五話 厄介この上ないよ
ー/ー「どうされましたか、創造主様」
「……共有するよ」
想像していたのとは全くもって違う光景を視た大輔は、“黒華眼”の技巧で視るという知覚全てを共有する[視界共有]を発動させる。冥土の両目に黒の華が中心に描かれた幾何学模様が浮かぶ。
能力等々で視た視覚情報を共有された冥土は、人形であるその表情で一瞬だけ驚き、目を瞬かせながら首を傾げた。
「……これは、血……でしょうか?」
「血を媒介としたエネルギーだと思う。けど、その前に」
「ええ」
大輔は少しだけ面倒だなといった感じに顔を顰め、冥土は杏の母親のバイタルを映している装置に顔を向けた。
「本当の半死半生……といったところでしょうか?」
「うん、確かにそうだね。魂魄はまだ生きてるけど、肉体は死んでる。魂魄が肉体から離れてる」
「この血の鎖は魂魄をこの場に固定して生かすと同時に、肉体の腐敗防止と生きているという偽装しているのでしょう」
「……だね。ったく、厄介この上ないよ」
面倒だなぁ、と大輔は天を仰ぐ。ぶっちゃけ、本当に厄介な匂いしかしない。
(知りたくなかった。ホント、知りたくなかった。……知らんぷりはできる。ただ念のために神和ぎ社との繋がりが欲しかったから、接していただけだし。知人だけど、ただそれだけ。……けどなぁ)
過酷な異世界で生きてきた勘とそこで培った意思と矜持が、大輔に嫌な予感をもたらす。
はぁ、と大輔が溜息を吐く。冥土はそんな大輔にしらッとした目を向けた。
「……口角が上がっていますが」
「……見間違えじゃない?」
「いえ、今ここで創造主様の表情をうつ――」
「はいはい、笑いましたよ」
厄介だな、面倒だな、といった様子はどこへやら。へらへらした様子で両手を上げる大輔がいた。
……へらへらできるのが、大輔が善人ではない事を示しているが、それにツッコむ者は、ここにいない。
「ぶっちゃけ、電気や火を魔力に変換する幻想具を創るのに手間取ってたんだよ。エネルギー自体の性質が違うのか……その逆はできるのに」
空気中の魔力が薄く、地球での魔力回復速度がとても遅いと分かった大輔たちは、それ以外の魔力補給手段を手に入れようとしていた。
それが電気や火を魔力に変換する方法だ。
魔法は魔力を電気エネルギーや火力エネルギーに変換できる事が可能だ。だから、その逆が可能ではと試行錯誤していた。
なのだが、なかなか上手くいかない。一応、試作品はできたものの変換効率がめちゃくちゃ悪すぎるのもあって、使えないのだ。一つの市の三日の電気消費量を使ってようやく大輔の一割ほどだ。
他にも神和ぎ社や魔力関わる組織にカチコミし、魔力を奪うという手段もあったが、却下した。
大して魔力を得られないと確信したからだ。
というのも、向こうも魔力回復手段を欲しているのだ。とある理由からそれが分かったため、今後も手出すをするつもりはない。
「けど、このエネルギーならできるかもしれない」
「そうですね」
アルビオンに行くのは冬休み初日と決まっている。だが、それはその日までアルビオンに行けないからではなく、短期間での行き帰りができないからだ。
異世界へ転移するには膨大な魔力と労力がかかる。必要最低限の魔力で行こうとすれば、それだけ肉体や魂魄に負担がかかるのだ。そして負担なしに行くには、必要最低限の魔力の二倍ほど必要となってしまう。
そんな魔力を短期間で貯めることは不可能のため、冬休みという長期休暇を利用するのだが、逆に言えば、可能なら大輔も直樹も今すぐにでも行きたいのだ。
大切な親友や仲間、大事な人と会いたいのだ。あと、師匠の墓参りをしたい。
「……百目鬼さんには悪いけど、このままこの力を調べさせてもらう」
「そうですか」
「まぁ、けどもし上手く魔力が生成できるなら、蘇生する余裕もあると思うけど」
「そうですね」
そう言いながら、大輔はあまり回復していない能力を使ってそのエネルギーを解析しようとした。
のだが。
「……明らかにこっちを意識してるよね」
「ええ。ものすごい勢いでこっちへ来ます」
