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第5話:カフェの同僚と秘密の恋人(独占欲の片鱗)

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 1. 日常の再開と公然の牽制

 M.A.本部での謁見を終え、志藤悠真の心境は大きく変わった。自分が単なる護衛対象ではなく、世界の運命を握る『抑止力』であるという使命を自覚したからだ。

 ルナの判断により、悠真はカフェのバイトを再開することが許可された。セーフハウスに引きこもるよりも、日常に触れる方が精神的な安定につながるという結論だった。

 ただし、もちろん厳戒態勢だ。護衛は公認の恋人役であるアリスがメインで、彼女もカフェのバイトとして悠真に付き添う。

「さあ、悠真くん! 今日も私たち二人の甘い日常を、みんなに見せつけてあげよっか!」

 アリスはいつもの人懐っこい笑顔で悠真の腕に絡みつく。このスキンシップは、周囲への「悠真は私の恋人だ」という公然の牽制であり、同時にルナやエレノアへの「私が最前線の独占権を持っている」という主張でもあった。

 店内に客がいない間に、悠真はアリスに尋ねた。

「なあ、アリス。ルナの制裁の夜、君がサイボーグだって聞いて……怖くなかったって言ったら嘘になる」

「そうだよね」

 アリスは腕の力を緩めず、少し寂しそうに微笑んだ。

「でも、悠真くんが言ってくれた言葉……『君が好きでいてくれるなら、本物だと信じる』って。あれ、すごく嬉しかったの。だからもう、私は任務なんて関係なく、悠真くんを誰にも渡さないからね」
「わかってるよ」
「わかってない!」

 アリスは突然、悠真の唇にキスを落とした。周囲に人がいないとはいえ、突然の行動に悠真は心臓が跳ね上がる。

「っ、アリス! ここはバイト先だぞ!」
「ふふっ。恋人同士なら、これくらい普通だよ? これも、『公認の恋人役』の特権ってことで!」

 アリスはそう言って笑ったが、その瞳の奥には、エレノア総帥の言葉に対する焦りや、悠真への本気の独占欲が隠されているのが、悠真にも伝わってきた。

 彼女の積極的な行動は、悠真の周囲からの「タラシ」という誤解をますます深め、公然と牽制することで、任務を越えた本気の独占欲を強調していた。

 _____________________
 2. 日常の裏側の孤独

 夕方、店の賑わいが落ち着いた頃。

 カフェは裏通りに面した一角にあり、緑の蔦が絡まるクラシックな外装と、「かふぇ・ひだまり」というひらがなの店名が、隠れ家のような雰囲気を醸し出していた。

「あれ? マスターは?」
「マスターはさっき、二階で寝るって言ってました。昨晩、趣味の観葉植物を植え替えるのに徹夜しちゃったみたいで。私たちだけで、静かな日常を楽しみましょうね、悠真くん」

 悠真とアリス、そして窓際の席でリモートワークをしているソフィアの三人以外に、客はもういなかった。マスターの趣味で集められた多肉植物がカウンターに並び、店内に漂う香りは、こだわりのサイフォン式コーヒーメーカーから淹れた深煎りの豆の香りだ。

 悠真は、そんなマスターのゆるいところが案外好きだった。平和主義の自分とどこか似ている気がする。

 その時、店のドアが開き、黒髪メガネのクロエがノートPCを抱えて入ってきた。

「志藤様、有栖川。お疲れ様です。マスターの淹れる『ひだまりブレンド』を四つ、サンドイッチを二つ、あとタルトケーキも四つ、テイクアウトでお願いします」

 クロエは道の向いにあるM.A.の潜伏事務所からコーヒーを買いに来たのだ。彼女はノートPCを小脇に抱え、悠真にだけ聞こえる程度の小さな声で付け加えた。

「これは、ルナ隊長と、『翻訳事務所』の職員の方々の分もです。ルナ隊長から『志藤様が平和な日常に戻っているか、確認してくるように』と」

 悠真が思わず「うわ、いっぱい買うね」と言うと、クロエは片目だけを閉じて軽くウインクした。

「ええ。夕食後のデザートなんです~。マスターのタルトは美味しいですから、ついついね」

 すぐにメニューに目を戻したが、その視線の奥で、何らかのデータ収集を行っているのが悠真にはわかった。

「クロエさんもお疲れ様。今すぐ淹れるよ」

 悠真がコーヒーを淹れている間、クロエはアリスに冷めた視線を送った。

「有栖川隊員。志藤様への過剰な接触は、抑止力制御のデータ収集を妨げます。特に、ああいった公衆の場でのキスは、周囲の人間関係を複雑化させるノイズです」
「ふふん。クロエは『研究』という名目で、悠真くんのフェロモンを分析したいだけでしょう? 私は『恋人』という公認の立場で、精神的な安定という最も重要な抑止力を担っているのよ。ノイズを出すのはそっちでしょう?」

