第7話:制御不能な重力と支配力の覚醒
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1. 平穏な日常の崩壊と重力
パジャマパーティと駆動音の秘密以来、メゾン・ド・バレットの夜は静かだった。
ルナの厳格な規則再徹底のおかげだ。だが、メイドたちの悠真への独占欲は、静かに、確実に燃え続けている。
その日、悠真はカフェのバイト休憩を利用していた。
場所はカフェの裏手にある、営業を終了した古い雑居ビルの屋上。ここはM.A.が選定した秘密の合流地点だ。
この日の護衛担当であるソフィアとアリスに挟まれ、悠真は昼食をとっていた。ソフィアはシックな常連客の装い。 アリスは恋人役としての愛らしい私服姿だ。
「志藤様。このサンドイッチは、私のカロリー計算によると少々糖質オーバーです」
ソフィアがグラマラスな体型を揺らし、悠真のサンドイッチを優しく取り上げた。
「代わりに、こちらのプロテインバーをどうぞ。これも任務の一環です」
「ソフィアさんまで、ルナみたいなことを言うんだな……」
悠真は苦笑いを浮かべた。
ソフィアの母性的な愛情には逆らえない。アリスはソフィアの行動に頬を膨らませた。
「ソフィアさん! 悠真くんの食生活の指導は、公認の恋人である私の管轄だよ!」
「あらあら、アリスちゃんたら。ちょっとはお姉さんにも優先権をくれてもいいじゃないのぉ」
アリスは、ソフィアの抗議を華麗にスルーした。
「ね、悠真くん。今度、私と一緒に、糖質オーバーだけど美味しいパフェを食べに行こうよ!」
アリスは悠真の腕に絡みつく。
周囲の「タラシ」の誤解を植え付ける、いつもの牽制だ。
その時だった。
アスファルトと防水シートで覆われた屋上の地面が、まるで地震のように不気味に軋み始めた。
「ッ! これは……!?」
ルナの冷徹な司令が、悠真の耳元の小型インカムに響く。
「志藤様! 全員、戦闘態勢!」
「ミストの幹部、ゾルゲがこのエリアを狩場として襲撃を開始! 特殊フェロモンの暴走が確認されました!」
悠真の体から、再びあの強烈な吐き気が湧き上がる。
全身の血が逆流するような熱だ。特殊フェロモンが暴走し、周囲の空間を不穏な力で歪ませ始めた。
低い唸り声と共に、2メートル近い巨漢のゾルゲが、屋上へと続く業務用階段の陰から姿を現した。彼は両手に巨大なナックルを装備している。 その体からは、異様な重力のエネルギーが放たれていた。
「な、なんだあいつは!? 化け物か!?」
悠真は現れた敵の異様なオーラに言葉を失った。
ソフィアはシックな装いを崩さず、冷静に悠真を庇った。
「志藤様。落ち着いて。彼はミストの幹部、ゾルゲ。戦闘のプロです」
アリスはいつもの愛らしい笑顔を一瞬で消し去り、冷徹な表情に切り替えた。
「悠真くん、離れないで。彼は危険な能力を持っています」
「私たちが……あなたのメイドです」
アリスの私服、ソフィアのスーツが、ナノレベルの粒子となって分解される。
『Code: My Only Love (私の愛のテリトリー)』
『Code: Holy Sanctuary (聖なる包容の盾)』
虹色の光の粒と共に、漆黒のフリルと純白のラインを持つ戦闘用メイド服へと換装された。アリスの手にはライトニング・ケイン。 ソフィアの手にはアルカナ・シールドが瞬時に装備される。
ゾルゲは巨大なナックルを地面に叩きつけ、屋上の地面をさらに深く軋ませた。
「ようやく姿を現したか、M.A.の女ども。志藤悠真は、俺の重力ナックルで塵となる運命だ!」
「ソフィア、アリス! 志藤様を護衛し、戦闘態勢へ!」
ルナの指令が飛ぶ。
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2. ゾルゲの重力操作とメイドの苦戦
「はっはっは! 防御担当のソフィアと、突撃担当のアリス。完璧な布陣だな!」
悠真は恐怖を感じながらも、メイドたちの連携に信頼を寄せた。
ルナの冷静な司令が響く。
「アリス、突撃! ゾルゲの動きを止めなさい。ソフィアはバリアを維持し、志藤様を護衛!」
アリスは超人的なスピードでゾルゲに肉薄しようとした。
地面を蹴る。
だが、その体が急に沈み込んだ。
「なっ……体が重い! なにこれ、動けない!」
ゾルゲのナックルから放たれた重力操作の力。
周囲の重力を数倍に増幅させている。
サイボーグの運動性能を誇るアリスでも、その重力には抗えない。
「無駄だ、バレット隊! お前たちの超高速体術も、この重力下ではただの鈍重な鉄塊にすぎぬ!」
ゾルゲは嘲笑した。
重力によって動きを封じられたアリスに、巨大なナックルを振り下ろす。
「アリス!」
悠真の悲鳴。
ゾルゲのナックルがアリスの頭上すれすれまで迫った瞬間、ソフィアがその巨体を捩じ込んだ。
ソフィアは心の中で強く唱えた。
『Code: Holy Sanctuary (聖なる包容の盾)……ブーストモード!!』
バリア発生器「アルカナ・シールド」を最大出力で展開する。
ガァンッ!
