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第33話:ララの論理的覚醒と愛の証明

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 1.家事代行中の「駆動系異常」

 ソフィアの復帰から数日。メゾン・ド・バレットでは、メイが療養中、ソフィアが復帰直後という状況を受け、家事・雑務をララが中心となって代行していた。ララは、理知的な正規メイド隊のメンバーであり、その家事プログラムは一切の感情的なノイズを排除した完璧さを誇っている。

 ララは、日中、悠真の自室で換気と整頓を行っていた。悠真は大学の講義を欠席しており、自室でテイム魔物たちと戯れながら、ルナから渡された作戦書類を読んでいた。

「志藤様。換気と同時に、室内の微細な塵埃の除去を完了しました。次に、寝具の湿度調整に移ります」

 ララは表情を変えず、淡々と報告する。悠真はララの感情のない完璧な仕事ぶりに、安心感を覚える反面、どこか寂しさを感じていた。

「ありがとう、ララ。君がいると、本当に助かるよ。完璧すぎて、俺が何もすることがないな」

 その言葉に、ララは微かに駆動音を鳴らした。

「志藤様の精神的な安定が、私の家事プログラムの最終的な効率性を測る指標です。感謝は不要です」

 その時、悠真は急な電話で席を立ち、着替えの必要に迫られた。

「ララ、すまない。着替えるから、少しだけ廊下で待っていてくれるか?」
「承知しました。扉を施錠し、視覚的なノイズを排除します」

 ララはそう言い、部屋を出て行った。しかし、廊下に出た直後、ララは自身の清掃用高性能ナノファイバークロスを部屋の隅に置き忘れたことに気づいた。ララのプログラムは、「任務の不完全性」というノイズを許さない。彼女は、「視覚的なノイズを排除」という悠真の指示よりも、「任務の完璧な遂行」を優先し、無表情のまま扉を開けて部屋に戻った。

 悠真は、上半身裸のままだった。

「あ、ごめん、ララ。まだ着替えてなくて……」

 悠真の引き締まった上半身が、ララの視界に飛び込む。ララのプログラムは、「男性の身体」という視覚情報を「生体部の汚染リスク」として処理しようとしたが、その瞬間、彼女の駆動系に致命的なバグが生じた。

 ララの心拍数モニター(擬似)が、一瞬で異常値を示す。彼女の冷たい瞳が、理性を失って大きく揺らぐ。

「……っ!」

 ララはすぐに顔を背け、無機質な声で自己分析を開始した。

 ララは無表情のまま、自身の体温がプロトコル基準値を僅かに上回っていることを確認した。心臓(擬似駆動部)の激しい鼓動と、体温の上昇。彼女の理知的な瞳は、その身体的な異常を「駆動系の深刻なエラー」として捉えていた。

(心拍数185bpm、体温37.8度。プロトコル基準値を大きく超過。エラーコード:【感情的ノイズの侵入】。……このような非効率的な異常は、サイボーグ化以来、一度も検出されたことがない。一体、何が原因で……この動悸は?)

 ララは冷静に状況を処理しようとするが、体内の異常がそれを許さない。彼女は最終的に、司令塔によるデバッグが必要だと判断し、ルナに報告した。

「ルナ隊長。報告します。志藤様の部屋で、原因不明の駆動系の異常を検出。心拍数上昇率が、危機レベル2に達しています。直ちにプログラムのデバッグを要請します」

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 2.ルナの理性の試練と論理的な愛の受容

 司令室でデータを受けていたルナは、冷静沈着な顔を崩さず、ララの報告を静かに聞いた。彼女のモノクルには、ララの心拍数が、アリスの過剰なスキンシップ時と同等か、それ以上の数値を示しているデータが表示されていた。

「ララ隊員。その異常は、バグではありません。それは、志藤悠真のフェロモンが、あなたの理性の防壁に生じさせた愛の独占欲の萌芽(ほうが)です」

 ルナは冷徹な言葉に、ララは混乱した。

「な……。愛の独占欲? 隊長、私のプログラムには、そのような非効率的な感情は存在しません。これは、志藤様への献身が過剰に作用したシステムエラーです」
「いいえ、ララ。エラーではない。それは任務の効率性を最大化させるための、新たなプロトコルです」