 二人の間の静かな火花をよそに、ソフィアは優雅にキーボードを打ちながら、悠真に声をかけた。

「志藤様、お疲れのようね。私からも常連客として、最高の癒やしを差し上げたいわ。クロエさんがいるから、今日は無理かしら?」

 悠真は、「公認の恋人役」アリス、「研究対象」クロエ、「常連客」ソフィアという三人のメイドに囲まれ、大学外でも「タラシ」という誤解を加速させている状況に、内心冷や汗をかいた。

 悠真は、アリスが客のいないテーブルを拭いている後ろ姿に話しかけた。

「ねえ、アリス。君は、自分の体が機械だってこと、どう思ってるんだ? 痛くないの?」

 アリスは手を止めた。

「痛覚は、ほとんどオフにしてる。でも、悠真くんと話していると、時々『人間だった頃の自分』や『人間としての感情』を強く意識するよ」

 アリスは静かに振り返った。

「私がサイボーグになったのは、愛する人を護るためだった。でも、その『愛』もフェロモンの影響だと言われたら、私は何のために戦っているんだろうって、迷うこともあったよ」

 彼女の表情から、いつもの明るさは消え、サイボーグとしての孤独が滲んでいた。

「でも、もう迷わない。私の『独占欲』は、もうフェロモンの影響なんかじゃない。エレノア様やルナ隊長に牽制されても、悠真くんのそばにいたいって思う、これは私自身の『愛』なんだよ」

 彼女がそう言い切った瞬間、店外で微かな異変が起きた。

 _____________________
 3. 突発的な襲撃と戦闘モード

 突然、カフェの窓ガラスが振動し、外から聞き慣れた異形の呻き声が聞こえてきた。

「グール……! しかも小型の下級グールが二体!」

 ソフィアが即座に立ち上がり、シックなスーツの下に仕込まれたアーマーを起動させようとした。

「有栖川! 志藤様の安全確保を最優先! 私はバリアを展開する!」
「待って、ソフィアさん!」

 アリスはソフィアを制した。

「小型グール程度、公認の恋人である私が、単独で対処する。悠真くん、私から離れないで!」

 アリスがカウンターの上を飛び越えた。そして跳躍しながら、言葉を紡ぐ。

『Code: My Only Love (私の愛のテリトリー)……』

 アリスは瞬時に戦闘モードへ移行。カフェの制服がナノレベルで分解され、漆黒のフリルと純白のラインを持つ戦闘用メイド服へと換装された。彼女の手には、銀色のブレード状の特殊警棒「ライトニング・ケイン」が青く怪しく光り、機械的な精密さと魔道の力が融合したような輝きを放つ。

「ターゲット確認! 排除プロセス、開始!」

 アリスはもはや恋人ではない。その瞳は冷たく、純粋な殺意を宿したグールに対し、一瞬で超人的なスピードで残像を残しながら移動した。

 悠真はアリスの明るさの裏にある冷徹さと、任務を越えた本物の独占欲の片鱗に、改めて驚愕する。

「誰にも悠真くんの命を狙わせない!」

 アリスは青い輝きを放つ特殊警棒「ライトニング・ケイン」を振り下ろした。電磁パルスを帯びた一撃がグールの硬質化した皮膚を叩き割り、動きを止める。

 _____________________
 4. 孤独と本物の独占欲

 二体のグールを瞬殺した後、アリスは深呼吸をし、再び制服へと換装を完了させた。彼女の髪は乱れ、額にはうっすらと汗が滲んでいた。

「ふう。これで終わり。悠真くん、怪我はない?」

「あ、ああ……大丈夫だ。ありがとう、アリス。すごいな、君は」

 悠真が心からの感謝を伝えると、アリスは突然、彼の身体に抱きついてきた。それは任務でも、牽制でもない、震える体と、安心を求める人間的な抱擁だった。

「良かった……。私の独占権を、邪魔されなくて良かった……」

 アリスは顔を埋めたまま、小さな声で呟いた。

「悠真くん。私、サイボーグだけど、体は女性の体なの。あなたを護る任務を越えて、恋人同士なら、もっと進展があってもいいはずだよね?」

 彼女の言葉は、エレノアの牽制に対する焦りと、任務やフェロモンの影響による独占欲の暴走から発せられたものだった。

 その夜、メゾン・ド・バレットに戻った後。

 ルナが自室にいることを確認すると、アリスは静かに悠真の部屋のドアを開けた。

「悠真くん……エレノア様に、任務も独占権も奪われたくないの。だから……」

 アリスはメイド服のスカートを脱ぎ、タイトな下着姿になった。完璧な女性の体と、その下に隠された超硬度アーマーの無機質な接合部の対比が、悠真の意識を強烈に惹きつける。

