第二十七話:炎と水の誓い、愛の成熟
ー/ー 紅蓮の激情竜姫レヴィアと蒼玉の理性竜姫アクアは、シエルとアウラに隔離されてから丸一日、ヒカルの病室の前で静かなる愛の戦いを続けていた。ヒカルが目覚めたのは、翌日の夜明け前。
ヒカルが目覚め、シエルとアウラから簡単な診断を受けた後、最初に病室への入室を許されたのは、炎の姫レヴィアだった。彼女はいつもの情熱的な衣装ではなく、静かな白いローブを纏っていた。
「夫……」
レヴィアは、ヒカルの寝台の傍らにひざまずき、涙ぐんでいた。その姿は、いつもの激情的な竜姫の威圧感を完全に消し去り、愛する夫を案じる一人の妻の顔だった。
「ごめんなさい……。わ、我の激情が、貴方を愛という名の熱量で焼き尽くそうとしていた……。シエルの言う通り、我の愛は独断専行のリスクだ。貴方を守ろうとするばかりに、貴方の命を脅かしていた」
レヴィアはヒカルの手を取り、その掌に自身の頬を擦りつけた。
「王妃として、貴方の命が何よりも最優先の戦略資産だと、ようやく理解したわ。だから、もう無茶なキスや激情は、軍務として必要とされるまではしない」
ヒカルは、レヴィアが「夫の生命維持」という理性的な義務を、「愛の形」として受け入れたことに、驚きと安堵を覚えた。
「ありがとう、レヴィア。お前の愛情は、この軍団の最大の火力だ。だが、その愛の熱量を、今度は俺の命を守る炎に変えてくれるのなら、これ以上心強いことはない」
ヒカルは、レヴィアの頬にそっとキスを落とした。それはMVPの褒美でも激情的な独占でもない、純粋な信頼の証だった。
「あぁ……夫……」
レヴィアは至福の表情を浮かべ、ヒカルの首にそっと腕を回した。彼女は熱い抱擁を求める代わりに、ヒカルの体温と鼓動を確かめるように、静かに身を寄せた。
ヒカルは、レヴィアの髪に頬を寄せたまま、以前から抱えていた疑問を口にした。
「レヴィア、一つ聞かせてくれ。以前、俺の処刑の時にどうして正確なタイミングで助けに来てくれたのかと聞いたら、『愛のお告げよ』とだけ答えただろう」
「…………」
「あの時、何があった? あんな遠い場所から、どうやって俺の窮地を察することができた?」
レヴィアはヒカルの腕の中で、身体を震わせ、瞳を強く閉じた。
「…………それは…………魂の繋がりよ。貴方が全てを失った孤独の淵に立たされた瞬間、我の心の炎が、貴方の絶望の炎と呼応したの」
彼女はそこで言葉を切った。そして、ヒカルの顔を見上げ、真剣な眼差しを向けた。
「今は、これ以上話さない。貴方の体は、まだ限界を超えたばかりなのだから。この話は、貴方が完全に回復し、王として万全な状態になった時、二人きりで話すわ。約束よ、夫」
レヴィアは、ヒカルの手をもう一度そっと撫でた。
「貴方が好きよ、ヒカル。策略や義務ではなく、ただ純粋に。だから今は、王妃としてではなく、妻として、貴方の命を優先させて」
(彼女の愛は、以前のような独占ではなく、今は献身へと形を変えている。深い謎を抱えながらも、俺の体調を最優先する…………。これは、俺への本気の優しさだ)
ヒカルは、レヴィアの嘘偽りのない純粋な愛情と、その裏にある重い秘密に、胸を締め付けられるのを感じた。
「彼女は……激情の裏にある、こんなにも純粋で、繊細な女性だったのか。俺の鼓動一つ一つを、愛の証として感じ取ろうとしている。これは、王の義務ではない。俺の心は、純粋にこの女性を愛おしいと感じている……」
レヴィアは静かな愛を誓った。
「貴方が望むなら、私は静かに燃える炎となって、貴方の背中を守るわ。でも…………正妻の座だけは、絶対に譲らないわよ」
◇◆◇◆◇
レヴィアが部屋を出た後、次にアクアが静かに入室した。彼女もまた、いつもの冷静沈着な軍師服ではなく、柔らかな素材のローブを纏っていた。
「王。レヴィアの感情的な反省は理解できますが、私からは論理的な謝罪を」
アクアは深々と頭を下げた。
「私の理性的な愛は、貴方の孤独を理解しようとせず、戦略的価値ばかりを追求した。貴方が人間としての休息を必要としているという非合理的な事実を、私の冷たい論理は許容できなかった」
彼女の銀色の髪が、月明かりを浴びて淡く光る。その姿は、いつにも増して知的で、端正な美しさを放っていた。