大輔は、僕、結構疲れてるんだけどな、と言いながら天を仰ぐ。冥土は一歩大輔の前に立ち、病室の扉を見つめた。
「逃げますか?」
「魔力がないから転移では逃げられないし、尋常じゃない殺気を放ってるからね。僕たち目当てならいいんだけど、百目鬼さんの母親が目当てだったら」
「……手がかりを失う、と」
冥土の言葉に大輔は苦笑しながら頷いた。
「まぁね」
「それに杏様が悲しまれるかもしれませんしね」
「そっちはどうでもいいかな」
「本当に?」
「うん」
大輔のその言葉に嘘はない。今は、そう思っている。
「なるほど。……と、来ます」
「だね」
そしてかけている眼鏡で認識阻害をした後、病室の扉が開いた。
「……何者です?」
「それはこっちのセリフだけど?」
病室に入ってきたのは白人の美少女。
艶やかな茶髪のサイドテールに、明るく柔らかな赤錆色の瞳。長いまつ毛。高くそれでいて小さな鼻立ちに、少し抜けている雰囲気を感じさせる可愛らしい顔立ち。唇は小さく、薄桃色に艶めく。
身長は大輔よりもやや下で、細い鎖のネックレスが彩る細い首に、丸みを帯びた小さな肩。ささやかな花柄が施された灰色のシスターワンピースから分かる豊かな双丘。
血の色の繭が纏わりついたチェーンを下げた菫色のベルトが、なだらかな腰と少し大きなお尻を強調する。
そして深紅のヴァイオリンケースを背負っている。
そんな美少女は大輔と冥土、特に冥土を睨み、流暢な日本語で詰問する。
「ご家族の方……ではないです。特にそちらの女性。血が通ってないです」
「……はぁ、失敬な。私は創造主様に命を吹き込んでもらいました。正真正銘生きている物、生物でございます」
「ッ」
冥土が言葉を発したことにサイドテールの美少女は驚く。が、直ぐに平静を取り戻し腰を低くする。背中に背負っているヴァイオリンケースに手をかける。
大輔は、本当に面倒くさそうに溜息を吐いた。まずは無力化しなきゃな、と心の中で呟く。
「はぁ。そこのお嬢さん。ここは病院だよ。しかも、病人の前。勝手にここに入ってきたり、常識がなってないようだけ、どッ!」
「ッ。そっちが言えるんですっ?」
サイドテールの美少女は、冥土が攻撃を仕掛けてくると予想していた。認識阻害した大輔の見た目は眼鏡を掛けた一般人という印象が強く、異形という観点から見れば冥土が目立つ。
だからこそ、大輔がゆらりと左右に体を揺らした瞬間、いつの間にか自分の横に現れ、手刀を振り下ろす姿に驚く。
が、直ぐに平静を取り戻し、触れていたヴァイオリンケースで防いだ。
しかし勢いと力は大輔の方が上だった。衝撃を逃がしたはずなのに、サイドテールの美少女は病室の壁に叩きつけられる。
「よし、と」
すかさず大輔は懐から鋼糸が繋がっている六本の短刀を取り出し、それでサイドテールの美少女を拘束する。
腹パンを一発入れて無抵抗化した後、“天心眼”の技巧、[透視]で見つけたスマホと財布、パスポートをくすね取る。
「ええっと、何々。名前はウィオリナ・ウィワートゥス。イギリス出身の女性で十七歳。渡航理由は観光かな? で、その空のヴァイオリンケースはいつも持ち歩いているのかな?」
「ペッ。化け物に教えねぇです!」
口の中に溜まっていた唾や胃液を吐き出したウィオリナは、ニッと大輔に笑う。確かな光を湛えた赤錆色の瞳が大輔を射貫く。
まるで何かを調べているような……
「……まぁいいや」
大輔は溜息を吐きながら制服の懐から灰色の手袋を取り出し、それを両手に着ける。ウィオリナの前にしゃがみ込み、ウィオリナの両手を握る。
「右がYes。左がNo」
「はいです?」
「右がYes。左がNo。もう一度言うよ、右がYes。左がNo」
言葉に合わせて握るウィオリナの手を左右に動かす大輔は、淡々とした表情で尋ねる。
「君は僕を目的としてここに来た。Yes、No?」
そう尋ねながら、大輔はウィオリナの両手を右に動かす。ウィオリナは大輔を睨み、表情を変えない。
けど。
「なるほど、Noね。じゃあ、次。君はあそこで寝ている女性を目的としてここに来た。Yes、No?」