 ルナはそう言い切り、理知的な笑みを浮かべた。

「ララ隊員。あなたは、志藤様の抑止力安定に貢献する理性のメイドです。あなたの使命は、愛を排除することではなく、愛を論理的に定義し、任務の効率性へと昇華させること」

 ルナの言葉は、ララに愛を受け入れるという、理性の試練を突きつけた。

「志藤様の優しさは、私たちの感情の揺れに最も強く反応します。あなたの愛を論理的に定義し、任務の効率性へと昇華させなさい。それが、司令塔である私からの最終命令です」

 ララは、ルナの命令と、悠真の身体が引き起こした心拍数の異常に、激しく苦悩した。彼女の論理回路は、この矛盾を解決しようとフル回転する。

 そして数分後、ララは静かに、そして明確に結論を出した。

「……理解しました、ルナ隊長」

 ララは、悠真の着替えの部屋に戻り、無表情ながらも理知的な結論を口にした。

「志藤様。私の心拍数上昇は、感情的な独S占欲として認識されました」

 ララはそう告げると、悠真の頬にそっと触れた。

「愛は非効率ではありません。愛は、任務へのモチベーションと、護衛プログラムの実行速度を最大化させます」

 ララは、悠真の驚いた表情をデータとして記録しながら、論理的な愛の証明を宣言した。

「結論。愛の独占欲は、私の任務の効率性を最大化させるための、最も合理的なプロトコルです。私は、志藤様の愛を受容し、理性のメイドとして、あなたへの奉仕を独占します」

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 3.アリスの嫉妬と新たな特訓

 ララの論理的すぎる愛の定義は、すぐに他のメイドたちにも伝播した。

 特にアリスは、ララの冷静な論理が、自身の情熱的な愛の特権を脅かしていることに激しく嫉妬した。

「なっ……! ちょっとララ! 愛を論理的に定義するなんて、あんた、本当に理性の塊ね!」

 アリスは、ルナの司令室に駆け込み、怒りを爆発させた。

「ルナ隊長! ララがあんな理屈で悠真くんを独占しようとしているなんて、許せません! 私は公認の恋人役として、もっと情熱的な愛の優位性を証明したい!」

 ルナは、アリスの感情的な嫉妬が、悠真の抑止力を安定させる強力なセンサーとなることをデータで確認し、静かに頷いた。その瞳には、いつもの冷徹さだけでなく、同じく悠真に複雑な感情を抱く者としての、わずかな共感のようなものが浮かんでいた。

「有栖川隊員。あなたの情熱的な愛を、戦術的な優位性へと昇華させなさい。ジーナの結界に対抗するため、あなたの近接戦闘能力は、さらなる進化が必要です」

 ルナはアリスに双剣の特訓を命じた。それは、現在の「剣とラウンドシールド」というバランス型から、より攻撃的なスタイルへの進化を意味する。長剣と短剣が合わさったような特殊な形状の剣を二本持ち、既存のラウンドシールドは左腕に装備したまま、全方位に対応する超近接戦闘術だ。

「アリス。エンジェル・ガードのベアトリスに指導を仰ぎ、その双剣スタイルを会得しなさい。あなたの情熱的な独占欲こそが、ララの理性を超える、新たな愛の剣となります」

 アリスは、ルナが自分の情熱を「剣」として認め、励ましてくれたことに、激しい嫉妬をエネルギーに変え、双剣の特訓に身を投じることを決意した。

 アリスは強く拳を握りしめた。

「ベアトリス先輩の特訓が、どれだけ厳しいかは知ってるわ。でも、ララやアベルのような理性の塊に負けて、悠真くんを護れなくなったら意味がない」

 アリスは決意に満ちた瞳でルナを見つめた。

「私も強くならないと、悠真くんの一番近くの盾としていられないんだから!」

 彼女の言葉には、戦闘的な覚悟が滲んでいた。

「分かったわ、ルナ! 私の愛の双剣が、ララの理性の盾より強いことを証明してあげる! 悠真くんを独占するのは、この私、アリスなんだから!」

 悠真は、メイドたちの理知的な愛と情熱的な愛という、二つの異なる独占欲の板挟みで、戸惑いを隠せない。彼の優しさは、メイドたち全員の愛のトリガーとなり、理性のメイドすらも論理的な愛の証明へと突き動かしていくのだった。






