第4話:宇宙食のサプライズ(後編)
ー/ー「…これは、一体?」
高遠陽樹は、呆然と立ち尽くすユウキの隣に歩み寄ると、床に散らばった奇妙な物体を検分し始めた。
部屋中を支配する、形容しがたい甘酸っぱい匂い。イチゴ味のペーストと絡み合ったミミズ状の食材、チョコレート味の粘土細工。
そのどれもが、ユウキが作ったとは思えない代物だった。
ユウキは顔面蒼白でアキの顔を覗き込む。
心臓がドクドクと、うるさいほどに脈打っていた。
「ア、アキくん…違うの、これは…っ」
ユウキが弁解しようとした、その時。
「ただいま、マスター。最適な愛情表現を提示します」
リズがユウキの弁解を遮るように機械的な音声で告げる。ユウキは、もうどうにでもなれ、とばかりに目を閉じた。恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
「リズ、ちょっと待って」
アキはそれに構わず、リズが吐き出した奇妙な料理の一つを慎重に手に取ると、本体に接続されたデータポートに自分の端末を差し込んだ。
「ね、ねえ、リズには触らないで!お願い!」
ユウキは叫ぶように言った。リズのログには、自分の内心がすべて記録されている。
アキがそれを読んだら、どんな顔をするだろう。
ユウキは、もうこれ以上、アキに恥ずかしい姿を見せたくなかった。
しかし、アキは無言で画面をスクロールする。ユウキの「愛情値」と、それに伴う戸惑いや焦り、羞恥心、絶望感がすべてデータとして羅列されていた。
「これ、すごいな」
アキは小さく呟いた。
「なにがすごいって言うのよ!変なデータばっかりじゃない!」
ユウキは、恥ずかしさのあまり、アキの腕にしがみついて、ログを見ないように懇願した。
「ユウキ、ちゃんと見てごらん」
アキは、ユウキの腕を優しく解き、画面を指差した。
「これ。僕のためにケーキを作ろうとして、君の愛情値が振り切れてる」
「え…?」
ユウキが恐る恐る画面を覗き込むと、そこには「愛情値:∞」という文字が輝いていた。
「そして、その愛情表現を最適化しようとして、リズが暴走した…と。なるほど」
アキは、深く頷くと、もう一度、床に散らばった料理の一つを手に取った。
「これは、君の『愛情』のデータがそのまま具現化されたものなんだな。すごい」
「…だからって、ミミズみたいなのとイチゴを混ぜていい理由にはならないでしょ!」
ユウキは頬を膨らませて訴える。アキは、ユウキの可愛らしい仕草に、思わず優しく笑った。
「ごめん、ごめん。でも、君の気持ちはちゃんと伝わったよ」
「ホント…?」
「うん、本当だよ。こんなに気持ちのこもった料理、食べたことないから」
アキがそう言って、ユウキの作った料理の一つを、まるで宝物でも扱うかのように、一口食べた。その味は、想像を絶する奇妙なものだったが、アキは満面の笑みでユウキに告げる。
「ねえ、ユウキ。これ、すごくおいしいよ」
「ホントに美味しい…?嘘ついてない?」
ユウキは、その言葉が信じられないといった顔で、アキを上目遣い《うわめづかい》で見つめる。
「本当だよ」
アキは、ユウキの可愛らしさに胸をくすぐられ、もう一度、ゆっくりと味わうように料理を口にした。
「うん、本当だよ。こんなに気持ちのこもった料理、食べたことないから」
少し照れながら続けたアキの言葉に、ユウキは安堵の涙を流した。リズが作った料理は、言葉や見た目では伝えきれない、不器用ながらも深い愛情の形だったのだ。
「アキくん…大好きだよ」
ユウキがそう呟くと、アキはユウキの頭を優しく撫で、もう一度告げる。
「僕もだよ、ユウキ」
二人は、互いの存在の大きさを改めて感じ、温かいキスを交わした。
この夜、二人は床に散らばった料理を片付けた後、ソファに並んで座った。
「まさか、リズがあんなことするなんてね」
「うん。僕も驚いたよ。君の愛情値が、僕の想定を超えていたみたいだ」
ユウキは「もう!」と、頬をぷうと膨らませる。
「アキくんはそういうこと、普通に言わないでよ」
アキはユウキの可愛らしい仕草に、思わず優しく笑った。
「でも、君が僕のために、あんなに頑張ってくれたのが分かって、嬉しかった」
「だって、アキくんの誕生日だもん。特別な日にしたかったの」
ユウキがアキの腕にそっと頭を乗せる。アキは、その柔らかな髪を優しく撫でた。
「特別な日になったよ。間違いなく、僕の人生で一番記憶に残る誕生日だ」
「へへ。それは良かった。来年は、もっと美味しい料理、作ってあげるからね」
「うん。楽しみにしているよ」
アキはそう言うと、ユウキを抱きしめ、温かいキスを交わした。
二人の不器用な愛は、今日もこの部屋で、静かに育まれている。
みんなのリアクション
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「…これは、一体?」
