にハッとした表情を浮かべた。アキが運行管理の仕事を選んだ理由が、彼の父親への尊敬と、故郷への想いにあることを、ユウキは初めて知った。

「お父さん、私ね、実は閉所恐怖症(へいしょきょうふしょう)と、宇宙への恐怖症(きょうふしょう)があって…。だから、エレベーターに乗って、宇宙に行くことができないんです」

 ユウキは、少しだけ緊張しながら、誠治に語った。誠治は、ユウキの言葉を、ただ静かに聞いていた。

「…でも、アキくんのお父さんの話を聞いて、私、なんだか、少しだけ宇宙が、怖くなくなってきた気がします」

 ユウキがそう言うと、誠治は、優しく微笑み、ユウキの頭を撫でた。

「ユウキちゃん、ありがとう。陽樹が、こんなに素敵な人を見つけてくれて、本当に嬉しいよ」

 誠治の言葉に、ユウキは、涙がこぼれそうになるのを必死にこらえた。

 その夜、アキとユウキは、二人で月明かりの下、庭を散歩した。

「…ごめん、ユウキ。親父の、エレベーター自慢に付き合わせちゃって」

 アキがそう言うと、ユウキは、首を横に振った。

「ううん、違うよ。私、アキくんが、なんでエレベーターの仕事を、こんなに真面目に、一生懸命やってるのか、やっとわかった気がする」

 ユウキは、そう言って、アキの手を強く握った。

「…私ね、今まで、エレベーターは、ただの大きな建物だと思ってた。でも、今日、アキくんのお父さんの話を聞いて、エレベーターが、たくさんの人たちの夢と希望で、作られているんだって知ったの」