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 1.家事代行中の「駆動系異常」
 ソフィアの復帰から数日。メゾン・ド・バレットでは、メイが療養中、ソフィアが復帰直後という状況を受け、家事・雑務をララが中心となって代行していた。ララは、理知的な正規メイド隊のメンバーであり、その家事プログラムは一切の感情的なノイズを排除した完璧さを誇っている。
 ララは、日中、悠真の自室で換気と整頓を行っていた。悠真は大学の講義を欠席しており、自室でテイム魔物たちと戯れながら、ルナから渡された作戦書類を読んでいた。
「志藤様。換気と同時に、室内の微細な塵埃の除去を完了しました。次に、寝具の湿度調整に移ります」
 ララは表情を変えず、淡々と報告する。悠真はララの感情のない完璧な仕事ぶりに、安心感を覚える反面、どこか寂しさを感じていた。
「ありがとう、ララ。君がいると、本当に助かるよ。完璧すぎて、俺が何もすることがないな」
 その言葉に、ララは微かに駆動音を鳴らした。
「志藤様の精神的な安定が、私の家事プログラムの最終的な効率性を測る指標です。感謝は不要です」
 その時、悠真は急な電話で席を立ち、着替えの必要に迫られた。
「ララ、すまない。着替えるから、少しだけ廊下で待っていてくれるか?」
「承知しました。扉を施錠し、視覚的なノイズを排除します」
 ララはそう言い、部屋を出て行った。しかし、廊下に出た直後、ララは自身の清掃用高性能ナノファイバークロスを部屋の隅に置き忘れたことに気づいた。ララのプログラムは、「任務の不完全性」というノイズを許さない。彼女は、「視覚的なノイズを排除」という悠真の指示よりも、「任務の完璧な遂行」を優先し、無表情のまま扉を開けて部屋に戻った。
 悠真は、上半身裸のままだった。
「あ、ごめん、ララ。まだ着替えてなくて……」
 悠真の引き締まった上半身が、ララの視界に飛び込む。ララのプログラムは、「男性の身体」という視覚情報を「生体部の汚染リスク」として処理しようとしたが、その瞬間、彼女の駆動系に致命的なバグが生じた。
 ララの心拍数モニター(擬似)が、一瞬で異常値を示す。彼女の冷たい瞳が、理性を失って大きく揺らぐ。
「……っ!」
 ララはすぐに顔を背け、無機質な声で自己分析を開始した。
 ララは無表情のまま、自身の体温がプロトコル基準値を僅かに上回っていることを確認した。心臓(擬似駆動部)の激しい鼓動と、体温の上昇。彼女の理知的な瞳は、その身体的な異常を「駆動系の深刻なエラー」として捉えていた。
(心拍数185bpm、体温37.8度。プロトコル基準値を大きく超過。エラーコード:【感情的ノイズの侵入】。……このような非効率的な異常は、サイボーグ化以来、一度も検出されたことがない。一体、何が原因で……この動悸は?)
 ララは冷静に状況を処理しようとするが、体内の異常がそれを許さない。彼女は最終的に、司令塔によるデバッグが必要だと判断し、ルナに報告した。
「ルナ隊長。報告します。志藤様の部屋で、原因不明の駆動系の異常を検出。心拍数上昇率が、危機レベル2に達しています。直ちにプログラムのデバッグを要請します」
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 2.ルナの理性の試練と論理的な愛の受容
 司令室でデータを受けていたルナは、冷静沈着な顔を崩さず、ララの報告を静かに聞いた。彼女のモノクルには、ララの心拍数が、アリスの過剰なスキンシップ時と同等か、それ以上の数値を示しているデータが表示されていた。
「ララ隊員。その異常は、バグではありません。それは、志藤悠真のフェロモンが、あなたの理性の防壁に生じさせた愛の独占欲の萌芽《ほうが》です」
 ルナは冷徹な言葉に、ララは混乱した。
「な……。愛の独占欲? 隊長、私のプログラムには、そのような非効率的な感情は存在しません。これは、志藤様への献身が過剰に作用したシステムエラーです」
「いいえ、ララ。エラーではない。それは任務の効率性を最大化させるための、新たなプロトコルです」
