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5.きっかけは自分で作るもの

ー/ー



 教室に入ると既に藤田さんは座っていた。
 さっきのことを聞きたいけどなんて聞けばいいだろうか。

「真琴ー、これ見てくれ」

 悩んでいると世界書を片手に持って翔が話しかけてきた。
 相変わらずテンションが高い。

「なんだ?」
「砕け必殺!!、【シャイニングフィンガー!!】」
「うおっ、光ってる」
「いいだろ、これ。[シャイニングフィンガー]ってあったから使ってみたんだ」
「言い終わってから光るのがおしいな」

 これはロボットアニメの必殺技を真似したものだ。
 昨日の時点で漫画やアニメの技がいろいろ登録されていたけど、実際に魔法が使えるようになった影響か爆発的に増えている。

「砕け必殺で光る方は消費MP30だったんだよ」
「30は厳しい」

 技をできるだけ再現しようとした結果、限界ギリギリの消費MP30で作られている魔法が多い。
 全員最初に[対抗呪文]を強制的に使わされたからMPが足りないんだ。

「それにほんとに光るかはわからないしな」
「説明文を魔法製作者が作れるって意地が悪い仕様だよね」

 俺は魔法を作ったことがなかったので知らなかったけど魔法の説明文は作成者が自由に作れるらしい。
 なので実際に使ってみると嘘だったということが多発しているとか。

「そういえば俺が使った魔法は本物だった」
「何使ったんだ?」
「と……と、飛ぶ魔法、ほんのちょっとだけ浮いた」
「へぇー」

 危ない危ない。
 透視の魔法なんて言ったら大変なことになる所だった。
 教室に着く前にネットを見ていたけどおそらく本当に透視できる魔法は見つかっていない。
 話題になっている透視魔法はどれも条件が緩すぎるし消費MPも少ない。
 俺の使った透視魔法の制約の厳しさから考えてもどれも嘘である可能性が高いと思う。

「ネットを見ると消費MP1の魔法が人気っぽいね」
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たるってな」

 使ってみるまで正確な効果がわからない以上、消費MPの低い魔法に集中するのは当たり前。
 ただそういう魔法は効果が正しくても使い道が微妙なものが多い。

「個人的には正確な時間が分かる魔法とか便利だと思ったね」
「スマホでいいだろ?」
「そういうのがなくても分かるってのがいいんだよ」
「そうかぁ?」

 翔が呆れたように答える。
 こいつ、すごさがわかってないな。

「例えばスマホがなくて正確な時間が知りたい時とかどうする?」
「まずその前提が意味分からんのだが……まあ誰かに聞くかな」
「誰もいなかったら?」
「諦める」
「そこに新たな選択肢が加わるってことなんだよ!!」
「そういう状況にならないように努力しようぜ」
「なったら、という話だよ」
「限定的すぎないか?」
「まあそれはそうだけど……」

 翔はあまり納得いっていないようで椅子を揺らしている。
 どうして理解できないんだ。
 必ず持っている世界書で出来るというのが大きいのに。

「授業始めるぞー」
「おっともうこんな時間か」

 気づけば授業の時間だった。
 結局藤田さんと会話できなかったな。
 休み時間だと話が終わらないだろうし諦めるしかないか。

 ・・・

 うーん、ネットの情報は予想通り玉石混交すぎる。
 とりあえず一通り情報をまとめてみるか。

 ・消費MPを支払えるなら誰でも使える

 いちいち面倒な手続きがないのはありがたい。
 気に入ったものを探してパッと使えるので検証がはかどる。
 ただあまりにも簡単に使えてしまうので悪いことに使う人がいそうだ。

 ・説明文や名前に嘘が多い

 これは特に危険だった。
 目的の効果が出ない程度ならまだましで、まったく別の効果が出る魔法も多いらしい。
 今分かってる中で最もやばいのは自分の抱えている秘密を口にしてしまう魔法だとか。
 自分で口にするせいで[対抗呪文]も効かないので取り返しもつかない。

