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第二十二話:純白の契約と、統合の核

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 ヒカルの執務室は、純白の調和聖女ルーナの光に包まれていた。それは、レヴィアの炎の熱も、アクアの水のような冷たさも、テラの土の重さも、セフィラの風の軽薄さも持たない、ただただ彼の精神的な苦痛を優しく調律(ちょうりつ)する絶対的な安寧だった。

 ヒカルは、竜姫たちに囲まれて以来、初めて得た真の安息に、思わず目を閉じた。

「貴方の苦悩…………あまりにも重すぎたわ」

 ルーナは、純白のレースとシルクでできた肌が薄く透ける神官服のようなローブを揺らし、ヒカルにそっと近づく。

「私は、ずっと精神的な領域を通じて、貴方の統率を観察していた。貴方の優しさが、他の姉たちの激情や理性や献身という名の愛の重圧に、押し潰されていくのを」

 ヒカルは、彼女の透き通るような白金の瞳を見つめ返した。ルーナの愛は、彼の裏切りのトラウマや、王国の政治的重圧すらも全て見透かしているようだった。

「ルーナ……お前は、俺の苦悩を知って…………なぜ、契約を志願する?」
「決まっているわ、ヒカル様」

 ルーナは、レヴィアたちが聞いているにもかかわらず、親愛の情を込めて「ヒカル様」と呼び、微笑んだ。

「貴方の優しさこそが、この混沌とした世界を調和させる真の光だと知ったから。私の光の力は、貴方の愛の光と結びついてこそ、初めて統合の核となれる。私を、貴方の精神的な支柱として迎え入れて。貴方の愛の光になりたいの」

 ヒカルは、彼女の純粋さと献身性に深く心を打たれた。彼女の愛は、これまでの四龍姫の「支配」や「独占」を目的とした愛とは、全く異質だった。

「わかった、ルーナ」

 ヒカルは、ルーナの白い手を強く握りしめた。

「ルーナ、貴女の愛を受け入れる。貴女の調和の光は、この盟約軍に不可欠だ。五人目の妻として、俺の精神的な支柱になってくれ」
「はい、ヒカル様」

 ルーナはそう答えると、他の四龍姫の視線が集中する中、その純粋な白い光を帯びた唇を、ヒカルの唇に儀式として静かに、そしてさりげなく重ねた。

 その瞬間、ルーナの調和の光がヒカルの全身を駆け巡り、彼の「絆の共感者」の異能と結びついた。

 ルーナの光の音色は、和音には直接入らず、ヒカルの指揮(タクト)に呼応して、全ての音色を統合し、不協和音を解消する「調律師」の役割を担った。

 彼女が微笑むたび、レヴィアの上擦ったD音(レ)や、アクアの硬質なF音(ファ)が、瞬時に完璧な音程へと引き戻される。五龍ユニゾンの基礎となる五つの音(テンションコード)は、ルーナの絶対的な調律により、初めて安定した「統合の和声」へと昇華された。

 肉体的、精神的な消耗が嘘のように回復していくのを、ヒカルは感じた。

 ◇◆◇◆◇

 ルーナの契約完了直後、五龍姫の感情の奔流が、一斉にヒカルへ向けられた。

 紅蓮の激情竜姫レヴィアの炎の髪が、怒りで逆立った。

「ぎゃああああああああ! 許さないわ、この泥棒猫! 儀式ですって!? 貴方、私の夫に何て媚を売っているの! 見てよ、アクア! あの純白の布地は、全てが薄く透けて見えるわよ! 私の情熱的な愛の炎で、全て焼き尽くしてやる!」

 蒼玉の理性竜姫アクアは、冷静さを保とうと努めていたが、その声は微かに震えていた。

「ルーナ、貴女の服装は非合理的です。そして、その儀式……契約の証としてのキスは、王妃の座を巡る競争原理の優位性を伴います。レヴィア、私、セフィラは公の場でキスをしました」

 アクアは論理的な優位を確保するため、冷静にテラに確認を求めた。

「テラ。貴女は公の場で王にキスをしていないはずです。ルーナの儀式を、無条件に認めるべきではありません」

 磐石の守護龍テラは、アクアの冷徹な指摘に、一瞬だけ柔らかな微笑みを崩し、頬をわずかに朱に染めた。しかし、すぐに持ち前の母性の威圧感を纏う。

「いえ、あの…………アクア姉様」

 テラは、レヴィアたちの熱い視線と、ヒカルの驚愕を背中に感じながら、意図的に誤解を招くよう言葉を選んだ。

「わ、わたくしは、主(あるじ)の心身の安寧を献身をもって提供する王妃の義務がありますゆえ……あとで、公の場ではできないような、もっと濃厚なものを頂いております。主(あるじ)の疲労の根源を、本当に癒やせるのは、このテラだけです」