そう尋ねながら、大輔はウィオリナの両手を右に動かす。当てずっぽうでもなく確信を持っている大輔に動揺しながら、ウィオリナは必死に己の表情を隠す。
だが。
「うん? Yesでもないし、Noでもない? いや、ここに来たこと自体はYesかな?」
「ッ」
ウィオリナは息を飲む。Yes、Noだけが分かるかと思ったが、それ以外にも確証があるらしい。表情を変えてはいなかったのに、どうして! と内心混乱しながら大輔を睨む。
「なるほど。じゃあ、次。君はあそこで寝ている女性に纏わりついている血の鎖を目的としてここに来た。Yes、No?」
「やはり、吸血鬼ですっ!?」
ウィオリナは大輔のその質問に怒鳴る。そのまま体を縛る鋼糸に抗い、灰色のシスターワンピースが千切れさせ、玉の肌から血飛沫を散らせる。
「ちょ、血――」
「ウィ流血糸闘術、<血糸妖斬>ッ!」
「何そのカッコいい技名っ? つか、何でそんな翻訳っ!?」
技名が英語で発せられたのにも関わらず、“万能言語”がそんな翻訳をしたことにツッコミを入れながらも、大輔はその場を飛び退いた。
瞬間、ウィオリナの体から零れた血が鋼鉄の糸と成りて大輔を襲う。ついでに自分を縛っていた鋼糸を血糸で切り刻む。
「あそこの女性を縛っている鎖と同じ感じですかね」
「エネルギーの感覚は一緒だと思うよ。けど、ちょっと属性というか、何かが違う気がする」
黒翼を展開した冥土が二人を襲う血糸を防ぐ。金属同士がぶつかった音が響くが、黒羽根を展開していた冥土が、遮音の結界を張る。
のだが。
「貴様らっ、母さんの病室で何をしているっ!?」
ダンッと扉が開き、制服姿の杏が大剣を片手に飛び込んできた。病院から出たとき、焦った様子で病院へと駆けるウィオリナとすれ違い、勘が警報を鳴らしたのだ。
≪直観≫を使って、芽衣の事を意識したら案の定。
それどころか、大輔と冥土がいるなどっ! なんでっ!
「ありゃ、目の前の存在に注意しすぎた?」
「いえ。普通に気配を操作しておられました」
部分変身がどころか気配操作ができるようになったんだ、と大輔は内心驚くが、それはそうとウィオリナの懐へと入り込む。
「カハッ」
杏に驚いていたウィオリナは大輔に反応できず、強烈な腹パンが入ってしまった。血反吐を吐き、ウィオリナの意識が点滅する。
「寝ててね」
そして大輔はクルリとウィオリナの背後に回り、手刀を首に振り下ろす。灰色の手袋による簡易の意識操作もプラスして、ウィオリナを気絶させる。
クラリと倒れたウィオリナをよっこらしょと肩に抱え、大剣の剣先を向けてくる杏に顔を向ける。
「ふぅ。さて、これからどうしようか」
「そうだなっ。まずは何故貴様らがここにいるかを聞かせてもらおうかっ!」
「はいはい、分かったよ。けど、それは上でしよう。いつ目を覚ますか分からないし、仲間がいるとも限らない」
理性的で善良的な一般人を心掛けようとしている大輔がウィオリナを一方的にボコったのはそれ。生命維持装置等々に意味がなく、不可思議な力で延命されているとはいえ、杏の母親に危害が加わる可能性があったから、大輔はウィオリナを黙らせた。
どうにか冷静を心掛けようとした杏はその言葉を聞いて大剣を下げたが、それでもその場を動かない。
大輔はああと頷き、冥土に顔を向けた。
「冥土。百目鬼さんの母親に一切危害を加えるな。そしてあらゆる危害から彼女を守れ」
「かしこまりました」
冥土はカーテシーをする。大輔は頷き、冥土から数枚の黒羽根を受け取った後、杏に向き直った。
「ってことだけど、大丈夫?」
「……分かった」
≪直観≫で大輔の言葉に嘘がなく、母さんの安全は絶対だろうと判断した杏は大剣を紅の光の粒子にして消して、ウィオリナを担ぐ大輔に付いていった。
======================================
公開可能情報
“天心眼[透視]”:透視する。注ぐ魔力によってどれだけ透視できるかが決まる。
“黒華眼[視界共有]”:視界を共有する。その視界とは、光による知覚だけでなく能力などによる知覚も含まれる。
うまく応用すれば、相手の視界を支配したりすることも可能。
「……共有するよ」