「っ、ア、アリス……!?」

 悠真は心臓が口から飛び出しそうなほど焦った。目の前のアリスの姿は、あまりにも魅力的で、同時に彼女が抱える切羽詰まった焦燥感が痛いほど伝わってきたからだ。

 ルナの理性的な注意が飛んでくる前に、アリスは悠真に迫った。彼女の目には、エレノアに譲れないという本気の独占欲が燃え上がっていた。

「私の愛は、本物だって証明させて。ルナ隊長にも、エレノア様にも、誰にも邪魔させない! あなたを独占するのは、この私なんだから!」

 その切羽詰まった表情と、荒い息遣いを見て、悠真は少し冷静にならなければと感じた。

「待ってくれ、アリス。ちょ、ちょっとだけ落ち着いてくれ」

 悠真は震える手でアリスの肩に触れ、優しく制止した。

「君が焦ってるのはわかる。エレノア総帥のことも、君の気持ちも、全部。でも、俺は君とのことを、ちゃんとステップアップしていきたいんだ」
「ステップ……アップ?」

 アリスの表情から、一瞬にして戦闘的な独占欲の炎が消え、彼女は大きく目を見開いた。その瞳には、混乱と、そして微かな羞恥心が浮かんでいた。

 悠真の「ちゃんとステップアップしたい」という言葉は、彼女の焦燥的な「任務を超えた暴走」を否定しつつも、彼女への愛を否定するものではないという、極めて誠実なメッセージだった。