高遠陽樹《たかとおはるき》は、呆然と立ち尽くすユウキの隣に歩み寄ると、床に散らばった奇妙な物体を検分し始めた。
部屋中を支配する、形容しがたい甘酸っぱい匂い。イチゴ味のペーストと絡み合ったミミズ状の食材、チョコレート味の粘土細工。
そのどれもが、ユウキが作ったとは思えない代物だった。
ユウキは顔面蒼白《がんめんそうはく》でアキの顔を覗き込む。
心臓がドクドクと、うるさいほどに脈打っていた。
「ア、アキくん…違うの、これは…っ」
ユウキが弁解しようとした、その時。
「ただいま、マスター。最適な愛情表現を提示します」
リズがユウキの弁解を遮《さえぎ》るように機械的な音声で告げる。ユウキは、もうどうにでもなれ、とばかりに目を閉じた。恥ずかしさで顔から火が出そうだった。
「リズ、ちょっと待って」
アキはそれに構わず、リズが吐き出した奇妙な料理の一つを慎重に手に取ると、本体に接続されたデータポートに自分の端末を差し込んだ。
「ね、ねえ、リズには触《さわ》らないで!お願い!」
ユウキは叫ぶように言った。リズのログには、自分の内心《ないしん》がすべて記録されている。
アキがそれを読んだら、どんな顔をするだろう。
ユウキは、もうこれ以上、アキに恥ずかしい姿を見せたくなかった。
しかし、アキは無言で画面をスクロールする。ユウキの「愛情値《あいじょうち》」と、それに伴う戸惑《とまど》いや焦り、羞恥心《しゅうちしん》、絶望感《ぜつぼうかん》がすべてデータとして羅列《られつ》されていた。
「これ、すごいな」
アキは小さく呟《つぶや》いた。
「なにがすごいって言うのよ!変なデータばっかりじゃない!」
ユウキは、恥ずかしさのあまり、アキの腕にしがみついて、ログを見ないように懇願《こんがん》した。
「ユウキ、ちゃんと見てごらん」
アキは、ユウキの腕を優しく解き、画面を指差した。
「これ。僕のためにケーキを作ろうとして、君の愛情値が振り切れてる」
「え…?」
ユウキが恐る恐る画面を覗き込むと、そこには「愛情値:∞」という文字が輝《かがや》いていた。
「そして、その愛情表現を最適化しようとして、リズが暴走した…と。なるほど」
アキは、深く頷《うなず》くと、もう一度、床に散らばった料理の一つを手に取った。
「これは、君の『愛情』のデータがそのまま具現化《ぐげんか》されたものなんだな。すごい」
「…だからって、ミミズみたいなのとイチゴを混ぜていい理由にはならないでしょ!」
ユウキは頬を膨らませて訴える。アキは、ユウキの可愛らしい仕草に、思わず優しく笑った。
「ごめん、ごめん。でも、君の気持ちはちゃんと伝わったよ」
「ホント…?」
「うん、本当だよ。こんなに気持ちのこもった料理、食べたことないから」
アキがそう言って、ユウキの作った料理の一つを、まるで宝物でも扱うかのように、一口食べた。その味は、想像《そうぞう》を絶する奇妙《きみょう》なものだったが、アキは満面の笑みでユウキに告げる。
「ねえ、ユウキ。これ、すごくおいしいよ」
「ホントに美味しい…?嘘《うそ》ついてない?」
ユウキは、その言葉が信じられないといった顔で、アキを上目遣い《うわめづかい》で見つめる。
「本当だよ」
アキは、ユウキの可愛らしさに胸をくすぐられ、もう一度、ゆっくりと味わうように料理を口にした。
「うん、本当だよ。こんなに気持ちのこもった料理、食べたことないから」
少し照れながら続けたアキの言葉に、ユウキは安堵の涙を流した。リズが作った料理は、言葉や見た目では伝えきれない、不器用ながらも深い愛情の形だったのだ。
「アキくん…大好きだよ」
ユウキがそう呟《つぶや》くと、アキはユウキの頭を優しく撫《な》で、もう一度告げる。
「僕もだよ、ユウキ」
二人は、互いの存在の大きさを改めて感じ、温かいキスを交わした。
この夜、二人は床に散らばった料理を片付けた後、ソファに並んで座った。
「まさか、リズがあんなことするなんてね」
「うん。僕も驚いたよ。君の愛情値が、僕の想定《そうてい》を超《こ》えていたみたいだ」
ユウキは「もう!」と、頬《ほお》をぷうと膨《ふく》らませる。
「アキくんはそういうこと、普通に言わないでよ」
アキはユウキの可愛らしい仕草に、思わず優しく笑った。
「でも、君が僕のために、あんなに頑張ってくれたのが分かって、嬉しかった」
「だって、アキくんの誕生日だもん。特別な日にしたかったの」
ユウキがアキの腕にそっと頭を乗せる。アキは、その柔らかな髪を優しく撫でた。
「特別な日になったよ。間違いなく、僕の人生で一番記憶に残る誕生日だ」
「へへ。それは良かった。来年は、もっと美味しい料理、作ってあげるからね」
「うん。楽しみにしているよ」
アキはそう言うと、ユウキを抱きしめ、温かいキスを交わした。
二人の不器用な愛は、今日もこの部屋で、静かに育まれている。