想像していたのとは全くもって違う光景を視た大輔は、“黒華眼”の技巧で視るという知覚全てを共有する[視界共有]を発動させる。冥土の両目に黒の華が中心に描かれた幾何学模様が浮かぶ。
能力等々で視た視覚情報を共有された冥土は、人形であるその表情で一瞬だけ驚き、目を瞬かせながら首を傾げた。
「……これは、血……でしょうか?」
「血を媒介としたエネルギーだと思う。けど、その前に」
「ええ」
大輔は少しだけ面倒だなといった感じに顔を顰め、冥土は杏の母親のバイタルを映している装置に顔を向けた。
「本当の半死半生……といったところでしょうか?」
「うん、確かにそうだね。魂魄はまだ生きてるけど、肉体は死んでる。魂魄が肉体から離れてる」
「この血の鎖は魂魄をこの場に固定して生かすと同時に、肉体の腐敗防止と生きているという偽装しているのでしょう」
「……だね。ったく、厄介この上ないよ」
面倒だなぁ、と大輔は天を仰ぐ。ぶっちゃけ、本当に厄介な匂いしかしない。
(知りたくなかった。ホント、知りたくなかった。……知らんぷりはできる。ただ念のために神和ぎ社との繋がりが欲しかったから、接していただけだし。知人だけど、ただそれだけ。……けどなぁ)
過酷な異世界で生きてきた勘とそこで培った意思と矜持が、大輔に嫌な予感をもたらす。
はぁ、と大輔が溜息を吐く。冥土はそんな大輔にしらッとした目を向けた。
「……口角が上がっていますが」
「……見間違えじゃない?」
「いえ、今ここで創造主様の表情をうつ――」
「はいはい、笑いましたよ」
厄介だな、面倒だな、といった様子はどこへやら。へらへらした様子で両手を上げる大輔がいた。
……へらへらできるのが、大輔が善人ではない事を示しているが、それにツッコむ者は、ここにいない。
「ぶっちゃけ、電気や火を魔力に変換する幻想具を創るのに手間取ってたんだよ。エネルギー自体の性質が違うのか……その逆はできるのに」
空気中の魔力が薄く、地球での魔力回復速度がとても遅いと分かった大輔たちは、それ以外の魔力補給手段を手に入れようとしていた。
それが電気や火を魔力に変換する方法だ。
魔法は魔力を電気エネルギーや火力エネルギーに変換できる事が可能だ。だから、その逆が可能ではと試行錯誤していた。
なのだが、なかなか上手くいかない。一応、試作品はできたものの変換効率がめちゃくちゃ悪すぎるのもあって、使えないのだ。一つの市の三日の電気消費量を使ってようやく大輔の一割ほどだ。
他にも神和ぎ社や魔力関わる組織にカチコミし、魔力を奪うという手段もあったが、却下した。
大して魔力を得られないと確信したからだ。
というのも、向こうも魔力回復手段を欲しているのだ。とある理由からそれが分かったため、今後も手出すをするつもりはない。
「けど、このエネルギーならできるかもしれない」
「そうですね」
アルビオンに行くのは冬休み初日と決まっている。だが、それはその日までアルビオンに行けないからではなく、短期間での行き帰りができないからだ。
異世界へ転移するには膨大な魔力と労力がかかる。必要最低限の魔力で行こうとすれば、それだけ肉体や魂魄に負担がかかるのだ。そして負担なしに行くには、必要最低限の魔力の二倍ほど必要となってしまう。
そんな魔力を短期間で貯めることは不可能のため、冬休みという長期休暇を利用するのだが、逆に言えば、可能なら大輔も直樹も今すぐにでも行きたいのだ。
大切な親友や仲間、大事な人と会いたいのだ。あと、師匠の墓参りをしたい。
「……百目鬼さんには悪いけど、このままこの力を調べさせてもらう」
「そうですか」
「まぁ、けどもし上手く魔力が生成できるなら、蘇生する余裕もあると思うけど」
「そうですね」
そう言いながら、大輔はあまり回復していない能力を使ってそのエネルギーを解析しようとした。
のだが。
「……明らかにこっちを意識してるよね」
「ええ。ものすごい勢いでこっちへ来ます」
大輔は、僕、結構疲れてるんだけどな、と言いながら天を仰ぐ。冥土は一歩大輔の前に立ち、病室の扉を見つめた。
「逃げますか?」