重力操作を込めたゾルゲの一撃が、シールドの中央に凄まじい衝撃波と重力圧を叩きつけた。
シールドはアリスへの直撃を防いだが、その防御面が大きく歪む。
「ソフィアさんのバリアも……重力で歪んでいる! このままでは限界だ!」
ソフィアのグラマラスな体型が、シールドの維持に耐えかねて震えている。
バリア発生器から不穏な警告音が鳴り響き、ソフィアは限界を悟る。
「ルナ隊長! 重力操作により、アリスとソフィアの連携『ハンマー&シールド・ブレイカー』が機能不全に陥っています!」
遠隔監視を行うクロエの情報分析が、緊迫した状況を伝える。
クロエもまた、重力異常によるドローンの制御困難に苦しんでいた。
「このままではシールドが破壊されます!」
「くそっ、俺が……俺が彼女たちを護れないのか!」
悠真は自分の無力さを痛感した。
メイドたちが自分のせいで苦戦している。
彼の心に激しい後悔と焦りが湧き上がる。
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3. 絶体絶命の危機とアーク・ホープ
ゾルゲは重力操作をさらに強める。
ソフィアの「アルカナ・シールド」に亀裂が入り始めた。
「終わりだ、メイドども!」
ゾルゲは笑いながら、シールドの亀裂にナックルを叩き込んだ。
「そして志藤悠真! お前には、俺の重力ナックルが最高の墓標になる!」
ドゴォンッ!
「きゃっ!」
シールドが完全に破壊された。
ソフィアは屋上の換気設備や瓦礫の中に吹き飛ばされた。
アリスも重力に引きずり込まれ、ゾルゲの巨体に組み伏せられそうになる。
「ソフィアさん! アリス!」
悠真は、最愛のメイドたちが傷つく姿を目の当たりにした。
人生最大の恐怖に襲われた瞬間だ。
その瞬間、彼の体内で、抑え込まれていた「古代の血統」が爆発的に覚醒し始めた。
(嫌だ……! 誰にも、俺のメイドたちを傷つけさせない!)
