古王討伐後、ヒカルが創設した新体制は順調に動いていたが、愛の嫉妬が絡むと王国の火力そのものが不安定になった。特に、紅蓮の激情竜姫レヴィアと蒼玉の理性竜姫アクアが共同で指揮する炎水ユニゾンの訓練は、毎日が波乱だった。
この日のユニゾン訓練も、訓練場を水蒸気で覆い尽くす大失敗に終わった。
「フレア! なぜブレスの魔力構成を乱す!」
レヴィアが炎を噴き出し、爆炎龍将軍フレアを叱責する。
「レヴィア様、申し訳ありません! しかし、深海の戦術師シエルの監査が、あまりにも非合理的です!」
フレアが怒りの矛先を、ユニゾンの中継点にいたシエルに向ける。シエルは眼鏡の奥で冷徹な光を放ち、タブレット端末で財務データを示した。
「フレア将軍。訓練中の貴方の炎の魔力消費は、王国の資産として15パーセント非合理的に高すぎます。無駄な情熱は、ユニゾンのノイズです」
「貴様は! 俺のレヴィア様への忠誠心の炎を、『無駄な情熱』と断じるのか!? 貴様の冷たい理性こそ、王の愛の調律を乱す最大のノイズだ!」
「論理的に見て、情熱は感情の暴走です。貴方の王への忠誠は、軍務の効率で証明されるべきです」
この二人のやり取りは、完全に愛憎の痴話げんかだった。シエルの冷徹な愛の定義は、フレアの武人としての誇りを深く傷つけていた。
◇◆◇◆◇
訓練場を支配する緊迫した空気に、レヴィアが額を押さえる。
「あぁ、もう! フレア! シエル! 貴様たちの私情で、なぜ王の絶対的な火力を乱すのだ!」
普段は冷静沈着なアクアも、この状況に頭痛を覚えたかのように、レヴィアと顔を見合わせた。
「レヴィア。落ち着きなさい。二人の問題は、愛の形を巡る主導権争いよ。仕方ないわね。私たち二人が、炎水ユニゾンで愛の圧力を見せるしかないわ」
「ふん! 仕方ないわね、アクア。あの二人の痴話げんかを収めるためなら、貴様との共同戦線も辞さないわ!」
レヴィアとアクアが、シエルとフレアの間に割り込み、それぞれの炎と水の魔力を解放した。二人の竜姫の愛の圧力が、フレアの情熱とシエルの理性を包み込み、二人の間の愛憎の不協和音を一時的に沈静化させた。
「静かにしなさい、フレア! 公衆の面前でアクアの補佐を脅すとは何事!」
紅蓮の激情竜姫レヴィアは、我が補佐竜が夫の側近に手を出したことに激昂し、炎を噴き出す。
「レヴィア、あなたの言う通りです。シエル、貴女の論理も補佐竜同士の協調性という観点では破綻しているわ」
蒼玉の理性竜姫アクアは、いつになく感情的な声で、冷静に二人を仲裁しようとする。
「いいか、フレア。貴様の愛は力、シエルの愛は知恵だ。どちらも王の不可欠な要素だというのに、なぜそこで争うのか!?」
「レヴィア! 貴女の愛は情熱、私の愛は理性。なぜ私たちが王の義務を果たすために、共同で痴話喧嘩の仲裁をしなければならないの!」
対極の愛を持つ二人の竜姫が、頭を抱えて共同で叱責するという、滅多に見られない光景に、フレアとシエルは、自らの痴話喧嘩が王国のトップ層を巻き込んだ事実に、恥ずかしさで顔を赤くした。
竜姫たちの仲裁により、二人は我に返った。シエルが、いつもの冷徹な仮面を崩し、しおらしく折れた。
「フレア将軍、この度は私の論理的な愛が貴方を追い詰めた。謝罪します。どうか、私に王の戦略を支える理性的な伴侶としての名誉を与えてください」
フレアは、シエルのしおらしい姿にドキドキしながら、王の未来への決意を口にした。