「シエルが貴方を論理的に隔離した時、私は初めて、貴方が本当に壊れてしまう恐怖を知った。私の理性は、貴方を失うという非合理的な結論を導き出したのです」
アクアはヒカルの額にそっと唇を寄せた。それは王妃の座を賭けた戦略的なキスではなく、愛する人の命を案じる理知的な優しさに満ちていた。
キスを終えた後、アクアは一瞬だけそのクールな表情を崩し、頬を微かに赤らめた。彼女はすぐに理性を取り戻そうと、白い歯で唇をそっと噛みしめた。その理性の仮面の下にある女性としての魅力に、ヒカルは心を奪われた。
ヒカルは、アクアの頬に触れた。
「アクア。お前の愛は、時に厳しく、時に冷たい。だが、お前がその完璧な理性を、俺という非合理な存在のために使ってくれる…………それが、俺には何よりも愛おしい」
「王よ……それは、論理的に正しくありません。私は、貴方のためにその理性を使っているのですから、愛おしいという感情は合理的な帰結では…………」
アクアは、最後の最後まで理性の仮面を崩そうとしなかった。しかし、その仮面の下の愛こそが、彼女の全てだった。
「それでいい。お前の愛は、俺の軍団の秩序そのものだ。だが、シエルの前では見せなかった、その微かな動揺…………それだけは、俺だけのものにしてくれるか?」
アクアは微かに赤面し、瞳を閉じた。
「……それは、王妃としての義務には含まれておりません。ですが……王の要求であれば、論理を無視して、お応えしましょう」
ヒカルは、二人の頭を同時に抱きしめた。それは、もはや軍団の士気を高めるための義務ではなく、心から湧き出る愛おしさの行動だった。
その対話の一部始終を、扉の外で深海の戦術師シエルが、静かに聴いていた。彼女の無機質な瞳の奥には、かすかに満足の色が宿っていた。
(アクア様は、ようやく理性と愛を融合させることができた。感情の抑圧から解放され、愛という非合理性を受け入れる。これこそが、軍団統率の論理的な進化です)
シエルは、ヒカルという「感情の調律者」を得たことで、アクアが真の竜姫へと成長し始めた事実に、補佐竜としての静かな喜びを感じていた。
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紅蓮の激情竜姫レヴィアと蒼玉の理性竜姫アクアは、シエルとアウラに隔離されてから丸一日、ヒカルの病室の前で静かなる愛の戦いを続けていた。ヒカルが目覚めたのは、翌日の夜明け前。
ヒカルが目覚め、シエルとアウラから簡単な診断を受けた後、最初に病室への入室を許されたのは、炎の姫レヴィアだった。彼女はいつもの情熱的な衣装ではなく、静かな白いローブを纏っていた。
「夫……」
レヴィアは、ヒカルの寝台の傍らにひざまずき、涙ぐんでいた。その姿は、いつもの激情的な竜姫の威圧感を完全に消し去り、愛する夫を案じる一人の妻の顔だった。
「ごめんなさい……。わ、我の激情が、貴方を愛という名の熱量で焼き尽くそうとしていた……。シエルの言う通り、我の愛は独断専行のリスクだ。貴方を守ろうとするばかりに、貴方の命を脅かしていた」
レヴィアはヒカルの手を取り、その掌に自身の頬を擦りつけた。
「王妃として、貴方の命が何よりも最優先の戦略資産だと、ようやく理解したわ。だから、もう無茶なキスや激情は、軍務として必要とされるまではしない」
ヒカルは、レヴィアが「夫の生命維持」という理性的な義務を、「愛の形」として受け入れたことに、驚きと安堵を覚えた。
「ありがとう、レヴィア。お前の愛情は、この軍団の最大の火力だ。だが、その愛の熱量を、今度は俺の命を守る炎に変えてくれるのなら、これ以上心強いことはない」
ヒカルは、レヴィアの頬にそっとキスを落とした。それはMVPの褒美でも激情的な独占でもない、純粋な信頼の証だった。
「あぁ……夫《ヒカル》……」
レヴィアは至福の表情を浮かべ、ヒカルの首にそっと腕を回した。彼女は熱い抱擁を求める代わりに、ヒカルの体温と鼓動を確かめるように、静かに身を寄せた。
ヒカルは、レヴィアの髪に頬を寄せたまま、以前から抱えていた疑問を口にした。
「レヴィア、一つ聞かせてくれ。以前、俺の処刑の時にどうして正確なタイミングで助けに来てくれたのかと聞いたら、『愛のお告げよ』とだけ答えただろう」
「…………」