「ルナ! メイ! クロエ! 状況は!?」
ルナは冷静な司令塔として、最後の判断を下す。
「クロエ、重力による歪みを解析! ゾルゲの力の制御点を割り出すのが最優先よ!」
インカム越しに、メイの焦った声が割り込んできた。
「ルナ隊長、メイを今すぐ現場に出してください! このままじゃソフィアせんぱいとアリスせんぱいがやられちゃう!」
ルナのモノクルが静かに光る。
「佐倉隊員、待機命令続行。なぜなら、あなたの二丁SMGでは、ゾルゲの超硬度の体躯に有効打を与えられません。無駄な特攻は禁ずる」
「くっ……!」
メイは歯噛みする。彼女の得意な超高速体術も、重力操作の前では活かせない。
ルナは対物ライフル「ホーリー・シェル」の銃口をゾルゲの方向へ向けた。
「状況は理解しています。私の対物ライフルでゾルゲの重力結界を強行突破するわ」
「待ってください、ルナ隊長!」
クロエが分析を続けた。
「ゾルゲの重力場は、我々の常備火器の弾道すら歪ませています。隊長の射撃精度をもってしても、弾道が逸れる可能性98パーセント。理論上、有効なのはオリヴィア隊員のアーク・ホープによる『対重力高火力支援』だけです」
ルナは一瞬、眉をひそめたが、すぐに理性を取り戻した。
「承知したわ、クロエ。本部へ目標を送信。オリヴィア隊員に要請する。」
「佐倉隊員(メイ)。オリヴィアの援護直後、ゾルゲの制御が途切れる一瞬の隙を逃さないよう、超高速体術の最大出力で突撃する準備はしておきなさい。それが、あなたの任務です」
「了解です、ルナ隊長!」
――その時、ルナの要請を待たずして、M.A.本部から即座に通信が入った。
「了解、ルナ。相変わらず危ない橋を渡るわね。オリヴィアよ。狙撃の師匠として、いつでも行けるわ」
「さすがオリヴィア姉さん!」
その声は、約12キロメートル離れたM.A.本部から響く、漆黒のロングコートを纏ったオリヴィアのものだった。
「こちらエンジェル・ガード、オリヴィア。M.A.総帥の指令に基づき、遠距離から援護射撃を開始する!」
「オリヴィエさん、クロエです。ターゲット座標おくります。ターゲット、ゾルゲ!」
オリヴィアはエレノア直属の「影の護衛」。
彼女の手に握られた電磁投射砲「アーク・ホープ」が、ゾルゲに向けて青い光の線を放った。
キィィィン!
青い光の線は、約12キロメートルをわずか0.03秒で到達する。
アーク・ホープの強烈な一撃がゾルゲの肩をかすめる。
彼の重力操作が一瞬途切れた。
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4. 支配力の部分覚醒
重力から解放されたアリスは、瞬時にゾルゲの胸元に剣を突き立てようとした。
だが、ゾルゲは一歩も引かない。
「この程度の援護射撃で、俺が止まると思うな!」
ゾルゲは再び重力操作を最大出力で発動させ、悠真に向かって襲いかかった。
「お前だ! お前のフェロモンさえ手に入れば、全てが終わる!」
ゾルゲの巨大なナックルが、悠真の頭上に振り下ろされる。
悠真は、もう誰も自分を護ってくれないと悟った。
命の終わりが来たと思った。
その極限の恐怖と、愛するメイドたちを護りたいという純粋な衝動が、彼の「抑止力」を「支配力」へと転換させた。
「……誰にも、俺に触れるな」
悠真がそう心の中で叫んだ瞬間。
彼の体から放出されていた特殊フェロモンが、色を帯びたかのように目に見えるエネルギーへと変わった。
その青白い光の奔流は、ゾルゲの重力操作と真っ向から衝突した。
「なっ、なんだこの力は!? 重力が……歪む!?」
ゾルゲの体は、悠真のフェロモンが持つ「支配力」によって、強制的に動きを止められた。
それは、異形の存在を抑え込む「抑止力」の強化版だ。
異形の存在への「テイマー(調教者)能力」の片鱗だった。
悠真のフェロモンは、ゾルゲの脳に直接語りかける。
「今すぐ、ここから立ち去れ」という、絶対的な支配の命令を刻み込んだのだ。
ゾルゲは全身から冷や汗を流し、恐怖に顔を歪ませた。
「バカな……古代の血統の『支配力』が、ここで覚醒したというのか……!?」
ゾルゲは予期せぬ能力覚醒を見て、戦慄した。
この能力は、ミストが最も恐れるものだ。
「撤退だ! 一時撤退!」
ゾルゲはそう叫ぶと、重力を解除し、来た時と同じように一瞬で姿を消した。
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5. 覚醒の自覚とメイドたちの忠誠
ゾルゲが撤退したことで、雑居ビルの屋上に静寂が戻る。
瓦礫の中から立ち上がったソフィアは、バリア発生器の破損を確認しつつ、悠真の元に駆け寄った。
「志藤様! お怪我は!? ……まさか、今のは……」
アリスも悠真を抱きしめ、安堵の涙を流した。
「悠真くん、無事なのね! 良かった……!」
「あの時、ゾルゲの体が、一瞬動かなくなった……あれは、悠真くんの力?」
悠真は、自分の体から放出されていた青白いフェロモンが消えていくのを感じながら、呆然と自分の手を見つめた。
(俺の体の中に、こんな力が……ゾルゲの重力に抗って、あいつを『支配』した……?)