「ご、ごめんなさい、悠真くん……私、冷静じゃなかったわ。エレノア様の言葉と、今日の戦闘で……」

 アリスはスカートを拾い上げ、顔を真っ赤にして部屋の隅に座り込んだ。

 任務と愛の板挟みで、アリスの行動は任務の範囲を超え、本物の独占欲の暴走へと加速していたが、悠真の誠実な一言で、彼女は人間的な理性と羞恥心を取り戻したのだった。






みんなのリアクション

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 1. 日常の再開と公然の牽制
 M.A.本部での謁見を終え、志藤悠真の心境は大きく変わった。自分が単なる護衛対象ではなく、世界の運命を握る『抑止力』であるという使命を自覚したからだ。
 ルナの判断により、悠真はカフェのバイトを再開することが許可された。セーフハウスに引きこもるよりも、日常に触れる方が精神的な安定につながるという結論だった。
 ただし、もちろん厳戒態勢だ。護衛は公認の恋人役であるアリスがメインで、彼女もカフェのバイトとして悠真に付き添う。
「さあ、悠真くん! 今日も私たち二人の甘い日常を、みんなに見せつけてあげよっか!」
 アリスはいつもの人懐っこい笑顔で悠真の腕に絡みつく。このスキンシップは、周囲への「悠真は私の恋人だ」という公然の牽制であり、同時にルナやエレノアへの「私が最前線の独占権を持っている」という主張でもあった。
 店内に客がいない間に、悠真はアリスに尋ねた。
「なあ、アリス。ルナの制裁の夜、君がサイボーグだって聞いて……怖くなかったって言ったら嘘になる」
「そうだよね」
 アリスは腕の力を緩めず、少し寂しそうに微笑んだ。
「でも、悠真くんが言ってくれた言葉……『君が好きでいてくれるなら、本物だと信じる』って。あれ、すごく嬉しかったの。だからもう、私は任務なんて関係なく、悠真くんを誰にも渡さないからね」
「わかってるよ」
「わかってない!」
 アリスは突然、悠真の唇にキスを落とした。周囲に人がいないとはいえ、突然の行動に悠真は心臓が跳ね上がる。
「っ、アリス! ここはバイト先だぞ!」
「ふふっ。恋人同士なら、これくらい普通だよ? これも、『公認の恋人役』の特権ってことで!」
 アリスはそう言って笑ったが、その瞳の奥には、エレノア総帥の言葉に対する焦りや、悠真への本気の独占欲が隠されているのが、悠真にも伝わってきた。
 彼女の積極的な行動は、悠真の周囲からの「タラシ」という誤解をますます深め、公然と牽制することで、任務を越えた本気の独占欲を強調していた。
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 2. 日常の裏側の孤独
 夕方、店の賑わいが落ち着いた頃。
 カフェは裏通りに面した一角にあり、緑の蔦が絡まるクラシックな外装と、「かふぇ・ひだまり」というひらがなの店名が、隠れ家のような雰囲気を醸し出していた。
「あれ? マスターは?」
「マスターはさっき、二階で寝るって言ってました。昨晩、趣味の観葉植物を植え替えるのに徹夜しちゃったみたいで。私たちだけで、静かな日常を楽しみましょうね、悠真くん」
 悠真とアリス、そして窓際の席でリモートワークをしているソフィアの三人以外に、客はもういなかった。マスターの趣味で集められた多肉植物がカウンターに並び、店内に漂う香りは、こだわりのサイフォン式コーヒーメーカーから淹れた深煎りの豆の香りだ。
 悠真は、そんなマスターのゆるいところが案外好きだった。平和主義の自分とどこか似ている気がする。
 その時、店のドアが開き、黒髪メガネのクロエがノートPCを抱えて入ってきた。
「志藤様、有栖川。お疲れ様です。マスターの淹れる『ひだまりブレンド』を四つ、サンドイッチを二つ、あとタルトケーキも四つ、テイクアウトでお願いします」
 クロエは道の向いにあるM.A.の潜伏事務所からコーヒーを買いに来たのだ。彼女はノートPCを小脇に抱え、悠真にだけ聞こえる程度の小さな声で付け加えた。
「これは、ルナ隊長と、『翻訳事務所』の職員の方々の分もです。ルナ隊長から『志藤様が平和な日常に戻っているか、確認してくるように』と」
 悠真が思わず「うわ、いっぱい買うね」と言うと、クロエは片目だけを閉じて軽くウインクした。
「ええ。夕食後のデザートなんです~。マスターのタルトは美味しいですから、ついついね」
 すぐにメニューに目を戻したが、その視線の奥で、何らかのデータ収集を行っているのが悠真にはわかった。
「クロエさんもお疲れ様。今すぐ淹れるよ」
 悠真がコーヒーを淹れている間、クロエはアリスに冷めた視線を送った。
「有栖川隊員。志藤様への過剰な接触は、抑止力制御のデータ収集を妨げます。特に、ああいった公衆の場でのキスは、周囲の人間関係を複雑化させるノイズです」
「ふふん。クロエは『研究』という名目で、悠真くんのフェロモンを分析したいだけでしょう? 私は『恋人』という公認の立場で、精神的な安定という最も重要な抑止力を担っているのよ。ノイズを出すのはそっちでしょう?」
 二人の間の静かな火花をよそに、ソフィアは優雅にキーボードを打ちながら、悠真に声をかけた。
「志藤様、お疲れのようね。私からも常連客として、最高の癒やしを差し上げたいわ。クロエさんがいるから、今日は無理かしら?」
 悠真は、「公認の恋人役」アリス、「研究対象」クロエ、「常連客」ソフィアという三人のメイドに囲まれ、大学外でも「タラシ」という誤解を加速させている状況に、内心冷や汗をかいた。
 悠真は、アリスが客のいないテーブルを拭いている後ろ姿に話しかけた。
「ねえ、アリス。君は、自分の体が機械だってこと、どう思ってるんだ? 痛くないの?」