「魔力がないから転移では逃げられないし、尋常じゃない殺気を放ってるからね。僕たち目当てならいいんだけど、百目鬼さんの母親が目当てだったら」
「……手がかりを失う、と」
冥土の言葉に大輔は苦笑しながら頷いた。
「まぁね」
「それに杏様が悲しまれるかもしれませんしね」
「そっちはどうでもいいかな」
「本当に?」
「うん」
大輔のその言葉に嘘はない。今は、そう思っている。
「なるほど。……と、来ます」
「だね」
そしてかけている眼鏡で認識阻害をした後、病室の扉が開いた。
「……何者です?」
「それはこっちのセリフだけど?」
病室に入ってきたのは白人の美少女。
艶やかな茶髪のサイドテールに、明るく柔らかな赤錆色の瞳。長いまつ毛。高くそれでいて小さな鼻立ちに、少し抜けている雰囲気を感じさせる可愛らしい顔立ち。唇は小さく、薄桃色に艶めく。
身長は大輔よりもやや下で、細い鎖のネックレスが彩る細い首に、丸みを帯びた小さな肩。ささやかな花柄が施された灰色のシスターワンピースから分かる豊かな双丘。
血の色の繭が纏わりついたチェーンを下げた菫色のベルトが、なだらかな腰と少し大きなお尻を強調する。
そして深紅のヴァイオリンケースを背負っている。
そんな美少女は大輔と冥土、特に冥土を睨み、流暢な日本語で詰問する。
「ご家族の方……ではないです。特にそちらの女性。血が通ってないです」
「……はぁ、失敬な。私は創造主様に命を吹き込んでもらいました。正真正銘生きている物、生物でございます」
「ッ」
冥土が言葉を発したことにサイドテールの美少女は驚く。が、直ぐに平静を取り戻し腰を低くする。背中に背負っているヴァイオリンケースに手をかける。
大輔は、本当に面倒くさそうに溜息を吐いた。まずは無力化しなきゃな、と心の中で呟く。
「はぁ。そこのお嬢さん。ここは病院だよ。しかも、病人の前。勝手にここに入ってきたり、常識がなってないようだけ、どッ!」
「ッ。そっちが言えるんですっ?」
サイドテールの美少女は、冥土が攻撃を仕掛けてくると予想していた。認識阻害した大輔の見た目は眼鏡を掛けた一般人という印象が強く、異形という観点から見れば冥土が目立つ。
だからこそ、大輔がゆらりと左右に体を揺らした瞬間、いつの間にか自分の横に現れ、手刀を振り下ろす姿に驚く。
が、直ぐに平静を取り戻し、触れていたヴァイオリンケースで防いだ。
しかし勢いと力は大輔の方が上だった。衝撃を逃がしたはずなのに、サイドテールの美少女は病室の壁に叩きつけられる。
「よし、と」
すかさず大輔は懐から鋼糸が繋がっている六本の短刀を取り出し、それでサイドテールの美少女を拘束する。
腹パンを一発入れて無抵抗化した後、“天心眼”の技巧、[透視]で見つけたスマホと財布、パスポートをくすね取る。
「ええっと、何々。名前はウィオリナ・ウィワートゥス。イギリス出身の女性で十七歳。渡航理由は観光かな? で、その空のヴァイオリンケースはいつも持ち歩いているのかな?」
「ペッ。化け物に教えねぇです!」
口の中に溜まっていた唾や胃液を吐き出したウィオリナは、ニッと大輔に笑う。確かな光を湛えた赤錆色の瞳が大輔を射貫く。
まるで何かを調べているような……
「……まぁいいや」
大輔は溜息を吐きながら制服の懐から灰色の手袋を取り出し、それを両手に着ける。ウィオリナの前にしゃがみ込み、ウィオリナの両手を握る。
「右がYes。左がNo」
「はいです?」
「右がYes。左がNo。もう一度言うよ、右がYes。左がNo」
言葉に合わせて握るウィオリナの手を左右に動かす大輔は、淡々とした表情で尋ねる。
「君は僕を目的としてここに来た。Yes、No?」
そう尋ねながら、大輔はウィオリナの両手を右に動かす。ウィオリナは大輔を睨み、表情を変えない。
けど。
「なるほど、Noね。じゃあ、次。君はあそこで寝ている女性を目的としてここに来た。Yes、No?」
そう尋ねながら、大輔はウィオリナの両手を右に動かす。当てずっぽうでもなく確信を持っている大輔に動揺しながら、ウィオリナは必死に己の表情を隠す。