ルナの冷静な声がインカムに響く。
「志藤様。あなたは命の危機に瀕したことで、『支配力』が部分的に覚醒しました」
「これはM.A.にとって、極めて重要なデータです。そして、バレット隊全員にとって、あなたを護るという使命が、より大きな意味を持ちました」
クロエは、重力異常のデータを収集しながら報告する。
「データ分析の結果、志藤様のフェロモン暴走が、異形の存在への『テイマー能力』として転換したことが判明しました。これは、ミストが最も恐れる事態です」
悠真は、自分が単なる特異体質ではないことを自覚し始めた。
世界の運命に関わる力を秘めている。
ソフィアが瓦礫の中で、破損したバリア発生器を抱きしめながら、悠真に優しく語りかけた。
「志藤様。私たちはあなたを護るために存在しています」
「あなたがその力を自覚し始めた今、私たちは今まで以上に、あなたを『独占』しなければなりません」
ソフィアの言葉には、母性的な愛と、使命感が混ざり合っていた。
悠真は戸惑いを覚える。
メイドたちが命がけで自分を護ってくれた。
だが、自分の覚醒した力が、彼女たちにさらなる「独占」を促している。
(俺は、護られる対象から……この子たちを護るための力を手に入れ始めたのか?そして、この力は、彼女たちの独占欲を加速させる……)
悠真は、日常が崩壊した不安と、メイドたちの独占欲の嵐の中で、世界の命運を握る覚醒者としての第一歩を踏み出したのだった。
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6.隠蔽工作
その日の夕方。M.A.の事後処理班が現場の完璧な隠蔽工作を終えた後。
テレビのニュース速報が流れた。
『本日午後、都心の雑居ビルが屋上部分から崩壊する事故が発生しました。警察によると、このビルは数年前から営業を終了しており、構造上の老朽化が原因と見られています。幸い、巻き込まれた一般市民はおらず、解体予定が早まる見込みです。』
『また、現場で撮影された一部の動画には、謎の閃光と轟音が記録されていましたが、映像のノイズやいたずらとして処理され、メイド服姿の女性たちが戦うシーンは完璧に削除されたニュース動画が、何事もなかったかのように流されるのだった。
みんなのリアクション
まだリアクションはありません。最初の一歩を踏み出しましょう!
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1. 平穏な日常の崩壊と重力
パジャマパーティと駆動音の秘密以来、メゾン・ド・バレットの夜は静かだった。
ルナの厳格な規則再徹底のおかげだ。だが、メイドたちの悠真への独占欲は、静かに、確実に燃え続けている。
その日、悠真はカフェのバイト休憩を利用していた。
場所はカフェの裏手にある、営業を終了した古い雑居ビルの屋上。ここはM.A.が選定した秘密の合流地点だ。
この日の護衛担当であるソフィアとアリスに挟まれ、悠真は昼食をとっていた。ソフィアはシックな常連客の装い。 アリスは恋人役としての愛らしい私服姿だ。
「志藤様。このサンドイッチは、私のカロリー計算によると少々糖質オーバーです」
ソフィアがグラマラスな体型を揺らし、悠真のサンドイッチを優しく取り上げた。
「代わりに、こちらのプロテインバーをどうぞ。これも任務の一環です」
「ソフィアさんまで、ルナみたいなことを言うんだな……」
悠真は苦笑いを浮かべた。
ソフィアの母性的な愛情には逆らえない。アリスはソフィアの行動に頬を膨らませた。
「ソフィアさん! 悠真くんの食生活の指導は、公認の恋人である私の管轄だよ!」
「あらあら、アリスちゃんたら。ちょっとはお姉さんにも優先権をくれてもいいじゃないのぉ」
アリスは、ソフィアの抗議を華麗にスルーした。
「ね、悠真くん。今度、私と一緒に、糖質オーバーだけど美味しいパフェを食べに行こうよ!」
アリスは悠真の腕に絡みつく。
周囲の「タラシ」の誤解を植え付ける、いつもの牽制だ。
その時だった。
アスファルトと防水シートで覆われた屋上の地面が、まるで地震のように不気味に軋み始めた。
「ッ! これは……!?」
ルナの冷徹な司令が、悠真の耳元の小型インカムに響く。
「志藤様! 全員、戦闘態勢!」
「ミストの幹部、ゾルゲがこのエリアを狩場として襲撃を開始! 特殊フェロモンの暴走が確認されました!」