「あの時、何があった? あんな遠い場所から、どうやって俺の窮地を察することができた?」
レヴィアはヒカルの腕の中で、身体を震わせ、瞳を強く閉じた。
「…………それは…………魂の繋がりよ。貴方が全てを失った孤独の淵に立たされた瞬間、我の心の炎が、貴方の絶望の炎と呼応したの」
彼女はそこで言葉を切った。そして、ヒカルの顔を見上げ、真剣な眼差しを向けた。
「今は、これ以上話さない。貴方の体は、まだ限界を超えたばかりなのだから。この話は、貴方が完全に回復し、王として万全な状態になった時、二人きりで話すわ。約束よ、夫」
レヴィアは、ヒカルの手をもう一度そっと撫でた。
「貴方が好きよ、ヒカル。策略や義務ではなく、ただ純粋に。だから今は、王妃としてではなく、妻として、貴方の命を優先させて」
(彼女の愛は、以前のような独占ではなく、今は献身へと形を変えている。深い謎を抱えながらも、俺の体調を最優先する…………。これは、俺への本気の優しさだ)
ヒカルは、レヴィアの嘘偽りのない純粋な愛情と、その裏にある重い秘密に、胸を締め付けられるのを感じた。
「彼女は……激情の裏にある、こんなにも純粋で、繊細な女性だったのか。俺の鼓動一つ一つを、愛の証として感じ取ろうとしている。これは、王の義務ではない。俺の心は、純粋にこの女性を愛おしいと感じている……」
レヴィアは静かな愛を誓った。
「貴方が望むなら、私は静かに燃える炎となって、貴方の背中を守るわ。でも…………正妻の座だけは、絶対に譲らないわよ」
◇◆◇◆◇
レヴィアが部屋を出た後、次にアクアが静かに入室した。彼女もまた、いつもの冷静沈着な軍師服ではなく、柔らかな素材のローブを纏っていた。
「王。レヴィアの感情的な反省は理解できますが、私からは論理的な謝罪を」
アクアは深々と頭を下げた。
「私の理性的な愛は、貴方の孤独を理解しようとせず、戦略的価値ばかりを追求した。貴方が人間としての休息を必要としているという非合理的な事実を、私の冷たい論理は許容できなかった」
彼女の銀色の髪が、月明かりを浴びて淡く光る。その姿は、いつにも増して知的で、端正な美しさを放っていた。
「シエルが貴方を論理的に隔離した時、私は初めて、貴方が本当に壊れてしまう恐怖を知った。私の理性は、貴方を失うという非合理的な結論を導き出したのです」
アクアはヒカルの額にそっと唇を寄せた。それは王妃の座を賭けた戦略的なキスではなく、愛する人の命を案じる理知的な優しさに満ちていた。
キスを終えた後、アクアは一瞬だけそのクールな表情を崩し、頬を微かに赤らめた。彼女はすぐに理性を取り戻そうと、白い歯で唇をそっと噛みしめた。その理性の仮面の下にある女性としての魅力に、ヒカルは心を奪われた。
ヒカルは、アクアの頬に触れた。
「アクア。お前の愛は、時に厳しく、時に冷たい。だが、お前がその完璧な理性を、俺という非合理な存在のために使ってくれる…………それが、俺には何よりも愛おしい」
「王よ……それは、論理的に正しくありません。私は、貴方のためにその理性を使っているのですから、愛おしいという感情は合理的な帰結では…………」
アクアは、最後の最後まで理性の仮面を崩そうとしなかった。しかし、その仮面の下の愛こそが、彼女の全てだった。
「それでいい。お前の愛は、俺の軍団の秩序そのものだ。だが、シエルの前では見せなかった、その微かな動揺…………それだけは、俺だけのものにしてくれるか?」
アクアは微かに赤面し、瞳を閉じた。
「……それは、王妃としての義務には含まれておりません。ですが……王の要求であれば、論理を無視して、お応えしましょう」
ヒカルは、二人の頭を同時に抱きしめた。それは、もはや軍団の士気を高めるための義務ではなく、心から湧き出る愛おしさの行動だった。
その対話の一部始終を、扉の外で深海の戦術師シエルが、静かに聴いていた。彼女の無機質な瞳の奥には、かすかに満足の色が宿っていた。
(アクア様は、ようやく理性と愛を融合させることができた。感情の抑圧から解放され、愛という非合理性を受け入れる。これこそが、軍団統率の論理的な進化です)
シエルは、ヒカルという「感情の調律者」を得たことで、アクアが真の竜姫へと成長し始めた事実に、補佐竜としての静かな喜びを感じていた。