 アリスは手を止めた。
「痛覚は、ほとんどオフにしてる。でも、悠真くんと話していると、時々『人間だった頃の自分』や『人間としての感情』を強く意識するよ」
 アリスは静かに振り返った。
「私がサイボーグになったのは、愛する人を護るためだった。でも、その『愛』もフェロモンの影響だと言われたら、私は何のために戦っているんだろうって、迷うこともあったよ」
 彼女の表情から、いつもの明るさは消え、サイボーグとしての孤独が滲んでいた。
「でも、もう迷わない。私の『独占欲』は、もうフェロモンの影響なんかじゃない。エレノア様やルナ隊長に牽制されても、悠真くんのそばにいたいって思う、これは私自身の『愛』なんだよ」
 彼女がそう言い切った瞬間、店外で微かな異変が起きた。
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 3. 突発的な襲撃と戦闘モード
 突然、カフェの窓ガラスが振動し、外から聞き慣れた異形の呻き声が聞こえてきた。
「グール……! しかも小型の下級グールが二体!」
 ソフィアが即座に立ち上がり、シックなスーツの下に仕込まれたアーマーを起動させようとした。
「有栖川! 志藤様の安全確保を最優先! 私はバリアを展開する!」
「待って、ソフィアさん!」
 アリスはソフィアを制した。
「小型グール程度、公認の恋人である私が、単独で対処する。悠真くん、私から離れないで!」
 アリスがカウンターの上を飛び越えた。そして跳躍しながら、言葉を紡ぐ。
『Code: My Only Love (私の愛のテリトリー)……』
 アリスは瞬時に戦闘モードへ移行。カフェの制服がナノレベルで分解され、漆黒のフリルと純白のラインを持つ戦闘用メイド服へと換装された。彼女の手には、銀色のブレード状の特殊警棒「ライトニング・ケイン」が青く怪しく光り、機械的な精密さと魔道の力が融合したような輝きを放つ。
「ターゲット確認! 排除プロセス、開始!」
 アリスはもはや恋人ではない。その瞳は冷たく、純粋な殺意を宿したグールに対し、一瞬で超人的なスピードで残像を残しながら移動した。
 悠真はアリスの明るさの裏にある冷徹さと、任務を越えた本物の独占欲の片鱗に、改めて驚愕する。
「誰にも悠真くんの命を狙わせない!」
 アリスは青い輝きを放つ特殊警棒「ライトニング・ケイン」を振り下ろした。電磁パルスを帯びた一撃がグールの硬質化した皮膚を叩き割り、動きを止める。
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 4. 孤独と本物の独占欲
 二体のグールを瞬殺した後、アリスは深呼吸をし、再び制服へと換装を完了させた。彼女の髪は乱れ、額にはうっすらと汗が滲んでいた。
「ふう。これで終わり。悠真くん、怪我はない?」
「あ、ああ……大丈夫だ。ありがとう、アリス。すごいな、君は」
 悠真が心からの感謝を伝えると、アリスは突然、彼の身体に抱きついてきた。それは任務でも、牽制でもない、震える体と、安心を求める人間的な抱擁だった。
「良かった……。私の独占権を、邪魔されなくて良かった……」
 アリスは顔を埋めたまま、小さな声で呟いた。
「悠真くん。私、サイボーグだけど、体は女性の体なの。あなたを護る任務を越えて、恋人同士なら、もっと進展があってもいいはずだよね?」
 彼女の言葉は、エレノアの牽制に対する焦りと、任務やフェロモンの影響による独占欲の暴走から発せられたものだった。
 その夜、メゾン・ド・バレットに戻った後。
 ルナが自室にいることを確認すると、アリスは静かに悠真の部屋のドアを開けた。
「悠真くん……エレノア様に、任務も独占権も奪われたくないの。だから……」
 アリスはメイド服のスカートを脱ぎ、タイトな下着姿になった。完璧な女性の体と、その下に隠された超硬度アーマーの無機質な接合部の対比が、悠真の意識を強烈に惹きつける。
「っ、ア、アリス……!?」
 悠真は心臓が口から飛び出しそうなほど焦った。目の前のアリスの姿は、あまりにも魅力的で、同時に彼女が抱える切羽詰まった焦燥感が痛いほど伝わってきたからだ。
 ルナの理性的な注意が飛んでくる前に、アリスは悠真に迫った。彼女の目には、エレノアに譲れないという本気の独占欲が燃え上がっていた。
「私の愛は、本物だって証明させて。ルナ隊長にも、エレノア様にも、誰にも邪魔させない! あなたを独占するのは、この私なんだから!」
 その切羽詰まった表情と、荒い息遣いを見て、悠真は少し冷静にならなければと感じた。
「待ってくれ、アリス。ちょ、ちょっとだけ落ち着いてくれ」
 悠真は震える手でアリスの肩に触れ、優しく制止した。
「君が焦ってるのはわかる。エレノア総帥のことも、君の気持ちも、全部。でも、俺は君とのことを、ちゃんとステップアップしていきたいんだ」
「ステップ……アップ?」
 アリスの表情から、一瞬にして戦闘的な独占欲の炎が消え、彼女は大きく目を見開いた。その瞳には、混乱と、そして微かな羞恥心が浮かんでいた。
 悠真の「ちゃんとステップアップしたい」という言葉は、彼女の焦燥的な「任務を超えた暴走」を否定しつつも、彼女への愛を否定するものではないという、極めて誠実なメッセージだった。
「ご、ごめんなさい、悠真くん……私、冷静じゃなかったわ。エレノア様の言葉と、今日の戦闘で……」
 アリスはスカートを拾い上げ、顔を真っ赤にして部屋の隅に座り込んだ。
 任務と愛の板挟みで、アリスの行動は任務の範囲を超え、本物の独占欲の暴走へと加速していたが、悠真の誠実な一言で、彼女は人間的な理性と羞恥心を取り戻したのだった。