「シエル…………貴様の愛を論理で語ることはやめろ。俺の愛は感情だ。だが、俺は王の未来の希望を護りたい。シエル、貴様と共に、王の愛の調律を軍務として支えていく。それが、俺の贖罪だ」
◇◆◇◆◇
二人の和解を見届けたレヴィアは、腰をくねらせながらアクアに寄り添った。
「ふふふ。見てアクア。夫の裁定が下る前に、私と貴様の愛の圧力で、あの二人はしおらしくなったわ。やっぱり私たち二人の愛が最強ね。ねぇ、夫?」
アクアは珍しく微笑み、冷静さを装いつつも、レヴィアの愛の独占欲に合わせた。
「王よ。我々二人の合理的かつ情熱的な仲裁が、軍の内部亀裂を修復しました。王妃の務めは、愛の調律で王国の秩序を護ることです。ね、レヴィア」
ヒカルは、二人の竜姫の自発的な行動と、その後のコミカルなデレに、心からの安堵を覚えた。
「よくやった、レヴィア! そしてアクア! お前たちの自発的な協調こそが、炎水のユニゾンの最高の調律だ! まさに王の愛に値する功績だ!」
ヒカルは、二人の妻が対極の愛を持ちながら協力して事態を収束させたことに、心からの賞賛を与えた。
「お前たちの協調性こそが、この王国の最強の絆だ。二人の妻への愛の報酬として、今夜は特別な安寧を許可しよう」
レヴィアは、ヒカルの心からの賞賛に、体全体でうねうねと喜びを表現し、ヒカルの胸に顔を埋めた。
「ふ、ふふふ…………! 夫、私をもっと褒めて! 特別にもっと可愛がってくれるのね!?」
アクアも、理性の仮面が崩れるほどに顔を赤らめ、ヒカルの腕にそっと触れた。
「王…………貴方の合理的判断と愛情が、私を、論理を超えた喜びで満たします。私を理性という名の愛で、存分にお褒めください…………」
竜姫たちのデレデレな姿を見たシエルとフレアは、別の意味での恥ずかしさを覚えた。
シエルは、ヒカルを崇拝するあまり感情を露わにする竜姫たちを見て、無意識のうちに「補佐竜として、王妃の教育を誤ったのではないか」と自己反省した。
フレアは、竜姫たちがヒカルへの愛で熱狂する姿と、自分がシエルと痴話げんかをしていた事実を比較し、居た堪れない気持ちになった。
ヒカルは、この愛の奔流を収束させるべく、最終的な裁定を下した。
「シエル、フレア! お前たちの愛の葛藤は、もう終わった。お前たちの愛は、王国の未来の希望を叶えるために使え!」
フレアはシエルと共に深々と頭を下げた。
「御意! 王! 我々の愛は、王の未来の希望をかなえる最高の火力となりましょう!」
◇◆◇◆◇
騒動が収束し、玉座の間が静まり返った後、ヒカルは一人、王座に深く腰掛けた。
「未来の希望、か…………」
ヒカルは自らの王の義務を繰り返し、その重さを噛み締めた。
(俺は、竜の国を統一した。愛する妻たちがいる。軍団は最強の戦力を得た。だが、俺は人間社会への復讐を望んでいない。真の目的は、人間と竜が真に共存できる世界の創造だ…………)
しかし、ヒカルの脳裏には、リリアの最期の姿と、仇敵カインの冷徹な笑みが焼き付いていた。
(俺は、復讐を未来の希望という言葉でごまかしているのではないか? カインを討つこと、人間社会の腐敗を打ち砕くこと――それは、愛なのか、それとも憎悪なのか?)
ヒカルの絆の共感者の異能は、六龍姫の純粋な愛の音色を拾い続ける。
(この愛の力を、復讐という破壊の音色に使うのか? それとも、共存という創造の和声に使うのか?)
ヒカルは静かに目を閉じた。次の戦いが、ヒカル自身の魂が復讐か希望か、最終的な決断を迫られる愛の調律となることを予感しながら。