 ルナはそう言い切り、理知的な笑みを浮かべた。
「ララ隊員。あなたは、志藤様の抑止力安定に貢献する理性のメイドです。あなたの使命は、愛を排除することではなく、愛を論理的に定義し、任務の効率性へと昇華させること」
 ルナの言葉は、ララに愛を受け入れるという、理性の試練を突きつけた。
「志藤様の優しさは、私たちの感情の揺れに最も強く反応します。あなたの愛を論理的に定義し、任務の効率性へと昇華させなさい。それが、司令塔である私からの最終命令です」
 ララは、ルナの命令と、悠真の身体が引き起こした心拍数の異常に、激しく苦悩した。彼女の論理回路は、この矛盾を解決しようとフル回転する。
 そして数分後、ララは静かに、そして明確に結論を出した。
「……理解しました、ルナ隊長」
 ララは、悠真の着替えの部屋に戻り、無表情ながらも理知的な結論を口にした。
「志藤様。私の心拍数上昇は、感情的な独S占欲として認識されました」
 ララはそう告げると、悠真の頬にそっと触れた。
「愛は非効率ではありません。愛は、任務へのモチベーションと、護衛プログラムの実行速度を最大化させます」
 ララは、悠真の驚いた表情をデータとして記録しながら、論理的な愛の証明を宣言した。
「結論。愛の独占欲は、私の任務の効率性を最大化させるための、最も合理的なプロトコルです。私は、志藤様の愛を受容し、理性のメイドとして、あなたへの奉仕を独占します」
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 3.アリスの嫉妬と新たな特訓
 ララの論理的すぎる愛の定義は、すぐに他のメイドたちにも伝播した。
 特にアリスは、ララの冷静な論理が、自身の情熱的な愛の特権を脅かしていることに激しく嫉妬した。
「なっ……! ちょっとララ! 愛を論理的に定義するなんて、あんた、本当に理性の塊ね!」
 アリスは、ルナの司令室に駆け込み、怒りを爆発させた。
「ルナ隊長! ララがあんな理屈で悠真くんを独占しようとしているなんて、許せません! 私は公認の恋人役として、もっと情熱的な愛の優位性を証明したい!」
 ルナは、アリスの感情的な嫉妬が、悠真の抑止力を安定させる強力なセンサーとなることをデータで確認し、静かに頷いた。その瞳には、いつもの冷徹さだけでなく、同じく悠真に複雑な感情を抱く者としての、わずかな共感のようなものが浮かんでいた。
「有栖川隊員。あなたの情熱的な愛を、戦術的な優位性へと昇華させなさい。ジーナの結界に対抗するため、あなたの近接戦闘能力は、さらなる進化が必要です」
 ルナはアリスに双剣の特訓を命じた。それは、現在の「剣とラウンドシールド」というバランス型から、より攻撃的なスタイルへの進化を意味する。長剣と短剣が合わさったような特殊な形状の剣を二本持ち、既存のラウンドシールドは左腕に装備したまま、全方位に対応する超近接戦闘術だ。
「アリス。エンジェル・ガードのベアトリスに指導を仰ぎ、その双剣スタイルを会得しなさい。あなたの情熱的な独占欲こそが、ララの理性を超える、新たな愛の剣となります」
 アリスは、ルナが自分の情熱を「剣」として認め、励ましてくれたことに、激しい嫉妬をエネルギーに変え、双剣の特訓に身を投じることを決意した。
 アリスは強く拳を握りしめた。
「ベアトリス先輩の特訓が、どれだけ厳しいかは知ってるわ。でも、ララやアベルのような理性の塊に負けて、悠真くんを護れなくなったら意味がない」
 アリスは決意に満ちた瞳でルナを見つめた。
「私も強くならないと、悠真くんの一番近くの盾としていられないんだから!」
 彼女の言葉には、戦闘的な覚悟が滲んでいた。
「分かったわ、ルナ! 私の愛の双剣が、ララの理性の盾より強いことを証明してあげる! 悠真くんを独占するのは、この私、アリスなんだから!」
 悠真は、メイドたちの理知的な愛と情熱的な愛という、二つの異なる独占欲の板挟みで、戸惑いを隠せない。彼の優しさは、メイドたち全員の愛のトリガーとなり、理性のメイドすらも論理的な愛の証明へと突き動かしていくのだった。