だが。
「うん? Yesでもないし、Noでもない? いや、ここに来たこと自体はYesかな?」
「ッ」
ウィオリナは息を飲む。Yes、Noだけが分かるかと思ったが、それ以外にも確証があるらしい。表情を変えてはいなかったのに、どうして! と内心混乱しながら大輔を睨む。
「なるほど。じゃあ、次。君はあそこで寝ている女性に纏わりついている血の鎖を目的としてここに来た。Yes、No?」
「やはり、吸血鬼ですっ!?」
ウィオリナは大輔のその質問に怒鳴る。そのまま体を縛る鋼糸に抗い、灰色のシスターワンピースが千切れさせ、玉の肌から血飛沫を散らせる。
「ちょ、血――」
「ウィ流血糸闘術、<血糸妖斬>ッ!」
「何そのカッコいい技名っ? つか、何でそんな翻訳っ!?」
技名が英語で発せられたのにも関わらず、“万能言語”がそんな翻訳をしたことにツッコミを入れながらも、大輔はその場を飛び退いた。
瞬間、ウィオリナの体から零れた血が鋼鉄の糸と成りて大輔を襲う。ついでに自分を縛っていた鋼糸を血糸で切り刻む。
「あそこの女性を縛っている鎖と同じ感じですかね」
「エネルギーの感覚は一緒だと思うよ。けど、ちょっと属性というか、何かが違う気がする」
黒翼を展開した冥土が二人を襲う血糸を防ぐ。金属同士がぶつかった音が響くが、黒羽根を展開していた冥土が、遮音の結界を張る。
のだが。
「貴様らっ、母さんの病室で何をしているっ!?」
ダンッと扉が開き、制服姿の杏が大剣を片手に飛び込んできた。病院から出たとき、焦った様子で病院へと駆けるウィオリナとすれ違い、勘が警報を鳴らしたのだ。
≪直観≫を使って、芽衣の事を意識したら案の定。
それどころか、大輔と冥土がいるなどっ! なんでっ!
「ありゃ、目の前の存在に注意しすぎた?」
「いえ。普通に気配を操作しておられました」
部分変身がどころか気配操作ができるようになったんだ、と大輔は内心驚くが、それはそうとウィオリナの懐へと入り込む。
「カハッ」
杏に驚いていたウィオリナは大輔に反応できず、強烈な腹パンが入ってしまった。血反吐を吐き、ウィオリナの意識が点滅する。
「寝ててね」
そして大輔はクルリとウィオリナの背後に回り、手刀を首に振り下ろす。灰色の手袋による簡易の意識操作もプラスして、ウィオリナを気絶させる。
クラリと倒れたウィオリナをよっこらしょと肩に抱え、大剣の剣先を向けてくる杏に顔を向ける。
「ふぅ。さて、これからどうしようか」
「そうだなっ。まずは何故貴様らがここにいるかを聞かせてもらおうかっ!」
「はいはい、分かったよ。けど、それは上でしよう。いつ目を覚ますか分からないし、仲間がいるとも限らない」
理性的で善良的な一般人を心掛けようとしている大輔がウィオリナを一方的にボコったのはそれ。生命維持装置等々に意味がなく、不可思議な力で延命されているとはいえ、杏の母親に危害が加わる可能性があったから、大輔はウィオリナを黙らせた。
どうにか冷静を心掛けようとした杏はその言葉を聞いて大剣を下げたが、それでもその場を動かない。
大輔はああと頷き、冥土に顔を向けた。
「冥土。百目鬼さんの母親に一切危害を加えるな。そしてあらゆる危害から彼女を守れ」
「かしこまりました」
冥土はカーテシーをする。大輔は頷き、冥土から数枚の黒羽根を受け取った後、杏に向き直った。
「ってことだけど、大丈夫?」
「……分かった」
≪直観≫で大輔の言葉に嘘がなく、母さんの安全は絶対だろうと判断した杏は大剣を紅の光の粒子にして消して、ウィオリナを担ぐ大輔に付いていった。
======================================
公開可能情報
“天心眼[透視]”:透視する。注ぐ魔力によってどれだけ透視できるかが決まる。
“黒華眼[視界共有]”:視界を共有する。その視界とは、光による知覚だけでなく能力などによる知覚も含まれる。
うまく応用すれば、相手の視界を支配したりすることも可能。
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