 ・同じような効果の魔法が乱立している

 実際は全く同じ効果ではないんだけど詳しく書かれていないせいで区別がつかない。
 手から炎が出る魔法なんて大きさや色の違いで無数に種類がある。

 ・同名魔法が多い

 魔法は同じ名前で作れないのだけど現実は同名が並んでいる。
 どうも翻訳の都合で同じ名前になることがあるらしい。
 なんというか微妙に現実的な仕様だ。

 ここからみんなに使われる魔法を考えるとなると難しい。
 まず使えるMPに限りがある上に騙される危険もある。
 今はまだチャレンジしてくれるけどある程度時間が立ったら決まったものしか使わないんじゃないかな。
 それに似たような効果が多いからよほど個性的な何かがないとチャレンジすらしてもらえない。
 うーん、そんな魔法あるのかな。

「藤田ー、後でこれ持ってきてくれー」
「はい」

 考えていたらいつの間にか授業が終わっていた。
 なんとか今日中に魔法は作りたいし、とりあえず帰りながら考えるか。

 そう思って立ち上がった所で藤田さんが両手に荷物を持っているのが見えた。
 今までなら何もしなかっただろう。
 頼まれていないのに手伝うとか露骨すぎてキモいと思われそうだからだ。
 それは妄想ではなく過去に近い言葉を言われたことがある。

 あれは数年前のこと。
 思春期に差し掛かり、ご多分に漏れず俺も彼女が欲しかった。
 と言っても当時女友達なんて一人だけ。
 それもたまに雑談できる程度の間柄で全然親しくはない。
 そこで諦めていればよかったんだろうに、唯一の女友達となんとか親しくなりたいと思ってしまった。
 優しい人がモテると聞いて積極的に話しかけたり手伝ったりするようにしたけど、きっと願望が露骨に透けていたのだろう。

「最近なんか気持ち悪いからもう近づかないで」

 そう言って女友達は二度と俺に話しかけてくることはなかった。
 それ以来、俺は女子に対して積極的にアプローチしていない。

 あの時の言葉は今思い出しても胸が痛い。
 けど朝の陽菜の言葉を思い出す。
 きっかけがなければ無関心のままだと。

「手伝うよ」

 声がひきつりそうなのを必死で抑えて手伝いを申し出る。
 少し驚いた様子でこちらを見る藤田さん。
 こんな表情を見るのは初めてだ。

 その表情を見て昔の記憶がフラッシュバックした。
 無意識に口から「なんでもない」と言いそうになる。
 逃げちゃ駄目だと自分に言い聞かせて、拒否される前に片手の荷物を持つ。

「職員室に持っていくんだよね?」

 返事はないけど歩き始めたので慌てて後を追う。
 藤田さんはこちらを振り向くことなく足早に歩いていく。
 ただこれはいつもと特に変わらない反応だ。
 あの時の女友達の反応とは違う。

 急いで横に並ぶといつも通りの不機嫌そうな顔。
 ちらりとこちらを見てきた目に嫌悪の色はない。
 よかった、少なくても失敗ではなさそうだ。
 それなら少しでも何か会話したい。

「あ、あの藤田さんは何か魔法使ってみた?」

 歩くのが少し遅くなる。
 それにあわせて俺も歩くのを遅くする。

「俺は炎を出す魔法使ってみたんだ、一瞬だけど出たよ」
「そう」

 やった、反応があった。
 やはり魔法の話題は今のトレンドだから反応してもらえるのかな。
 他にも何か……あ、そういえば朝のこと謝ってなかった。

「朝のこと、ごめん」
「なにが?」

 聞き返されると思ってなかったので言葉に詰まってしまう。
 よく考えたら透視の件は説明できる訳ないんだから謝られても意味不明だ。

 結局返事ができないまま職員室についてしまった。
 ああ、折角のチャンスだったのに。
 藤田さんは持ってきたものを先生に渡すとすぐ帰ってしまった。

 反応は悪くなかったのにほとんど会話できなかった……。
 声をかけるのにいっぱいいっぱいで何を話すのかを考えてなかったからだ。
 思いついたことを喋るんじゃなくてどういう風な話に進めていくか考えておかないと。
 とりあえず魔法については反応が良かったし、次回はその方向で話題を広げるようにしよう。