悠真の体から、再びあの強烈な吐き気が湧き上がる。
全身の血が逆流するような熱だ。特殊フェロモンが暴走し、周囲の空間を不穏な力で歪ませ始めた。
低い唸り声と共に、2メートル近い巨漢のゾルゲが、屋上へと続く業務用階段の陰から姿を現した。彼は両手に巨大なナックルを装備している。 その体からは、異様な重力のエネルギーが放たれていた。
「な、なんだあいつは!? 化け物か!?」
悠真は現れた敵の異様なオーラに言葉を失った。
ソフィアはシックな装いを崩さず、冷静に悠真を庇った。
「志藤様。落ち着いて。彼はミストの幹部、ゾルゲ。戦闘のプロです」
アリスはいつもの愛らしい笑顔を一瞬で消し去り、冷徹な表情に切り替えた。
「悠真くん、離れないで。彼は危険な能力を持っています」
「私たちが……あなたのメイドです」
アリスの私服、ソフィアのスーツが、ナノレベルの粒子となって分解される。
『Code: My Only Love (私の愛のテリトリー)』
『Code: Holy Sanctuary (聖なる包容の盾)』
虹色の光の粒と共に、漆黒のフリルと純白のラインを持つ戦闘用メイド服へと換装された。アリスの手にはライトニング・ケイン。 ソフィアの手にはアルカナ・シールドが瞬時に装備される。
ゾルゲは巨大なナックルを地面に叩きつけ、屋上の地面をさらに深く軋ませた。
「ようやく姿を現したか、M.A.の女ども。志藤悠真は、俺の重力ナックルで塵となる運命だ!」
「ソフィア、アリス! 志藤様を護衛し、戦闘態勢へ!」
ルナの指令が飛ぶ。
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2. ゾルゲの重力操作とメイドの苦戦
「はっはっは! 防御担当のソフィアと、突撃担当のアリス。完璧な布陣だな!」
悠真は恐怖を感じながらも、メイドたちの連携に信頼を寄せた。
ルナの冷静な司令が響く。
「アリス、突撃! ゾルゲの動きを止めなさい。ソフィアはバリアを維持し、志藤様を護衛!」
アリスは超人的なスピードでゾルゲに肉薄しようとした。
地面を蹴る。
だが、その体が急に沈み込んだ。
「なっ……体が重い! なにこれ、動けない!」
ゾルゲのナックルから放たれた重力操作の力。
周囲の重力を数倍に増幅させている。
サイボーグの運動性能を誇るアリスでも、その重力には抗えない。
「無駄だ、バレット隊! お前たちの超高速体術も、この重力下ではただの鈍重な鉄塊にすぎぬ!」
ゾルゲは嘲笑した。
重力によって動きを封じられたアリスに、巨大なナックルを振り下ろす。
「アリス!」
悠真の悲鳴。
ゾルゲのナックルがアリスの頭上すれすれまで迫った瞬間、ソフィアがその巨体を捩じ込んだ。
ソフィアは心の中で強く唱えた。
『Code: Holy Sanctuary (聖なる包容の盾)……ブーストモード!!』
バリア発生器「アルカナ・シールド」を最大出力で展開する。
ガァンッ!
重力操作を込めたゾルゲの一撃が、シールドの中央に凄まじい衝撃波と重力圧を叩きつけた。
シールドはアリスへの直撃を防いだが、その防御面が大きく歪む。
「ソフィアさんのバリアも……重力で歪んでいる! このままでは限界だ!」
ソフィアのグラマラスな体型が、シールドの維持に耐えかねて震えている。
バリア発生器から不穏な警告音が鳴り響き、ソフィアは限界を悟る。
「ルナ隊長! 重力操作により、アリスとソフィアの連携『ハンマー&シールド・ブレイカー』が機能不全に陥っています!」
遠隔監視を行うクロエの情報分析が、緊迫した状況を伝える。
クロエもまた、重力異常によるドローンの制御困難に苦しんでいた。
「このままではシールドが破壊されます!」
「くそっ、俺が……俺が彼女たちを護れないのか!」
悠真は自分の無力さを痛感した。
メイドたちが自分のせいで苦戦している。
彼の心に激しい後悔と焦りが湧き上がる。
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3. 絶体絶命の危機とアーク・ホープ
ゾルゲは重力操作をさらに強める。
ソフィアの「アルカナ・シールド」に亀裂が入り始めた。
「終わりだ、メイドども!」
ゾルゲは笑いながら、シールドの亀裂にナックルを叩き込んだ。
「そして志藤悠真! お前には、俺の重力ナックルが最高の墓標になる!」
ドゴォンッ!