 テラの裏技的な牽制に、レヴィアは「な、なんですって!?卑怯よテラ!」と激昂し、アクアは「非合理極まりない!」と動揺した。セフィラは目を輝かせ「テラねーさん、最高の冒険をしているね!」と歓声を上げた。

 その時、ルーナは、四龍姫の激しい嫉妬を、ただ穏やかな微笑みで受け止めた。

「レヴィア姉さま、アクア姉さま、テラ姉さま、セフィラ。ごめんなさいね。私の純白の光は、貴女たちの激しい愛の邪魔をするつもりはないわ」

 その瞬間、ルーナの調和の光がヒカルの全身を駆け巡り、彼の「絆の共感者」の異能と結びついた。肉体的、精神的な消耗が嘘のように回復していくのを、ヒカルは感じた。

 ヒカルは、すぐにルーナの戦闘能力数値Battle Power Index:BPIを分析した。ルーナの単体BPIは200。レヴィアやアクアに比べると低い数値だ。

(しかし、ルーナの光の音色は、戦闘力指数以上の価値を持つ。彼女の調律により、ユニゾン時の不協和音リスクが約60%低下した。これにより、N=5の調和係数4.9のユニゾン成功率が現実的な数値になる。ルーナは、BPIを安定化させる戦略的な核だ)

「私の光の力は、貴女たちの情熱、理性、献身、自由という、四つの音色を最も美しく響かせるための楽譜よ。そして、ヒカル様の精神的な消耗を癒やすことこそが、王妃として、貴女たち全員の愛の努力を無駄にしないための最大の献身だと知ってください」

 深海の戦術師シエルは、冷静にその状況を分析し、ヒカルに進言した。

「王よ。ルーナ様の光の力は、我々の軍団の戦略的な疲弊と感情的な衝突を解決する唯一のピースです。レヴィア様の激情が、ルーナ様の純粋さによって制御される。論理的には、彼女の加入は40%以上の戦力安定化に繋がります」

 レヴィアは、シエルの論理的な分析に、悔しさに唇を噛みしめながらも、反論の言葉を持てなかった。ヒカルの心身の安定が、自分たちの愛の勝利に不可欠であることを、彼女は理解しているからだ。