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次のエピソードへ進む 6.透視された側の気分


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 教室に入ると既に藤田さんは座っていた。
 さっきのことを聞きたいけどなんて聞けばいいだろうか。
「真琴ー、これ見てくれ」
 悩んでいると世界書を片手に持って翔が話しかけてきた。
 相変わらずテンションが高い。
「なんだ?」
「砕け必殺!!、【シャイニングフィンガー!!】」
「うおっ、光ってる」
「いいだろ、これ。[シャイニングフィンガー]ってあったから使ってみたんだ」
「言い終わってから光るのがおしいな」
 これはロボットアニメの必殺技を真似したものだ。
 昨日の時点で漫画やアニメの技がいろいろ登録されていたけど、実際に魔法が使えるようになった影響か爆発的に増えている。
「砕け必殺で光る方は消費MP30だったんだよ」
「30は厳しい」
 技をできるだけ再現しようとした結果、限界ギリギリの消費MP30で作られている魔法が多い。
 全員最初に[対抗呪文]を強制的に使わされたからMPが足りないんだ。
「それにほんとに光るかはわからないしな」
「説明文を魔法製作者が作れるって意地が悪い仕様だよね」
 俺は魔法を作ったことがなかったので知らなかったけど魔法の説明文は作成者が自由に作れるらしい。
 なので実際に使ってみると嘘だったということが多発しているとか。
「そういえば俺が使った魔法は本物だった」
「何使ったんだ?」
「と……と、飛ぶ魔法、ほんのちょっとだけ浮いた」
「へぇー」
 危ない危ない。
 透視の魔法なんて言ったら大変なことになる所だった。
 教室に着く前にネットを見ていたけどおそらく本当に透視できる魔法は見つかっていない。
 話題になっている透視魔法はどれも条件が緩すぎるし消費MPも少ない。
 俺の使った透視魔法の制約の厳しさから考えてもどれも嘘である可能性が高いと思う。
「ネットを見ると消費MP1の魔法が人気っぽいね」
「下手な鉄砲も数打ちゃ当たるってな」
 使ってみるまで正確な効果がわからない以上、消費MPの低い魔法に集中するのは当たり前。
 ただそういう魔法は効果が正しくても使い道が微妙なものが多い。
「個人的には正確な時間が分かる魔法とか便利だと思ったね」
「スマホでいいだろ?」
「そういうのがなくても分かるってのがいいんだよ」
「そうかぁ?」
 翔が呆れたように答える。
 こいつ、すごさがわかってないな。
「例えばスマホがなくて正確な時間が知りたい時とかどうする?」
「まずその前提が意味分からんのだが……まあ誰かに聞くかな」
「誰もいなかったら?」
「諦める」
「そこに新たな選択肢が加わるってことなんだよ!!」
「そういう状況にならないように努力しようぜ」
「なったら、という話だよ」
「限定的すぎないか?」
「まあそれはそうだけど……」
 翔はあまり納得いっていないようで椅子を揺らしている。
 どうして理解できないんだ。
 必ず持っている世界書で出来るというのが大きいのに。
「授業始めるぞー」
「おっともうこんな時間か」
 気づけば授業の時間だった。
 結局藤田さんと会話できなかったな。
 休み時間だと話が終わらないだろうし諦めるしかないか。
 ・・・
 うーん、ネットの情報は予想通り玉石混交すぎる。
 とりあえず一通り情報をまとめてみるか。
 ・消費MPを支払えるなら誰でも使える
 いちいち面倒な手続きがないのはありがたい。
 気に入ったものを探してパッと使えるので検証がはかどる。
 ただあまりにも簡単に使えてしまうので悪いことに使う人がいそうだ。
 ・説明文や名前に嘘が多い
 これは特に危険だった。
 目的の効果が出ない程度ならまだましで、まったく別の効果が出る魔法も多いらしい。
 今分かってる中で最もやばいのは自分の抱えている秘密を口にしてしまう魔法だとか。
 自分で口にするせいで[対抗呪文]も効かないので取り返しもつかない。