「きゃっ!」
シールドが完全に破壊された。
ソフィアは屋上の換気設備や瓦礫の中に吹き飛ばされた。
アリスも重力に引きずり込まれ、ゾルゲの巨体に組み伏せられそうになる。
「ソフィアさん! アリス!」
悠真は、最愛のメイドたちが傷つく姿を目の当たりにした。
人生最大の恐怖に襲われた瞬間だ。
その瞬間、彼の体内で、抑え込まれていた「古代の血統」が爆発的に覚醒し始めた。
(嫌だ……! 誰にも、俺のメイドたちを傷つけさせない!)
「ルナ! メイ! クロエ! 状況は!?」
ルナは冷静な司令塔として、最後の判断を下す。
「クロエ、重力による歪みを解析! ゾルゲの力の制御点を割り出すのが最優先よ!」
インカム越しに、メイの焦った声が割り込んできた。
「ルナ隊長、メイを今すぐ現場に出してください! このままじゃソフィアせんぱいとアリスせんぱいがやられちゃう!」
ルナのモノクルが静かに光る。
「佐倉隊員、待機命令続行。なぜなら、あなたの二丁SMGでは、ゾルゲの超硬度の体躯に有効打を与えられません。無駄な特攻は禁ずる」
「くっ……!」
メイは歯噛みする。彼女の得意な超高速体術も、重力操作の前では活かせない。
ルナは対物ライフル「ホーリー・シェル」の銃口をゾルゲの方向へ向けた。
「状況は理解しています。私の対物ライフルでゾルゲの重力結界を強行突破するわ」
「待ってください、ルナ隊長!」
クロエが分析を続けた。
「ゾルゲの重力場は、我々の常備火器の弾道すら歪ませています。隊長の射撃精度をもってしても、弾道が逸れる可能性98パーセント。理論上、有効なのはオリヴィア隊員のアーク・ホープによる『対重力高火力支援』だけです」
ルナは一瞬、眉をひそめたが、すぐに理性を取り戻した。
「承知したわ、クロエ。本部へ目標を送信。オリヴィア隊員に要請する。」
「佐倉隊員(メイ)。オリヴィアの援護直後、ゾルゲの制御が途切れる一瞬の隙を逃さないよう、超高速体術の最大出力で突撃する準備はしておきなさい。それが、あなたの任務です」
「了解です、ルナ隊長!」
――その時、ルナの要請を待たずして、M.A.本部から即座に通信が入った。
「了解、ルナ。相変わらず危ない橋を渡るわね。オリヴィアよ。狙撃の師匠として、いつでも行けるわ」
「さすがオリヴィア姉さん!」
その声は、約12キロメートル離れたM.A.本部から響く、漆黒のロングコートを纏ったオリヴィアのものだった。
「こちらエンジェル・ガード、オリヴィア。M.A.総帥の指令に基づき、遠距離から援護射撃を開始する!」
「オリヴィエさん、クロエです。ターゲット座標おくります。ターゲット、ゾルゲ!」
オリヴィアはエレノア直属の「影の護衛」。
彼女の手に握られた電磁投射砲「アーク・ホープ」が、ゾルゲに向けて青い光の線を放った。
キィィィン!