 ユウキの言葉に、アキは、何も言い返すことができなかった。ただ、ユウキの頭を、優しく撫で続けた。

「ありがとう、アキくん。私を、アキくんの故郷に連れてきてくれて」

 ユウキがそう言うと、アキは、ユウキを優しく抱きしめた。

「ユウキこそ、ありがとう。俺の故郷を、好きになってくれて」

 二人は、月明かりの下、固く抱きしめ合った。

 ユウキにとって、アキの故郷は、エレベーターを愛する温かい家族と、アキの熱い想いが詰まった、特別な場所になった。


 そして、アキにとって、故郷は、ユウキという大切な人が、自分の情熱を理解してくれた、忘れられない思い出の場所になった。






みんなのリアクション

 夕食の時間になり、四人は食卓を囲んだ。
 テーブルには、里香が腕によりをかけた料理が所狭しと並んでいる。誠治は、嬉しそうにビールを注ぎながら、ユウキに話しかけた。
「ユウキちゃん、陽樹は昔から、本当にエレベーターが好きでな。小学生の頃、夏休みの自由研究で、エレベーターの模型を作ったことがあるんだ」
 誠治は、そう言って、リビングに飾られた古びた模型を指さした。それは、精巧とは言えないが、細部まで丁寧に作られた、手作りのエレベーターの模型だった。
「すごい!これ、アキくんが作ったの?」
 ユウキは、模型に見入った。アキは、気恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「昔の話だ。もう、覚えてない」
「覚えてないわけないじゃない。夜遅くまで、毎日、一生懸命作っていたじゃないの」
 里香が、アキの言葉を遮るように言った。
「そうなんだよ、ユウキちゃん。こいつはな、小学生のくせに、俺たちの仕事の専門用語を使いこなして、大人顔負けの模型を作ったんだ。俺たちが、エレベーターのケーブルの素材について話していると、『お父さん、それ、カーボンナノチューブの複合素材の方が、強度が高くて軽くなるんじゃない?』なんて、生意気な口をきくんだぜ」
 誠治は、誇らしげに語る。その話は止まらない。
「そしてな、小学生のくせに、エレベーターの速度制御システムについて、俺と夜通し語り合ったこともあるんだ。エレベーターってのは、ただ上に上がるだけじゃない。乗客にGをかけないように、いかに滑らかに加速・減速させるかが、技術者の腕の見せ所なんだ。俺は、その制御システムに、自分の人生を賭けてきたんだが、こいつは、俺のシステムの問題点を、一瞬で見抜いちまった」
 誠治は、ビールを一口飲むと、さらに熱を帯びて語り始めた。
「こいつはな、『お父さんのシステムは、確かに滑らかだ。でも、緊急時に、もっと早く減速できるんじゃない?』なんて、恐ろしいことを言うんだ。俺は、冗談じゃない、と最初は笑い飛ばしたが、家に帰って、こいつが考えたっていう数式を見て、驚いたなんてもんじゃない。俺が何年もかけて考えていたことより、ずっとシンプルで、ずっと効率的な数式だったんだ!」
 誠治は、そう言って、再びビールを呷《あお》った。アキは、顔を覆い、里香は、そんな誠治を、苦笑いしながら見つめている。
「お父さん、もうその話はいいから…」
 アキがそう言うと、誠治は、さらに勢いを増した。
「いいわけあるか!この話は、何度でも語り継いでいかなければならない、俺たちの伝説だ!俺は、その数式に、こいつの頭文字を取って、『陽樹の最終段階軌道(Haruki's Final-Phase Trajectory)』、略して『H-F.P.T.』って名前をつけたんだ」
 誠治は、そう言って、ビールを飲み干すと、そのままテーブルに突っ伏して、寝息を立て始めた。
「…もう、陽樹のお父さんは、本当にエレベーターマニアなのよ。お酒が入ると、いつもこうなんだから」
 里香は、苦笑いしながら、ユウキにそう言った。
 ユウキは、そんな高遠家の人々の温かさと、アキの意外な一面に、胸の奥が温かくなるのを感じた。
「…俺は、親父が作ったエレベーターを、いつか宇宙から見てみたかったんだ」
 アキがそう呟くと、ユウキは、アキの言葉にハッとした表情を浮かべた。アキが運行管理の仕事を選んだ理由が、彼の父親への尊敬と、故郷への想いにあることを、ユウキは初めて知った。
「お父さん、私ね、実は閉所恐怖症《へいしょきょうふしょう》と、宇宙への恐怖症《きょうふしょう》があって…。だから、エレベーターに乗って、宇宙に行くことができないんです」
 ユウキは、少しだけ緊張しながら、誠治に語った。誠治は、ユウキの言葉を、ただ静かに聞いていた。
「…でも、アキくんのお父さんの話を聞いて、私、なんだか、少しだけ宇宙が、怖くなくなってきた気がします」
 ユウキがそう言うと、誠治は、優しく微笑み、ユウキの頭を撫でた。
「ユウキちゃん、ありがとう。陽樹が、こんなに素敵な人を見つけてくれて、本当に嬉しいよ」
 誠治の言葉に、ユウキは、涙がこぼれそうになるのを必死にこらえた。
 その夜、アキとユウキは、二人で月明かりの下、庭を散歩した。
「…ごめん、ユウキ。親父の、エレベーター自慢に付き合わせちゃって」
 アキがそう言うと、ユウキは、首を横に振った。
「ううん、違うよ。私、アキくんが、なんでエレベーターの仕事を、こんなに真面目に、一生懸命やってるのか、やっとわかった気がする」
 ユウキは、そう言って、アキの手を強く握った。
「…私ね、今まで、エレベーターは、ただの大きな建物だと思ってた。でも、今日、アキくんのお父さんの話を聞いて、エレベーターが、たくさんの人たちの夢と希望で、作られているんだって知ったの」
 ユウキの言葉に、アキは、何も言い返すことができなかった。ただ、ユウキの頭を、優しく撫で続けた。
「ありがとう、アキくん。私を、アキくんの故郷に連れてきてくれて」
 ユウキがそう言うと、アキは、ユウキを優しく抱きしめた。
「ユウキこそ、ありがとう。俺の故郷を、好きになってくれて」
 二人は、月明かりの下、固く抱きしめ合った。
 ユウキにとって、アキの故郷は、エレベーターを愛する温かい家族と、アキの熱い想いが詰まった、特別な場所になった。
 そして、アキにとって、故郷は、ユウキという大切な人が、自分の情熱を理解してくれた、忘れられない思い出の場所になった。