 ・同じような効果の魔法が乱立している
 実際は全く同じ効果ではないんだけど詳しく書かれていないせいで区別がつかない。
 手から炎が出る魔法なんて大きさや色の違いで無数に種類がある。
 ・同名魔法が多い
 魔法は同じ名前で作れないのだけど現実は同名が並んでいる。
 どうも翻訳の都合で同じ名前になることがあるらしい。
 なんというか微妙に現実的な仕様だ。
 ここからみんなに使われる魔法を考えるとなると難しい。
 まず使えるMPに限りがある上に騙される危険もある。
 今はまだチャレンジしてくれるけどある程度時間が立ったら決まったものしか使わないんじゃないかな。
 それに似たような効果が多いからよほど個性的な何かがないとチャレンジすらしてもらえない。
 うーん、そんな魔法あるのかな。
「藤田ー、後でこれ持ってきてくれー」
「はい」
 考えていたらいつの間にか授業が終わっていた。
 なんとか今日中に魔法は作りたいし、とりあえず帰りながら考えるか。
 そう思って立ち上がった所で藤田さんが両手に荷物を持っているのが見えた。
 今までなら何もしなかっただろう。
 頼まれていないのに手伝うとか露骨すぎてキモいと思われそうだからだ。
 それは妄想ではなく過去に近い言葉を言われたことがある。
 あれは数年前のこと。
 思春期に差し掛かり、ご多分に漏れず俺も彼女が欲しかった。
 と言っても当時女友達なんて一人だけ。
 それもたまに雑談できる程度の間柄で全然親しくはない。
 そこで諦めていればよかったんだろうに、唯一の女友達となんとか親しくなりたいと思ってしまった。
 優しい人がモテると聞いて積極的に話しかけたり手伝ったりするようにしたけど、きっと願望が露骨に透けていたのだろう。
「最近なんか気持ち悪いからもう近づかないで」
 そう言って女友達は二度と俺に話しかけてくることはなかった。
 それ以来、俺は女子に対して積極的にアプローチしていない。
 あの時の言葉は今思い出しても胸が痛い。
 けど朝の陽菜の言葉を思い出す。
 きっかけがなければ無関心のままだと。
「手伝うよ」
 声がひきつりそうなのを必死で抑えて手伝いを申し出る。
 少し驚いた様子でこちらを見る藤田さん。
 こんな表情を見るのは初めてだ。
 その表情を見て昔の記憶がフラッシュバックした。
 無意識に口から「なんでもない」と言いそうになる。
 逃げちゃ駄目だと自分に言い聞かせて、拒否される前に片手の荷物を持つ。
「職員室に持っていくんだよね?」
 返事はないけど歩き始めたので慌てて後を追う。
 藤田さんはこちらを振り向くことなく足早に歩いていく。
 ただこれはいつもと特に変わらない反応だ。
 あの時の女友達の反応とは違う。
 急いで横に並ぶといつも通りの不機嫌そうな顔。
 ちらりとこちらを見てきた目に嫌悪の色はない。
 よかった、少なくても失敗ではなさそうだ。
 それなら少しでも何か会話したい。
「あ、あの藤田さんは何か魔法使ってみた?」
 歩くのが少し遅くなる。
 それにあわせて俺も歩くのを遅くする。
「俺は炎を出す魔法使ってみたんだ、一瞬だけど出たよ」
「そう」
 やった、反応があった。
 やはり魔法の話題は今のトレンドだから反応してもらえるのかな。
 他にも何か……あ、そういえば朝のこと謝ってなかった。
「朝のこと、ごめん」
「なにが?」
 聞き返されると思ってなかったので言葉に詰まってしまう。
 よく考えたら透視の件は説明できる訳ないんだから謝られても意味不明だ。
 結局返事ができないまま職員室についてしまった。
 ああ、折角のチャンスだったのに。
 藤田さんは持ってきたものを先生に渡すとすぐ帰ってしまった。
 反応は悪くなかったのにほとんど会話できなかった……。
 声をかけるのにいっぱいいっぱいで何を話すのかを考えてなかったからだ。
 思いついたことを喋るんじゃなくてどういう風な話に進めていくか考えておかないと。
 とりあえず魔法については反応が良かったし、次回はその方向で話題を広げるようにしよう。