青い光の線は、約12キロメートルをわずか0.03秒で到達する。
アーク・ホープの強烈な一撃がゾルゲの肩をかすめる。
彼の重力操作が一瞬途切れた。
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4. 支配力の部分覚醒
重力から解放されたアリスは、瞬時にゾルゲの胸元に剣を突き立てようとした。
だが、ゾルゲは一歩も引かない。
「この程度の援護射撃で、俺が止まると思うな!」
ゾルゲは再び重力操作を最大出力で発動させ、悠真に向かって襲いかかった。
「お前だ! お前のフェロモンさえ手に入れば、全てが終わる!」
ゾルゲの巨大なナックルが、悠真の頭上に振り下ろされる。
悠真は、もう誰も自分を護ってくれないと悟った。
命の終わりが来たと思った。
その極限の恐怖と、愛するメイドたちを護りたいという純粋な衝動が、彼の「抑止力」を「支配力」へと転換させた。
「……誰にも、俺に触れるな」
悠真がそう心の中で叫んだ瞬間。
彼の体から放出されていた特殊フェロモンが、色を帯びたかのように目に見えるエネルギーへと変わった。
その青白い光の奔流は、ゾルゲの重力操作と真っ向から衝突した。
「なっ、なんだこの力は!? 重力が……歪む!?」
ゾルゲの体は、悠真のフェロモンが持つ「支配力」によって、強制的に動きを止められた。
それは、異形の存在を抑え込む「抑止力」の強化版だ。
異形の存在への「テイマー(調教者)能力」の片鱗だった。
悠真のフェロモンは、ゾルゲの脳に直接語りかける。
「今すぐ、ここから立ち去れ」という、絶対的な支配の命令を刻み込んだのだ。
ゾルゲは全身から冷や汗を流し、恐怖に顔を歪ませた。
「バカな……古代の血統の『支配力』が、ここで覚醒したというのか……!?」
ゾルゲは予期せぬ能力覚醒を見て、戦慄した。
この能力は、ミストが最も恐れるものだ。
「撤退だ! 一時撤退!」
ゾルゲはそう叫ぶと、重力を解除し、来た時と同じように一瞬で姿を消した。
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5. 覚醒の自覚とメイドたちの忠誠
ゾルゲが撤退したことで、雑居ビルの屋上に静寂が戻る。
瓦礫の中から立ち上がったソフィアは、バリア発生器の破損を確認しつつ、悠真の元に駆け寄った。
「志藤様! お怪我は!? ……まさか、今のは……」
アリスも悠真を抱きしめ、安堵の涙を流した。
「悠真くん、無事なのね! 良かった……!」
「あの時、ゾルゲの体が、一瞬動かなくなった……あれは、悠真くんの力?」
悠真は、自分の体から放出されていた青白いフェロモンが消えていくのを感じながら、呆然と自分の手を見つめた。
(俺の体の中に、こんな力が……ゾルゲの重力に抗って、あいつを『支配』した……?)
ルナの冷静な声がインカムに響く。
「志藤様。あなたは命の危機に瀕したことで、『支配力』が部分的に覚醒しました」
「これはM.A.にとって、極めて重要なデータです。そして、バレット隊全員にとって、あなたを護るという使命が、より大きな意味を持ちました」
クロエは、重力異常のデータを収集しながら報告する。
「データ分析の結果、志藤様のフェロモン暴走が、異形の存在への『テイマー能力』として転換したことが判明しました。これは、ミストが最も恐れる事態です」
悠真は、自分が単なる特異体質ではないことを自覚し始めた。
世界の運命に関わる力を秘めている。
ソフィアが瓦礫の中で、破損したバリア発生器を抱きしめながら、悠真に優しく語りかけた。
「志藤様。私たちはあなたを護るために存在しています」
「あなたがその力を自覚し始めた今、私たちは今まで以上に、あなたを『独占』しなければなりません」
ソフィアの言葉には、母性的な愛と、使命感が混ざり合っていた。
悠真は戸惑いを覚える。
メイドたちが命がけで自分を護ってくれた。
だが、自分の覚醒した力が、彼女たちにさらなる「独占」を促している。
(俺は、護られる対象から……この子たちを護るための力を手に入れ始めたのか?そして、この力は、彼女たちの独占欲を加速させる……)
悠真は、日常が崩壊した不安と、メイドたちの独占欲の嵐の中で、世界の命運を握る覚醒者としての第一歩を踏み出したのだった。
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6.隠蔽工作
その日の夕方。M.A.の事後処理班が現場の完璧な隠蔽工作を終えた後。
テレビのニュース速報が流れた。
『本日午後、都心の雑居ビルが屋上部分から崩壊する事故が発生しました。警察によると、このビルは数年前から営業を終了しており、構造上の老朽化が原因と見られています。幸い、巻き込まれた一般市民はおらず、解体予定が早まる見込みです。』
『また、現場で撮影された一部の動画には、謎の閃光と轟音が記録されていましたが、映像のノイズやいたずらとして処理され、メイド服姿の女性たちが戦うシーンは完璧に削除されたニュース動画が、何事もなかったかのように流されるのだった。