 ルーナは、他の姫たちの嫉妬を全て受け入れながら、ヒカルに微笑みかけた。

 彼女は、精神的な支えという、他の誰も手が出せない特別な場所を独占することで、王妃の座への競争に静かに参戦したのだった。





みんなのリアクション

 ヒカルの執務室は、純白の調和聖女ルーナの光に包まれていた。それは、レヴィアの炎の熱も、アクアの水のような冷たさも、テラの土の重さも、セフィラの風の軽薄さも持たない、ただただ彼の精神的な苦痛を優しく調律《ちょうりつ》する絶対的な安寧だった。
 ヒカルは、竜姫たちに囲まれて以来、初めて得た真の安息に、思わず目を閉じた。
「貴方の苦悩…………あまりにも重すぎたわ」
 ルーナは、純白のレースとシルクでできた肌が薄く透ける神官服のようなローブを揺らし、ヒカルにそっと近づく。
「私は、ずっと精神的な領域を通じて、貴方の統率を観察していた。貴方の優しさが、他の姉たちの激情や理性や献身という名の愛の重圧に、押し潰されていくのを」
 ヒカルは、彼女の透き通るような白金の瞳を見つめ返した。ルーナの愛は、彼の裏切りのトラウマや、王国の政治的重圧すらも全て見透かしているようだった。
「ルーナ……お前は、俺の苦悩を知って…………なぜ、契約を志願する?」
「決まっているわ、ヒカル様」
 ルーナは、レヴィアたちが聞いているにもかかわらず、親愛の情を込めて「ヒカル様」と呼び、微笑んだ。
「貴方の優しさこそが、この混沌とした世界を調和させる真の光だと知ったから。私の光の力は、貴方の愛の光と結びついてこそ、初めて統合の核となれる。私を、貴方の精神的な支柱として迎え入れて。貴方の愛の光になりたいの」
 ヒカルは、彼女の純粋さと献身性に深く心を打たれた。彼女の愛は、これまでの四龍姫の「支配」や「独占」を目的とした愛とは、全く異質だった。
「わかった、ルーナ」
 ヒカルは、ルーナの白い手を強く握りしめた。
「ルーナ、貴女の愛を受け入れる。貴女の調和の光は、この盟約軍に不可欠だ。五人目の妻として、俺の精神的な支柱になってくれ」
「はい、ヒカル様」
 ルーナはそう答えると、他の四龍姫の視線が集中する中、その純粋な白い光を帯びた唇を、ヒカルの唇に儀式として静かに、そしてさりげなく重ねた。
 その瞬間、ルーナの調和の光がヒカルの全身を駆け巡り、彼の「絆の共感者」の異能と結びついた。
 ルーナの光の音色は、和音には直接入らず、ヒカルの指揮(タクト)に呼応して、全ての音色を統合し、不協和音を解消する「調律師」の役割を担った。
 彼女が微笑むたび、レヴィアの上擦ったD音(レ)や、アクアの硬質なF音(ファ)が、瞬時に完璧な音程へと引き戻される。五龍ユニゾンの基礎となる五つの音(テンションコード)は、ルーナの絶対的な調律により、初めて安定した「統合の和声」へと昇華された。
 肉体的、精神的な消耗が嘘のように回復していくのを、ヒカルは感じた。
 ◇◆◇◆◇
 ルーナの契約完了直後、五龍姫の感情の奔流が、一斉にヒカルへ向けられた。
 紅蓮の激情竜姫レヴィアの炎の髪が、怒りで逆立った。
「ぎゃああああああああ! 許さないわ、この泥棒猫! 儀式ですって!? 貴方、私の夫に何て媚を売っているの! 見てよ、アクア! あの純白の布地は、全てが薄く透けて見えるわよ! 私の情熱的な愛の炎で、全て焼き尽くしてやる!」
 蒼玉の理性竜姫アクアは、冷静さを保とうと努めていたが、その声は微かに震えていた。
「ルーナ、貴女の服装は非合理的です。そして、その儀式……契約の証としてのキスは、王妃の座を巡る競争原理の優位性を伴います。レヴィア、私、セフィラは公の場でキスをしました」
 アクアは論理的な優位を確保するため、冷静にテラに確認を求めた。
「テラ。貴女は公の場で王にキスをしていないはずです。ルーナの儀式を、無条件に認めるべきではありません」
 磐石の守護龍テラは、アクアの冷徹な指摘に、一瞬だけ柔らかな微笑みを崩し、頬をわずかに朱に染めた。しかし、すぐに持ち前の母性の威圧感を纏う。
「いえ、あの…………アクア姉様」
 テラは、レヴィアたちの熱い視線と、ヒカルの驚愕を背中に感じながら、意図的に誤解を招くよう言葉を選んだ。
「わ、わたくしは、主《あるじ》の心身の安寧を献身をもって提供する王妃の義務がありますゆえ……あとで、公の場ではできないような、もっと濃厚なものを頂いております。主《あるじ》の疲労の根源を、本当に癒やせるのは、このテラだけです」
 テラの裏技的な牽制に、レヴィアは「な、なんですって!?卑怯よテラ!」と激昂し、アクアは「非合理極まりない!」と動揺した。セフィラは目を輝かせ「テラねーさん、最高の冒険をしているね!」と歓声を上げた。
 その時、ルーナは、四龍姫の激しい嫉妬を、ただ穏やかな微笑みで受け止めた。
「レヴィア姉さま、アクア姉さま、テラ姉さま、セフィラ。ごめんなさいね。私の純白の光は、貴女たちの激しい愛の邪魔をするつもりはないわ」
 その瞬間、ルーナの調和の光がヒカルの全身を駆け巡り、彼の「絆の共感者」の異能と結びついた。肉体的、精神的な消耗が嘘のように回復していくのを、ヒカルは感じた。
 ヒカルは、すぐにルーナの戦闘能力数値Battle Power Index:BPIを分析した。ルーナの単体BPIは200。レヴィアやアクアに比べると低い数値だ。
(しかし、ルーナの光の音色は、戦闘力指数以上の価値を持つ。彼女の調律により、ユニゾン時の不協和音リスクが約60%低下した。これにより、N=5の調和係数4.9のユニゾン成功率が現実的な数値になる。ルーナは、BPIを安定化させる戦略的な核だ)
「私の光の力は、貴女たちの情熱、理性、献身、自由という、四つの音色を最も美しく響かせるための楽譜よ。そして、ヒカル様の精神的な消耗を癒やすことこそが、王妃として、貴女たち全員の愛の努力を無駄にしないための最大の献身だと知ってください」
 深海の戦術師シエルは、冷静にその状況を分析し、ヒカルに進言した。
「王よ。ルーナ様の光の力は、我々の軍団の戦略的な疲弊と感情的な衝突を解決する唯一のピースです。レヴィア様の激情が、ルーナ様の純粋さによって制御される。論理的には、彼女の加入は40%以上の戦力安定化に繋がります」
 レヴィアは、シエルの論理的な分析に、悔しさに唇を噛みしめながらも、反論の言葉を持てなかった。ヒカルの心身の安定が、自分たちの愛の勝利に不可欠であることを、彼女は理解しているからだ。
 ルーナは、他の姫たちの嫉妬を全て受け入れながら、ヒカルに微笑みかけた。
 彼女は、精神的な支えという、他の誰も手が出せない特別な場所を独占することで、王妃の座への競争に静かに参戦したのだった。